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2008年10月31日 (金)

空の下で.エース(その8)

『季節外れの大型台風17号は、現在沖縄本島の南80キロの海上にあって、勢力を保ったまま北北東に進んでいます』

朝、母親とゴハンを食べながら(栗ではない)テレビを見ていたら、こんなニュースだった。

ぼくは普段、朝はテレビは見ないんだけど、今日はこの番組に大好きな女優・堀北真季が出ていたので見ていた。

すると母親が変な事を言った。

「英太、このホリキタって子が出るとニヤニヤしてるよね」

「してないよ」

「そう?でもこのホリキタって子、英太が中学の時に仲良かった女の子と似てるよね」

「えぇ?誰?」

「ほら、なんて言ったっけ。長谷川さんだっけ?」

「そ、そう?」

長谷川麻友だ。

中学の時、ぼくが好きだった女子だ。確かに少し堀北真季みたいな感じはするかも。

長谷川さんの事を思い出すと、いつも胸が苦しくなる。

それと同時にジャマをした内村一志に対する怒りも湧き起こる。

でも、もう昔のことだ。

今はもうくるみ・・・・・って、けっこうかわいいし・・・・いや、好きな訳じゃない・・と思うけど。

 

 

台風のニュースが流れていたわりに東京は快晴だった。

はるか遠くの山々までクッキリ見える秋晴れだ。

多摩境駅から学校までの通学路では思わず鼻歌なんか歌ってしまう。

「ポーニョポーニョポニョ♪」

「なんだよ、エラクご機嫌だな」

「ポ?!」

いきなり後ろから牧野が現れたものだから大声でポとか叫んでしまった。

「英太が鼻歌なんて歌うなんて変だぞ」

「そ、そうかな。なんかいい天気だからさあ」

「天気がいいと歌を歌うのか。爽やかなのか能天気なのか・・・」

「の、能天気?」

「そう能天気。能天気英太だよ。オマエ今日から能天気英太って名前に改名しろよ」

「ナニソレ・・・」

あきれた会話をしながら学校へ向かう。

天気と同じで平和な日だ。

 

 

授業が終わり、部活での練習をする。

五月先生の登場後は、ただ長く走るだけの練習は少なくなった。

一日の練習テーマを決めて走る。

例えば今日はスピードトレーニングだし、昨日は走るのは少なめで筋トレを多めにやるパワートレーニングだ。

毎日違ったメニューをこなすので、部活に飽きが来ない。

「飽きが来ないねー牧野」

「秋は来たけどな。フフ」

「笑点かよ」

牧野のくだらないギャグは志田先生のオヤジギャグに通じるものがある。

 

 

練習後、五月先生は長距離チームを集合させた。

「えー、そろそろ駅伝の話をしようと思う」

出た!駅伝。

「これまで長距離チームは個人種目だけに出場していたわけだが、この秋最大の大会・・・いや、高校陸上の長距離チームで年間最大の大会が11月に行われる高校駅伝大会だ」

年間最大の大会?

「駅伝って知ってるか?相原」

いきなりフイをつかれた。

「えっと、長距離のリレーですよね。箱根を走る・・・」

「バッカそれ大学の箱根駅伝だよ」

牧野に頭をはたかれながら突っ込まれた。

駅伝にも色々あるって事か。

「そう、それは大学生が走る箱根駅伝。まあ長距離のリレーって言い方は合ってるような気もするな。剛塚は知ってるか」

五月先生に言われ剛塚は睨むようにして答えた。

「たすきでリレーしてくヤツだろ」

「そう。高校駅伝の場合は七人で走る」

七人・・・。ぼくら長距離チームは七人いる。

「今回、多摩境高校としては初めて長距離チームの人数が七人に達した。そこで高校駅伝・東京都大会に出場しようと思う」

東京都大会・・・。箱根じゃないのか高校生は。駅伝は全て箱根を走るのかと思ってた。

「高校駅伝は地区予選会は無い。イキナリ都大会から始まる。東京中の高校駅伝チームが一同に会するというすげえデカイ大会だ。今までの部活動の全てをこの大会にぶつけてくれ」

なんだかドキドキしてきた。

今まで出場してきた地区大会と違って、ずいぶんと大きな大会みたいだし、なんだか五月先生の気合いの入れ方も違う。

ここで五月先生がノートを取り出した。

「では、現時点での駅伝のメンバーを発表する。あくまでも現時点だ。怪我とか風邪とかがあれば変更するし、この後、実力が変化すれば走る順番も変える事があるからな」

思わず雪沢先輩と名高を見た。

どちらがエースに選ばれるのか・・・?

確かエース区間は1区だと言っていた。

「それでは発表する。

 1区、10キロ、雪沢! 長距離チームのリーダーとしてエース区間を頼んだ!」

一区は雪沢先輩か・・・!やっぱそうだよな。一回だけ名高が勝ったくらいじゃな。

「2区、3キロ、剛塚! 

 3区、8キロ、穴川! 

 4区、8キロ、名高! 

 5区、3キロ、大山! 

 6区、5キロ、牧野! 

 7区 5キロ、相原! アンカーはオマエしかいない!いつもの爆発力で行け!」

「あ、アンカー??」

高揚感だったドキドキが緊張感のドキドキに変わった。

おまけに冷や汗が出てきて、体が寒くなった。

「五月先生・・・ぼくがアンカーなんかで・・・」

ぼくが言い終わる前に名高が怒鳴った。

「なんでオレが1区じゃねーんですか!!」

名高は少し震えるような声だった。

「新人戦でもオレが一番早かったじゃないですか!なのに何で??」

言われて五月先生はちょっと眉をよせた。

「んー。やっぱ納得しないか、名高は」

「当たり前です。駅伝で1区を走るために新人戦で頑張ったんですから」

「そうか・・・」

やや沈黙した後、五月先生は一人で頷いてから言った。

「よし、じゃあ1区の選手を決定するためのタイムトライヤルを明日やろう」

なんだか話がこじれてきた。

と、同時に辺りの風が少し強くなってきた。嵐は近い。

 

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コメント

とても爽やかなお話ですね。ココログ小説から来て一気にここまで読んでしまいました。続きを楽しみにしております

投稿: すなとも | 2008年11月 1日 (土) 00時24分

はじめまして、こんにちは!すなともさん!
つたない文章なのに読んでいただいて
ホントすごい嬉しいです!
パソコン苦手なので読みにくいかもですが・・
コメントまでいただいてしまって。
ありがとうございます!
今後も頑張って書いてみようと思ってます!!

投稿: cafetime | 2008年11月 2日 (日) 22時44分

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