« 空の下で50.合宿(その6) | トップページ | 空の下で52.合宿(その8) »

2008年8月15日 (金)

空の下で51.合宿(その7)

突然、何か電子音が鳴り響いた。

携帯の着信音のようなピロピロとした音だ。

目をつむっていたぼくは、その音で目を開いて驚いた。

もう朝になっていたからだ。

いつの間にか寝てたらしい。電子音は誰かが携帯で目覚ましを設定してたのだ。

「ねみー」

右隣で牧野が本当に眠そうな声でそう言った。

ぼくも眠い。なんといっても朝六時だ。ふだんはもう少し遅く起きる。

そんなぼくと牧野を見てたくみは明るい声で言った。

「なんだなんだ二人とも。まだ眠いの?だらしないなー」

たくみはスカッとした顔をしている。いつもより鼻のホクロのツヤがいい。

「早く起きろよ二人とも。朝練だぞ朝練」

たくみは幼稚園から現在まで欠席とか遅刻は一度も無いらしいけど、朝に強いってのが影響してるのかもしれない。

ぼくと牧野はノロノロと練習着に着替えだした。

眠い。気を抜くと夢の世界に逆もどりしそうだ。何の夢見てたか覚えてないけど。

 

 

朝練は見晴らし館の周りを30分ほどジョックして、五回、坂道全力ダッシュをするという軽いメニューになっているので、助かった。

といってもやはり朝は体が重い。

30分のジョックなんて普段なら誰も遅れたりしないだろうけど、10分くらいで辛くなってきて、20分も走ると集団ではなくバラバラになっていた。

それでも雪沢先輩、名高、たくみは最後までペースを乱さずに走っていた。

実力的には未華も走り切れそうなんだけど、朝は弱いらしく珍しく後ろの方で静かに走っていた。

ぼくはというと、牧野と二人でけっこう頑張ってみたんだけど、あとちょっとのとこで集団から遅れてしまい、反省だ。

それでも穴川先輩より先にゴールだ。

「やった、また勝てた!」

思わず小声でそう言ってしまった。

そこへ穴川先輩がゴールしてきて、喜ぶぼくを見つめてきた。 

「あ、お疲れ様です穴川先輩」

黙る穴川先輩。ややあってから一言つぶやいた。

「朝練ぐらいで本気になってんじゃねーよ。レースじゃねーっつーの」

そう言ってその場を去って行った。

 

 

朝練習を終えると、朝ゴハンが待っている。

今日も大石さんたち見晴らし館の従業員の人たちが食堂で食事を運んでいてくれていた。

「さ、たーんとお食べ」

朝ゴハンにしては多い。みんな苦労しながらもなんとか食べきった。

またも早川舞が少し残してはいたが。

「朝は栄養たっぷりとらないと合宿乗り切れないよー」

大石さんは笑顔でぼくらに激を飛ばした。

 

 

午前中の練習は再び山中湖一周だ。

しかも午後も山中湖一周を断行するという。正気かよ、と思った。

そのメニューは発表したとき、雪沢先輩は笑顔でこう言った。

「まあ、午後は逆回りで一周だけどな」

どっちだって一緒でしょ?

 

 

午前の一周はひとつの実験を試みてみた。

無難に走るのをやめてみようという試みだ。

牧野と相談して決めた。

それは自分の限界まで雪沢先輩についていくという走り方だ。

ゴール出来ないくらい疲れたとしてもいいから1メートルでも長く雪沢先輩についていこうという考えだ。

これは牧野が言いだしたことだった。

「四日間で何度も何度も山中湖走るんだからさ、ちょっと色々試してみない?ぶっちゃけ同じコースばっかで飽きるじゃん」

そう牧野に言われ、なんだか楽しそうだから誘いに乗ってみた。

 

 

なるべくついていくのは当たり前だが、これはぼくには不向きな作戦だった。

確かに雪沢先輩についていくのは先頭を走れるので、新しい景色が見れた気はしたけど、ついていくので全体力を使いきってしまい、一度遅れたらあとはズルズルと後退し、名高、未華、牧野に抜かれ、あげくには穴川先輩とたくみにも抜かれてゴールした。

牧野はなんと三位でゴールしたらしい。未華に勝ったと喜んでいた。

その未華は「チ」とか舌打ちしていた。怖い。

 

 

午後は逆に後ろからジワジワと抜いていく作戦で走った。

ぼくも牧野も後半になってから少しずつスピードを上げて順位を上げて行ったが、これはぼくの方が向いてるらしく、牧野は途中で伸び悩んだけど、ぼくは穴川先輩を抜いて、未華までもう一歩のとこまで迫ったけど、追いつくことはできなかった。

抜かれた穴川先輩は誰に言うでもなくつぶやいた。

「くっそ。やってらんねー」

トップ3は雪沢先輩・名高・未華という順で、未華がすごい実力なんだと改めて思い知らされた。

ちなみに午後はたくみが妙に遅れて剛塚に抜かれていた。

 

 

合宿は過酷だ。

のんびりとした風景の山中湖のほとりで、ぼくらは必死こいて走る。

今日は一日で30キロ以上走ったことになる。

人生で一番走った日になった。

そんな日の夜のことだ。事件が起きたのは。

|

« 空の下で50.合宿(その6) | トップページ | 空の下で52.合宿(その8) »

コメント

この記事へのコメントは終了しました。

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 空の下で51.合宿(その7):

« 空の下で50.合宿(その6) | トップページ | 空の下で52.合宿(その8) »