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2009年7月 2日 (木)

空の下で-向日葵(2) 夏の行方(その1)

いつもより2時間以上も早く起きて、自分の部屋のカーテンを開けると、すでに空が明るくなりつつあるところだった。

夏というのはこんなに早く一日が目覚めるものなんだなあと思う。

フラフラとしながら少し冷たいシャワーを浴びて、陸上部の空色のジャージのズボンを穿き、大きなイラスト入りの白いTシャツを上に着る。

昨日のうちに玄関に準備しておいた、合宿に持って行く大きなドラムバックの中身を確認する。

着替え、タオル類、水筒、クツ、読む本、などなど。

確認していると母親が自分の部屋から出てきた。

「英太、はやいね。もう行くの?」

大あくびをしながら母親がそう言う。

「うん、そろそろ行くや」

「朝ゴハンは?」

「うーん、いいや。朝早すぎて食べる気にならないし・・・」

「じゃあ、駅までの間にコレ食べなさい」

母親はバナナを差しだしてきた。

「これなら食べれるでしょ?」

バナナを受け取り、カバンを持ちクツを履いた。

「合宿、ドコでやるんだっけ?」

「伊香保」

「伊香保ねぇ。群馬県だね。お土産よろしくね」

「遊びに行くんじゃないんだってば・・・。まあいいや、行ってきます」

「いってらっしゃい」

低いテンションでそう見送られて、ぼくは家を出た。

 

 

家から最寄の堀之内駅までは徒歩15分くらいだ。

途中、吹奏楽部の日比谷の家の前を通る。

まだ朝5時30分。さすがに日比谷の騒がしい声は聞こえなかった。

ぼくは歩きながらバナナを頬張った。

平日だから朝の早いサラリーマンやOLさんが少しいるけど、構わずにバナナを食べる。

うん、エネルギーになりそうだ。

 

 

堀之内駅のホームでバナナを食べ切り、下り電車に乗る。

わずか二駅で、多摩境駅だ。

多摩境駅を降りて学校へは大通りを15分ほど歩くのだけど、前の方に大山が見えたので走って追いついた。

「おはよー大山!」

後ろから声をかけたので大山は体をビクッと震わせて振り向いた。

「うわあ、ビックリしたなあ。朝から元気だね英太くん」

「バナナだったからね」

「え?バナナ?何が?」

大山は痩せたなあと思う。

入部当初は完全にぽっちゃり体型だった。

白い肌のぽっちゃり体型からか、クラスでは「白ブタ」なんてカゲ口をするヤツを見た事がある。

いや、最初は陸上部の中にさえそういう事を言うヤツもいた。先輩にもいた。

しかし辛い練習をしていく中で、大山は少しずつ痩せていき、健康的な肌の色になり、カゲ口をしていた部員は練習についてこれなくなり退部していった。

根性があったのは、そういうカゲ口をするヤツらより大山の方だったんだ。

ちなみにカゲ口をしていた連中の中で、生き残っているのは穴川先輩と早川舞だ。

口の悪い人達だけど、二人とも大山の事が嫌いという訳じゃなさそうだ。

大山の努力を見てカゲ口も言わなくなった。

「英太くん?英太くん?」

大山がぼくの肩を叩きながら呼びかけて来て、ぼくは「ん?」と答えた。

「なんかボーっとしてたよ?大丈夫?」

「いや、なんか考え事してた」

「あ・・・くるみさんの事を考えてた?」

何故か赤い顔をして聞いてくる大山。

「ち、違うって。大山の事だよ」

「え・・・僕、そういう趣味は無いんだけど・・・」

「アホ!!」

 

 

高校に到着すると校門のところにマイクロバスが一台止まっていた。

短距離顧問の志田先生が熱心にフロントガラスを磨いている。

その周りには短距離も中距離も長距離も投擲のメンバーも集まりつつあった。

集合の6時30分になり、部員が全員集まると部長の雪沢先輩が号令をかけた。

「集合ー!!」

集まった部員の前の志田先生と五月先生が並ぶ。

その横には雪沢先輩。それにもう引退していた短距離3年生の二本松ゆりえ先輩もいた。

あれ?と思っていると志田先生が説明をした。

「じゃあこれから伊香保に向かうけどな。今回は長距離は五月先生と雪沢に仕切ってもらう。で、短距離はワタシと、引退したけど手伝ってくれるという二本松が仕切る」

言われて二本松先輩は「よろしくね」とお辞儀をした。

「ちなみに全体の責任者は、志田、ワタシダ」

志田先生はここで間を置いた。

今のがギャグだとは気づくまで5秒かかった。

一人爆笑したヒロは何故か志田先生に引っぱたかれた。

「えー?!なんでー?!」

ここで五月先生が話す。

「それと今回は知っての通り、他校との合同合宿だ。百草高校と葉桜高校に迷惑をかけないようにな!それと他校の生徒との恋愛も禁止だからな!」

「えー?!」

何人かの部員がブーイングをすると五月先生が「恋愛じゃなく走りに燃えろ」と言った。

その視線が牧野に向いていたので牧野は真っ赤になって「オレは一途だ!」と訳のわからん反論をしていた。

 

 

マイクロバスに部員全員が乗り込む。

運転手は志田先生。五月先生は助手席に乗り込んだ。

左右2席ずつのバスに、ぼくはたくみと同席になった。

たくみは座るなり質問をしてきた。

「牧野のヤツ、この合宿でコクるんだって?」

「よく知ってるね」

「オレのネットワークをナメるなよ。英太の好きな人も知ってるぜ?」

「嫌なヤツ・・・」

バスは走りだした。

東京を出て、北へ北へ、群馬県伊香保温泉街へ。

 

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