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2009年3月

2009年3月 2日 (月)

空の下で-冬(12) 校内対決(その3) 

2月も下旬になると体育の授業は持久走一色になった。

隣のクラスと合同の30分持久走では、いつも同じメンバーが先頭を争って走っていた。

ぼく、牧野、日比谷、水泳部の石塚、バスケ部の君島、そしてサッカー部の柏木だ。

だいたいは、ぼくと牧野が一位、二位を争っていて、三位が柏木という形が多い。

石塚と君島、それに日比谷も早いけど、柏木が一枚上手という感じだ。

 

「くっそ、早いな英太と牧野は!スッゲーよ二人。吹奏楽部のオレに勝てるなんて」

「いや、それなんか変だって」

牧野が日比谷にツッコム通りおかしな話だ。

でも吹奏楽部の日比谷はとんでもない体力だ。

でも、わからなくはない。

ぼくも元々は吹奏楽部だから少しはわかる。

体力使うんだよ。音楽ってのは。

 

日が進むにつれ、柏木が次第にぼくと牧野との差を縮めて来ていた。

サッカー部の練習中にも普段以上に走りまくってるらしく、その成長には注意するものがあった。

それは石塚も君島にも言える事で、牧野は「油断も隙もない」などと言っていた。

 

そんなある日、陸上部の練習で準備体操している時に、くるみがぼくに言った事が気になった。

「最近、男子って体育の授業で走りまくってるね。教室の窓からよく見てるよ」

「そうなの?だって授業中でしょ?窓から校庭とか眺めてていいの?」

そう言うと、くるみは苦笑いをしながら答える。

「スイマセン」

「なんかそれ、反省してる感じしないよ」

「だって、みんな一生懸命走ってるでしょ?なんか気になっちゃう感じで」

気になっちゃう・・・その言葉にだけ反応してしまうぼく。

「英太くんと牧野くんでいつもトップ争いしてるよね。白熱してて見てるとワクワクするよ」

「授業だってのに牧野も全力なんだよ。だからぼくも全力出すしかなくってさ。そうすると大変なんだよ」

「大変?」

「次の授業。疲れて寝ちゃうの」

「あー、それダメ人間だよー」

下らない会話。

そんな下らない会話がごく自然に出来るようになった。

走るのも楽しいけど、くるみと単に話してる時間もすごい楽しい。

「そういえばさあ、いっつも三位を走ってるサッカー部の人も早いよね」

「ああ、柏木かあ」

「ああ、あの人が柏木くんか。マイちゃんの元彼なんだよね。なんかその人ってだんだん早くなって来てる気がしない?」

さすがに見てるなあと、感心する。

「柏木のヤツ、ぼくと牧野に対抗心を燃やしてるらしくてさ。部活中もすごい一生懸命走ってるらしくって、なかなか強敵だよ」

「ああ、なんか一生懸命って感じだよね。英太くん達に迫る勢いだなんてスゴイよね」

「そう、油断も隙もないよ」

牧野のセリフを使いまわしてしまった。

「集合ー!!」

雪沢センパイの号令で、会話を切り上げて、練習へと入る。

 

でもこの時、何かが心に引っ掛かっていた。

今の会話のどこかで、何かの単語が。

 

 

そうして迎えた3月2日、校内マラソン大会。

もう三月だというのに気温は上がらくて、2月上旬並みの気温という事だった。

ぼくは牧野と日比谷と待ち合わせて、開催場所である立川の公園に来ていた。

公園の入口を入ると、信じられないくらいの広大な敷地が広がっていた。

「スッゲスッゲ!英太!めっちゃ広いぜ!!あ、あっちの芝生ゾーンすげー広い!!」

日比谷は興奮しまくりで、広大な芝生のエリアを飛び跳ねていた。

小学生かよ。とツッコミを入れたくなるくらいテンションが高い。

「でも、本当に広い公園だね牧野」

「ここは、実際にマラソン大会だとかトライアスロン大会とかもやる公園なんだよ。それも都内じゃけっこう有名な大会とかをさ」

「へえ、さすが詳しいな」

ぼくは牧野のそういうところを尊敬している。

陸上に関する知識は牧野から教えてもらう事が多い。

それに加えて牧野は、出場する大会だとかコースだとかをキチンとインターネットで調べて来ている。

最近では、コースのアップダウンを事前に調べて作戦を練ったりするようになったきた。

「今日はどんな作戦?」

ぼくが聞くと牧野をあかんべえをして答えた。

「教えてやんないよ」

「小学生かよ・・・」

ぼくはあかんべえする高校生を初めて見た。

 

スタート時間は10時ピッタリの予定だ。

みんなそれぞれに準備体操をする。

その後は、ちょっとジョックしたり、ストレッチしたり、仲間と談笑したりと色々だ。

走る目的も色々ある。

ぼくらの様に真剣に上位を狙う連中。

仲間と会話しながらのんびりと走る連中。

とりあえず出席日数に影響するから出てる連中。

こんな学校行事無くていいのにと思うくらい走るのが嫌いな連中。

その中で、唯一の考えを持っているのは名高だろう。

さっき遭遇した時に「調子どう?」と聞いたらおかしな返事が返ってきた。

「10位でゴールする」

「は?優勝じゃなくて?」

「優勝は英太か牧野で争えって。オレ、学校行事くらいで本気ではやらない。だってつまんねーだろ?オレが一人でブッチ切りで優勝してもよ」

なんだかカチンと来る。ぼくはそれを顔に出してしまったようだ。

「怒るなよ英太。別にお前らをバカにしてんじゃないって。英太と牧野がさ、本当に他の運動部より早いか、少し後ろで見てたいんだよ。たまには観る側にさせてくれ」

相変わらずなんだかよくわからない事を言うヤツだ。

とにかく名高は力を抜いて走るらしい。

「一生懸命さの足りないヤツだなあ」

ぼくはそう言ってから気づいた。

この単語だ・・・。

この間から引っ掛かっている単語は・・・。

 

そうして、校内マラソン大会が始まった。

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2009年3月 5日 (木)

空の下で-冬(13) 校内対決(その4) 

体の芯にまで響く冷たい風が、公園の広大な芝生エリアに吹く。

皆、それぞれ体が冷えないように動き回っていたが、スタート時間が迫ってきたので、集合場所に集まって来ていた。

一年生は男女合計で200人ほどいる。

スタート地点には、その200人がほぼ全員揃っているので、野外とはいえ人の熱で少しは暖かく感じた。

ぼくと牧野も揃ってその中にいる。

その集団に向かって、学年主任の先生がメガホンを使って叫んだ。

「みんな準備はいいかー?!」

するとバスケ部の君島が叫び返した。

「前置きはいいから早くスタートしましょうよー!止まってると寒いってー!」

「はっはっは」

何故かメガホンを使ったまま笑う学年主任の先生。早くしてってば!

「じゃあスタートするか。もう9時59分だしな」

学年主任の先生は腕時計を見ながらそう言うと、カバンからクラッカーを取り出した。

「英太。先生、クラッカー出したぞ。もしかして・・・」

牧野がクラッカーを見ながらつぶやく。

次の瞬間、学年主任の先生はクラッカーを空に向けて構えた。

メガホンは隣にいた、ぼくらの担任の宇都宮先生が受け取っていて「よーい・・・」と言った。

「クラッカーでやんのかよ!ピストルじゃないのかよ!」

牧野がすごい嫌そうな顔して言った次の瞬間、クラッカーはパスっという小さな炸裂音を響かせて、意外と綺麗な飾りを発射した。

「いいじゃん、学校行事なんだし、いつもと違って」

ぼくはそう言って走り出した。

 

今回の校内マラソン大会は、8.2キロのコースだ。

この広大な公園の中にあるジョギングコースを使っていて、基本的には平坦なコースなんだけど、中盤戦に多少の上り下りがあるらしい。

スタート前に牧野がそう言っていた。

牧野は、この事は誰にも言わない予定でいたみたいだけど、結局みんなに言っていた。

黙っていられないタイプなんだよ。中学の時からそうだった。

そう、中学の時からの付き合いだ。

 

