空の下で-桜(13) ソメイヨシノ(その5)
今年の高校総体・東京支部予選会の会場は、いつもの上柚木競技場だ。
初日は短距離・中距離チームがメインで熱戦を繰り広げていて、長距離は応援とサポートに徹底した。
短距離チーム一番の期待は三年生の二本松ゆりえ先輩。
細身の長身で、黒くて長めの髪をポニーテールにして、大きなストライドでタッタと走る。
女子100mと、200mにエントリーしていてるが、一番期待されてるのは走り幅跳びだ。
ぼくらは二本松先輩の幅跳びを跳躍場の真横で観戦した。
長距離選手のスパートとは比べモノのならない程の速さで助走をして、ポーンと空中へ飛び出す。
二本松先輩はまるで空を歩くように跳び、見事7位で都大会進出を決めた。
7位と表示された時、多摩境高校のメンバーからは歓声が怒号の様に響いた。
それより前、朝一番に1500mの予選があった。
うちからは牧野・剛塚・穴川先輩の三人が出場した。
予選は5組あって、それぞれ上位6位に入ると午後にある決勝に進める。
この大会は一つの種目に三名の選手を送れる。ぼくと雪沢先輩と名高が5000mに出る事になっていて、大山は試合に出る機会は無い。
それでも大山は全く腐る事はないから凄い。(もともとダイエット目的ってのもあるが)
「声出していこうね!」
応援する時、大山はそう言った。
ちょっと切なくなったけど、ぼくらは大声で応援しまくった。
染井が声出してなかったので、未華が頭をひっぱたいて「声出さんかい!」と怒鳴っていた。
さすがの染井も「すいません」と言って大声で応援していた。やはり未華は怖い。
しかし剛塚も穴川先輩も予選で見事敗退。牧野でさえギリギリ7位で予選敗退だった。
「短い。1500mは。もっと長くないとダメだな」
試合後、牧野はそんな事を言ってた。陸上部以外の人が聞いたらたまげる言葉だよ。
剛塚はさっぱりした顔でいたが穴川先輩はぼけーっと空を見上げてた。
「どうしたんですか」
問いかけると穴川先輩は「終わったな」とつぶやき、少し間を開けて続けた。
「このインターハイ支部予選会。一度くらいは都大会に行ってみたかったな・・・」
そうか。三年生はこれからの試合は全て「最後の試合」になるんだ。
秋の新人戦は二年生までしか出れないから、こうして支部大会・都大会・関東大会と勝ち上げって行く大会はこれが最後だったんだ。
もちろん、個人戦に限らなければ駅伝があるんだけれど。
空を見上げる穴川先輩を見て、ぼくは少しウルっときたが、ヒロが何故かオイオイと号泣していた。熱すぎるよ。
「よし、明日の雪沢と名高に頑張ってもらおう!」
穴川先輩がちょっと苦しそうな笑顔でそう言うので
「あの・・・ぼくも明日出るんですけど・・・」
と言うと「あ、わりい」と悪びれた風もなく言われた。
その後、たくみが800mの予選に出たが、見事に敗退。
結局初日に都大会行きを決めたのは幅跳びの二本松ゆりえ先輩だけだった。
スポーツってのはなんて残酷なんだろう。
どんなにどんなに努力したって、相手の方がわずかに努力と才能が上回っていただけで「負け」の烙印を押されてしまう。
それなのに・・・いや、ほとんどの選手が敗退する運命にあって、勝って進むのは一部の選手だけだってわかっているのに、誰もが努力を惜しまない。(惜しむヤツもいるけど)
陸上なんて数字で記録が出るから尚更に実力差がハッキリと言い渡される。
だけど、走る。走る。走る。
単純に勝つのが目的な名高とかもいるけど、負けたとしたってそれまでの努力や辛さや楽しさが無駄になるわけじゃない。
ぼくはそう思う。そう思えるから走れる。
だから牧野たちが敗退したのを見て「オレを出せば可能性あったのによ」とか言う染井には全く共感出来ない。
言ってる事はわからなくもないけど、強豪高校でもないぼくらはそういう考えではない。
支部予選会二日目、まずは最初に女子3000mがある。
うちからは未華とくるみと早川が出場する。
この競技は予選は無くて、いきなり決勝となり8位までが都大会に進める。
50名もの選手がスタート地点に集合すると、観客席からでは未華たちがどれなのか全くわからなくなった。
「三人とも頑張ってほしいな」
五月先生が腕組みをしながらスタート地点を眺めている。
ややあってスタートした。50名が一斉にスタートするのは迫力満点だ。
ダダダっと音をたててぼくらの前を通過していく。
一周すると三人の位置がわかった。
早川は大集団の一番後ろ。くるみはその集団の真ん中へん。未華は・・・ほぼ先頭だ。
「すげえ!!」
牧野が大声を張り上げる。
「いけー!!未華!!GO!!」
明らかに未華だけに送る声援に五月先生は苦笑した。
雪沢先輩と穴川先輩が「ついていけー!!」とか「遅れるなー!!」とか応援する。
ぼくと大山はとにかく「ファイトー!!」の連発。剛塚と名高は黙って試合を睨む。
ヒロは自作の変な赤い旗を振りかざしていて、染井は座ったままレースを見ている。
やはり染井はなんとかしなくちゃ・・・と思う。
それより今は試合だ。
早川は集団から遅れるが、くるみは集団に食らい付いて行った。
あのコ、いつの間にかずいぶん早くなったんじゃないかな・・・。
観ていて拳に力が入る。未華の応援ももちろんしてるが目がいくのはくるみばかりだ。
頑張れ・・・頑張れくるみ・・・・と未華と早川。
未華はなんと6位でゴール!ベスト記録更新の10分28秒で都大会出場!!
しかも・・・ぼくの3000mのベストタイムより早い!
くるみはフォームが乱れたものの最後までペースは乱れずに20位。ベスト更新。
早川は39位。へえ、意外にも11人も抜いてるよ。
未華の都大会進出というお祝いムードのままぼくらの男子5000mの時間がやってきた。
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