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2009年5月

2009年5月 4日 (月)

空の下で-桜(13) ソメイヨシノ(その5)

 

今年の高校総体・東京支部予選会の会場は、いつもの上柚木競技場だ。

初日は短距離・中距離チームがメインで熱戦を繰り広げていて、長距離は応援とサポートに徹底した。

短距離チーム一番の期待は三年生の二本松ゆりえ先輩。

細身の長身で、黒くて長めの髪をポニーテールにして、大きなストライドでタッタと走る。

女子100mと、200mにエントリーしていてるが、一番期待されてるのは走り幅跳びだ。

ぼくらは二本松先輩の幅跳びを跳躍場の真横で観戦した。

長距離選手のスパートとは比べモノのならない程の速さで助走をして、ポーンと空中へ飛び出す。

二本松先輩はまるで空を歩くように跳び、見事7位で都大会進出を決めた。

7位と表示された時、多摩境高校のメンバーからは歓声が怒号の様に響いた。

 

それより前、朝一番に1500mの予選があった。

うちからは牧野・剛塚・穴川先輩の三人が出場した。

予選は5組あって、それぞれ上位6位に入ると午後にある決勝に進める。

この大会は一つの種目に三名の選手を送れる。ぼくと雪沢先輩と名高が5000mに出る事になっていて、大山は試合に出る機会は無い。

それでも大山は全く腐る事はないから凄い。(もともとダイエット目的ってのもあるが)

「声出していこうね!」

応援する時、大山はそう言った。

ちょっと切なくなったけど、ぼくらは大声で応援しまくった。

染井が声出してなかったので、未華が頭をひっぱたいて「声出さんかい!」と怒鳴っていた。

さすがの染井も「すいません」と言って大声で応援していた。やはり未華は怖い。

 

しかし剛塚も穴川先輩も予選で見事敗退。牧野でさえギリギリ7位で予選敗退だった。

「短い。1500mは。もっと長くないとダメだな」

試合後、牧野はそんな事を言ってた。陸上部以外の人が聞いたらたまげる言葉だよ。

剛塚はさっぱりした顔でいたが穴川先輩はぼけーっと空を見上げてた。

「どうしたんですか」

問いかけると穴川先輩は「終わったな」とつぶやき、少し間を開けて続けた。

「このインターハイ支部予選会。一度くらいは都大会に行ってみたかったな・・・」

そうか。三年生はこれからの試合は全て「最後の試合」になるんだ。

秋の新人戦は二年生までしか出れないから、こうして支部大会・都大会・関東大会と勝ち上げって行く大会はこれが最後だったんだ。

もちろん、個人戦に限らなければ駅伝があるんだけれど。

空を見上げる穴川先輩を見て、ぼくは少しウルっときたが、ヒロが何故かオイオイと号泣していた。熱すぎるよ。 

「よし、明日の雪沢と名高に頑張ってもらおう!」

穴川先輩がちょっと苦しそうな笑顔でそう言うので

「あの・・・ぼくも明日出るんですけど・・・」

と言うと「あ、わりい」と悪びれた風もなく言われた。

 

その後、たくみが800mの予選に出たが、見事に敗退。

結局初日に都大会行きを決めたのは幅跳びの二本松ゆりえ先輩だけだった。

 

スポーツってのはなんて残酷なんだろう。

どんなにどんなに努力したって、相手の方がわずかに努力と才能が上回っていただけで「負け」の烙印を押されてしまう。

それなのに・・・いや、ほとんどの選手が敗退する運命にあって、勝って進むのは一部の選手だけだってわかっているのに、誰もが努力を惜しまない。(惜しむヤツもいるけど)

陸上なんて数字で記録が出るから尚更に実力差がハッキリと言い渡される。

だけど、走る。走る。走る。

単純に勝つのが目的な名高とかもいるけど、負けたとしたってそれまでの努力や辛さや楽しさが無駄になるわけじゃない。

ぼくはそう思う。そう思えるから走れる。

だから牧野たちが敗退したのを見て「オレを出せば可能性あったのによ」とか言う染井には全く共感出来ない。

言ってる事はわからなくもないけど、強豪高校でもないぼくらはそういう考えではない。

 

 

支部予選会二日目、まずは最初に女子3000mがある。

うちからは未華とくるみと早川が出場する。

この競技は予選は無くて、いきなり決勝となり8位までが都大会に進める。

50名もの選手がスタート地点に集合すると、観客席からでは未華たちがどれなのか全くわからなくなった。

「三人とも頑張ってほしいな」

五月先生が腕組みをしながらスタート地点を眺めている。

ややあってスタートした。50名が一斉にスタートするのは迫力満点だ。

ダダダっと音をたててぼくらの前を通過していく。

一周すると三人の位置がわかった。

早川は大集団の一番後ろ。くるみはその集団の真ん中へん。未華は・・・ほぼ先頭だ。

「すげえ!!」

牧野が大声を張り上げる。

「いけー!!未華!!GO!!」

明らかに未華だけに送る声援に五月先生は苦笑した。

雪沢先輩と穴川先輩が「ついていけー!!」とか「遅れるなー!!」とか応援する。

ぼくと大山はとにかく「ファイトー!!」の連発。剛塚と名高は黙って試合を睨む。

ヒロは自作の変な赤い旗を振りかざしていて、染井は座ったままレースを見ている。

やはり染井はなんとかしなくちゃ・・・と思う。

それより今は試合だ。

早川は集団から遅れるが、くるみは集団に食らい付いて行った。

あのコ、いつの間にかずいぶん早くなったんじゃないかな・・・。

観ていて拳に力が入る。未華の応援ももちろんしてるが目がいくのはくるみばかりだ。

頑張れ・・・頑張れくるみ・・・・と未華と早川。

未華はなんと6位でゴール!ベスト記録更新の10分28秒で都大会出場!!

しかも・・・ぼくの3000mのベストタイムより早い!