ぼくは中学一年の時に、少しだけイジメに遭っていた。

イジメと言っても、大山みたいに本格的に遭っていた訳じゃあない。

クラスの中に暴れたがりなヤツの集団がいて、そいつらと馬が合わなかった。

ある日、そいつらのリーダー格のヤツの足を踏んだの踏んでないだのでモメ事になった。

モメたあげく、ぼくは人通りの少ない、校舎のハジに連れて行かれた。 

「相原、オマエ絶対オレの足を踏んだだろ。ちゃんと謝れよ。謝罪会見やれよ」

「え、ふ、踏んでないって」

「はあ?踏んでなかったとしても謝れよ。相原ごときが反抗してんじゃねーよ」

ぼくは何度かそいつらに同じようなパターンでクラスみんなの前で謝罪をやらされていた。

それを見たは内村一志(後にぼくの好きだった長谷川さんとの仲をジャマしたヤツ)は甲高い声で爆笑したものだった。

ぼくがそいつらに逆らえなかったのは、そいつらがケンカが強かったからだ。

今、思えば剛塚ほどの迫力は無い連中だったけど、当時のぼくには怖くて逆らえなかった。

なので、その日も足を踏んでないという主張をする勇気が無かった。

そこへ、たまたま牧野が通りかかったのだ。

「お、なにしてんだ?」

リーダー格のヤツは牧野にも脅しをかけた。

「牧野、見てるんじゃねーよ。先生とかみんなにチクったりもすんじゃねーぞ。黙ってはやくどっか行け」

牧野は険しい顔をした後、ふっと笑ってその場を去った。

牧野がいなくなると、リーダー格のそいつはぼくの胸ぐらをつかみ上げた。

 

・・・・・なんで今、こんな事を思い出すのか・・・・・

ぼくは隣で走る牧野をチラっと見た。

牧野はぼくの視線に気が付き、走りながらも「なんだよ」と言った。

「なんでもないって」

「英太、そろそろ前に出るぞ。もう1キロくらい走ってるけど、この大集団の中じゃ走りにくいって」

「ん、そうだね」

ぼくと牧野は揃ってスピードを上げた。

大集団の中をうまく人を避けて前に出る。

大集団を抜け出すと、少し前には10人くらいの小集団が見えた。

「先頭集団か?」

そこには後姿の柏木や日比谷が見えた。

「追いつこう」

ぼくが言う前に牧野は先頭集団を追いかけていた。

慌ててぼくも追うが、その横を二人の男子が猛スピードで追い抜いて行った。

「な、なんだ!?」

「は、早い!!」

ぼくと牧野は驚いてそう叫んだ。

そして追い抜いた二人が誰であるかがすぐに分かった。

「たくみ!君島!!」

たくみが相変わらず凄いスピードで走っている。それをバスケ部の君島が「待てコラー!」と叫びながら猛追しているのだ。

そのスピードは凄まじく、あっという間に先頭集団すら追い抜いていった。

「す、すげ・・・」

牧野は驚いていたが、動揺するわけじゃなかった。

「ま、オレはオレだ」

坦々と先頭集団との差を詰めていくので、ぼくもそれに続いた。

 

牧野の後姿を見てまた中学の時の記憶が蘇る。

「牧野、見てるんじゃねーよ。先生とかみんなにチクったりもすんじゃねーぞ。黙ってはやくどっか行け」

あの時、一瞬見せた牧野の、ふっと笑った顔。

ぼくはあの時、絶望したんだ。

友達と思っていた牧野が、人をバカにするような顔で笑い、そしてその場を去った事で。

去り際の後姿を思い出す。

それを見てリーダー格のヤツが言った。

「なんだよ相原。牧野にも見捨てられてんのかよ。ダセエー」

口応えする気にもなれなかった。

ショックだったから。

「牧野も牧野だよなー。黙ってどっか行けって言ったら、ホントに黙って行っちまうなんて。お前ら、友達とか言ってるけど、本当は友達じゃないんじゃねーの?」 

 

 

2キロ過ぎで、先頭集団に追いついた。

その時にはその先頭集団も人数が減っていて、ぼくと牧野の他に柏木、日比谷、水泳部の石塚、剛塚、そして大山がいた。

「やーっと来たね」

その声を聞いてぼくは鳥肌が立った。

先頭集団の一番前を走っている、その人物。

「待ってたよ。役者が揃うのを。ま、名高は来ないみたいだし、たくみとバスケ部の人はずっと前に行っちゃったけどね」

長いセリフをあまり息切れを多くせずに言い切るその人物に、集団の誰もが息を飲んだ。

まさか、これほどとは・・・。

早いとはわかっていた。強いとはわかっていた。

でももう、ぼくや牧野の方が早いんじゃないかと思っていた。

しかし、そんな簡単に勝たせてはくれなそうだ。

この人にぼくらが負けると・・・男子は全滅という事になる・・・。

「未華・・・・・」

先頭集団を引っ張って走っていたのは、そう、大塚未華だった。

 

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2009年3月 9日 (月)

空の下で-冬(14) 校内対決(その5) 

現在の状況をまとめるとこうだ。

先頭は恐らく二人。たくみとバスケ部の君島が二人で争いながら走っている。

そこからだいぶ遅れて小集団があり、そこにはぼく、牧野、剛塚、大山、柏木、石塚、日比谷、そして未華というメンバー。

その後は大集団があり、名高はその中で適当に走っているはずだ。

くるみや早川もそこにいると思われる。

 

「だ、誰だよこの女子は・・・キミー」

水泳部の石塚は動揺を隠せなかった。

今のこの集団のメンバーで唯一、予想されていなかったのが未華だろうから。

柏木も驚いている様子だ。

そりゃそうだ。この男女混合レースで、まさか先頭集団を女子が引っ張るとは。

未華の事をよく知らない人なら誰でも驚く。

「大塚未華でーす!陸上部のアイドル的存在です!」

未華は両手ピースサインを作りながら走る。

「どこがアイドルだよ・・・」

牧野がつぶやくと未華は牧野の頭をスパーンと叩いた。

「いて!いってー!」

「あたしもどこまで男子と争えるかわかんないけどね。真剣にやるよー」

そう言って未華はスピードを上げ出した。

「こ、この野郎!!」

そう言って柏木が追う。

「野郎じゃない」

未華は不機嫌そうにつぶやく。

「ま、待てキミー!!」

石塚も牧野も続くので、ぼくも追った。

「す、スッゲ・・・」

そう言って、ここで日比谷が遅れ、剛塚と大山もややあってから遅れていった。

 

4.1キロ地点。

全行程が8.2キロなので、半分の地点なのだが、ここに『半分だよん』という立て看板が置いてあり、その看板の横に短距離顧問の志田先生がいた。

志田先生に横を通過する時に「相原7位」と言われた。

7位か。やはり予想通り、たくみとバスケ部の君島が1位2位を走っていて、未華と牧野と柏木と石塚で3位4位5位6位という事になる。

ぼくのちょっと前には牧野と石塚が見えていて、その前に小さく未華と柏木が見える。

「はあ・・はあ・・たくみと君島・・・けっこうやるな・・・」

たくみと君島の姿はまだ見えない。よっぽど飛ばしているらしい。

一番近くに見える牧野と石塚の後姿を見て、また思い出す・・・。

 

 

なんで行っちゃうんだよ!!牧野!!

