空の下で.嵐(その3)
走った。
いつもの練習で走るとは違う。
フォームも何もないし、無我夢中だったけどくるみの手を引いていた。
ぼくとくるみは剛塚がいるところまで走った。
「剛塚、なんで駅から戻ってくるんだよ」
剛塚が危なそうだったから電話で「家に帰れ」と言ったのに。
「相原、若井・・・大丈夫か」
息切れしながら走ってきたぼくとくるみの事を気にしている。
危険が迫っていそうなのは剛塚だってのに。
「剛塚くん・・・なんか安西って人が・・・怖くて、あ、そうじゃなくって・・・捜してた」
急に走ったせいか、少し怖い目にあったせいか、くるみは気が動転してるみたいだ。
「あ、相原くん、ご、ごめん」
くるみはそう言ってぼくが掴んでいた手を指さした。
「あ!い、いや、ぼくこそゴメン・・・」
ぼくは慌ててくるみの手を放した。
くるみの手って・・・やわらかい。ぼくよりあったかいし・・・。
は!?
い、今はそれどころじゃないや。
赤髪の学生、安西と二人が走ってくるのが見えた。
マズイことにここは路地みたいなとこで人気がない。
「ど、どうする剛塚!」
「相原と若井は後ろに下がってろ。オレが安西たちと話をする」
安西たちが接近してくる。
「剛塚だ!」
男子生徒のうちの一人がそう叫んで、走った勢いそのまま剛塚に殴りかかってきた。
だが、剛塚はそいつの拳をかわすと、その腕を取って背負い投げをくらわせた。
「うわあ!!」
あっけにとられるぼく。
しかし思う。体育部員が暴力沙汰はマズイと。
「ご、剛塚!ぼ、暴力はヤバイって」
ここで安西が到着。もう一人も着いた。
「安西・・・何の用だよ」
剛塚は安西を睨んでそう言った。やはり知り合いなのだ。
「剛塚。さっきたまたま競技場でお前を見つけたからよ。冬の時の恨みを晴らそうと思ってよ。あの時のメンバー集めたんだよ」
あの時・・・?
「そうだと思ったよ、安西。お前がオレにすることなんてそれくらいだしな。それに、さっき競技場にお前がいたのを見かけたしな、嫌な予感はしてたんだ」
状況が全くわからない。
「ご、剛塚。この安西って人・・・誰なの」
ぼくが聞くと剛塚は少し間を空けてから答えた。
「友達だよ。中学んときの」
「中学の時の友達・・・」
そして、また間を空けて変な事を言い出した。
「一緒に陸上部つぶしを計画した仲間だ」
「え?」
牧野と未華は、ぼくらと反対方向へと走って逃げていた。
しかし誰も追いかけて来ていないと判ると、走るのをやめて五月先生に電話をした。
『おかけになった番号は・・・電波の届かない場所に・・・』
「くっそ、出ないし」
「牧野、留守電になんか入れておきなよ」
「わかってる。ピーって言ったらな。あ、言った!
・・・・もしもし先生。牧野ですけど。ちょっと緊急な事が起きてるんです。
留守電聞いたら連絡ください。牧野です。牧野です」
「牧野、なんか気が動転してるでしょ。お、おち。おち落ち着きなよ」
「未華もな」
二人がやりとりしていると、そこへ雪沢先輩と穴川先輩がやってきた。
「あ、先輩・・・・・」
「お、どうした牧野、大塚。アタフタしちゃって・・・密会中?」
「違います」
未華はピシャリと答えた。
牧野は一瞬、今の状況を話すべきかどうか迷った。
先輩二人を巻き添えにするのはどうかなと考えたからだ。
でも、牧野は雪沢先輩に状況を話した。
「・・・ってワケなんですよ。たぶん安西ってのは英太たちを追っかけてって・・・」
「あ、安西・・・ってまさか・・・」
雪沢先輩は穴川先輩の顔を見た。
穴川先輩はうなづく。
「たぶん、あの安西だろ。剛塚を呼んでるんだから。相原と若井を捜そう」
珍しく穴川先輩がその場を仕切った。
「牧野、大塚。お前らは人通りの多い通りに出て駅に向かえ。路地とかには行くなよ」
そう言って雪沢先輩と穴川先輩は牧野たちが来た方へ向かった。
後から考えてみて・・・。
やっぱりここで先輩が関わるのは止めておいて方が良かったのかもしれない。
牧野が一瞬躊躇したのは、感がよかった。
それでも雪沢先輩と穴川先輩が関わる方に動いてしまった。
このことが、まさかあんな事態を引き起こそうとは・・・。
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