くるみはフォームが乱れたものの最後までペースは乱れずに20位。ベスト更新。

早川は39位。へえ、意外にも11人も抜いてるよ。

 

未華の都大会進出というお祝いムードのままぼくらの男子5000mの時間がやってきた。

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2009年5月 7日 (木)

空の下で-桜(14) ソメイヨシノ(その6)

今月、5000mの試合を走るのは二回目だ。

こないだの春季記録会と今日の総体支部予選。走る場所も同じ上柚木競技場。同じ種目、同じ場所だっていうのに、いざスタート地点に立ってみると雰囲気が全然違う事に気づかされた。

何か殺気立っているというか、ピリピリしたムードが漂っているんだ。

やっぱり単純な記録会と、勝ったら上に進んでいくという総体では気合の入れ方が違うという事だろう。

「なんかこわいな・・・」

すでに空色のユニフォーム姿になったぼくがスタート地点でつぶやくと、雪沢先輩が背中をたたいてきた。

「緊張するな相原。記録会と同じ気持ちでいいんだ。力を入れすぎずにリラックスして行け」

「は、はい」

まあ緊張もするよ。去年は見てるだけだったこの総体支部予選に出れるだけでも嬉しいんだからさ。

 

男子5000mは55名参加で、一斉に走り、上位8位までが都大会に進出出来るというシステムだ。

去年の記録を見ると、ぼくにはとてもじゃないけど8位に入る実力は無い。

多摩境高校からは、ぼく、名高、雪沢先輩が出る。 

名高は調子悪くなければ何とかなりそうで、雪沢先輩でギリギリといったところだろう。

ぼくはそういう戦いには加われない。それが少しだけ悔しくもある。

それでもぼくは全力で走る。

勝つためだけに走るんじゃない。みんなで駆け抜けた一年間を確かめるために走るんだ。

 

「おい相原。あの黒いユニフォームには気をつけとけよ。一応」

雪沢先輩が低い声で言い、ぼくはうなづいた。

55名の大集団がスタート地点でごった返している中で、異様に目立つ派手な髪型の三人の選手。髪がそれぞれオレンジ色、赤色、白色の三人。

黒いユニフォームに白字で背中に『落川学園陸上部』と書かれている。

「あれが落川学園か」

名高も警戒している様子だ。

こないだ、校門の所で待ち伏せしていた安西が言っていた事は部のみんなには伝えてある。

「妨害行為をする事がある」

安西はそう教えてくれた。それから落川学園の選手を見るのはこれが初めてだ。

妨害行為・・・。本当にそんな事を試合中にするヤツなんているんだろうか。

普通なら信じられない。これだけ観客がいる中で妨害だなんて。

でも、あの安西の言う事だ。他校に襲撃するような男が言うんだから嘘ではないだろう。

「落川学園もそうだけどさ。それより本当の相手はアイツらなんじゃない?」

名高は茶色のユニフォームを指差した。

「松梨付属高校・・・か」

マツナシ付属・・・。この支部では最強のチームだ。誰かが物凄い早い訳じゃないらしいけど、チーム力としてはズバ抜けている。

特に二年生の赤沢って言うヤツの成長が著しいと牧野が言っていた。

でもこのレースの本命視されているのは葉桜高校の秋津伸吾だ。

緑色のユニフォームを着た秋津の姿が前方に見える。

少しジャンプしたり体を揺らしたりしている。その横に内村一志がいてぼくをチラッと見たが何も言わなかったし、いつものニヤニヤ笑いをしてくる事も無かった。

 

時間になり、選手が集合したかと思うとすぐにスタートとなった。

いよいよだ、なんて感慨にふけってる時間も余裕もなく走りだした。

55名が一斉に走りだすので、近くの選手と体がぶつかったりした。

それでもいい位置を取ろうとみんな必死だ。

「うげ!!」

誰かのうめき声が聞こえた。一人、横腹を押さえながらスピードダウンする。

そこへスルリと落川学園の白い髪の男が進んできた。

「まさか・・・?」

思わずつぶやくものの、なんの確信もないのでとにかく位置を取る。

ぼくはその白い髪の男のすぐ後ろについて走った。

 

1000mを走ると、先頭集団が出来上がった。

20名ほどの大集団。それにぼくも付いて行く。

なんとか付いていけないスピードではない。

しかし、2000mを過ぎると、次々と選手が脱落していって、ぼくも粘ったけど2400mくらいで遅れた。

その時には先頭集団はたったの10名ほどになっていて、その中には名高・雪沢先輩・秋津伸吾・松梨付属が三人・落川学園の白髪の男などがいた。

驚いた事に内村一志がまだ先頭集団に付いていた。

「ウソでしょ?!」

心で叫んで、春季記録会での内村の言葉を思い出した。

・・・・・・才能が開花しつつあるんだよねー。

ハッタリじゃあなかった?

 

4000mを過ぎて、秋津伸吾に周回遅れにされた。

さらに松梨学園の3人にも周回遅れにされそうな勢いだ。

前半、頑張って先頭集団に食らい付いていったせいか、体力が底を尽きかけていた。

足が重い。手が重い。体が重い。そして何より気分が重い。

都大会を目指す連中との圧倒的な実力差を見せつけられ、戦意を失いつつあった。

「こんな連中と戦う力なんて無いよ」

そう考えてしまった。

松梨学園の選手が3人縦に固まったまま、ぼくを周回遅れにして抜いて行く。

3人の先頭の選手のユニフォームにはAKAZAWAと書いてあり「あれが赤沢か」と思う。

何が「飛び抜けたスター選手はいない」だ。全員がスター選手じゃないか。

4200m通過。あと2週。

まだ800mもあるのに、ぼくはスピードがどんどん落ちていく。

「あいつらには一生かかっても追いつけないって。都大会なんて一生無理だって」

そんな考えが頭を巡る。

歩きたい。もう、歩いちゃいたい。

そう思った時、観客席からの声が聞こえた。

「ナニあきらめとるんじゃーー!!!」

他の歓声をかき消すかの様な大声を張り上げてたのは未華だった。

「そんなダサイ走り見せてんじゃねーぞーー!!!」

だ、ダサイ走り??

チラリと未華の声の方を見ると、未華の他にもくるみ・牧野・大山・ヒロが何か大声で叫んでいた。

みんな必死な表情で叫んでいる。

「最後までファイトー!」

くるみの声が頭に響く。必死な声だ。

最後まで・・・。

応援してるみんなが必死なのに、なんで走ってるぼくが必死じゃないんだ?