リーダー格のヤツに胸ぐらを掴まれながら牧野の後姿を見ていた。

牧野がいなくなった後、リーダー格はぼくに言った。

「やっぱ友達じゃねーんだよ、お前ら」

そう言って、ぼくの顔をワシ掴みにすると「サイフ持ってる?」と言いだした。

カツアゲ・・・。

ぼくは「持ってないよ」と言うが、そいつは信用しなかった。

「いいから出せよ。今日だけでいいんだからよ」

そいつはぼくの制服のポケットに手を入れる。

が、その手を止めた。

「なんでだ?」

そいつが言った言葉だ。ぼくの言った言葉ではない。

状況が理解出来なかった。

そいつはぼくの顔から手を放して、ぼくではない方向に目をやった。

「黙ってどっか行けって言ったはずだよな」

その方向には牧野がいて、他にも数人の男子がいた。

牧野はまたふっと笑って言った。人をバカにする笑みだ。

「アンタさあ。オレがこんな事を黙っていられる性格だとでも思ってんの?」

 

 

5キロ過ぎ、石塚が牧野から遅れだし、ぼくの位置まで落ちてきた。

「はあ!はあ!早いな!キミーたち!!」

「はあ・・はあ・・石塚も十分早い」

石塚は黒い顔をしわくちゃにして笑った。

「水の中なら負けないんだけどね・・・陸の上はキツイ・・・」

そのままぼくよりも後方に落ちていく。

「夏の水泳大会で待ってるぞキミー!!」

水泳大会でぼくに勝機なんて無いよ・・・。でも勝負はするけどね。

 

続いて落ちてきたのはたくみだった。

「な、長い!!長距離って長い!!」

中距離をやっているたくみには8.2キロは長すぎるようだ。

「どうよ英太!ここまで粘るオレは?カッコよくない?」

この状況で得意の質問攻めのたくみ。ある意味かっこいい。

「少しね」

「だろう?」

そう言ってたくみも後方に消えた。

 

この次に落ちてきたのはバスケ部の君島だ。

「天野たくみのバカスピードについて行ったのが失敗だった・・・」

悔しそうにつぶやき落ちていく。

「4月の体育はバスケらしいぜ・・・」

ニタリと笑って消えて行った。

 

6キロ過ぎ、ぼくの30メートルほど前には牧野と柏木がいて、その50メートルくらい先に未華が見えた。

後ろを振り返ると、はるか後方に水泳部の石塚が見える。かなり粘ってる。

しかし、このままだと・・・未華に一年生男子全員が負ける。

すでに4強が未華・牧野・柏木・ぼくという状態。

しかし、7キロ地点。急に未華がスピードダウンした。

少しずつ未華に追いつく牧野・柏木そしてぼく。

牧野と柏木が未華を追い抜き、ぼくも未華に追いつけた。

そして追い抜く時、未華はつぶやいた。

「こりゃ不利だ」

未華が遅れた理由はわかった。

ここは登り坂なのだ。

未華はアップダウンが苦手だと言っていた。

それに登りは筋力が重要になってくる。

男子のぼくら三人の方が登りで有利だということだ。

「平坦なコースなら勝ってたのになー」

そうつぶやく未華をぼくはなんとか追い抜いた。

 

登り坂を登り切ると、ぼく・牧野・柏木が並んだ。

残すは700メートルほどだ。

三人とも息切れが激しい。

はたして校内対決の優勝の行方は・・・

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2009年3月12日 (木)

空の下で-冬(15) 校内対決(その6) 

坂を登り切ると最初にいた広大な芝生エリアに帰ってきた。

周りは芝生だけなので風をさえぎるものが何もないせいか、横から冷たい風が叩きつけた。

でも、不思議な事に寒くはない。

ここまで8キロ近く走ってきていて体は温まっているし、ぼくと牧野と柏木とのデットヒートになっていて、正直なところ、寒いとか考える余裕はなかった。

 

まさか、柏木直人がここまで早いとは思ってなかった。

サッカーが体力を使う種目だというのはもちろんわかる。

バスケの君島にしたって水泳の石塚にしたって、想像以上に粘った。

どれも体力を使う種目だ。もちろんわかってる。

でも持久走はぼくらの専門分野だ。

その専門である、ぼくと牧野にここまで柏木が食らい付いてくるとは、こんな時だけど尊敬しちゃう。

その柏木が「うおおお!!」と叫んで、ぼくと牧野の前に出たから驚いた。

残り500メートルでラストスパートをかけたのだ。

すぐに牧野が追っていく。

ぼくは一瞬遅れたが、腕を大きく振って追いかけた。

柏木、牧野、ぼくの順で縦一列になって走る。

まただ。

また牧野の後姿を追っている。

 

 

「アンタさあ。オレがこんな事を黙っていられる性格だとでも思ってんの?」

あの時、いつの間にか牧野が友達数人を呼んで戻ってきていた。

ぼくに掴みかかっていたリーダー格は、ぼくから手を離し、牧野を睨む。

「なんだ牧野。逃げたんじゃなかったのかよ」

凄むリーダー格に対して牧野は笑って言った。

「一人じゃアンタには勝てないからさあ。強いじゃん、アンタ。で、仲間を呼んできたって訳」

「仲間だあ?」

「そうだよ。仲間の英太を助けるためにだよ」

リーダー格は「チっ」と言って廊下にツバを吐いた。

「下らねえ野郎だな、牧野」

「黙っていられないんだよね」

「は?」

問いかけるリーダー格に牧野は答えた。

「何かあるとさ、黙っていられない性格なんだよ。いい事も悪い事もさ」

この後、確か取っ組み合いのケンカになったハズだ。

牧野と仲間たち数人と、リーダー格とその仲間数人のケンカ。

こう言うと乱闘騒ぎに聞こえるけど、まだ中学に入ったばかりのケンカだ。

中学といっても小学校を出てから半年もたってない少年達のケンカ。

窓が一枚割れる騒ぎにはなったけど、それほど大事にはならなかった。

 

それ以降、ぼくと牧野はそれまで以上に仲が良くなった。

いつも横に並んで歩く二人になった。(日比谷もいたので三人が多かったけど)

まさか、三人とも一緒の高校になるなんて思ってもなかったけど・・・。

 

 

そして今、残り300メートルで、ぼくと牧野は横並びになって、柏木を抜いた。

互いに合図をしてタイミングを合わせて抜いたわけじゃない。

何故だか、柏木を抜きにかかるタイミングは一緒だったのだ。

抜かれる時、柏木は驚いた顔をしつつも、こう言った。

「うお、すげ!」

 

横並びになってぼくと牧野は走る。

名高がいない今、優勝争いはぼくと牧野の一騎打ちという形になった。

楽しい。

牧野と一緒に走れるのが楽しい。

それも優勝争い。

ずっとこのまま走っていたい気分だ。

けれど、これは勝負。

普段は横並びでいたい関係だけど、勝負の時は別だ。

いつまでも牧野の横にいる訳にはいかない。

この一年間、牧野とは勝ったり負けたりの繰り返しだった。

でも、きっとこの先、どちらかが実力で上を行く日が来るんだと思う。

それなら、ぼくが牧野に勝てるよう全力を尽くすだけだ。

全力を尽くして負けたんなら後悔は無い。

ただ、全力。それだけだ。

 

残り100メートルを切ったところで、ついにぼくが牧野の前に出た。

と言っても2メートルほどだけだ。

牧野はすぐ後ろを追ってくる。

粘り過ぎだ!と思い、このデットヒートの中、冷や汗を出しながら走る。

そうしてゴールテープを切った時、ぼくは思わず大声を出して両手を上に挙げた。

 

 

「はいーお疲れー。倒れこむ前にここに自分の名前を書いてねー」

ゴールのすぐ先には長机がいくつか置いてあり、係員の生徒が鉛筆を持って待っていた。

ぼくは鉛筆を受け取り、よろよろしながら『1位』の所に自分の名前を書く。

すぐに牧野も『2位』の所に名前を書き出していた。

すると係員の生徒が笑いながら言った。

「なんだ、ヨロヨロだなー。そんなに全力で争ったのかよー」

カチンと来たので、その生徒の顔をよく見ると、三年生で陸上部の部長の中尾一輝センパイだった。「雨のスプリンター」と呼ばれる、あの先輩だ。

「あ、中尾先輩・・・」

以前はくるくるパーマ(天然)の髪だったのが、短髪になっていたので気付かなかった。

「何してんですか先輩」

牧野が聞くと、中尾先輩は笑って答える。

「何って、記録係だよ。校内マラソン大会って一、二年だけしか走らないからさあ。三年生がスタッフやってんだよ。いやー、それにしても相原と牧野でトップ2とはね。名高は真剣にやってないとしても・・・入部当時では考えられない順位だよな」

