空の下で-冬(4) 昔の約束「その3」
昨夜は心臓が暴れて、なかなか寝付けなかった。
「明日はくるみをお茶を誘うぞ」
そう考えると静かに睡眠を取るなんてのは難しい事だった。
部屋の電気を消してベッドに入っても、ドキドキして眠くなるのに時間がかかる。
眼をつぶって落ち着こうと努力をする。
「ひ、羊が一匹・・・」
超古典的な事をしてみるが、これは逆効果としか思えなかった。
一匹、二匹と数えていたら、頭を使ってしまって寝れないじゃないか!と思う。
よくまあこれで寝れる人がいるもんだよ。
逆に無心になれば寝れるかもと考え、何も考えないようにして目を瞑る。
「明日・・うまく誘えるといいな」
そう思うと、くるみの顔が頭に浮かぶ。
決して人気なコじゃあない。特別かわいい訳ではないし、目立つ性格な訳でもない。
でも、運動部なのに大人しい雰囲気は、なんだか優しいオーラを持ってる気がする。
そのくせ、ぼくとかをからかったりする事もある明るい子だ。
明日、どっかお茶しに行けたら何を話そうかな。
会話、長い時間持つかな。
「全然、無心になれないな・・・」
一人、ニヤッと笑ってしまい、バカな人間だなと感じた。
気がつくと朝七時半だった。
どうやら途中でちゃんと寝れたようだ。ホッとしながら部屋の窓を開ける。
冬にしては明るい光が部屋に射し込む。
「ふあ・・・。いい天気」
あくびをしながら呟く。
こんないい天気ならどこかに出かけるのもいいなと思い、机の引き出しにしまってあった五千円札を取り出した。
「今度はおごらないとな」
前にくるみと二人でスタバに行った事があった。
あの時はくるみがコーヒー代を払ってくれたので、今度はぼくが払いたい。
いつもより、ちゃんと寝ぐせをチェックして、顔もキチンと洗った。
それを見ていた母親が不思議そうな顔をする。
「あら、もしかしてデート?」
「ぶ!」
「図星? いい彼女できたんなら、そのうち紹介しなさいよ」
「いないよ、彼女なんて」
「そうなの?不良少女はお断りだからね。そこはしっかりしてちょうだい」
「はいはい」
うちの母親は茶髪とかピアスだとかをしてる学生は嫌いらしい。
今時、不良じゃなくたって髪の色くらい染めると思うんだけど。
学校に着いて校庭を歩いているとサッカーボールが飛んできた。
危ないと思って素早く避ける。
「あ、わるい!」
サッカー部の柏木直人がすまなそうな顔して走ってくる。
すでにジャージ姿。朝練らしい。
「朝から頑張るなー、サッカー部は」
「そう思うだろ?うちの顧問、練習量を自慢するタイプだから・・・」
校庭の奥の方を見ると、サッカー部がみんな走り回ってる。
「朝から持久走だぜ?ハードだっつーの。おかげで体力はついたけどな」
「そっか、じゃあ頑張ってね」
「あ、待て待て相原。マイ・・・早川の件、頼むな」
そう言って柏木はサッカーボールをドリブルしながら練習に戻って行った。
今、マイって呼んだよな。ホントに早川舞と付き合ってたんだな。
しかも確実に・・・未練タラタラだし・・・。
「なにオマエ、柏木と知り合いなの?」
校庭を歩き抜けて校舎に入ろうとしたところで後ろから名高に話しかけられた。
「あ、おはよ名高。知り合いって・・・同じクラスだよ」
「へえ」
名高はつまらなそうな顔をして髪をかきむしる。
「英太さ。三月の校内マラソン大会、真面目にやる?」
いきなり話題がそれた。しかも妙な質問だ。
「校内マラソン大会?真面目にやるけど・・・。学年別にやるんだよね。そうなると一位は名高だとすると、ぼくと牧野で二位争いをしないといけないよね」
「まあ一位は確実にオレだけどさ」
なんだよ、自慢したいだけか?ちょっと頭にくる。
「でも英太と牧野が二位争いかどうかは微妙だな。他の運動部にも早いヤツはいるぜ」
「うーん、確かに」
「だろ?野球部、サッカー部、バスケ部、バレー部、テニス部・・・敵はいくらでもいるぜ」
それでも名高ほどのヤツはいないだろう。