最後まで・・・。

そうだよ、ちゃんと走り切らなくちゃ。必死になれよ。

最後まで・・・。

だって最初に思ってたじゃないか。勝つためだけに走るんじゃなくて、みんなで駆け抜けてきた一年間を確かめるために走るんだと。

自分を確かめろ!!

ぼくは一瞬目を閉じた。

体中の残されたエネルギーをほんの一瞬だけ心に集める。

「最後まで諦めるな!」

そう念じて目を開き、前の選手を追った。

 

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2009年5月11日 (月)

空の下で-桜(15) ソメイヨシノ(その7)

長かった5000mも残り一周となり、各選手ラストスパートをかけだした。

ぼくはその少し前からスパートをかけていたので、勢いそのまま何人かを抜き去る。

残り300mで、前にいた落川学園のオレンジ色の髪の選手を抜くとき、何かされないように注意したが、相手はもうヘロヘロですぐに置き去りにできた。

そして残り200mで前方に内村一志を発見した。

「いたな・・・!」

前半飛ばしていた内村は、もう全く腕が振れてない感じだった。

その内村が何故か振りかえった。

ぼくの姿を見つけると、猛然とスパートをかけた。

早い!まだあんなに力を残していたのか。

それでもぼくは追いかけた。最後まで諦めないって決めたばかりだ。

しかし前半でついていた差は大きく、結局内村の方が数秒だけ先にゴールした。

それを見てもぼくはスピードを緩めずにゴールまで走り切った。

 

ガクンと膝から崩れる様にしてゴールしたぼくを雪沢先輩が抱えてくれた。

「はあ・・・はあ・・・すいません・・・・雪沢先輩・・・・」

「しゃべるな相原。とりあえずトラックの外まで行くぞ」

雪沢先輩と名高に肩を抱えられて競技場の端まで移動する。

「すいません、もう歩く・・・体力も・・・無くって・・・・」

ぼくが息切れをしながら言うと雪沢先輩は笑った。

「相原って・・・ホントに最後の最後まで力を尽くすよな。高尾山の時もそうだったし。オレ、けっこう尊敬するよ」

先輩に尊敬するとか言われて嬉しいような・・・でも順位的には雪沢先輩の方が遥か前を走ってたから微妙だよ。

「嘘で言ってるんじゃないぞ。持てる力を全て出し尽くすのって難しいんだからな。心のどっかで『もういいや』って思っちゃうんだからさ。なあ名高」

言われて名高はぼくの顔をチラリと見てからボソリと答えた。

「こいつ・・・多分すげえっすよ」

ぼくよりずっとずっと早い二人に褒められて変な気分だった。

 

男子5000mの結果は、1位が葉桜高校の秋津伸吾。

だいぶ遅れて2位が松梨付属の赤沢という選手。松梨付属は6位と9位にもいたので二人が都大会に進出となっていた。

7位には落川学園の白髪の選手が入ったという。

そしてそして!名高はなんと4位、雪沢先輩が8位で都大会進出となった。

ぼくは自己ベストを大幅に更新して16分57秒という自分では信じられないほどの記録を打ち立てたのだけど17位で、内村は16位で支部予選敗退だった。

終わってみれば多摩境高校からは四人も都大会に進出出来る事になり、陸上部設立史上、最多の進出という事でテントではお祭りモードだった。

女子走り幅跳び、三年生の二本松ゆりえ先輩。

女子3000m、二年生の未華。

男子5000m、三年生の雪沢先輩と二年生の名高。

四人へのお祝いにテントではジュースが配られ、「おめでとう」の声がたくさん聞こえた。

ぼくも心からおめでとうと言った。

悔しさは無かった。もちろん都大会へは行ってみたかったけれど、最後まで力を出し尽くしたし、ベスト記録も出した。

何しろぼくは今年中に17分を切ろうとしていたので、四月に17分を切ったのは快挙と言っていい。

しかし、このお祝いムードの中、染井だけは笑顔ではなく真顔だった。

「どうしたよ染井」

ぼくは気になって話しかける。

「いや、別に。オレが勝ったわけでもないし」

カチンと来たが優しく言ってみる。

「染井の事じゃなくたって、チームの事だよ。嬉しくないの?」

「嬉しいとかは・・・別にないです。ただ・・ナメてたなってのはあります」

「ナメてた?」

言ってる事がよくわからないので少し強い口調で聞いてしまった。

「雪沢先輩も名高先輩も、今のオレが競えるレベルの相手じゃないのはわかってました。でも他の先輩達はすぐにオレが勝てるだろうって思ってたんですよ」

ムカツク話だけど実際に剛塚と大山は染井より遅い。

「でも、今日の1500mの牧野先輩とか穴川先輩とか剛塚先輩を見てたらタイムはともかく・・・なんかすげえ気迫だなって。あの気迫があったら今後早くなるだろうなって思って」

入部以来、染井がこんなに長く話すのは初めてだ。ちょっと興奮してるのかもしれない。

「それに・・・やっぱ相原先輩は物凄いです」

「え?ぼく?」

ちょっとポカンとした顔をしてしまった。

「そうですよ。ベストタイム更新も凄いですけど・・・あんな倒れるまで力を出し切るなんてオレには出来ないです。それに・・・5000mって長い距離の種目で、後半どんどん伸びて行くなんて・・・凄まじいです。オレ、相原先輩をナメてました」

ナメられてたんだ・・・。そうだよな、ぼくって迫力ないしな。

「だからナメないで練習します。負けるの、すげー嫌いだし、試合出れないのすげーつまんないんで」

「そっか。でも、まあ応援もちゃんとやれよ」

「・・・・はい」

染井は仕方なくという感じで返事をした。

少し歪んでる気もするけど、こいつもまだまだこれからだ。

きっとこれから分かっていく。個人だけではなく、チームというものを。

 

「ではでは!!万歳三唱と行きましょうか!!」

ヒロが大声でそう言ったが五月先生が「調子に乗るな」と太い声で言うと、すぐに大人しくなった。

志田先生が場を締める。

「えー、今日は史上初、四人もの選手が都大会進出を決めた。どっちかというと短距離より長距離の活躍が多く、私はすこぶる不満である。なにしろ短距離はこの試合で引退する訳だからな。少し長距離の順位を分けてほしいくらいだ」

