« 空の下で.エース(その4) | トップページ | 空の下で.エース(その6) »

2008年10月21日 (火)

空の下で.エース(その5)

「英太、おまえヤバイぞ」

教室で日比谷がそう言ってきたのは中学3年の秋くらいの事だ。

「え?何が」

「内村のヤツ、長谷川さんに『相原ってオマエのこと好きらしいぜ』って行ってたぞ。」

「えっ?!」

内村一志がどうやってぼくが好きな人が長谷川麻友だと知ったのかは、今でもわからないけど、わりと仲良くなってきていたのに、長谷川さんとはそれ以降なんだかうまく話せなくなってしまった。

一応、卒業前に告白してみたもののフラれてしまった。

もちろん内村がそんな事を言わなくてもフラれたんだろうけど、ぼくは内村が嫌いになった。いや、前から好きではなかったんだけど。

 

 

レースが始まり、最初の直線はみんなが集団のままだけど、100メートル走ってコーナーになると集団が縦長になった。

ぼくは集団の真ん中あたりで走っていた。

コーナーで外側を走るのは、なんだか損した気分になるので内側のコースギリギリを走る。

ちょっとでも短い距離を走っていたい。

そんなセコイことをしながら最初の1週を終えると、集団が二つに別れてきた。

7、8人の先頭集団が出来、そこからやや遅れて20人くらいの第二集団が出来ている。そこから後ろはもうバラバラで走っている感じだ。

ぼくは第二集団につけていた。

すぐ前には内村一志がいた。

そしてこの第二集団の先頭にいるのは、どうやら名高らしかった。

雪沢先輩はぼくの横にいた。

この状態のまま2週目、3週目と動きがなかった。

だんだんと疲れが溜まっていくだけだ。

 

 

5週目に入ったとき、内村が集団の前に移動しだした。

しかも一瞬、ぼくを振りかえって、わけのわからん笑みを浮かべやがった。

「アイツ!!」

と思い、ぼくが内村についていこうとすると隣にいた雪沢先輩が手で制した。

ぼくが驚いて雪沢先輩の方を見ると、雪沢先輩は首を横に振った。

「ムキになんな」

息切れしながらも雪沢先輩は早口でそう言った。

・・・・・気合入れすぎないように・・・・・

五月先生の言葉が頭に響いた。

そうだ。冷静にならないと。

今、これよりペース上げたら最後まで持たない。少なくともぼくは。

このままのペースでじっくり走らなくちゃ。

 

 

5000メートルは12週と半週する競技だ。

10週目に入った時、第二集団の先頭にいた名高がペースを上げて

集団から抜け出そうとした。

それに数人がついていこうとしたので、集団は一気にバラバラになってきた。

ここを勝負所と読んだのか、雪沢先輩もペースを上げて、前の方へと消えていった。

ぼくはペースを上げるよう踏ん張ってみたものの、名高や雪沢先輩ほどにペースを上げることが出来ず、二人からは遅れていった。

ペースを上げたことで息切れも一気に激しくなってきた。

「はあ!!はあ!!」

息切れはすでに声となって出ていた。

苦しい!顔が歪む!あと、2週・・・つまり800メートルだ。走り切らなくちゃ。

今、何分経過したんだ??腕時計つけてくればよかった。

18分以内にゴールできるペースで走ってるんだろうか?

内村はどこ行った?前か?後ろか?

そう思った時、後ろから猛烈なスピードで葉桜高校のユニフォームを着た男がぼくを抜いていった。

内村!!

そう思ったが内村ではなかった。

それは秋津伸吾だった。何故ここに秋津が??

思い当たるのは、たった一つの理由だ。それが頭に浮かんだ時、寒気がした。

周回遅れだ。秋津はぼくより1週先を走ってるんだ。

ぼくが最後の1週に入る前に、秋津がゴールした。

世界が違う!

この圧倒的な実力差が逆にぼくを熱くさせた。

秋津がゴールした横をぼくはラスト1週のためにラストスパートをかけた。

「うおおおお!!」

思わず声が出た。

全力で最後の400メートルを走る。

次々と前にいた選手を抜き去った。

残り200メートルまで進んだ時、前に葉桜高校の選手を見つけた。

内村。間違いない、内村だ。

しかし、内村もここでスパートをかけたらしく、距離が詰まらない。

残り70メートル。

内村は先にゴールした。

くそっ!負けた・・・・

思わずスピードを緩めた。 

その時、ゴール横に設置してある記録用のデジタル時計が見えた。

17分49秒・・・50秒・・・51秒・・・

間に合うか?いや、もう厳しいだろう。

このままペースでとりあえず行こう。

そう思った時だった。

「英太ーー!!いけるぞーーー!!!」

牧野の声が聞こえた。

「相原くんファイトー!!」

くるみと未華のハモった声援が聞こえた。

「相原あ!最後まで気合い入れんかー!!」

五月先生の怒鳴り声が聞こえた。気合入れすぎるなって言ってたのに。

声の方向を見ると他にも大山やたくみが叫んでいるのが見えた。

その見えてた風景がイキナリ歪んだ。

ちょっと泣けたらしい。

アホか。あと数秒っていう緊急事態なのに。

ぼくは一瞬目を閉じて、前を向き、全力ダッシュをした。

視界はすでにクリアだった。 

ゴールした時、横眼でチラっと見たタイムは17分58秒だった。

 

|

« 空の下で.エース(その4) | トップページ | 空の下で.エース(その6) »

コメント

この記事へのコメントは終了しました。

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 空の下で.エース(その5):

« 空の下で.エース(その4) | トップページ | 空の下で.エース(その6) »