ぼくと牧野は顔を見合わせた。

「そうかな、牧野」

「・・・そうだよ。オレと英太で学年のトップだなんて。考えてみりゃすごいよ」

「スッゲスッゲってやつ?」

「そう!それだ!」

牧野は嬉しそうに声を出した。

ぼくに負けた悔しさは見えない。

きっと、すでに「次は勝つ」なんて考えてるんだろう。そういうヤツだ。

そこへ三位でゴールした柏木がやってきた。

「早いなー相原、牧野。さすがだよ」

何故だか握手をしてくる柏木。

「ホント真剣に走ったんだけどな。やっぱ早いや、二人は。でも全力で勝負出来て満足したよ」

言われて、ぼくは正直な事を口にした。

「いや、柏木くんスゴイよ。負けるかと思ったもん」

「マジで!? うわー、全力尽くしてよかったー」

そう言って、笑いながら名前を記入して、どこかへ歩いて行った。

ぼくらのやりとりを見ていた中尾先輩は笑って言う。

「お前らみたいなヤツがいれば、この先の陸上部は面白くなりそうだなー。後は頼むぞ」

ぼくと牧野はハッとした。

もう三月。もうすぐ卒業式だ。

創立3周年の多摩境高校は、今月、初めての卒業式を迎える。

長距離チームには三年生がいないので、すっかり忘れていた。

実は、卒業式の日、中尾先輩から「次の部長」が発表される予定なのだ。

普通は、受験前に三年生が引退するので、その時に次の部長が決まりそうなものだけど、中尾先輩は短距離の成績が良くて、スポーツ推薦で大学が決まっていた。

なのでこれまでも、ずっと中尾先輩が部長として活動してきたんだ。

 

新しくなる。

そう感じた。

ぼくらも、もうすぐ二年生だ。

陸上部も、もうすぐ新しく生まれ変わる。

新しくなる陸上部で、この先一体、何が待ち受けるんだろう・・・・・・。

 

 

 

空の下で 冬の部「校内対決編」 END

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2009年3月16日 (月)

空の下で-冬(16) 季節は巡り、再びの春へ

3月10日。

つい何日か前、東京では雪が降った。

温暖化の影響もあるのか、東京で雪が降る事は、ぼくが小さかった頃より減っている気がする。

それでも東京都市部では粉雪が舞い、ぼくらの多摩境高校の辺りでは5センチほど積もった。

たった5センチ積もっただけで、東京の人は転んだり、車で事故を起こしたり、電車が遅れたり、雪合戦しようとする。

ぼくと牧野と日比谷も、駅から学校への道で雪を叩きつけ合いながら歩いてた。

 

「いって!本気で投げるなよ日比谷!」

牧野はそう言ったくせに全力で雪の球をぼくや日比谷に投げてくる。

ぼくも全力で投げ返す。

制服やカバンはあっという間に雪まみれになってしまった。

今日は卒業式だっていうのに・・・・・・。

 

卒業式には一年生は出ない。

二年生は出席して、送る歌を歌う。

じゃあ何でぼくらが学校に出てきたかと言うと、卒業式の前に、中尾先輩が部室に召集をかけているからだ。

理由はわかる。二代目の部長の発表があるからだ。

候補は二人。短距離で、幅跳びのエースの二本松ゆりえという先輩。

それか長距離の雪沢先輩だ。

ちなみに日比谷が登校してる理由は、卒業式の中で、吹奏楽部と合唱部が演奏するかららしい。

ぼくは日比谷をからかってみた。

「日比谷、演奏中に泣いたりしちゃダメだよー」

すると日比谷はちょっと潤んだ目をした。

「しねえよ」

ぼくはドキッとした。

きっと日比谷の中には卒業する三年生との思い出があるに違いない。

吹奏楽部は去年の秋、初めての定期演奏会を開いていた。

ぼくも観に行ったけど、あの演奏会に辿り着くまでには色んな苦労があっただろうから。

 

 

ぼくと牧野が陸上部の部室に到着すると、すでに一、二年生が全員そろっていた。

「遅いよ英太くん、牧野くん。どーせ雪合戦でもしてたんでしょ」

そう言う未華の制服のあちこちには雪が付いている。人の事言えない。

「そろそろ中尾が来るぞ。全員座れ」

珍しく・・・というか初めて見せるスーツ姿の五月隆平先生が場を締めた。

 

しかし中尾先輩はなかなか現れなかった。

次第に私語で騒がしくなる部室内。近くにいるくるみが話しかけてきた。

「そういえばさ、こないだのマラソン大会。三位って例の柏木って人だったんだね」

「そうなんだよ。あいつ本当に早いし全力を尽くしてくるもんだからさ。苦戦したよ」

「なんかね。昨日の練習中、校庭でその人に話しかけられたよ」

「え?」

なんで柏木がくるみに??

「な、なんて言ってた?」

「んー、なんかよくわかんないんだよね。インターバル走をやって疲れ果ててる時に話しかけられてさあ。なんか、君って一生懸命だねーなんて言われちゃって・・・。私が遅いのに頑張って走ってるのが滑稽だったのかなあ・・・」

「こ、滑稽って・・・あんま言わないよね」

「そかな」

ニカッと笑うくるみに一瞬見とれたものの、やはり気になるのは柏木の行動だ。

この前、観覧車で早川が言っていた言葉・・・「あいつって一生懸命なコが好きなんだよ」

マラソン大会前、くるみを見て「あのコ、誰?」と聞いてきた柏木。

そして、昨日はくるみに話しかけたという・・・。

嫌な予感がする。でもこれだけの理由で柏木に「くるみに手を出さないでよ」と言う訳にもいかないし、ぼくはくるみの彼氏でもなんでもないから、そんな権限は無い・・・。

「どうしたの?」

不安な気持ちが顔に出ていたらしく、くるみが心配そうに聞いてきた。

「なんか具合とか悪いの?」

「いや、ちょっと・・・別に」

なんだか慌ててしまい、ごもごもと答えてしまったが、そのタイミングで中尾先輩がやってきたので助かった。

 

 

まず、中尾先輩はみんなに向かってお礼の言葉を口にした。

こんな部長について来てくれてありがとう。とか、そんな感じの言葉だ。

中尾先輩は短距離の人なので、ぼくら長距離チームはあまり関わりは無かったけど、試合の時にドッシリと構えている中尾先輩を見ると、安心感が得られたものだった。

それにぼくには印象に残ってる会話があった。

それは夏の合宿で富士山登りをやった後の会話だ。

ぼくが富士山登りを終えて疲れた様子でいると、中尾先輩が話しかけてきたのだ。

「富士山登りは特別だったろ」

言われてぼくはこう答えた。

「特別過ぎました」

すると中尾先輩はこんな事を言ったのだ。

「だろうな。そんな顔してるよ、みんな」

なんて事の無い会話かもしれない。

でも、ぼくは思ったんだ。

中尾先輩は、富士山登りを経て、ぼくら長距離チームが何か特別な事を成し遂げたのを、ぼくらの表情で感じ取ったんじゃないのかと。

ぼくの勘違いかもしれないけど、そういう「表情」を読み取れるくらいに中尾先輩は陸上にのめり込んでいる人なんじゃないかと思う。

さすがに初代部長だなあなんて思う。

 

その中尾先輩が次に話し出したのは、中尾先輩の今後だった。

多摩境高校を卒業した後、山梨の大学で短距離を続けるんだという。

ここからでは遠いので、山梨に引っ越すという事だった。

「山梨は雪もかなり降るらしいからな。今度は『雪のスプリンター』と言われるかもな」

中尾先輩は真顔でそう言った。変な人だ。

そして最後に「次の部長」の話になった。

 

「昨日までは、オレも部活に参加してたから部長はオレがやっていた訳だけど。今日で卒業なので、明日からは二代目の部長に頑張ってもらおうと思う。本人にはもう言ってあるんだけど、改めて発表しようと思う。もちろん五月先生と志田先生のお墨付きだ」

お墨付きってなんだろ?あとで牧野に聞いてみよう。陸上用語かなあ?