なんだか嫌な演説だ。

「しかしまあ、都大会進出を決めた二本松・大塚・雪沢・名高の四名にはやはりおめでとうと言いたい。それに他の選手たちも負けはしたが成長が感じられたり、気迫が感じられたりしてすごいいい大会だった。なので私は出場した選手全員によくやったと言いたい。お疲れ様」

志田先生に続き五月先生が話す。

「いや、すっごく良かった。感動したよ。感動させる走り、投げ、跳びってなかなか出来ないもんだぜ。それが出来たおまえらはスゴイ。でも油断せずにこれからも頑張ってくれ」

「では万歳三唱を・・・」

ヒロがまた言うが無視して部長の雪沢先輩が挨拶をして解散となった。

どうにも染井とヒロこと好野の桜コンビには疲れる。

 

 

翌週、駒沢競技場で高校総体・東京都大会が開かれた。

二本松ゆりえ先輩は決勝で惜しくも敗退。涙を流しつつも「やり尽くした」と言い、引退。短距離三年生はこの大会で全員が引退した。

未華は爆走を見せたものの順位的には平凡で敗退したが「都大会はレベルが違う!」などと興奮して語り、「来年はもっと上に行くけどね」なんて笑っていた。

雪沢先輩も同じく順位的には平凡で敗退。「楽しかった」と涙声で言った後、「秋に向けて頑張ろう」と意欲を見せていた。長距離は秋に駅伝があるので引退はしない。

名高は松梨付属の赤沢を追いかけてかなり上位で走っていたが惜しくも敗退。名高という名前を都大会で売った感じだった。

 

 

こうして季節は流れていく。

気がつけば校門の桜も全てが新緑となり、落ちていた桜の花びらも風と共に消えて行った。

その桜の木の下には花壇があり、そこの紫陽花がもうすぐ咲くという話題が出た頃、ぼくは衝撃の再会を果たす。

その再会は・・・今年のぼくの運命を大きく動かす事となるのだった。

 

 

空の下で 桜の部 END

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2009年5月14日 (木)

桜の部、描き終わりましたー!

桜の部の連載が終わりました。

 

桜の部と銘打っているので話の中にも桜の話が盛り込まれてますが、要は季節分けする際に分かりやすい花の名前にしたかっただけです。

これからは紫陽花(梅雨)の部になりますしね。今年は花です。

 

 

英太達も二年生になり、ついに後輩まで登場しました。

実は、後輩は登場直前まで名前が決まっていなくて、更新が滞りそうになりました。

ギリギリで決まった名前が「ソメイ」と「ヨシノ」で桜コンビ・・・。

「染井」という漢字はすぐに決まりましたけど、ヨシノの漢字がなかなか決まらず。

「吉野」でも良かったんですが、僕が読んでるオンライン小説にこの名前の人物がいるのでやめて「好野」にしたら、遠めに見ると「牧野」と「好野」が似ている!うぎゃ!

・・・という事で好野博一はあだ名のヒロになりました・・・。桜は?!

名前って難しいね。

 

でも4月はかなり休みが多かったので、一気に巻き返して連載は続きます。

 

今回は久し振りに試合の描写がかなり多かったです。駅伝以来でしょうかね。

周回遅れって・・・きっと嫌な気持ちになるんでしょうね。

 

 

最近、少し迷ってるのが「今の書き方のままでいいか?」です。

基本的にブログの形をとっているので文章に段落とかは設定しないで始めたのが去年の二月でした。

今のオンライン小説の主流はキチンと段落もつける形な訳ですけど、今さら直すのも何だか変だし・・・的な感じで、直した部分といえば言葉のカギカッコ内を「。」で終わりにするのを辞めたくらいです。

次回作があれば段落つけそうですが、連載開始時には「ブログとして読みやすく!」としか考えてなかったので、今の形になってます。

どうでしょうかね? 難しいところですが・・・

第2シーズンに入って、一日の平均アクセス数がけっこう上がったので、逆にこういうポイントが悩む訳ですよ。

 

 

さてさて、次は紫陽花の部です。

今回は短い予定ですが、だんだんと第2シーズンの山場に関わる展開になってきます。

 

頑張って書いていきますので、これからもヨロシクお願いします!!

ヨシ!気合入れていくぞー!!

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2009年5月15日 (金)

空の下で ~桜~  目次

 

桜の部全編

・・・勝つためだけに走るんじゃない。みんなで駆け抜けた一年間を確かめるために走るんだ。 

二年生になる英太たちの新たなる戦いが始まる!

 

1.遠くまで「前編」

2.遠くまで「中編」

3.遠くまで「後編」

 

4.春の嵐「前編」

5.春の嵐「後編」

 

6.開花「前編」

7.開花「中編」

8.開花「後編」

 

9.ソメイヨシノ(その1)

10.ソメイヨシノ(その2)

11.ソメイヨシノ(その3)

12.ソメイヨシノ(その4)

13.ソメイヨシノ(その5)

14.ソメイヨシノ(その6)

15.ソメイヨシノ(その7)

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2009年5月18日 (月)

空の下で ~紫陽花~  目次

 

物語は動き出す。ゆっくりと・・・しかし確実に。 

小雨の中、英太はある人物と再会する。それが英太の今年の運命を左右する・・・

紫陽花の部 全編

 

1.小雨の遭遇「前編」

2.小雨の遭遇「後編」

3.先輩(その1)

4.先輩(その2)

5.先輩(その3)

6.先輩(その4)

7.先輩(その5)

