空の下で.駅伝(その2)ぼくらの大会
11月3日。
東京都高校駅伝大会は今年は板橋区にある荒川戸田競技場付近で行われる。
東京中の高校から駅伝チームが集まるこの大会は、今までぼくらが出た大会のどれよりも多くの学校が参加しているし、地区予選と違って東京の強豪高校もたくさん来ているので、ピリピリした雰囲気が漂っていた。
いつもと違うのはそれだけではない。
別にレースとは全く関係ないんだけれど、空の色が違っていた。
いや、乾燥した秋晴れってのはいつもと変わらない。
でもぼくらがいつもいる八王子や多摩境の空とは何か色が違っていた。
東京以外に住んでる人にはピンと来ないかもしれないけど、いわゆる東京23区という都心エリアと、ぼくらの住む多摩地区とは全く別世界だ。
八王子市など、東京都のクセにほとんどが緑につつまれている。
タヌキは出るしキノコは採れるしUFOまで出る(という話だ。)
そんな所で生活してるぼくには、この板橋という場所の空がいつもと違う色に感じた。
ぼくら長距離メンバーは、五月先生の元、2週間思いっきり走りこんできた。
「50位に入らなければ活動停止」の話を聞いてからは尚更だ。
がむしゃらに走る続ける練習中、牧野がこう言ったのをよく覚えている。
「オレ達、こんなに陸上部好きだったんだな」
一体いつからだろう、こんなにこの部が好きになったのは。
最初はなんとなくだった。
校門のところで雪沢先輩に勧誘されて、牧野と一緒になんとなく仮入部をしに行って、
名高と出会い、たくみと出会い、剛塚と出会い、大山と出会った。
気がついたら必死こいて走りまくってて、気になる女の子まで出来て・・・
まあそれはいいんだけど、合宿でみんなでケンカしたり富士山登ったりバーベQしたり、たくみが中距離に転向しちゃったり、そんなことを経験してるうちになんだか居心地のいい場所になっちゃってた。
中学の時、吹奏楽部を3年間やってた時は、最後まで「なんとなく」で終わってしまった。
でも、今は違う。
いつだったか母親に言われた。
「陸上部、楽しい?」
あの時はなんて答えたか・・・。よく覚えてないけど、「なんとなく」楽しいと答えた。
でも今なら言える。何も恥かしがらずに堂々と言える。
陸上部、楽しいよって。
そんな陸上部に突然訪れた嵐。
乱闘騒ぎを経て出された駅伝大会での50位以内に入らなければ活動停止という条件。
この、楽しくて居心地がいい陸上部を守るためにも、
そして、怪我して出れなかった雪沢先輩のためにも、
何より、試合を楽しむため、自分自身のためにも、
全身全霊で走る!それだけは絶対だ!
「みんなー!一回全員集合だってー!」
みんな各々ストレッチだのして体をほぐしていると、未華が大声で集合をかけた。
大きなブルーシートを広げた多摩境高校の場所にメンバーが全員集まる。
全員の前に五月先生と雪沢先輩が立った。
「それじゃ、駅伝スタートまであと1時間を切ったので先生から一言お願いします」
雪沢先輩は今日も爽やかにそう言った。
「みんな、今日まで練習ご苦労さん。すごいきつかったと思うけど、よくここまで生き残ってくれた。まずはよくやったと言いたい」
ぼくは話を聞きながらも、みんなの顔を見回した。
みんなこれまでになく真剣な表情をしている。
それは走らない雪沢先輩や未華・くるみも同じだ。珍しく早川舞まで真剣な顔してる。
「話のこじれから50位内でゴールなんて条件も出ているが、本当に目指すのは50位ではなく、それぞれの全力での順位だ。これまでの成果をここで出し切れるよう全力をつくしてくれ」
「はい!」
気合の返事が飛ぶ。
「最後にメンバーの確認だ。みんな間違えて変な時間に準備すんなよ。
1区、10キロ、名高! エース区間だ!思い切って走って来い!
2区、3キロ、天野たくみ! 中距離の練習の成果を生かしてくれ!
3区、8キロ、穴川! 唯一の二年生だ!意地を見せてこい!
4区、8キロ、剛塚! 長い距離になると出る終盤の粘りを見せてくれ!
5区、3キロ、大山! あきらめないで前を見て走ってくれ!
6区、5キロ、牧野! 得意の5キロで順位を上げてくれ!
7区 5キロ、相原! 後半の追い上げを期待してるぞ!」
「みんな、頑張ってね!私たちも全力でサポートするからね」
くるみが珍しく大きめの声でそう言うと、未華は
「変な走りしたらタダじゃおかないよ!穴川先輩だろうとね!」
と嫌な応援の仕方をした。穴川先輩は苦笑いだ。
そして雪沢先輩が力強く言った。
「お前らなら出来る。任せたぞ」
さあ、始まる。ぼくらの駅伝大会が。
あの騒ぎで起きた、世間からの冷たい風なんて吹き飛ばせ!
| 固定リンク
この記事へのコメントは終了しました。
コメント