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2008年11月28日 (金)

空の下で.駅伝(その1)冷たい風

ぼくらにとって、嵐のような二日間が過ぎ去った。

上柚木陸上競技場でエース区間の走者を決めるタイムトライアルをしたのは、つい二日前の事だ。

 

雪沢先輩と名高の勝負は雪沢先輩に軍配が上がり、その帰りに安西たちにからまれ雪沢先輩が捻挫をした。

そして昨日、かわりに名高が一区を走ることになり、助っ人としてたくみが登場した。

全てたったの二日間の出来事だ。

 

台風は過ぎ去り、あの嵐がまるで違う世界の出来事だったかのような秋晴れがやってきた。

空は澄み渡り、いつもなら見えないくらい遠くの景色までがクッキリと見えていた。

学校の教室から見える南の山々を見ては「世界って広いなあ」なんて思ってみたりする。

逆に、近くを見れば緑一色だったはずの校庭や近くの森の木々が一部だけれど黄色やオレンジ色にかわって来ている。

「秋だなあ・・・」

授業中にもかかわらず、ふとつぶやく。

すると周りの女子がプっと吹き出す声が聞こえた。あー、いけない。独り言言ってた。

 

今日は部活は休みだ。

授業が全部終わって、カバンを持って教室を出た。

せっかくの秋晴れだし、外に出て思いきり走りたいところだけれど仕方ない。

それにしても、ぼくっていつの間にこんなに走るのが好きになったんだっけ。

なんとなく入部して、なんとなく長距離に所属しただけだったのに。

「お、相原。どうした、早く帰らないのか」

廊下をのんびり歩いてると五月先生に声をかけられた。

「あ、もう帰ります」

「そうだよ。たまには休んでおけ。駅伝まで2週間、ミッチリ練習があるんだからな」

「ミッチリですかぁ・・」

キツそうな言い方だけど、ぼくはワクワクしていた。

雪沢先輩があんな事になったのは悔しい出来事だけれど、駅伝のアンカーを走るという大役を任されたのはテンションアップだ。

「ミッチリでも頑張りますよ」

ぼくはガッツポーズをとって見せた。

「ほおー、たくましいことだ」

五月先生は感心する言葉を言いつつも笑ってた。

「五月先生。ここにいましたか」

誰かが先生を呼んだ。呼んだのは歳をとった先生・・・校長先生だ。

「あ、夢山校長。お疲れ様です」

五月先生は校長先生に頭を下げた。校長はぼくの顔を見た。

「えーと、彼は?陸上部の生徒かね?」

先生のかわりにぼくはハキハキと答えた。

「あ、はい。陸上部一年の相原英太です」

「ああ、君が相原くんか」

ん?なんで校長がぼくの名前を知ってるんだ?

「すると、キミが最後の運命を握ってるということだね」

「最後の運命?」

ぼくがそう言うと五月先生が少し冷たい声で校長につぶやいた。

「校長。そういう言い方はよしてください。50位の話はまだしてないんですから」

「え、先生。50位ってなんですか」

ぼくが聞くと五月先生は「あ」とつぶやいた。

おまけに「やべ」とか「あちゃー」とか言う始末だ。

「五月先生、相原くんにはプレッシャーになるかもしれんが、いずれわかる事だ。早く部員たちに言ってあげた方がいいよ」

校長は優しい声でそう言ったが、ぼくには何の話だか全くわからない。

「う、うーむ」

五月先生は廊下の天井を見上げてうなった。

うなった末にぼくの方を見て言った。

「よく聞け相原。みんなにも話すが、せっかくここにいたんだから今教えてやる」

「は、はい」

なんだかまた嫌な感じがしてきた。

「二日前の騒ぎ・・・。あの場所の近くの住民から学校に通報があったんだ」

秋晴れの空気に変化が起きる。やはり晴れは長く続かないのか。

「多摩境高校の陸上部が『また』騒ぎを起こしているってな」

騒ぎは起こしたのではなく、起こされたのだけれど。

「騒ぎばかり起こす部なんて無い方がいいんじゃないのか、とまで言われた。オレと校長先生は頭を下げ、謝ったんだがどうにも引き下がってくれなくてな。どうしたら引き下がってくれるのかと聞いたところ・・・。ちゃんと部活動で精進してるところを見せろというんだ」

「え、もしかして、その・・・」

「そう、ならば証拠として駅伝大会で50位内に入るって話になったんだ」

ここで校長先生がぼくに話しだした。

「すまん相原くん。クレームをつけてきた人は役所の方でね・・・。キチンと部活動として取り組んでる証拠を見せないのなら教育委員会に騒ぎの事を報告させてもらうと言って来たんだよ。しばらく陸上部を活動停止にして様子を見てほしい、とね」

「活動停止?」

「そう。しかし駅伝大会前にそれはあんまりだ。ということで苦渋の判断で駅伝で50位内に入るという条件を出して、飲んでもらったんだよ」

ぼくは五月先生を見て聞いた。

「せ、先生。駅伝大会には何校が出るんですか」

「都内全域から118校が出る」

「ひゃ・・・118校も!?」

ぼくら多摩境高校は発足して2年半、一度も駅伝大会には出ていない。

初出場でイキナリ半分以上の順位を求められてるのだ。

「だ、大丈夫だ相原。そんな気にすんな。なんとかなる順位だ」

でも、なんとかならないと陸上部は活動停止になってしまうわけで・・・。

 

あの騒ぎで起きた風は、冷たい試練の風となってぼくらの前に立ちふさがった。

 

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コメント

こんばんは。色々と急展開が続きますね!目が離せなくなってきました。

投稿: すなとも | 2008年11月29日 (土) 01時42分

先週から読ませていただいてます

ハラハラドキドキの世界を感じています

久しぶりに一気に読める内容でとても感動しています

仕事も大変でしょうが、これからも頑張って下さい

投稿: 茜 | 2008年11月29日 (土) 20時46分

こんにちは、すなともさん!
またコメントをいただけてスゴイ嬉しいです!
急展開ばかりで目まぐるしいですが、ちょっとでも面白くなるように頑張りますー!

投稿: cafetime | 2008年11月30日 (日) 18時10分

はじめまして!茜さん!!
ハラハラしていただけると書いてる本人も
すごく嬉しくなってしまいます。
文もヘタだしパソコン苦手で読みづらい所もたくさんあると思いますが、読んでいただけて嬉しいです。
その上コメントまで!
ありがとうございます!なんとか頑張って描いていこうと思いますー!

投稿: cafetime | 2008年11月30日 (日) 18時15分

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