8.ふたり「前編」

9.ふたり「中編」

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空の下で-紫陽花(1) 小雨の遭遇「前編」

空の下で 2ndseason-3

紫陽花の部

昼休みの教室の窓際。机を二つくっつけて、ぼくと剛塚はお弁当を食べていた。

いや、剛塚のはお弁当ではない。ものすごく大きなおむすび三つだ。

豪快にガブリと食いつく剛塚は、おむすびの食べ方ひとつとっても男らしい。

「おいしそうだね」

僕が母親が作ってくれたお弁当を食べながら聞くと剛塚は「メシは米に限るな」と、少しズレた答えをよこした。

「かもね」などと適当な返事をして窓から外を見ると、いつの間にか小雨が降っていて、校庭の土が濃い茶色に変化していた。

「あー、今日は部活休みでよかったね。練習だったらまた廊下走りかトレーニングルームで筋トレだったよ」

「いいじゃねーか筋トレ。オレは好きだぜ」

言いながら剛塚は力こぶを作ってみせた。これで殴られたら失神は間違いない。

「それに英太、もっと筋トレした方がいいぜ。アップダウンのコースで明らかに遅くなるじゃねーかよ。高尾山とかはノロマだったしよ」

「う、うん。そうなんだよね」

剛塚の言葉は乱暴だが指摘は正しい。

ぼくはアップダウンのコースでは極端に遅い。言われた通り、筋肉が足りないんだ。

今は競技場で行うレースの時期だからいいけど、秋・冬は駅伝やロードレース大会などのアップダウンのある大会が多いので、それまでには筋肉をもっとつけた方がいいと、五月先生にも言われていた。

「そういやよ。安西からメールが来たぜ」

唐突に剛塚がそう言った。

「安西の野郎。中学の時の友達の誰かにオレのアドレス聞いたらしくてよ。いきなりメールしてきやがった」

迷惑がってる言葉のわりには少し嬉しそうな顔してる。 

「なんて書いてあったの?」

「あいつ、本当に田舎に引っ越してぶどう園を手伝ってるらしくてよ。なんか、やりがいがあるって書いてあった。あんな暴力男にもやりがいなんて言葉あるんだな」

暴力男って・・・その安西と一緒に過去に陸上部を襲撃した剛塚のセリフとは思えない。 

 

 

総体都大会の後、しばらくは基本的な練習が続いていたが、五月の下旬からはインターバル走(全力走を1キロ走り、ジョックで400m走り、また1キロ全力走・・・など)のスピード強化練習が始まった。

ぼくらは長い5000mや3000mでは都大会行きを決めたりしたが、短めの1500mは惨敗したため、もう少しスピードが必要だろうという五月先生の方針で、梅雨が終わるまではスピード練習をメインにするという事だった。

この練習でも名高と雪沢先輩が早かったが、牧野がなかなかの好走をみせていて、ぼくは勝てなかった。

もちろん他にも色んな練習をするんだけど、何をしてもヒロは遅かった。

「今日こそは行きますぜー!」

とか毎回豪語して前半は飛ばすんだけど、「え?もう遅れるの?」という早いタイミングでペースが落ちていく。

「もっと根性見せろ!」と五月先生に言われると、ヒロは何故かメガネをはずして

「オレを殴って下さい!気合を注入して下さい!」

とか叫んだりして、実際に五月先生が頬に平手打ちをすると「うぎゃー!」とか言って倒れたあげく、コールドスプレーを頬に吹きつけ、低温ヤケドするという大騒ぎになった。

 

困った男はもう一人いる。

染井は実力こそ大山と剛塚を抜き、穴川先輩に匹敵するものを持っていたが、とにかくやる気が見えない。

タイムトライアルは早い。確かに早くて、少し油断するとぼくや牧野にも迫る勢いだ。

でもジョックやフォーム練習や筋トレなどではやる気を見せなくて、疲れてもないのにみんなから遅れていったりする。

やる気の無いヤツが一人でもいると他のみんなに伝染する事がある。

そう言って雪沢先輩がよく説教をしているがイマイチ改善されていない。

「相原。オレが説教してもあんまり効果が無い。ここは一つ、染井に慕われてそうな相原が面倒を見てやってくれ」

などと雪沢先輩に言われたものの慕われてるのかどうかもよくわからん。

まあ確かに総体支部予選の時、染井にすごい絶賛されたけど。

あの時の染井は「練習もちゃんとやる」と言っていたんだけど・・・。

どうやら競争形式の練習だけ「ちゃんとやる」様だ。 

6月の頭には多摩地区の小さな大会に出た。

高校生だけじゃなくて、一般市民も参加できる大会で、1500mと5000mに全員が参加した。

名高と雪沢先輩は相変わらず早くて相手にならなかった。

1500mでは牧野が。5000mではぼくが部内3位になった。

5000mに関して言えば穴川先輩と染井が同着だった。染井はやはり早い。

この大会ではまたも内村一志と同レースになり、今度は1500mでも5000mでも内村が勝った。

これで総体支部予選から続けての3連敗。内村の甲高い笑い声がゴールに響いた。

あいつ・・・なんで急に早くなったんだ・・・。

 

そんなスッキリしない気分が続いていた6月10日。

天気の方もスッキリしてなくて、小雨が降る中ぼくは透明なビニール傘をさして、帰るために校庭の脇を校門の方へ歩いていた。

すると小雨の中を練習着を濡らしながら柏木直人が走ってきた。

「よ!英太!」

「あ、柏木。どうしたの?」

「雨なのに練習なんだよー。サッカーは辛い!」

辛いってセリフなのに楽しそうな柏木。

「でさでさ。早川舞・・・新しい彼氏出来たっぽい?」

ああ、そんな事を調べてなんてずいぶん前に言われてたな。スッカリ忘れてたよ。

「んー。わかんないなあ・・・いない気がするけど」

「そ、そうか」

急に真顔になる柏木。一体何を考えているのか・・・。お前はくるみが気になるんだろうが。

「まあいいや。また調べてくれよ」

「えー、面倒だなあ・・・」

「頼むって!今度どら焼き奢るから」

「いや、別にどら焼き好物じゃないし・・・」

「マジで?信じられねぇ・・・」

ナニコノ会話・・・

「そういや、昨日、若井さんとメアド交換しちゃった!赤外線で」

「なに?」

なんで柏木がくるみのメアドを・・・。完全に狙ってるじゃんか!

「これで次のステップに進めそうだよー。ドキドキしてきた!」

「つ、次のステップって・・・」

「まあいいや、またな!」

爽やかにそう言い残して柏木は走り去った。小雨の中、楽しそうに。

 

なんだよあいつは!!

頭に来ながら一人で駅まで歩く。

電車が乗ってもムカツイたままだったので、ちょっとウサ晴らしに多摩センター駅まで行って、雑貨屋とか本屋とかをうろついた。

なんで、よりによってくるみと仲良くなろうとするんだ!他のコにしてくれよ!

