ブラスバンドライフ3.音楽室
国語の授業は嫌いだ。
細かい文字を見ていると眠くなっちまうし、漢字が苦手だし。
特に古典は何がなんだかサッパリわからない。
と、いうかそんな昔の人の文なんか読んでる意味がわからん。
でも、古典の授業は寝るわけにはいかない。
なんといっても立花センセーの授業だからだ。
吹奏楽部の顧問の先生だからって理由もあるけど、立花センセーがかわいいからだ。
クラスの誰よりもかわいいと思う。
26歳らしいけど、けっこう童顔だし、声も幼さが残る感じなので年の差はあんまり感じないんだけど、やっぱり考え方は大人なんだよね。そこがいい。
「シオ、なにニヤニヤしてんの」
隣の席のナナが白けた眼でこっちを睨む。
「に、ニヤけてねーよ。授業に集中しろよオマエ」
なんでクラスが一緒なんだろうね、ナナと。やだやだ。
授業が終わりLHRをして部活へ行く。
オレら吹奏楽部は校舎の南ハジにある音楽室が活動の場だ。
多摩境高校は創立3年目ということもあり、校舎はピカピカだ。
音楽室もキチンとした防音設備が整っている上、有名な人のコンサート映像が見れるようにと電動で降りてくるスクリーンやプロジェクターまで揃っている。
窓はついてるけど防音のために二重窓になっている。
まあ前にも言ったとおり、立花センセーはほとんどの場合、窓を空けたまま練習に入るので、音は校庭に聞こえまくりだ。
4月も終わりにさしかかり、新入生に担当パートも全員決まった頃、立花センセーが音楽室で緊急ミーティングを開いた。
部員全員が音楽室に集められて、立花センセーの話を聞く。
「みんな集まったかなー」
「全員います。30人ピッタリです。遅刻者はいません」
ナナがハキハキと答える。だから遅刻の話までは聞いてないだろ。
「今日は何のお話ですか」
クラリネットの未希がたずねる。
すると立花センセーはニコッと笑って言った。
「第1回定期演奏会が決まりました」
一瞬ポカンとする部員たち。
その後「おおー!」とか「やったー!」とかの歓声が上がる。
「シャラップ!!」
ナナの大声が音楽室に響いた。でかい!
とたんに静かになる室内。立花センセーが話を続ける。
「10月10日に隣町の橋本にある市民ホールの予約が取れました。
500人以上入る立派なホールです。
まだ5ヶ月くらいありますが、定期演奏会と言った以上、2時間くらいはやる予定です」
「2時間っすか。何曲くらいですかね」
オレは立花センセーにたずねた。
するとセンセーはちょっと首をかしげてから言った。
「そうね。曲にもよるけど・・・アンコールも入れて10曲近くは用意しないとね」
「じゅ・・・?!」
ちょっとヘコタレタ。そんなに出来るか?
でも未希は楽しそうに言った。
「なんかいい目標になりますね。目標あると気合が入ります」
するとナナも腕を組んで偉そうに言う。
「そうね。未希の言うとおり。気合入れて取り組むかね」
「じゃあ来週からは練習曲も演奏会に向けたものも用意します。
一年生は簡単なアレンジを考えてるから不安にならないでね」
立花センセーはかわいげなガッツポーズとりながらそう言った。
翌週からは練習がヒートアップした。
立花センセーが演奏会用にアレンジした曲を練習していくのだ。
指揮は立花センセーが振り、ナナがパーカスを仕切り、クラリネットとフルートを未希が仕切り、オレはというとトランペット・トロンボーンなどの金管楽器を仕切った。
「塩崎先輩、このFの入るところってもっと弱くした方がいいすかね」
「Fの入り?ちょっと待って」
トランペットの一年生、日比谷が細かく質問してくる。
日比谷は中学でも吹奏楽部にいたらしいが、あまり部活には出ずに大手音楽教室でトランペットを習っていたらしい。
そのせいか基本が出来ている。
ただ団体でやる演奏はあまり経験がないらしく、隣で吹くオレに質問攻めだ。
「ああ、Fかあ。日比谷だけちょっと強く吹き過ぎかもな。少し抑えていこうぜ」
「なるほど、わかりました」
フフン、オレも先輩らしくなってきただろ。なにしろ三年生だ。副部長だ。
「スッゲーすよね塩崎先輩。適格な指示できて」
「まあな」
はーはっは!もっと褒めろ!
「でもBのとこ、さっきちょっと遅れてましたよ」
「え?! バレてた?! わ、わりい・・」
ぐうー、日比谷!油断ならん。
金管楽器はこんな感じでうまくいくかと思ってた。
でも甘かったよ。チューバに一人、全然進歩しないコがいたんだ。
例の特技披露で猪木のマネしてたコだよ。
あの時から嫌な予感はしてたんだ。
だって普通やらないだろ?吹奏楽部の自己紹介で猪木のモノマネなんてよ。
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