「次の部長は、雪沢にやってもらおうと思う。みんな、どうだろう」

予想通りだった。

もう一人の部長候補の二本松ゆりえ先輩は「部長には向いてないよー」と早くから公言していたので、やっぱり雪沢先輩かあという感じだ。

部室内に拍手が起きた。

「じゃあ雪沢。後はよろ・・・」

ここで中尾先輩は突然、天井を見上げた。

シンと静まり返る部室。

ややあって、さっきより少しだけ高くなった声で中尾先輩は言った。

「後はよろしく頼むな」

雪沢先輩は気合の入った大きめの声で「はい!」と返事をした。

そして、ぼくらはこっそりと用意していた、色紙を渡した。

色紙いっぱいに書かれた、みんなからのメッセージ達。

「後でジックリ読むや」

さらに声の高くなった中尾先輩はそう言って、みんなに向かってお辞儀をした。

 

 

二時間後、卒業式を行っている体育館からは、三年生による校歌と、二年生と合唱部と吹奏楽部によって、人気デュオの「さくら」という曲が聞こえていた。

その数年後、中尾先輩は自分の予想とは違い、『雪原の風』と呼ばれ、大学短距離界で大活躍を見せる事になる。

 

こうして、ぼくらは雪沢先輩の元、第二期陸上部として走り出した。

再びの春を迎えて、最初にやるのは春季大会もあるが・・・新入部員の勧誘が大変だ。

今年はどんなヤツが入部するんだろう・・・。

 

 

 

空の下で 冬の部 END → NEXT 桜の部「遠くまで」 

 

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空の下で ~冬~  目次

 

冬の部 全編

・・・去年は色んな景色を見てきた。でももうそれも過去の景色だ。

「思い出は忘れちゃダメだよ。・・・な気がする」

新しい景色を見るため、英太たちは再び動き出す!

恋愛も少し絡めながら、第2シーズン・開幕!

 

1.粉雪の中で

2.昔の約束「その1」

3.昔の約束「その2」

4.昔の約束「その3」

5.昔の約束「その4」

6.昔の約束「その5」

7.昔の約束「その6」

8.昔の約束「その7」

9.昔の約束「その8」

10.校内対決(その1)

11.校内対決(その2)

12.校内対決(その3)

13.校内対決(その4)

14.校内対決(その5)

15.校内対決(その6)

16.季節は巡り、再びの春へ

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2009年3月20日 (金)

冬の部、描き終わりましたー!

冬の部が描き終わりました!

 

2nd seasonのプロローグである「粉雪の中で」から始まり、

恋愛要素のある、陸上部3連休の「昔の約束」編をやり、

校内マラソン大会で他の部の生徒も出てきた「校内対決」編をやり、

「季節は巡って、再びの春へ」で3年生が卒業しました。

 

全体を通して登場回数が多いのは、英太と牧野。未華とくるみ。

そしてやっと出番の増えてきた早川舞。

それと新登場の柏木直人。2nd seasonの重要キャラですよ、柏木くんは。

そのかわり五月先生出てこなかったなあ、もっと出したいんだけどなあ。

 

今回、第2シーズンに入り、少し恋愛要素を入れる事にしています。

英太の恋愛は果たしてうまくいくのでしょうか!?乞うご期待!!

 

ま、冬の部では部活の場面が皆無でしたが、次の桜の部からは第1シーズン同様に試合やら練習やらの場面が出てくる予定なので、スポーツものとして読んで頂いてる方、「なんだよ恋愛に偏るのー?」とか思わないでくださいー!!ちゃんと走ります。

 

二年生ということは、先輩・相原英太になる訳です。

みんな少しは大人になるでしょうかねえ。特に牧野とか日比谷とか未華とか。

第2シーズンもこの先、色んな話が出てきますが、核となるのは「走る楽しさ」と「英太の恋愛」の二本柱でやっていきます。

今年も作者による試練が待ってるわけですが、英太たちには頑張ってもらいたいです(笑)

  

ところでこの冬の部を描いてる途中、実際に卒業式や卒業イベントを何本か見る機会がありました。(照明の仕事で)

あの、なんというか、一瞬の輝きっていうか、そういうのってスゴイですよね。

もう二度と全員が集まる事の無いメンバーの、最後のパワーってものが凄かったです。 

大人になると、別の力は育つけれど、あの一瞬の輝きってのはなかなか出ませんよ。

 

次からは「桜の部」です。新たな展開が近づいてます。できたらこの先もお付き合いください!!

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登場人物のみなさん。

こちらは「空の下で」の登場人物紹介コーナーです。

「コイツ誰だっけ?」な感じな時にどうぞです。 

まだ読んでない方にはネタバレな部分がある可能性があるので注意です。

 

 

第1シーズン (春の部~秋の部) 登場人物

  

相原 英太

物語の主人公。多摩境高校の一年生。中学では吹奏楽部をしていたが、高校入学時に勧誘されて陸上部の長距離チームへ入る。大人しめな性格だけど気合いを入れると、すごい集中力を発揮。レース後半に伸びる事が多い。走る事を楽しむ性格。

 

牧野 清一

長距離チームのメンバー。軽いノリの性格でお笑いが大好き。英太とは中学からの付き合いなので、英太と二人でいる事が多い。実力も英太と拮抗しているので、友達でいてライバルという感覚。大塚未華の事がお気に入り。

 

名高 涼

長距離チームのメンバー。中学から陸上をやっていて実力は1年生の中ではダントツ。ロック音楽が好きで、よくヘッドホンで聴いてる。普段はあまり口数が多くないが、先輩や先生に対しても物怖じせずに発言する。早くなる事が楽しくて走る。

 

天野 匠

長距離メンバー。スピードに自信を持ってるためにレース前半で一気に前に出る。誰かに質問するのが好きで、空気も読まずに質問攻めをしたりする。持久力をつけたくて長距離をやっている。作中では「たくみ」と平仮名表記。

 

大山 陸

長距離メンバー。ぽっちゃりタイプで大人しい。という事からなのか中学ではイジメに遭っていた。長距離にはダイエット目的で入部と言うが他にも理由あり。優しい性格をしていて自分の事より他人の事を心配することが多い。食欲旺盛。

 

剛塚 

長距離メンバー。ガタイがよくコワモテ。いかにも不良風なのに何故か走る。その体格を生かして登り坂や下り坂では強い。大山を家来かの様にこき使っている。過去に陸上部に関わる何かがあるらしい。

 

雪沢 

長距離2年生。英太を陸上部に勧誘した張本人。長距離チームのリーダーでもあり、実力もナンバー1。リーダーシップを発揮し、チームをまとめている。爽やかな笑顔からか女子からも人気がある。

 

穴川

長距離2年生。それほど情熱を感じさせない先輩。ぶっきらぼうな言葉使いをする。常に坊主頭というか短髪。練習で倒れるほど疲れるような事はしない。

 

大塚 未華

長距離メンバー。ちょっと色黒でショートカットの女子一年生。活発で物怖じしない性格。女子メンバーでダントツの実力を誇り、第1シーズンでは英太よりも早い。常にポジティブな発言が多い。

 

若井 くるみ

長距離メンバー。少し色白で肩までくらいの髪の大人しめの女子一年生。未華とよく一緒にいる。遅いながらも一生懸命走っている。時折、同学年の人にもデスマス口調になる。英太が常に気にしている女子。

 

早川 舞

長距離メンバー。ロングの髪でバッチリメイクの女子一年生。健康つくりのために走っているので試合とかでもマイペース。全力で走ることはほぼ無い。

 

日比谷 春一

吹奏楽部のメンバー。英太と牧野とは中学からの友達。ものすごいポジティブな性格でテンションも常に高い。口グセで「スッゲー!」と言いまくる。トランペットが上手く、先輩達と共に初の定期演奏会を目指す。 

 

 

中尾 一輝

短距離リーダーの三年生。100メートルでは校内ナンバー1。くるくるパーマが印象的な先輩。雨の日は実力が上がるということで「雨のスプリンター」と呼ばれる。

 

志田先生

短距離の顧問。40代。メガネをしている。オヤジギャグが大好き。長距離チームの事はあまり好印象では無いっぽい。しかし生徒の教育には一定の熱を持っている。

 

大石さん

山中湖にある「見晴らし館」の食事スタッフ。コーヒールンバが大好きで、何かにつけて歌う。口ぐせで「たーんとお食べ」と言いながら食事を出してくれる。

 

秋津 伸吾

葉桜高校一年の長距離メンバー。中学からの有名選手だが、何故か無名の葉桜高校に入学。一年生ながら圧倒的な実力で注目されている。

 

内村 一志

葉桜高校一年の長距離メンバー。中学で英太と同級生だった。英太の恋愛をジャマした事があり、英太とは仲が悪い。甲高い声を出す。

 

安西

中学時代に剛塚と共に悪さをしていた赤髪の男子。現在も不良。陸上部の過去にも関わっている。目的のためには暴力を使うことをためらわない。

 

英太の母

真面目な性格の母親。英太が陸上をやる事にあまり関心は無い様子。

 

英太の父(相原昇)

果実酒メーカーに勤めていて、現在は名古屋で働いている。

 

五月 隆平先生

第1シーズン後半で登場。陸上部の過去の事件に関わる人物。長距離の顧問。学生時代は不良だったらしく、時折暴言を吐くが、生徒の事をすごく大切に思ってる人物。練習では常に「腕ふり」を重視する。ケンカが非常に強いとの噂。

 

 

第2シーズンで新たに登場する人物(第1シーズンのネタバレあるかもよ)

 

柏木 直人

サッカー部のイケメン。一年生ながらレギュラーを獲得する程の実力者。持久走もかなり早い。誰にでも「かわいい」とか言えるような性格で、女子から人気がある。過去に早川舞と付き合っていたらしい。今はくるみが気になる?