不安とイライラが収まらず、仕方なく帰ろうとして本屋を出た時だった。

ビニール傘を差して前を見ると、淡いピンクの傘を差している女子高生と目があった。

少しだけ茶色のショートボブ。童顔なんだけど強い意志が感じられる大きな眼。まるで淡雪のような白い透明な肌。

見た瞬間、全身に電撃が走ったかのように衝撃を受けた。

心臓の鼓動が早くなり、呼吸は一瞬止まった。

そのコはぼくを見て言った。

「あれ?相原君?」

一度止まった呼吸をなんとか直して、ぼくはそのコの名を呼んだ。

「は・・・長谷川さん?」 

ぼくが中学の時に好きだった人の名を。

 

 

物語は動き出す。

ゆっくりと・・・しかし確実に。

 

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2009年5月21日 (木)

空の下で-紫陽花(2) 小雨の遭遇「後編」

考えられない出来事ではなかった。

同じ中学に通っていた人との再会なんて、引っ越していなければ当然の様にある話だ。

なのに一度も考えた事もなかった。

中学の時に好きだった人との再会なんて出来事は。

 

 

ぼくの初恋は中学二年の時だ。

それまでも気になる子というのはいたけど「好きだ」と初めて思ったのは中学二年のクラス換えで同じ教室になった長谷川麻友さんだ。

少し大人めいた雰囲気にすぐに惹かれた。

長谷川さんは静かな人だった。

休み時間は何か小説とかを読んですごしているし、友達と大笑いする様な感じでもなかった。

かと言って友達がいないという訳ではなく、何人かの女子グループの中に存在していた。

勉強も出来るし、見た目もかわいいしで、男子からも人気があった。

何人かの男子がデートに誘ったり、告白したなんて噂も聞いたけど、誰かと付き合ってるという話は聞かなかった。

 

ぼくは三年生になる頃には長谷川さんと会話出来る様になっていた。

近くの席になった。それだけの理由で思い切って話かけたのを覚えている。

「吹奏楽やってるんだよね」

長谷川さんは小さい頃ピアノを習っていたらしくて、楽器やクラシック曲の話をキッカケに雑談できるようになったんだ。

三年の夏前には、たまにだけど一緒に帰る事もあった。

ただ、家の方角が同じ・・・。だけど、一緒にいる時間が楽しくて仕方なかった。

でも、それを見ていた内村一志が余計な事を言ったのだ。

 

「相原ってお前の事好きらしいぜ」

内村が言ったこの言葉をキッカケにぼくと長谷川さんは互いに話しかけづらくなった。

そうしてギコチナイ会話しか出来なくなったけど、卒業式の少し前に一応告白っぽいものはした。

「違う高校行っても・・・長谷川さんと一緒にいたいな・・・」

そんなぼくの言葉に長谷川さんは三分以上も考えてから答えた。

「ごめん、わからないよ。先の事は・・・」

 

それから二度と長谷川さんと会う事はなかった。

会う事も無いと思っていたし、去年の秋にはくるみっていう大好きな人が出来て、長谷川さんの名前は試合の時に内村の姿を見る時しか思いださなくなっていた。

それが、まさか、こんな突然に再開するなんて・・・。

 

 

「やっぱり相原君だ」

落ち着いた低音の声。久しぶりに聞くこの声を聞いてぼくも声を出した。

「長谷川さん・・・」

小雨の中、傘を差しながら立つ二人。長谷川さんはぼくの顔を大きな眼でのぞいた。

「なんか・・・スマートになったね」

「え?ぼくが?そうかな・・・」

傘を持ってない方の手の指で鼻をかきながら何かを考える表情の長谷川さん。

ああ、この姿は中学の時のままだ。制服は変わったけどクセは変わってない。

「なんかね・・・スラっとして・・・、スポーツマンっぽくなった。なんかやってるの?」

ややあってそう言われた。この独特の間も前と同じだ。

「うん、今、陸上やってるんだ。だからちょっと痩せたかも」

「陸上?・・・足、早いんだっけ」

「うーん。少しは・・・。ていうか長距離だからそんなに早くはないかも」

「長距離?・・・って長く走る事だよね。そうか・・・相原君、吹奏楽辞めたんだね」

何故か寂しそうな表情をする長谷川さん。また鼻をかいて何か言葉を探している。

ぼくも次の言葉が出てこない。やっぱり会話はぎこちないままだ。

「えーと、長谷川さんってどこの高校行ってるんだっけ」

「松梨付属高校」

マツナシ?マツナシって、陸上の強豪の松梨か!

「松梨かあ。あそこ陸上強いんだよね」

「そうなの?私、わからないや。運動部の事は・・・」

また会話が途切れる。ここまでだ。やっぱり、昔みたいに雑談は出来ないや。

「じゃあまたね。どっかで見かけたら声かけてね」

もう少し話したかったけど、ぼくはそう言ってその場を去ろうとした。

すると長谷川さんが「あ、ちょっと待って」と言った。

高校指定のカバンの中から携帯電話を取り出して、ぼくに向けた。

「これも何かの縁だし・・・アドレス交換しようよ」

縁?アドレス交換?

「私が赤外線送信するよ。受信してもらっていい?」

ぼくはポケットから携帯電話を取り出して赤外線受信の設定をする。

何故か手が震えているのがわかった。

お互い、電話番号とメールアドレスを交換すると長谷川さんはポツリと言った。

「今度、メールするね」

「・・・・うん。ちゃんと返信するよ」

そうしてぼくらは別れた。

今度の別れは、中学の時とは違い・・・互いが電話という手段で繋がったままになった。

 

 

呆然としたまま家に帰った。

・・・今度、メールするね。

長谷川さんはそう言っていた。

ぼくは何度も携帯の電話帳に『長谷川麻友』の名前があるのを確認してしまった。

カーソルを動かし『若井くるみ』の所でカーソルを止める。

なんだか妙にくるみと話したくなったけれど、電話をかける事は出来なかった。

 

 

空の下で 紫陽花の部「小雨の遭遇」 END

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2009年5月25日 (月)

空の下で-紫陽花(3) 先輩(その1)

