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2009年7月 6日 (月)

空の下で-向日葵(3) 夏の行方(その2)

マイクロバスは全ての窓を全開にしたまま多摩境高校を出発した。

今回の、夏の三校合同合宿は3泊4日で群馬県伊香保温泉街に宿泊する。

四日後にはこの多摩境に戻って来るのだけど、去年の合宿の辛さを思い出せば、四日間というか、長い戦いに出かける気分になる。

 

 

バスの中では志田先生が用意したMDにより80年代のナツメロをBGMとしながら、みんな和気あいあいと会話をしている。

二年生、三年生は合宿の辛さを知っているので、今のうちに楽しい時間を満喫しておこうという腹の人も多い。

そんな部員達を乗せ、バスは安全運転のまま八王子から圏央道という高速道路に入った。

さすがに高速道路で全ての窓を全開にしていると風がすごいので、窓を半開くらいにするのだけど、そうすると車内が少し暑くなるので大山は汗だくだ。

「これは・・・痩せるよ」

とか言いつつもポテチなんか食べている。しかも飲み物はソーダだし・・・。

これでも痩せていくんだから陸上部の練習がいかに走っているのかがわかる。

 

 

7月のはじめに多摩地区の小さな記録会があった。

出場制限などが無かったので、長距離チームは全員が5000mに参加した。

トップ記録は名高。次いで雪沢先輩。

そこからはだいぶ遅れて牧野・ぼく・穴川先輩・染井・剛塚・大山・ヒロという順だったのだけど、大山は春の記録会より大幅にタイムを上げていた。

全員、確実にタイムを上げている中で、一番成長していたのが大山だったので、染井なんか「ウソでしょ!?すげえ早くなってるじゃないすか・・・」などと驚いていた。

「へへ、僕もなかなかやるでしょ」と、笑顔で大山は言っていた。

 

 

バスは圏央道から関越道へと乗り換え、北へと走行していた。

見たことの無い景色が流れていく。

知らない土地に行くのって妙にワクワクするんだよね。小学生の遠足じゃあるまいし、とか思うけどさあ。

「英太、英太」

隣に座っているたくみが携帯ゲームをやるのをやめて話しかけてきた。

「ん?なに?」

「牧野、未華にコクって上手く行くと思う?」

「うーん・・・どうなんだろう。全く予想不可能」

未華は牧野の事をどう思っているのか、ぼくも知らない。

でも二人で話している時、未華も牧野もすごい楽しそうなのはよく見る。

お互いくだらない冗談を言っては叩きあってるから、知らない人が見たらカップルかと勘違いしそうなくらいだ。

「だぶん・・・うまく行くんじゃないかな」

何の確証も無い発言だ。

そうなってほしい。というぼくの希望的観測ってやつだ。

「そっかー。オレも彼女ほしいな・・・百草高校か葉桜高校にかわいいコいないかな?」

「知らないよそんなの」

「まあ、いたとしても練習ツライからそれどころじゃないかもな・・・」

 

 

埼玉県内のサービスエリアで休憩をしたところで、運転手が五月先生に代わった。

「行くぞー」と言って、バスが動き出すと、物凄い爆音のロックをかけながら高速道路を走った。

あまりの音量にみんなが耳を塞ぐ。

「ちょ・・・五月先生!!」

助手席に座る志田先生が慌てて声をかけるが、五月先生は無視したので志田先生は少しだけ音量を下げた。これなら「デカイなあ」と思うくらいだ。

「行くぜオラー!!」

五月先生は激しく咆哮してバスを進めた。でも運転は安全運転だ。

「ひゃー!!」

あまりの豹変ぶりに部員たちが驚いている中、名高だけは「いい曲かけやがるな」とか呟いていた。

 

 