 

君島

バスケ部所属。校内マラソン大会で英太に挑戦。よく人をはたく。尊敬する人は「リョータ」

 

石塚

水泳部所属。色黒で細身。親が公務員。親の口クセをマネて「キミー」とよく言う。

 

宇都宮先生

一年生時の英太の担任。あまりやる気が感じられないが、怒鳴ったりもする。

 

栃木先生

二年生時の英太の担任。化学を教える。薄汚れた白衣を着ている事が多い。進学に力を入れたい様子。

 

染井 翔

長距離の新一年生。童顔でチビ。タイム走以外の練習ではやる気を見せないが、走るとそれなりに早い。自分より遅い先輩に従うつもりは無い。中学時代には1500mで都大会に進出した実力を持つ。

 

好野 博一(ヒロ)

長距離の新一年生。少し赤い髪でメガネをかけてる。人なつっこい性格で、やる気だけは一人前だけど実力がともなわない。盛り上がりすぎる性格のため多少うるさく思われたりする。

 

長谷川 麻友

英太が中学時代に好きだった人。少し茶色のショートボブで大人しい性格。話す時に鼻をかくクセがある。ピアノを習っていたらしくスポーツには全く関わりは無い。陸上の強豪である松梨付属高校に通っている。

 

町田 康一

百草高校陸上部の部長。百草高校の長距離エースでもある。細い目とツンツン頭が特徴。面倒見がいい。

 

古淵 由香里

百草高校の女子エース。カールした茶髪とエクボが特徴の明るい女子。口が悪い。

 

淵野辺先生

百草高校陸上部の顧問。40代の男性教師。メタボ気味のツルツル頭。何かと「いやー、はっはっは!」と笑う。

 

真木先生

葉桜高校陸上部の顧問。30歳の男性教師。童顔で爽やかな雰囲気の先生。高校時代には5000mで関東大会決勝まで進んだ実力を持つ。五月隆平とは高校の同級生。

 

赤沢

松梨大学付属高校の二年生エース。強豪高校の中のエースで、地区としては秋津の次に早いと言われる。

 

白髪の男(八重嶋翔平)

落川学園のエース。秋津、赤沢、名高に次ぐ実力の持ち主か。

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2009年3月23日 (月)

空の下で-桜(1) 遠くまで「前編」

空の下で 2nd season - 2

桜の部 

 

いつになく神妙な面持ちで教室を振り返る。

 

この教室では色んな事があった。

憧れてやってきた高校生活。

中学の時とは違って、少し大人に近づけるような気がした高校一年生。

でも、始まってみれば勉強こそ難しくなったものの、中学とそんなに変わらない大騒ぎの連発。

下らない会話、しょうもないギャグ、真剣な恋愛相談。

それでも、何気ない一言や気遣いが、一歩だけ大人に近づいた気がした。

 

そんな一年間をこの教室で過ごしてきたけど、ついに今日終わった。

「それじゃあ二年生の教室でまた会おう」

担任の宇都宮先生が一人だけ感慨深そうにそう言って、一年生最後のホームルームは終わり、このクラスは解散となった。

ぼくら多摩境高校では、一年生はどのクラスも教科全般を同じように習うのだけど、二年生からは文系と理系に分かれる。

だから、二年生からはクラスのメンバーが大幅に変わるのだ。

ちなみに、ぼくは理系を選んでいる。

何故かと言うと去年の暮れ頃から、ある物に興味を持ったからだ。

それはお店だ。

ナニソレ?って感じだと思うだろうけど、詳しい事はまた今度言うとして、とにかく理系を選んだのだ。

そうして今、一年間お世話になった教室を出ていくところな訳だ。

教室から廊下に出るとき、ちょっと振り返ってみる。

見慣れた部屋に、見なれた窓からの景色。

でも見なれた手荷物とかはもう無い。

ちょっと切なく感じつつもぼくは再び前を向いた。

新しい季節はもうすぐそこまで来ている。振り向いても一つ前の季節は見えないんだから。

 

 

牧野と日比谷と一緒に校舎を出る。

少し暖かくて強めの風が校庭の方から吹いてきた。

「スッゲ、風!」

ここ何日か風の強い日が続いている。

春というのは風に運ばれてやってくるのだろうか。

「あ、英太、日比谷。見ろよ」

牧野は校門のところにある大きな木を指差した。

その木には、桜のつぼみがあった。

「もうすぐ咲きそうだ」

ぼくがそう言うと、牧野がまたも乙女みたいな事を言う。

「ここでオレ達がしばらく待ってたら咲いてくれるかもよ」

「怪談話かよ」

「ちげーよ日比谷!お前にはロマンというのは無いのか、ロマンというのは!」

「ロマンってお前・・・何かやらしいぞ」

「やらしくない」

 

 

桜の木がある校門を抜けると、穴川先輩が一人で突っ立っていた。

「あ、穴川先輩。なにしてんですか」

ぼくが笑顔でそう聞くと、穴川先輩はため息をついて答えた。

「雪沢を待ってるんだよ。明日の集合場所と時間、まだ決めてないだろ」

「ああ、そうでしたね」

ぼくと穴川先輩の会話を聞いて、日比谷が不思議そうな顔をする。

「なに?明日どっか行くのか陸上部」

「ああ、そうなんだよ。高尾山に行くんだ」

「高尾山?」

 

 

つい先週の事だ。五月先生が春休み初日の練習は高尾山を登ると言い出したんだ。

未華が「わー!ハイキングですねー!」と言えば大山は「おにぎり作らなくちゃ」と言って大喜びしたんだけど、五月先生は「いや、走って登る」と言うのだ。

高尾山というのは東京の西の方にある山で、一年を通してハイキング客で溢れるすごい有名な山なのだ。

歩いて二時間くらいで登りきれる山を走って登るという訳なので、去年やった富士山登りに比べれば全然大した事はない。

そう思っていたら、五月先生はよくわからない事を言うのだ。

「高尾山を登って、そのまま遠くまで行く」

「遠くまで?ど、どこまでですか?」

「高尾山、影信山、と二つの山を登り、山の麓にある相模湖を目指す」

「山を二つも?!」

「本当は陣馬山ていう三つ目の山も登りたいんだが・・・まだ実力不足だからな」

充分だよ・・・。

 

 

「・・・という訳なんだよ」

日比谷に説明すると「うわあ、走る日多いな、陸上部って」と、当たり前の感想を述べた。

「じゃあ相原と牧野さ。オレは雪沢と集合時間を相談して、後でメールするよ」

穴川先輩はそう言うので、ぼくらは帰ることにした。

 

 

家に着き、明日の準備のためにシューズをチェックする。

なにしろ山越えをするわけだ。それも二つも。

五月先生の話によれば、今回のコースは舗装された道ではないらしい。

本当に登山道を走るので、普段と違うダメージが足に出る可能性もあるらしいので、ツメとかはちゃんと切ってくるようにと言われた。

それと途中で木の根とかにつまづいたりして足を痛めた時のためにコールドスプレーも各自で持参だ。

本当に山の中なので、自販とかも無いから飲み物とかタオル、着替えもリュックに入れ、背負ったまま走るということになるらしい。

今回は男子メンバーのみの参加だ。

未華はかなり参加したそうで、五月先生に交渉していたが「もしお前がコケて捻挫でもしたら、オレが背負って山から下山させるしかない。でも、それだとセクハラになる」という訳のわからん説得をしていた。