『英太、大きな試合に出たんだってな。どうだったよ』

電話でそう言う父親の声は嬉しそうだったが、大きな試合ってのは総体予選の事だろうから、もう一ヶ月以上前の話だ。

家の電話を耳に当てたままキッチンにいる母親をチラリと見ると、大根を凄いスピードで切っていた。シャカシャカシャカ。

『聞いてるのか?英太』

「あ、うん」

『試合はどうだったんだ?楽しかったか?』

「楽しかったよ。かなりキツかったけど」

総体予選で内村一志に負けた事を思い出して、少し悔しい思いが蘇る。

「お父さんはどうなの?山梨の仕事は楽しいの?」

『そうだなー。楽しいかもな。山梨はフルーツ王国だからな。果実酒作りのために色んな農家の人に会いに行くんだが、田舎の人ってのは面白い人が多くてな。楽しいかもな』

楽しいかも・・・ではなくて、楽しそうだ。

仕事って楽しいと感じる人もいるんだな、と子供ながらに思う。

『英太も学校、楽しめよ』

「もちろん」

 

 

梅雨に入ってから体育の授業は体育館を使ってのバスケになった。

日によってはクラス対抗の試合になったりもする。

この日もゲーム形式だった。

ジャージでコートに入り、対戦相手のクラスのメンバーを見て「これは負けるな」と思った。

相手の5人の中に、柏木直人とバスケ部の君島がいたからだ。

君島がニヤリとしながら言う。

「やっと相原にマラソン大会の借りを返す時が来たな」

「な、なにおー!」

君島はさすがバスケ部という感じで、物凄いスピーディーな動きで攻めてくる。

ぼくは一生懸命ディフェンスに回ったが、君島のフェイントに完全に引っ掛かりまくる。

さらにスポーツ万能の柏木も恐ろしく早く動き回り、点を取りまくる。

ぼくのチームはほとんど柏木と君島だけにやられた。

二人と他の三人は満面の笑みでハイタッチなんかしてた。

 

ぼくのチームの試合が終わり、体育館のハジに座ると、すぐ隣に柏木が座った。

「どうだ。すげーだろ」

柏木はニカッと笑って話しかけてきた。

「すごいよ。君島はもちろんだけど、柏木って球技全部すごいよね」

「ボールが好きなんだ」

近くに転がってるバスケットボールを見ながらつぶやく柏木。

「親父が熱狂的なJリーグファンでさ。あ、横浜がひいきなんだけど。それでオレも幼稚園からサッカーやってて。でも小学校ではなんか反発してバスケとか野球とかやってさ。でも中学からはサッカー一筋なんだけど」

柏木はいきなり自分史の概略を説明しだした。

「サッカーが好きなんだけど、でもやっぱボールが好きなんだよ」

「へえ・・・」

一体何の話だかよくわかんないけど、柏木がサッカーが好きなのはよくわかる。

「英太は走るの好きなの?」

ぼくの足を少し見て聞いてきた。

「うん、まあね。高校からだけどさ。なんとなく始めたんだけど・・・今は走るの好きだな」

「そっか。そうだよね」

何か難しい顔をする柏木は、少し遠くを見ながら黙る。

ぼくらの前では次のゲームが行われていて、剛塚がオフェンスでファウルを取られて体育の先生に文句を言っている。

「早川ってさ」

沈黙は柏木が破った。

「早川って走るの好きなのかな」

柏木のこの質問にはぼくにも答えられなかった。

早川舞は入部当初から「ダイエットのために走る」と公言していて、練習でも試合でもマイペースに走っていた。

すぐに辞めるかと思っていたけど、二年生の六月になった今でも辞める気配は全く無く、毎日練習に参加している。

「ぼくにもよくわからないよ」

「オレさ。あいつにヒドイ事言ったんだよ」

柏木は眉間に皺を寄せながら言った。

「ヒドイ事?」

「ああ。まだオレと早川が付き合ってる時にさ。早川がなんとなく走ってるのを見てさ。もっと一生懸命やれよって。オレは一生懸命なコが好きなんだよって」

なんか早川から聞いた事のある話だ。

「そしたらさ、じゃあ一生懸命なコと付き合えばいいじゃんって言われてさ・・・。なんか頭来てケンカして別れちゃったよ」

目の前ではまた剛塚がファウル取られて文句を言ってる。

そんな事にはかまわず、ぼくは聞きたい事を聞いた。

「柏木ってさ・・・若井くるみの事、好きなの?」

柏木は目を大きくして驚いた。

「え・・?くるみの事?? な、なんで?」

少し慌てた様子の柏木を見て不安が大きくなる。

「いや、ほら・・・メアド交換とかしてたし・・・やたら話しかけてるし・・・それに・・・くるみって、一生懸命だし・・・」

「ああ、それでか・・・」

ぼくは内心慌てて問いただす。慌てていて早口になってるのに気づくが止められない。

「ど、どうなの?くるみが好きなの?」

「オレは・・・くるみの事・・・」

そこでピーという大きな笛の音が響いた。

「全員集合!!」

体育教師の号令で会話は打ち消された。

「あ、終わりだ。行こうぜ英太」

柏木は何故かホッとした表情で走りだした。

 

 

その日、部活は休みだったのだけど、ぼくと牧野は雪沢先輩に呼び出されて部室に行った。

牧野と二人で部室に入ると、雪沢先輩はメモをぼくに渡した。

そこには5日間分の練習メニューが書かれていた。

「なんですか?コレ?」

ぼくが聞くと雪沢先輩は険しい顔をして言った。

「なんですかって・・・練習メニューだよ。見ればわかるだろ」

「え、あ、はい」

「明日から三年生は修学旅行だからさ。五月先生も三年の担任だから引率でいなくなるからさ。相原と牧野でちゃんと仕切って練習しとけよ」

「え?!しゅ、修学旅行?!」

ぼくが驚いて叫ぶと、牧野も大声を出す。

「み、土産はどんな物になるんですか!?」

「土産の話はいいから。オレらがいない間、ちゃんとやっとけよ」

雪沢先輩はそう言って部室から出ていこうとするので、ぼくは呼びとめた。

「でも・・・どう仕切ったらいいんだか・・・」

すると雪沢先輩は一言で突き放した。

「お前らももう先輩だろ。自分で考えろ」

そう言って雪沢先輩は部室を出ていった。

呆然とするぼくと牧野のいる部室に、マヌケな電子音が響いた。

それはぼくの携帯電話のメール音だった。

「空気読めない携帯だな」

「悪かったな」

メールを開くと、こう書いてあった。

『初メールします。 せっかくアドレス交換したからメールしてみました。英太くんもいつでもメールをください』

それは長谷川麻友さんからのメールだった。

 