五月先生の上がりすぎなテンションおかげでなのか、予定よりかだいぶ早めに群馬県に入ったが、高速を降りたところで「私が運転します」と言って志田先生が運転手に戻った。

「どうですか志田先生。私の運転は?シビれたでしょう」

五月先生は笑ってそう言ったが志田先生はシカトした。

バスは再び80年代のナツメロで伊香保へと向かった。

 

 

午前10時30分。約4時間の走行を経て、バスは群馬県伊香保温泉に到着した。

高速道路からは街道を進み、かなりの角度の登り坂を30分ほど進むと伊香保温泉だった。

途中までは山だけだったのが、急に大きなホテルや旅館などが立ち並ぶ街並みになったので少しビックリした。

去年の合宿は山奥の山荘だったので、こんなに栄えている街が合宿場所だとは想像していなかった。

街道を右に逸れ、バスは古い大きなホテルの前に広がる大駐車場に止まった。

「ここだー!!到着したぞー!」

言われてバスを降りると、思ったよりか涼しかった。

「なんか大きなホテルだねー」

同じくバスから降りてきたくるみにそう言われ、ホテルを見上げると、ホテルが7階建てだというのがわかった。

外壁は少し古くなっているようだけど、意外と立派なホテルだ。

入口には自動扉があって、その脇に置いてある黒板みたいな物に「ご予約」と書いてあり、そこに「多摩境高校陸上部様」という文字が見えた。

その横には「百草高校陸上部様」と「葉桜高校陸上部様」という文字も書いてある。

その他にも大手企業の名前などが書いてあり、このホテルは団体客に利用される場所だというのがわかった。

 

 

志田先生がチェックインの手続きをするためにホテルに入っていった。

10分ほどして志田先生が戻ってきた時、一台のマイクロバスが駐車場に入ってきた。

白い車体に小さく「都立・百草高等学校」と書いてあった。

その文字を見て、ぼくらに緊張感が漂った。

一緒に四日間を過ごすヤツらの登場だ。ぼくも体が硬くなった。

怖い先生とか生徒とかいいたらどうしよう・・・とか思っていたら、運転席からツルツル頭の太ったオッチャンが「いやーはっはっは」とか笑いながら出てきたので度肝を抜かれた。

「いやーはっはっは!志田先生、五月先生!お久しぶりですなー!今回はよろしくお願いいたしますよー!はっはっは!!」

何が面白いのか終始笑いながら挨拶する百草高校の先生・・・らしき人。

「紹介しよう!百草高校陸上部の顧問の淵野辺先生だ!!」

五月先生がそう言うと、淵野辺先生という人は「いやーはっはっは!よろしく!」と言い、ピシャンという音をたててツルツル頭を叩いた。

「おい英太、あれホントに陸上の先生か?」

牧野はそう言うけど、ぼくも「さ、さあ・・・」としか言いようが無かった。

そんな事をしている間にも、バスからは百草高校の生徒が次々と降りてくる。

その中の一人、ツンツン頭で目の細い男が雪沢先輩に話しかけてきた。

「どうも。部長の雪沢くんだよね。オレは百草高校陸上部の部長の町田です」

「あ、君が町田くん・・・。どうも、多摩境高校陸上部の部長の雪沢です。・・・何度か試合で一緒に走った事・・・あるよね?」

雪沢先輩の問いに町田さんは細い目をさらに細くして笑った。

「多分ある・・・かな。なんか見た事ある気がするし」

そんな会話をする二人の横を百草高校の女子が歩いて行く。

そのうちの一人を見て未華がぼくに囁いた。

「あそこにいるコ・・・エクボが目立つコ・・・あのコが二年生エースの古淵さんだよ。4月の総体予選で地区5位だったコだよ」

めちゃくちゃライバル心満点の声で未華がそう言った。

未華よりも早い女子・・・か。

そう思っていると、さらに一台のマイクロバスがやってきた。

その窓には秋津伸吾と内村一志の姿が見えた。

「葉桜高校のおでましか・・・」

名高が楽しそうに呟いた。

 

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