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2009年1月19日 (月)

ブラスバンドライフ15.ポップスステージの涙

「ちょう緊張したー!!」

休憩時間に入り、舞台袖に戻ってきたナナが大声でそう叫んだ。

「ナナ!声、でかいって!」

オレがそう注意するほどに大きかった。確実に客席に聞こえてそうだ。

「わかってるって、シオ。さあ、第2部は演出だよ」

「おお」

 

第2部はうって変わり、ポップスや映画音楽を吹奏楽用にアレンジした曲をやる。

こういう譜面は楽器屋に行けば置いてある。

バンドスコアを買ってもいいが、ちゃんと吹奏楽用に書き換えた譜面が出回っている。

こないだやった「羞恥心」や「ポニョ」にしたってそうだ。

それだけ色々な学校が、こういう曲にも取り組んでいるということだ。

 

休憩は15分。その間にオレ達は着替えをした。

第1部はクラシックだったので全員が制服を着ていた。

第2部はポップス中心になるので、カラフルなTシャツとジーパンという格好だ。

ジーパンは自前だけど、Tシャツはナナがデザインしたものを部員数だけ作った。 

シャツの色はパートごとに分けてあって、黄色、緑、青、赤など様々だ。

オレや日比谷、田中ちゃんのいる金管楽器パートは明るい青だ。

 

「スッゲスッゲ、似合いますよ塩崎センパイ!」

舞台袖に全員集合した時、日比谷がテンション上げ過ぎな声を出した。

「日比谷、お前テンションがクレッシェンドし過ぎ!」

「いやあ、テンションも上がりますって。なあ田中ちゃん!」

いきなり振られた田中ちゃんはオドオドしてる。

「わ、わたしは似合ってるかなあ・・・。普段Tシャツとジーパンって格好しないから・・・」

「いいんじゃん?!ねえ塩崎センパイ!」

「すげえいい」

本音だ。制服姿の田中ちゃんも好きだけど、こういうラフな格好の田中ちゃんもかわいい。

なんだか見ていてドキドキしてきた。

田中ちゃんってホントかわいいよな。こんなコに好かれてるかもなんて幸せだよオレは。

「ナニ見とれてんのよ塩崎くん」

いきなり未希が冷ややかな目をして話しかけてきた。

「み、見とれて悪いか」

未希はちょっと驚いた顔をしてから笑った。

「へえ!塩崎くん、否定しなくなったね!」

「え、あ! そうじゃなくてよ! て、てゆーか休憩終わるって」

慌てふためくオレを見て田中ちゃんは顔を赤くしていた。

でも、多分オレの方が赤くなってそうだ。

 

舞台に再び明かりが灯り、オレたちはTシャツ姿で出ていく。

客席からは拍手が鳴り響く。

指揮者の立花センセーもTシャツとジーパンという格好だ。

Tシャツの胸の部分には、筆記体っぽい感じでTAMASAKAIと書いてあり、ト音記号と四分音符と八分音符のイラストが描かれている。

ナナはイラストがなかなかうまい。オレは自分にない才能を持つヤツって尊敬してしまう。

指揮棒が振りおろされ、演奏が始まる。

 

まずは「ジブリメドレー」だ。

これは今年の春にやった「楽器に触ろう」企画で幼稚園に行った時でも、夏のフェスタでも評判が良かった「となりのトトロ」を中心に、立花センセーがオリジナルでメドレー化したものだ。

「トトロ」のような元気な曲から「君をのせて」のような切ない曲まで色々あるから、その感情表現に苦労した。

 

続いて「ジャパニーズ・グラフティ」だ。

これもメドレー曲で、吹奏楽の定番メドレーとなる。

要は日本のナツメロのメドレーなのだが、今回は宇宙戦艦ヤマトや銀河鉄道999といった、昔のアニメの曲をやる。

ジブリが新しいアニメ曲で、ジャパニーズで古いアニメ曲をやったって訳だ。

どちらも会場から手拍子が出るという、予想外な事が起こり、演奏していて気持ちよくってしょうがなかった。

「ああ、吹奏楽やってきて良かったな」

そう思うと、しんみりしちまうので、そういう考えは頭から吹き飛ばして演奏した。

 

この曲終りで立花センセーの司会が入る。

「みなさん、新旧のアニメメドレーはいかがだったでしょうか」

会場は拍手で応えてくれる。言葉で返事をするのではない。

まあ、するヤツもたまにいるが。

「続いての曲も、少し昔の曲を演奏しようと思いますが、その前に私から部員に一言だけ、言わせてもらおうかと思います」

え、そんなの台本に無いぞ。

立花センセーはスタンドからマイクを抜いて手に持ち、オレらの方を見た。

「みんな、ここまで頑張ってくれてありがとうね。

 特に3年生はこれが最初で最後の演奏会になっちゃってごめんね。

 なかなか部員が集まらなくて、去年も一昨年も演奏会が開けなくて」

そんなことはいい。今日ここに立てたんだから。

「もうすぐこの演奏会も終わってしまうけれど、最後の最後まで・・・・」

ここで立花センセーは言葉を詰まらせた。

思わずオレは心臓がドキッとする。

かなり間が空いたものの立花センセーは言葉を続けた。

「最後の最後まで頑張って音楽を奏でようね。

 それでは、聴いてください。曲は、いい日、旅立ち」

 

音楽の持つ力ってのはスゴイ。

言葉の持つ力ってのはスゴイ。

その二つが合わさると、すごさは計り知れないものになる。

どんなにどんなに「泣くな」と思っていても、立花センセーの「言葉」と、いい日、旅立ちという曲の「音楽」は涙を止めることを許さなかった。

 

部活って、いいよな。

オレはそう思う。

部活なんて本当は苦労ばっかりで、辛いことばっかりなのに、最後に今日みたいな場面が待っていると、全ていい思い出に変わってしまうんだから。

でも、まだ旅立つ訳にはいかない。

まだ、あの演出が残っている。

夏のリベンジ。なによりもみんなで特訓した曲と演出だ。

そしてその先に、あんな景色が待っているなんて、オレは全く予想していなかった。

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