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2009年7月 9日 (木)

空の下で-向日葵(4) 夏の行方(その3)

到着したマイクロバスから葉桜高校の部員達が次々と降りてくる。

まず目についたのは内村一志だ。

「よ!英太!牧野!」

内村はニヤニヤしながらぼくらに手を振った。

「一緒に頑張ろうぜ~」

何か歌いだしそうな感じでそう言って伸びをした。

続いて気になったのは秋津伸吾だ。

ぼくらと百草高校の部員達に向かって会釈をした。

その時、名高と目があったみたいで、軽くほほ笑んだように見えた。

名高も少し楽しそうな表情を見せている。

ぼくは秋津伸吾とは直接話した事は無い。

東京多摩エリアで一番早い男・・・。ただそれだけの事しか知らない。一体どんな性格の男なのか・・・、やっぱり興味はある。

 

 

部員たちが全員降りた後、すこし高めの声が響いた。

「おー!久しぶり隆平ー!!」

運転席から30歳くらいの爽やかな男の先生が降りてきた。

・・・隆平って誰だっけ。

その先生は百草高校の淵野辺先生と、うちの志田先生に「よろしくお願いします」と言った後、五月先生のとこに行って「おひさー、隆平」と声をかけた。

すると五月先生はぼくらに向かって「紹介しよう」と言った。

「葉桜高校の陸上部顧問の真木先生だ。オレとは高校の同級生だ」

「真木です。みんな、よろしくね」

まるで20歳前後みたいな童顔の先生だ。少年のまま大人になったような感じがする。

「ちなみに真木先生は高校時代に5000mで関東大会の決勝まで行ってるんだ」

「言うなよ隆平。昔の話じゃん」

真木先生は照れ臭そうに笑った。

 

 

ホテル内部に入ると、最初に赤い絨毯のしかれた大きなロビーがあり、そこにはフロントがあったり自動販売機やUFOキャッチャーが2台あった。

静かなロビーにUFOキャッチャーからの電子音楽が響いていた。

フロントに立っている受付の人に向かってお辞儀をして、ぼくらは自分たちの部屋へと向かう。

向かった先は、7階建ての本館から一度外に出て、小さな庭を通り過ぎた先にある別館だった。

別館は2階建てで、1階には4人部屋が5つと食堂とトイレ・温泉があり、2階には大部屋が3つあるという事だった。

ぼくら男子は学校ごとに別れて2階の3部屋ある大部屋に入った。

先生たちは1階の入口近くの4人部屋で、女子は残りの小部屋に別れて入った。

 

 

ぼくら多摩境高校の男子メンバーは2階の大部屋に入ると、みんな荷物を放り出した。

畳のいぐさの香りのする広い部屋だけど何も置いてない部屋だ。テレビすら無い。

「うおー!重かったー、このドラムバッグ!3泊分はキッツイね!」

牧野はそう言ってバッグを放り投げると、大部屋の畳に寝転んだ。

「ぐお!!気持ちいい!!」

「あー!いいなー!」

そんな牧野を見て、ぼくと大山とヒロもゴロゴロと畳の上を転がった。

ヒロが興奮気味に叫ぶ。

「先輩!!レースしましょうよ!畳ゴロゴロレース!!大部屋のハジからハジまで!ビリは一位にジュース奢るってルールで!!」

あぶなく「やろうやろう!」と言おうとしたところで穴川先輩に「体力減るぞ」と言われ、やるのは止めた。

「えー!なんでやらないんですかあ!!」

あからさまに不満そうな声を出すヒロに染井は「子供かよ」と冷たい声で言った。

 

 

別館1階の食堂で昼食を摂り、いよいよ合宿最初の練習の時間になった。

短距離・中距離・投擲のメンバーは百草高校のバスに乗り込み、近くの競技場へと出発した。

ぼくら長距離メンバーだけはホテル前の大駐車場に集合だ。

長距離指導は五月先生と、葉桜高校顧問の真木先生だ。

「じゃ、真木、頼む」

五月先生に促されて真木先生は爽やかな声を出した。

「よーし、じゃあ合同合宿最初の練習をするよー!」

爽やかなのは声だけじゃない。口調も表情も爽やかだ。

「まずはね!さっき短距離のメンバーがバスで向かった、近くの競技場まで走って行く。そんな遠くないから安心してね。少しアップダウンのある道だけど20分も走れば着くから」

真木先生は腕時計をチラリと見てから話を続けた。

「ゆっくりと1キロ4分半くらいのペースで走っていこう!」

 

 

多摩境高校12人・百草高校10人・葉桜高校10人の合計32名でひと固まりになって競技場までジョックしていく。

伊香保温泉街を5分も走ると山ばかりに囲まれた二車線の道になった。

確かに多少のアップダウンはあるものの、大して疲れる事もなく競技場へと到着した。

ヒロでさえ遅れなかったのでウォーミングアップという程度の事だろう。

合宿がこんな楽な訳は無い。油断するとヤバイのは知っている。

「いやあ!ラクショーっすね!相原先輩!!」

ヒロは大声でそんな事を言う。言うのは勝手だけどぼくの名前は使わないでほしい。

 

 

競技場は山に囲まれた中に突然現れた。

一応ホームストレート側には観覧席が多少設置されているけど、古びてる印象だ。

すでに短距離チームがバックストレートで100mを走っているし、フィールドでは投擲チームがミーティングみたいなものをしていた。

ぼくらは再び真木先生の指導を仰ぐ。

「じゃあここからが本練習ね。今日は1万メートル走って、その後に1000mを3本ね」

「へえ・・・」

サラッと言うけど、かなりキツイよそれ。

「ちなみに1万メートルは、さっきと同じ4分30秒ペースでいいからね。その後は5分休憩して1000mを全部本気で」

やりたいのは疲れた後の1000mって事か・・・1万メートルってのは長い長いウォーミングアップといったところだな。

「女子は別メニューね」

 

 

1万メートルというのは競技場25週分だ。

4分30秒ペースというのはさほどキツくはないペースだ。

まあ初日だしこんなもんかと思って走ってたら、真木先生は五月先生以上にフォームの事を注意してくる。

「きみきみ!!着地の時、音出し過ぎ!」

「きみ!!腕をナナメに振らない!!余計なエネルギー消費になるから!」

「肩の力抜いてー!!」

真木先生はぼくらと一緒に走りながら次々と注意点を叫ぶ。

それでいて全く息切れなどしていない。1万メートル走り切っても爽やか笑顔で指導した。

「はいー!5分休憩!5分間歩いてー!ウォーキングねー!」

休憩と言っても座ってはいけないらしい。息切れしたまま歩かされた。

1万メートルはヒロを含めて何人かが遅れたけど、3分の2以上のメンバーは最後まで着いてきた。

 

「よーし!5分経過ー!じゃあ1000mをほぼ全力ね!!次の1000mまでの間は400m歩くからね。ここでもフォームを気を付けて」

1000mの一本目で、今回の参加メンバーの実力はだいたい判明した。

やはりダントツは秋津伸吾。フォームも乱れる事無く一位でゴールした。

続いて名高。名高は秋津に追いつこうとしてムリをして、ものすごく息切れしていた。

3位は雪沢先輩。4位は百草高校部長の町田さん。

そして5位は牧野・7位にぼくだった。

「はあ・・はあ・・・あれ?オレらってけっこう上位なんじゃね?」

牧野が嬉しそうに言うのでぼくも笑顔で答えた。

「そうだね!はあ・・・はあ・・・なんでだろ・・・。みんな手を抜いた?」

そんなぼくらを見て町田さんが呟いた。

「いや、普通に早いよ。君たち」

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