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2009年1月 5日 (月)

ブラスバンドライフ1.想いを込めて

 

人にはそれぞれ違った価値観がある。

人から見たら小さな小さな演奏会だとしたって。

それに想いを込めて演奏する人がいたりする。

 

ぼくらの音はみんなに届いていますか?

 

ブラスバンドライフ

・・・by cafetime  2008-12

 

ドーン!ガーン!ドーン!ガーン!

三人で思いきり叩きまくるティンパニーの音が部屋に響きまくる。

うるせーのなんの。全員、なんてヘタクソな演奏だ。ただ思いきり叩いてるだけだ。

リズムも取れてなけりゃ叩き方もなってない。

そりゃそうだ。

叩いているのは幼稚園の児童なんだからしょうがない。

今日は幼稚園に呼ばれていて、三曲ほど簡単な曲を演奏してくれって言われたから、しかたなくオレともう五人で「となりのトトロ」と「ドラえもん」と「団子3兄弟」を演奏した。

団子3兄弟なんて今時の幼稚園生は生まれてない時の曲だから反対だけど。

なんでこんな事をしてるのかと言えば、オレらが吹奏楽部だからだ。

うちの顧問の立花理子センセーが「幼稚園生に楽器の楽しさを伝えてきてね」なんて、簡単に今回の幼稚園の依頼を受けてきたってことだ。

まあ、演奏するのは良かったんだけどね。人前で演奏する機会は少ないからさ。

でも演奏の後、幼稚園生に楽器を触らせるという企画がひどかった。

ティンパニーを悪ガキどもが思いきり叩きまくるからだ。

ドーン!ガーン!ドーン!ガーン!

「あんまり強く叩くなよー」

とオレが注意すると

「そんなの関係ねぇ!」

と小島よしおのセリフを言われた。さらには

「ボクの演奏・・・グーーーー!!」

とかエド・はるみの物まねするヤツまでいる。何がグーなんだか。

オレら吹奏楽部のメンバーは苦笑いしまくりだ。

ティンパニー担当の奈々なんて拳が震えてる。

「ナナ、抑えて抑えて。相手は幼稚園生なんだから」

オレが奈々にそう言うと、奈々はギロッとオレを睨んでこう言った。

「えー?私怒ってなんかないよー。シオの勘違いだよー。私って寛大だもーん」

シオってのはオレのあだ名だ。塩崎だからシオ。

そう言った奈々の目は全く笑ってなかった。

笑ってるのは子供たちと保育士の先生たちだ。

保育士の先生たちは大人なのにこの状況を楽しんでいる。

なんでだよ!こんなヒドイ扱いで楽器叩いてるのにさ!

「人にはそれぞれ違った価値観がある。

 人から見たら小さな小さな演奏会だとしたって」

いつも立花センセーが言ってる言葉が頭によぎった。

これも子供たちにとっては演奏会なんだろうか。

 

 

幼稚園でのお笑い演奏会(?)の次の日はよく晴れた日だった。

オレが高校三年になって初めての登校日だ。こんな日によく晴れるってのは嬉しい。

二日前、入学式は終わっているらしく、まだシワの入ってない真新しい制服の新入生たちが次々と登校してくる。

オレは吹奏楽部の部員勧誘のために校門のところでクラリネットの栄 未希と一緒にチラシを配ったり「吹奏楽部で楽しいブラスバンドライフを送ろうー」などと叫んでいた。

もちろん吹奏楽部だけが勧誘してる訳じゃない。

野球部・陸上部・サッカー部などなど運動部を中心に盛んに勧誘をしている。

特に人数がたくさん必要な部は必死だ。

オレらが通う多摩境高校は創立して二年しかたってない。

オレらが初めての三年生だ。やっと三学年がそろって部活が出来る年なのだ。

 

「誰か吹奏楽部入れー!」

などとテキトーな叫びを上げていたらクラリネットの未希が

「塩崎くん、そういう適当なのはやめてよ」

とダメ出しをしてきた。

「だってよ。どいつが楽器に興味あるかとかわかんねーじゃんかよ。とりあえず誰でもいいから声かけまくるならセリフなんてどうでもよくね?」

「せめて誠意を持ってやってよ。塩崎くんのテキトーな勧誘で部員集まらなかったらナナに報告するからね」

「いや、ナナに言うのはやめて。あいつ怖いから」

ナナというのは部長でパーカッション担当の七見奈々って女子だ。

カタカナにすると「ナナミナナ」

名前の五文字のうち四文字がナというスゴイ名前のヤツで、怒ると怖い。

ナナを怒らせるくらいなら勧誘をちゃんとやろう。

 

「吹奏楽部に興味がある人はこのチラシを見てみてくださーい!」

オレは未希と同じように一生懸命にチラシを配った。

するとなんだか陽気そうな男子が話しかけてきた。

「トランペットってやってます?」

「え?そりゃやってるよ」

「ちゃんと顧問の先生とかいるんですか?」

「いるよいるよ。立花センセーっていう他の学校でも吹奏楽部を教えてた先生が」

「へえ!スッゲ!演奏会とかもやるんすか?」

演奏会?

言われてオレは近くで話を聞いてた未希の顔を見た。

未希はオレと男子生徒を見ながらこう言った。

「演奏会、今までやったことないんだけど・・・今年はやろうって提案しようか」

すると男子生徒は大声で喜んでいた。

「スッゲ、スッゲ!やるんすか!じゃあオレ入部したいです!」

「ホント?じゃあ一緒に第1回定期演奏会を目指していこーね!」

勝手に演奏会やるなんて言いだしちゃって、いいのか未希のヤツ・・・。

でもいいかもな、演奏会。

今年こそは人数も20人と少しは集まりそうだし、多摩境高校吹奏楽部の記念すべき第1回演奏会をオレらで出来るなんて、ちょっくらカッコいいしな。

また立花センセーの口癖が頭に響く。

 

「人にはそれぞれ違った価値観がある。

人から見たら小さな小さな演奏会だとしたって。

それに想いを込めて演奏する人がいたりする」

 

想いを込めまくってやろうじゃん!

込めて乱れ撃ちだよ。数打ちゃ当たるよ。いや、深い意味は無いんだけどさ。

 

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