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2009年1月15日 (木)

ブラスバンドライフ11.開演5時間前

10月10日。

カラッとした秋の晴天。

思えば今日までの道のりは長かった。

夏の終わりにドア係や受付係を決めてからは猛特訓の毎日だった。

その間に何度か人前で演奏する機会があった。

 

 

9月のアタマには老人ホームに10人くらいの小編成で乗り込んだ。

昔なつかしの曲を3曲ほど演奏した。

その中で好評だった「いい日、旅立ち」は今日の演奏会の曲目にも入れた。

 

同じく9月下旬には春にやった幼稚園で再び「楽器に触ろう」の企画で行った。

今度は本番用の楽器は持っていかずに、幼稚園生には気軽に楽器に触ってもらった。

何故だか今回は嫌な気分にはならなかった。

と、いうか幼稚園生が元気に打楽器で遊んでいるのを楽しく見れた。

 

そしてつい先週、10月のアタマには学校の文化祭で演奏した。

この時も3曲やった。

今年のヒット曲だ。「羞恥心」に「キセキ」に「ポニョ」。

どれも盛り上がったがテコンドーなどの演出はやめておいた。

羞恥心で手をグルグル回すくらいの振り付けをやった程度だ。

 

そうした経験を積んで、ついにこの日がやってきた。

実は再び親から「帰りが遅い」とのクレームもあった。

なにしろ夏休みと違って授業が終わってから練習するわけだ。

帰りが遅くて心配にもなる。

おまけに3年生は受験だってある。

それでも「10月10日までだから」と言って、オレも未希もナナも他の3年も、夜遅くまで練習してきた。

多摩境高校吹奏楽部 第1回定期演奏会。

全てはこの演奏会の成功のためだ。

 

 

朝9時、オレらはトラックで運ばれて来た楽器をホールの舞台へと運んでいた。

ナナが部長らしく仕切る。

「2、3年生は楽器を舞台の上に運んでー!未希は楽器の配置を立花センセーと相談しながらドンドン設置していってー!!あと座るイスもね!」

「わかったー!」

「シオ!1年生を連れて、舞台のひな段をホールの人と一緒に組んで!」

「りょーかい!!」

吹奏楽部は25人なので、全員がイスに座ると、後ろの方に座ったヤツはお客さんから見えなくなってしまう。

なので後ろの一列だけは、ひな段と呼ばれる台を作り、その上にイスを設置するのだ。

そうすりゃ後一列は高いところに座ることになり、お客さんからも見える・・・というわけだ。

まあ、これは自慢できる作戦じゃあない。

どこの学校の吹奏楽部でもやっている「常識」だ。

その辺は立花センセーが慣れている。

 

「ひな段完成ー!」

ひな段が完成してオレは右腕を突き上げて高らかに宣言した。

「じゃあ楽器置くからどいてどいて」

未希がシラっとした顔でイスと楽器を配置させていく。

「チ、なんだよ」

オレが舌打ちすると田中ちゃんがなだめる。

「まあまあ塩崎センパイ。機嫌悪くしないでくださいよー。みんなテンション上がり気味なんですよー。焦っちゃたりする人だっているかもですよー」

そういう田中ちゃんも目が泳いでる。一番テンパってるのは田中ちゃんかもしれない。

なんだか心配だな・・・。

 

楽器の設置が終わると、マイクのチェックやら電気の調整(照明と呼ぶ)が始まった。

瞬間移動の発案者、マジック失敗男が照明スタッフと何やら打ち合わせしている。

心配らしく未希が付き添っている。

瞬間移動は失敗したらダサイことこの上ない。

未希とマジック失敗男がちゃんと打ち合わせしてくれる事を祈る。

 

マイクのチェックではナナが舞台上でスタンドマイクでしゃべる。

「ただいまー!!・・・・・・」

な、なんじゃそのセリフは・・・。台本にあったか??

「・・・マイクのチェック中ー! ただいまマイクのチェック中ー!あー!あー!」

 

オレはというと日比谷とテコンドーと柔軟の4人でプログラムにチラシを入れる作業をしなくてはいけない。

プログラムは3枚折りで作ってあって、開くと「部員募集中!」のチラシが出てくるようにするのだ。

ちなみにプログラムのタイトルは「多摩境高校吹奏楽部 第1回定期演奏会」だが

サブタイトルは「始まりを目撃しろ!」だ。

これはオレが勝手に決めた。

女性陣からは猛反対をくらったけど、日比谷は大賛成だった。

部員募集中のチラシはナナが書いた。

かわいい女の子のイラストに吹き出しがついていて、そこにこう書かれている。

 

「アナタも楽しいブラスバンドライフを送ってみませんか?」

 

当初は「吹奏楽漬け」と書いてあったが、なんかキツそうなイメージなので

ブラスバンドライフという表現になった。

 

「塩崎センパイ! 受付係の二人を連れてきましたよー」

田中ちゃんがかわいい女子を二人連れて来た。

一人はノーメイクでナチュラルな優しそうなコだ。

「若井くるみといいます。今日は自信ないけど頑張って受付しようと思います」

もう一人は一年生なのにバッチリメイクのスラッと美人だ。

「早川舞です。田中ちゃんに頼まれたんで仕方なく来ました」

「あ、ああ・・・よ、よろしく」

オレは二人に受付の説明をしてその場を去ろうとした。

「じゃあ、よろしくね」

受付を離れ、舞台に向かう。

その時、意識してなかったんだけど、後で若井さんが田中ちゃんに話しかける声がした。

「田中ちゃん、今日言うの?」

「うん・・・うまく演奏出来た時は・・・言う!」

「わあ・・・勇気あるなあ」

なんの話だろ・・・。クラスの仲良ししか知らない話だろうか。

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