仕方なく未華はゴールである相模湖で待ってるという。

「おいしいスポーツドリンク用意しとくからね!」

未華がそう申し出るので、くるみと早川もゴール地点で待ってることにした。

スタートが東京のハジの高尾。ゴールが神奈川のスミの相模湖という山岳コース。

ぼくはちょっと楽しみになってきていた。

 

寝るちょっと前、くるみからメールが来た。

着信BOXに『若井くるみ』と表示されただけで心臓が跳ね上がる。

『明日の集合時間』というタイトルを見て若干テンションが下がったものの、メールをするってだけでも嬉しいもんだよ。

『高尾山口駅に10時集合だって。穴川先輩からメール来たよ。伝えておいてって書いてあったからメールするね。明日は辛そうだけど頑張ってね。相模湖で待ってるよ!』

読んでテンション上がり過ぎなぼくは返信で『うん!頑張るね!』などという女子っぽい返信をしてしまい、ちょっと自分の男らしさ不足にへこみながら寝た。

 

 

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2009年3月26日 (木)

空の下で-桜(2) 遠くまで「中編」

東京都の真ん中にはJR中央線というオレンジ色の電車が東西に走っている。

東京・新宿といった日本の中心エリアから、中野・吉祥寺といった少し緑も残りつつも全国的に有名なエリアをさらに西に進み、終点まで行くと高尾という駅がある。

この高尾駅から私鉄に乗り換え、ひと駅だけ行くと今日の集合場所である高尾山口駅に着く。

この私鉄も新宿駅から直通しているが、とても新宿から乗り換え無しで来る駅とは思えないほど、山と緑に囲まれた駅だ。

この高尾の周辺は蕎麦が有名で、都心からわざわざ食べに来る人もいるくらいだ。

そして何よりも有名なのが、今日ぼくらが走って登る高尾山なわけだ。

 

 

高尾山は元々、関東では有名な山であったし、周辺の幼稚園や小学校の遠足で必ずと言ってもいいほど登る山でもある。

ぼくも小学3年生の時に遠足で頂上まで登ったけど、小学生の体力ではかなりキツかったのを覚えている。

でも頂上で食べる母親お手製のお弁当がすっごく美味しかった。

その高尾山は去年、世界的に有名な、とあるガイドブックに載った。

レストランの格付けをするそのガイドブックに、山としては日本で唯一の三ツ星となった。

富士山ではなく、高尾山が。

それがぼくには少し不思議に感じたんだけど・・・。

 

 

その高尾山の入口となる高尾山口駅の改札を出ると、老若男女のハイカー達に混じって長距離メンバーと五月先生が集合していた。

「遅いぞー相原ー」

五月先生の大声が土産物の多い駅前に響く。

ぼくは集合時間っていつもギリギリに到着するクセがあるので、いつも大声で呼ばれる。

「すいません!急行乗ったつもりが各駅停車で・・・」

「オマヌケ英太くん!」

牧野がおちゃらけてそう言うと、雪沢先輩が牧野をはたいた。

「騒ぐな牧野。準備体操するぞ」

 

 

ぼくらは改札から少し離れた大型駐車場で準備体操を念入りに行った。

何しろ舗装もされてない山道を走るのだから。

「集合ー」

雪沢先輩がそう言い、五月先生の元に全員が集まった。

「では今日は高尾山ハイキングだ」

ハイキングだなんてとんでもない。走って登るんだもの。

「高尾山・影信山を通り、神奈川県の相模湖へと走るコースだ。長いしアップダウンはハンパじゃないしで、足腰が相当鍛えられる。それに登り坂での腕ふりも重要になる。その辺を気をつけながら走ろう」

そう言う五月先生も今日はジャージとリュックのみだ。不思議に思い聞いてみる。

「今日って先生は車で追ってくるんじゃないんですか」

「一般の車が入れる道は無い。だから今日は俺・・・先生も走る」

「えー?先生も?」

「ああ、今日のために先生も鍛えてきた」

そう言って五月先生はシャドーボクシングを見せた。

「関係あんすか?それ」

「左を制する者は高尾を制す」

先生は不敵な笑みを見せたが場は白けた。

「と、とにかく!」

先生は眼前にそびえる高尾山を見上げた。

「コースは長い。全員に地図を渡しておく。遭難などしないように!それと途中休憩を二回はさむ。高尾山の頂上と、影信山の頂上で休憩を取る。全員集まったら再びスタートという感じで行くからな」

先生は高尾山ハイキングコースなる地図を全員に配った。

「かなり遠くまで行く事になるからな。走るのもそうだが、知らない場所を楽しんで行け」

楽しむ?この難コースを?そりゃ少し無理かもしれない。

「んじゃ行くぞー。地図をリュックにしまえー」

 

 

全員がひと固まりになって走りだす。

いつもなら前にグイグイと進む雪沢先輩と名高も慎重な走りだ。

まずは舗装された道を進む。両脇にはお土産物屋さんが並び、お店のオジチャンが「頑張れーい!」などと声をかけてくれたり、外国人観光客が「OH!ムシャシュギョウ!」と言って驚いたりする。

牧野は何故だか観光客に手を振ったりしてるが、すぐにやめた。

何故ならすぐに道が舗装されてない細い山道に変わったからだ。

 

 

道の右側は崖で、10メートルほど下に小川が流れていて、浅いけど透明でキレイな水が流れているのが見えるんだけど、落下防止用の柵とかは何も無いので少し怖い。

おまけに足元は、木の根が這っていて走りづらいし、登り傾斜がキツくなったり、平坦になったり、地面が湿っていて滑りやすい場所があったりと大変なコースだ。

「足元、気をつけろよ。油断すると捻挫するぞ」

五月先生がそう叫ぶ。言われなくてもみんな足元に意識を集中している。

かと思えば「腕振り忘れるな!!登りは腕振りがパワーに変わる!!」と怒鳴り声も飛ぶ。

「OH!サムライスピリット!!」

またよくわからない掛け声が飛んだ。

 

 

「はあ・・・はあ・・・」

登りはツライ。あっという間に息が切れてきた。

前を見ると、雪沢先輩と名高と牧野と剛塚が頑張って登っている。

ぼくは五月先生と大山と穴川先輩との四人で固まって走る。

しかし、厳しい登り道ではほとんどのメンバーは歩いたり走ったりを繰り返した。

さすがに今回はぼくも歩いた。

「はあ・・はあ!持・・・ってか・・・レだ・・・」

持久走っていうか筋トレだ。と言ったつもりなのだが、声も出ない。

「ふれ!!ふれ!!」

五月先生がよくわからん応援をしてくれるかと思ったら、腕をはたかれた。

腕を振れ、と言ってるらしい。が、先生もヘトヘトだ。

「くおおおーー!!」

大声を出して腕を振ってみる。すると足が前へと進むが、すぐに腕も疲れてくる。

「はあ!はあ!!」

大声を出したせいで喉も痛い。腕も疲れる、足も上がらない。体力自体も残り少ない。

それでも歩いては走るの繰り返し。大山はついに歩きのみになりつつあったが、歩みを止める事は無かった。

 

 

左へ右へと道は曲がり、道はなんと川と合流した。

小川の水が登り道の上の方から流れてくる。そこに大きめの平らな石がたくさん置いてあり、小川の中を石から石へとジャンプして進んでいく。飛び石ってヤツか?

