空の下で-冬(12) 校内対決(その3)
2月も下旬になると体育の授業は持久走一色になった。
隣のクラスと合同の30分持久走では、いつも同じメンバーが先頭を争って走っていた。
ぼく、牧野、日比谷、水泳部の石塚、バスケ部の君島、そしてサッカー部の柏木だ。
だいたいは、ぼくと牧野が一位、二位を争っていて、三位が柏木という形が多い。
石塚と君島、それに日比谷も早いけど、柏木が一枚上手という感じだ。
「くっそ、早いな英太と牧野は!スッゲーよ二人。吹奏楽部のオレに勝てるなんて」
「いや、それなんか変だって」
牧野が日比谷にツッコム通りおかしな話だ。
でも吹奏楽部の日比谷はとんでもない体力だ。
でも、わからなくはない。
ぼくも元々は吹奏楽部だから少しはわかる。
体力使うんだよ。音楽ってのは。
日が進むにつれ、柏木が次第にぼくと牧野との差を縮めて来ていた。
サッカー部の練習中にも普段以上に走りまくってるらしく、その成長には注意するものがあった。
それは石塚も君島にも言える事で、牧野は「油断も隙もない」などと言っていた。
そんなある日、陸上部の練習で準備体操している時に、くるみがぼくに言った事が気になった。
「最近、男子って体育の授業で走りまくってるね。教室の窓からよく見てるよ」
「そうなの?だって授業中でしょ?窓から校庭とか眺めてていいの?」
そう言うと、くるみは苦笑いをしながら答える。
「スイマセン」
「なんかそれ、反省してる感じしないよ」
「だって、みんな一生懸命走ってるでしょ?なんか気になっちゃう感じで」
気になっちゃう・・・その言葉にだけ反応してしまうぼく。
「英太くんと牧野くんでいつもトップ争いしてるよね。白熱してて見てるとワクワクするよ」
「授業だってのに牧野も全力なんだよ。だからぼくも全力出すしかなくってさ。そうすると大変なんだよ」
「大変?」
「次の授業。疲れて寝ちゃうの」
「あー、それダメ人間だよー」
下らない会話。
そんな下らない会話がごく自然に出来るようになった。
走るのも楽しいけど、くるみと単に話してる時間もすごい楽しい。
「そういえばさあ、いっつも三位を走ってるサッカー部の人も早いよね」
「ああ、柏木かあ」
「ああ、あの人が柏木くんか。マイちゃんの元彼なんだよね。なんかその人ってだんだん早くなって来てる気がしない?」
さすがに見てるなあと、感心する。
「柏木のヤツ、ぼくと牧野に対抗心を燃やしてるらしくてさ。部活中もすごい一生懸命走ってるらしくって、なかなか強敵だよ」
「ああ、なんか一生懸命って感じだよね。英太くん達に迫る勢いだなんてスゴイよね」
「そう、油断も隙もないよ」
牧野のセリフを使いまわしてしまった。
「集合ー!!」
雪沢センパイの号令で、会話を切り上げて、練習へと入る。
でもこの時、何かが心に引っ掛かっていた。
今の会話のどこかで、何かの単語が。
そうして迎えた3月2日、校内マラソン大会。
もう三月だというのに気温は上がらくて、2月上旬並みの気温という事だった。
ぼくは牧野と日比谷と待ち合わせて、開催場所である立川の公園に来ていた。
公園の入口を入ると、信じられないくらいの広大な敷地が広がっていた。
「スッゲスッゲ!英太!めっちゃ広いぜ!!あ、あっちの芝生ゾーンすげー広い!!」
日比谷は興奮しまくりで、広大な芝生のエリアを飛び跳ねていた。
小学生かよ。とツッコミを入れたくなるくらいテンションが高い。
「でも、本当に広い公園だね牧野」
「ここは、実際にマラソン大会だとかトライアスロン大会とかもやる公園なんだよ。それも都内じゃけっこう有名な大会とかをさ」
「へえ、さすが詳しいな」
ぼくは牧野のそういうところを尊敬している。
陸上に関する知識は牧野から教えてもらう事が多い。
それに加えて牧野は、出場する大会だとかコースだとかをキチンとインターネットで調べて来ている。
最近では、コースのアップダウンを事前に調べて作戦を練ったりするようになったきた。
「今日はどんな作戦?」
ぼくが聞くと牧野をあかんべえをして答えた。
「教えてやんないよ」
「小学生かよ・・・」
ぼくはあかんべえする高校生を初めて見た。
スタート時間は10時ピッタリの予定だ。
みんなそれぞれに準備体操をする。
その後は、ちょっとジョックしたり、ストレッチしたり、仲間と談笑したりと色々だ。
走る目的も色々ある。
ぼくらの様に真剣に上位を狙う連中。
仲間と会話しながらのんびりと走る連中。
とりあえず出席日数に影響するから出てる連中。
こんな学校行事無くていいのにと思うくらい走るのが嫌いな連中。
その中で、唯一の考えを持っているのは名高だろう。
さっき遭遇した時に「調子どう?」と聞いたらおかしな返事が返ってきた。
「10位でゴールする」
「は?優勝じゃなくて?」
「優勝は英太か牧野で争えって。オレ、学校行事くらいで本気ではやらない。だってつまんねーだろ?オレが一人でブッチ切りで優勝してもよ」
なんだかカチンと来る。ぼくはそれを顔に出してしまったようだ。
「怒るなよ英太。別にお前らをバカにしてんじゃないって。英太と牧野がさ、本当に他の運動部より早いか、少し後ろで見てたいんだよ。たまには観る側にさせてくれ」
相変わらずなんだかよくわからない事を言うヤツだ。
とにかく名高は力を抜いて走るらしい。
「一生懸命さの足りないヤツだなあ」
ぼくはそう言ってから気づいた。
この単語だ・・・。
この間から引っ掛かっている単語は・・・。
そうして、校内マラソン大会が始まった。
| 固定リンク | コメント (0) | トラックバック (0)

最近のコメント