それは確実に思える。名高の実力は一年生としてはケタが違う。
「オレさ、柏木と同じ中学だったんだよね」
また唐突に名高が話題を変えてくる。
でも今度は何の話題だか察しがついた。
「もしかして・・・柏木って早いの?」
「よくわかったじゃん英太。かなりやるよ、柏木は。オレの予想では・・・もしかしたら英太と牧野より早いかもしれない」
「ホントに・・・?」
「まあ、やってみないとわかんないけどさ。校内マラソン大会、真面目にやるなら陸上部として恥な成績にはなるなよ」
そう言って名高は自分のクラスの方へと歩いて行く。
教室にはすぐ着くってのにウォークマンなんかつけて。
午前中の授業は全く集中出来なかった。
三学期の期末テストもそれほど遠い訳でもないのにコレじゃあヤバイかもしれない。
でも今日は仕方ないよ。緊張してきてるもん。
午前中の授業が終わり、昼休みになる。
昼休みは50分間。最初の20分で家から持ってきた弁当を一気に食べた。
せっかく母親が作ってくれた弁当なのに、味とか感じる余裕がなかった。
くるみに声をかけるチャンスは昼休みしかないからだ。
部活は三連休の二日目。部活が無いとなると別のクラスのくるみに会いに行くタイミングは、この昼休みくらいしか考えつかない。
弁当を食べてガタンと音をたてて席を立つ。
「行ってくる」
「うお!マジか英太!」
一緒に弁当食べていた牧野が真っ赤な顔して驚く。
「な、なんかオレまで緊張してきたよ」
「なんで牧野が・・・」
「いや、英太とは中学校からの付き合いだし・・・なんだか他人とは思えねーって」
牧野は本当に顔が強張っている。
「頑張れよ。英太」
「ありがと」
ぼくは少し噴き出して答えた。牧野のおかげで少し落ち着いた気がする。
ぼくの行動を知ってか知らずか、こんな楽な展開が用意されていていいのか悪いのか。
廊下を出て、くるみのクラスに向かって歩いていると、なんとくるみがこっちに向かって歩いていた。
でも一人じゃあない。女子三人で歩いている。
くるみと早川舞と知らないコの三人だ。未華じゃなくて良かった。あいつなら騒ぐ。
「あれー?英太くんだ。ん?なんだか顔が怖いよー」
くるみは笑いながらそう言う。
やっぱりぼくも顔が強張っているのか。頑張って笑ってみる。
「顔怖い?そうかなー」
「なんか声も変だよ?」
くるみがそう言うと早川舞がぼくに「キモイ」と言った。
こんなヤツのドコがいいの?!柏木!!
「あーと、くるみ、ちょっと時間ある?」
くるみと呼ぶのは今でも恥ずかしいが、陸上部ではみんなが「くるみ」と呼ぶ。
名字の「若井」とか「若井さん」と呼ぶ人は少ないので、ぼくもくるみと呼ぶ訳だ。
「時間?いいよ。じゃあマイちゃんと田中ちゃんは先行ってて」
言われて早川舞と田中なる女子は「先行ってるね」と言って歩いて行った。
「どうしたの?なんか大事な用?」
「いや、大事なってほどじゃないんだけど・・・」
心臓がバクバクとする。
言うしかないだろ。せっかくやって来た、このラッキーな状況なんだし。
「今日、部活ないからさ。学校の後、お茶でもどうかなーと思って」
「え?」
固まる二人。
沈黙が長いよ。早くなんか答えてよ。ええい、ぼくからなんか言うか。
そう思っていると、くるみが申し訳なさそうに小さな声でつぶやいた。
「今日はちょっと用事があるんだけど・・・ごめん・・・図書委員の仕事が・・・」
「あ、ああ、そうかあ」
なんでか笑顔で答えるぼく。
今日はダメと言われただけなのに胸が苦しくなる。
くるみが図書委員だなんて初めて知ったし。
「あ、でも明日なんてどーかな?英太くん、明日は忙しい?」
「明日?いいよ明日でも!じゃ、明日どっか行こう!」
喜びかけた瞬間、それに待ったをかける一言がくるみからかけられた。
「明日は未華と舞ちゃんと遊園地に行こうって言ってたんだ。英太くんも行こうよ!」
ナニコノテンカイ・・・。
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