次々と起こる出来事に頭が混乱してきていた。

 

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2009年5月28日 (木)

空の下で-紫陽花(4) 先輩(その2)

今日から四日間は三年生が修学旅行で留守だ。

今年の修学旅行は北海道へ行くらしい。たった四日で北海道なんてずいぶんと強行スケジュールだと穴川先輩が嘆いていたが、行けるだけでも羨ましい。

ぼくらは来年まで待たなくては修学旅行なんてないんだし。

旅行ってワクワクするんだよね。子供っぽいかもしれないけどさ。

旅行中にくるみと仲良くなっちゃったりなんかしてさあ。

それで「東京帰ったら二人でどっか行こうよ」なんて言われたりしたいよね。

「二人だけの秘密だよ」みたいな感じでさ。

あ、やばい、久々に妄想気味だ。

「相原先輩、ニヤニヤしてないで練習メニューを発表してくださいよ」

染井の冷ややかな声で現実に帰ってきた。

今、ぼくは部室にいて、今日の練習を発表するところだったんだ。

「なんなんすか今日の練習は?ニヤニヤするほど楽なんですか?」

染井がつまらなそうな顔で聞いてくるので、ぼくは咳ばらいをしてから答えた。

「えーと、インターバル走だな」

「普通ー」

「ちなみに明日は80分ジョックと坂道ダッシュ。明後日は60分ジョックと3000mのトライアル」

「へえ、明後日トライアルするんすか。楽しみっすね」

染井がやたらと嬉しそうな声を上げ、剛塚と大山は難しい顔をした。

 

部室を出て校庭に到着すると、全員で準備体操とストレッチをする。

ストレッチは二人ひと組でやるのが決まりで、いつも牧野とやるのだけど、今日は大山が「一緒にやろう」と言うので大山と組んだ。

「なんだよ裏切りかよ。嫉妬しちゃうなー」

牧野はぼくに笑ってそう言い、剛塚と組んだ。

ストレッチをしていると大山が小さな声で話しかけてきた。

「英太くん、今日部活の後ってヒマ?」

「今日?うん、ヒマだよ」

「ホント?じゃあ二人でどっか寄って行かない?」

「どっか?」

「うん、ちょっと話したい事があって」

大山の表情が若干暗かったので即答する。

「いいよ。駅前でバーガーでも食べよう」

「ほんと?ありがとう。二人だけの秘密だよ」

くるみに言われたいセリフを大山に言われてしまった。

 

今日のインターバル走は1000m全力で走り、400mをゆっくりとジョックするというのを5セット繰り返した。

5回とも名高・牧野・ぼくという上位3人は同じだったけれど、1回目だけは染井がぼくに追いつく勢いを見せていた。

「絶対追い抜いてみせますから」

練習後、染井はぼくにそう言った。

ぼくが困った顔をすると牧野が横から口を出した。

「勝つ気でやるのはいいけどさ。チーム内で敵意むき出しな発言はやめとけよ。仲間なんだから」

「仲間?」

染井は子供みたいに口をとんがらせてから、ヒロの方を見た。

ヒロは「コンチクショー!!」とか騒いで地面を蹴り飛ばしている。

今日も5回とも圧倒的なビリだったからだろう。まだ大山の足元にも及ばない。 

「ヒロみたいなノロマでも仲間ですか?」

「ちょ・・・おい染井」

ぼくは少し頭に来て、強い口調になりそうになったところを牧野が手で制止した。

「牧野?」

牧野はヒロを見て、続いて染井を見てから言った。

「どう見ても仲間だろ」

染井が何か言おうとしたところで牧野が大声を出した。

「なにしろ!!」

驚いて染井はビクリと肩を震わせた。

ぼくはというと飛び上がってしまった。ダサイ・・・。

「な、なにしろ・・・なんですか」

「同じジャージ着てる。陸上部の。つまり仲間だ」

確かにぼくらは全員同じジャージを着ている。チームジャージだ。

「そのくらいわかれ」

そう言って牧野は歩いて行った。

染井は悩む様な顔を見せて苦しそうな声で「仲間って・・・」とつぶやいた。

 

 

練習後、約束した通りに駅前のハンバーガーショップに行くと、すでに大山が一番高いハンバーガーセットを食べていた。

「あ、英太くん。おいしいよコレ」

よく見るとハンバーガーセットにプラスしてナゲットもテーブルに置いてあった。

「よく食べる子だねー」

と言ってからぼくはシェイクを注文した。安くてうまくて練習後の体に沁み入る。気がする。

小さな二人掛けテーブルに向き合う形で陣取る。

「本当は若井さんと来たかった?」

大山にそんな事を言われ、シェイクがストローを通してコップに戻る。

「うわ、汚いなあ、英太くん」

「お、大山が変な事を言うからだよ!」

「ご、ごめん。ちょっと聞いてみたかっただけ」

丸顔をさらに丸くして笑う大山。でも、この一年間で顔はだいぶ小さくなった。

毎日こんなに食べてるのに大山は少しずつ痩せてきている。

「英太くんって若井さんの事が好きなんだろうなーと思って。ごめん、からかって」

「え、見ててわかるの?」

「わかるよ。バレバレだよ。若井さんと話す時の英太くんの笑顔って他の時と違うもん」

そんな事を言われると恥ずかしくなる。

「そ、それより・・・話したい事って何だよ」

ぼくは話題を変えるためにイキナリ本題に入った。

ふっと、大山の表情が暗くなる。

「僕さ。先輩としてどうなんだろう?」

「は?先輩?」

「そう。先輩として。こんなに遅い先輩って、居てもいいのかな。それとも・・・」

大山がこんな暗い声を出すのは、去年の今頃、剛塚にカバン持ちをされていた時以来だ。その暗い声でこう言う。

「辞めた方がいいのかな」

 

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