「ぐおお!!」

穴川先輩が飛び石を飛びまくって先へと進む。ホントに武者修行みたくなってきた。

「OH!ニンポウ!!」

また変な掛け声だ。聞く体力も無くなってきた。

 

 

小川の飛び石を終えると、緩やかな登り坂になった。

ここで少しでも体力を回復しておきたいところだ。

しかし、すぐに木で作られた階段が始まった。

「マジかよ」

穴川先輩は階段の先を見上げて辛そうな顔をした。

階段は一段一段が高い上に、階段自体がどこまで続いてるのかわからないほど上まで続いているのが見えた。

上の方には牧野や雪沢先輩や名高や剛塚がゆっくりと進んでいるの見えた。

「うわあ・・・」

心が折れそうになる。でも登る。腕を振り、足を上げて。

 

 

階段を登りきった時は思わずガッツポーズを先生に向けてしたみたが、「前、前」と言われて愕然とした。

すぐ前には舗装こそされているものの、登り坂が見えていた。

その坂は歩いて登った。

五月先生が「走らんかい!」と息切れしながら言ったが、歩くのが精一杯だった。

 

 

そしてついに高尾山の頂上に着き、景色など見る余裕など無く倒れこんだ。

「はいー、ここでコースの3分の1だー」

五月先生が言ったその言葉には耳を貸さない事にした。

 

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2009年3月30日 (月)

空の下で-桜(3) 遠くまで「後編」

崖の淵にある木製の柵に掴まりながら立ち上がる。

すさまじい疲労。立ち上がる時、足を踏ん張ろうと意識しないと立てなかった。

高尾山を走って登ることに想像以上のダメージを負ったらしい。

「ふう・・・、なんとか登りきったなあ・・・」

まだ少し息切れをしながらつぶやく。

いつのまにか後ろを走っていた(歩いていた?)大山も頂上に到着していたらしく、膝に手をついて肩で息を切らしている。

「こ・・・これはひどく辛いね・・・」

大山は疲れ果てた顔をしているが、ぼくも他のメンバーも似たような表情だ。

雪沢先輩と名高でさえキツそうだ。

全員の息切れが治った頃、五月先生が「よし、続き行くぞー」と言い、再び走り出した。

 

 

高尾山の頂上を出て、尾根つたいに影信山を目指す。

すでに高さを稼いだので、今度のコースは長い登りというのは少ない。

それでも舗装されていない山道は、急激に登ったり下ったり、細くなったり広くなったりを繰り返すので、体力が奪われていく。

登りでは前傾姿勢になり、腕を思いきり振った。

下りではスピードが出過ぎると止まれなくなるので、足でブレーキをしながら走る。

 

 

尾根にも観光客がハイキングを楽しんでいて、デジカメで花や木を撮っている。

どうやらこの尾根は桜の名所らしく、まだ二分咲きってところの桜の木がたくさんある。

もうすぐ桜の季節だな・・・。

そんな事を考えていると、ぼくは一人で走っていることに気がついた。

いつのまにか先頭から遅れている。

でも後ろにも何人かが走っている。

油断すると一気に遅れるということだ。

はるか前を走る名高の姿を追いながら、ひたすらに影信山を目指す。

 

 

影信山に到着すると、雪沢先輩と名高と牧野が倒れこんでいた。

唯一、剛塚だけは大きな木にもたれかかってはいるものの、立って待っていた。

剛塚は筋力がすごい。このアップダウンのコースでは力を存分に発揮しているのかもしれない。

最後の大山が到着するまでには時間がありそうなので、ぼくらはリュックからスポーツドリンクを取り出して飲んだ。

沁み入る・・・。

水分の一滴一滴が体に力を与え、全身に巡って行く感覚がする。

水分ってこんなに大事だったのか・・・。

 

 

しばらくすると大山と付き添うように五月先生がやってきた。

「はあ・・・はあ・・、10分休憩ー」

先生も余計な発言は無く、休憩時間を伝えただけで座り込んだ。

ぼくはタオルで顔についた汗を拭きつつ空を見上げる。

ちょっと前までは冬の低い空だったのが、いつのまにか太陽の光が強くなった春の空に変わっていた。

もう、一年が経つ。

この陸上部に入部して、もうすぐ一年が経とうとしているんだ。

ずいぶんと遠くまで来たもんだ。

あの頃のぼくには想像出来ていただろうか。自分がいくつもの山を越え、走っている姿を。それを気持ちいいなと思っている姿を。

入部がスタート地点だとしたら、ずいぶん遠くまで来たもんだよ。

でもまだまだ先があるみたいだ。

今だってもう、雪沢先輩と名高はコースの先を睨んでいる。

このコースのはるか先には未華たちが待っている。

陸上部というこの道のはるか遠くには、ぼくにとって何が待っているんだろう・・・。

「オイ英太。そろそろ行く時間だぞ」

考え事をしていると牧野の呼ばれ、すぐにまた走りだした。

 

 

最後は影信山から麓の相模湖まで一気に下る山道だ。

木々に囲まれた細い下り坂を永延と走る。

常にスピードを殺しながら走らなくてはいけないので、筋力があまりないぼくは足に負担が一気にたまった。

雪沢先輩・名高・剛塚が先を行き、牧野と穴川先輩も続いて行った。

ぼくは大山と五月先生と一緒にビリ集団として走る。

「はあ!!はあ!!」

大山は相当にキツそうだ。いつ倒れてもおかしくない表情をしている。

それでもぼくから遅れることもなく走っている。

ぼくはといえば、もう足に力は入らなくて筋力の無さを痛感していた。

大山を突き放す体力すら無い。

「くっそ!!」

牧野も穴川先輩も姿が見えないくらい前に消えてしまった。

こういうアップダウンのコースでは、ぼくは牧野に敵わないらしい。

悔しさがこみ上げる。

「くっそ!!くっそ!!」

「汚いぞ相原・・・。はあ・・・はあ・・・。悔しいなら、息絶えるまで走って追いかけてみろ」

五月先生は物騒な事を言う。

でももう無理だ。

足も手も力が入らない。下りの惰性だけで走り続けているようなものだ。

「くそ・・・なんでだ!なんでだ!!」

思わず叫んでいた。

悔しい。この悔しさには理由がある。

まだ体力が少しあるからだ。

体力があるのに手足の筋力は限界で、前に進めないのだ。

無理してスピードを上げようとしたら、足に力が入らず、ドターっと転んでしまった。

「うわ!!」

「おい!大丈夫か相原!!」

五月先生が心配して転んだぼくに叫んだ。

「だ、大丈夫です・・。すいません、無理しました」

「英太くん、怪我ない?」

大山も心配そうに見ている。

「大丈夫だって。こんな遠くまで来てリタイヤなんてしないって」

フラフラと立ち上がり、また走りだす。

「でも、何が足りないのかわかった気がするよ」

悔しい気持ちは内に隠して、苦笑いを浮かべて言ってみた。

それに対する五月先生は一言だけつぶやいた。

「なら、やれ」

 

 

ついに広大な湖が見えた。

相模湖だ。もう神奈川県にまで来たんだ。

湖畔にある、ゴール地点の駐車場で未華とくるみと早川が手を振っているのが見えた。

ぼくと大山と五月先生以外のメンバーはもう駐車場で座りながら何かを飲んでいる様子なのが見えた。

ぼくと大山は顔を見合わせた。

「いこう、英太くん」

「当たり前だよ」

二人で駐車場めがけて、最後の力を振り絞って走る。

ビリ争いだ。でももう勝ち負けじゃない。

やりきれるか、やりきれないか。

ぼくも大山も、やりきったのだ。

 

 

ゴールして未華からスポーツドリンクをもらい、クールダウンの体操をしていた時の事だ。

屈伸をしたら、立ち上がれなくなった。

「うぐ・・・」

頑張ってみたが、そのまま横にコケてしまった。

「いて」

「ちょ、平気?!」

未華とくるみが駆け寄ってくる。

「い、いや・・・あれ?屈伸も出来ない・・・」

すると五月先生がぼくの足をマッサージするかの様に触って確かめる。

「痛いか?」

「いや、痛くは無いんですけど・・・」

「ふん」

五月先生はニヤリとした。

「全部出し尽くしただけだよ。本当のスッカラカンになるまでな」

「え・・・」

「ただし、明日は物凄い筋肉痛だろうな。ちゃんとケアしろよ」

五月先生はなんだか嬉しそうだった。

「全部出し尽くすって意外と大変なんだぞ。意識のどこかでセーブするヤツが多いからな。来週の春季記録会も今みたく全部出しつくせよ」

全部・・・か。ぼくは立てなくなったのに、なんだか満足した。

全部出し尽くす。

この経験はこの先のぼくにきっと良い影響を残す気がした。

 

 

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