空の下で.嵐(その4)
ザーっと大きな音をたて、落ち葉が群れをなして風に流れていく。
それと同時に雪沢先輩と穴川先輩、そしてどこで合流したのか名高が走ってきた。
この、人通りの少ない路地に、ぼくとくるみ、そして剛塚がいる。
剛塚の足元には一人、男子学生が「うう・・・」と呻いたまま仰向けに倒れていて、その向こうに安西ともう一人の男子学生。
さらに向こうに雪沢先輩・穴川先輩・名高というひしめきようだ。
「安西・・・」
雪沢先輩がつぶやいた。
「安西、なんでキミがまたオレ達にからむ・・?」
また・・・?
本当に安西と剛塚は「陸上部つぶし」を計画してたって事か?
ぼくは剛塚の顔を見た。すると剛塚は渋い顔をしてうなづいた。
「悪い、相原。今まで黙ってて。オレと安西とあと何人かで陸上部をつぶしにかかったって話は本当だ。中学3年の時の話だけどな」
ぼくは頭がクラッとした。
「い、意味がわからない。中学の時、なんで多摩境高校の陸上部をつぶしに・・?」
この問いには安西が答えた。
「邪魔だったんだよ」
「は?」
「オレらの中学は多摩境高校から近い。オレらは学校帰りによく小山内裏公園で隠れてタバコとか吸ってたんだけどよ」
小山内裏公園・・・。
ぼくらがよく練習で行く公園だ。
「毎日毎日練習で来てる陸上部に、何度も何度もタバコを見られててよ。
ある時、チクられたんだよ。中学の先生によ。おかげでこってりしぼられてよ」
「中学に連絡したのはオレだ。目に余ったし、煙が邪魔だったし」
雪沢先輩が痛そうな顔して言った。
「そして、あの日だよ・・・」
安西はニヤついて話す。本当に嫌な笑みだ。
「オレと剛塚とあと3人くらいで、小山内裏公園で練習中の陸上部にからんだんだよ。
全員を何発か殴って脅そうってことでな。雪沢ってのを徹底的にやる予定だった」
安西は雪沢先輩を睨む。
「なのによ・・・。あんなバケモノが出てくるなんてな」
「バケモノ?」
「お前らんとこの顧問だよ。五月とかいう。なんなんだよ、あいつは一体」
五月先生・・・?
「あいつ一人に、オレも剛塚もほかのヤツもやられちまったんだからよ・・・」
ぼくの頭の中で何かがつながった。
前に聞いた話じゃ、五月先生は不良中学生と乱闘騒ぎを起こして謹慎してたって事だったハズだ。
それに・・・五月先生が謹慎明けで登場した時・・・
剛塚と五月先生はお互いの事を知ってる風だった。
「じゃ、じゃあ五月先生が乱闘した相手ってのはまさか・・・」
「オレ達だよ」
剛塚がそう断言した。
でも、たった一つ、ふに落ちない点がある。ぼくはそれを聞いた。
「じゃあなんで・・・剛塚は多摩境高校に陸上部に入ったの?」
場に沈黙が流れる。
安西もこれを聞きたいらしく黙って剛塚を見ていた。
「・・・。五月に言われたんだよ」
「何をだ」
安西が早口でそう問い詰めた。ものすごい険しい顔で剛塚を見ている。
対して剛塚はつまらなそうな顔して答えた。
「暴れるようなエネルギー、もっと違う事に使えばスゲェ男なのにってよ」
「そ、それだけかよ」
安西は絶句した。
「おまえ、それだけで、オレ達と一緒にいるのやめて・・・大山とかから金を巻き上げるのもやめて・・・陸上なんか始めちまったのかよ・・・」
大山・・・。そうか、剛塚と大山は同じ中学だとか言ってた。
「剛塚、テメェ一人だけ普通の高校生やってこうだなんて許さねーぞ。オレ達はいまだにレッテル張られたまま学校行ってるんだからな!」
そう言って、安西が剛塚に殴りかかってきた。
剛塚はなんとかかわしたが安西はすぐに次々と拳を放ってくる。
剛塚は避けたり、受けたりするだけだ。
「どうした剛塚!なんで反撃しねーんだよ!」
「暴力は今は出来ない!部に迷惑かかるからよ!」
さっき一人を投げ飛ばしたけど・・・と思った時、雪沢先輩が安西を後から押さえた。
「やめろ安西!」
「またテメェか、雪沢!ジャマすんな」
安西は雪沢先輩の腕を振り払って、雪沢先輩の腹に蹴りを入れた。
その勢いで雪沢先輩は後に飛ばされて倒れた。
「うぐ!」
倒れる時、雪沢先輩は足首をひねる様な格好になった。
そして倒れたあと、雪沢先輩は足首をおさえて痛そうな顔をしていた。
「ゆ・・・雪沢! 安西、おまえ!」
それを見て穴川先輩は安西に向かって殴りかかった。
「あ、穴川先輩!殴るのは・・・」
ぼくはそう叫んだ。
もう、収拾はつかないのか??絶望的な叫びだった。
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