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2009年7月13日 (月)

空の下で-向日葵(5) 夏の行方(その4)

山合いの競技場とはいえ、やはり夏は夏だ。

東京で感じる様な強烈な湿度は無いけれど、日光は容赦無くぼくらの体力を奪っていく。

1万メートルを走り、1000mを3本のうち1本を走り終え、ぼくらは競技場を1周ゆっくりと歩いていた。

歩いているぼくらに日光が降り注ぎ、肌に暑さを感じた。

いや、暑さという表現は間違ってる気がする。熱さだ。暑さじゃあない。

歩いて進む1週はすぐに終わり、次の1000m全力走を始める。

「よし!気合入れていけよ!よーい・・・スタート!!」

五月先生の号令で長距離チームは走りだす。

 

 

この2本目は秋津伸吾と名高が並んでゴールした。

ぼくらが遅れてゴールすると名高に話しかける秋津の声が聞こえた。

「はあ・・・はあ・・・、やっぱ早いな。名高くん」

秋津は息切れし両手を膝につける格好で話していた。

名高はその言葉に対して「まだまだだよ」とだけ言って歩きだした。

かなり肩で息をしているのがぼくらにもわかる。ムリして・・・る?

 

 

「ラスト100mでフォームがバラバラな人ばっかだね。次はちゃんと意識して走る様にね」

真木先生はまたもフォームの指摘をし、五月先生が「よーい、ドン!!」と言って1000mの三本目は始まった。

男子長距離は今回20人いる。

3本目も20人が同時に走りだす。

ここは土の競技場なのでバタバタとした足音を響かせながら、最初の200mくらいは全員がひと固まりで走る。

しかし300mもすると集団はバラバラになり、ぼくは牧野と町田さんと3人で走る形になった。

1000mというのは長距離とは言えない距離だ。

ぼくらにとっては短い距離だ。

それだけに、いつもよりもスピードが要求される距離でもある。

ぼくは牧野よりかスピードで劣る。

必死に牧野の後を着いて行くのだけど、呼吸は乱れ、フォームは乱れ、顔も歪む。

ただ、全力で必死に走っているこの時間、嫌いじゃない。

こういう時だけは暑さすら忘れている。

ラスト100mで、一緒に走っていた町田さんがぼくを振りかえった。

すぐに前に向き直った町田さんは、ぼくと牧野より少しだけ先にゴールした。

ちなみに内村一志は3回ともぼくのひとつ後ろでゴールしていた。

 

 

「ダメだね。全然ダメ」

走り切ると、真木先生がぼくに向かってそう言った。

「きみは・・・えーと?」

「あ、多摩境高校の相原英太です」

「相原くんね。きみ、上位で走ってるのはスゴクいいんだけど、ただ走ってるだけだよ。一緒に走っていた町田くんとかを見なよ。同じくらいのタイムで走っているけど、腕ふりが最後までキチンとしてる。相原くんはスピードが上がるとすぐにフォームが乱れるから、ラストスパートであんまりスピードが上がってないよ」

ダダーっと真木先生が言うと、何故か牧野が反論した。

「でも先生・・・英太は後半に強いんですけど」

「後半に?それは長い距離になると・・・かな?」

「そうですね」

「なるほど、それは珍しいタイプだね。それならより一層腕ふりをキチンとしなくちゃ。ちゃんとフォームが維持できる様になれば、後半の伸びはさらにスゴクなるよ」

注意点を言われてはいるものの、褒められている気にもなる言葉だった。

ぼくは「はい!」と返事をして頭の中で「フォーム、フォーム」と繰り返した。

 

 

「じゃあホテルまで走って帰るよー。でも帰りは山道を走るからねー。坂道キツイよー」

真木先生の爽やかな声を聞き、メンバーは落胆したが、すぐに気合を入れなおし走り出した。

これは合宿だ。そんな簡単に一日が終わるわけは無いんだ。

 

 

競技場からホテルに帰る道はとんでもない山道だった。

アップダウンが苦手なぼくはすぐに集団から遅れてしまった。

遅れる時、内村一志に「あーらら、もう遅れんのかいな」とか言われたが、反論する元気も無かった。

 

 

やっとの思いでホテルに辿り着くと、足の力が抜けて駐車場に倒れそうになった。

フラついたところを町田さんが支えてくれた。

「だ、大丈夫?相原くん!」

細い目を思いきり見開いてぼくを心配そうに見た。

「大丈夫です。すいません、足が疲れ果てたみたいで・・・」

「うーん。そうかあ。ちょっと筋力足りないんじゃない?あのくらいの山道くらいでフラついてる様だと・・・」

「すいません・・・気合で何とかします」

そう言うと町田さんは少し怒った様な口調になった。

「気合なんかじゃ何ともならないよ」

「え・・・」

「何でも気合でクリア出来るだなんて思って走ってちゃダメだよ。そんなしょーもない根性論だけじゃこれ以上は早くはなれないよ。ちゃんと鍛えて行かないと。弱点は自分で無くしていかないと早くもなれないし、怪我だってするよ」

他の学校の部長さんにこんな真面目に怒られると思ってなかったので、ぼくはちょっと狼狽してしまう。

「いえ・・・あの・・・そうですよね」

曖昧な返事をするぼくに町田さんは言った。

「筋力が足りないって自覚してるのかな?もし自覚してるんだとしたら今のうちからちゃんと鍛えなくちゃダメだよ。鍛えないってのは・・・逃げるって事だよ」

「逃げる・・・」

「そう。相原くんはまだまだ早くなる素質がある気がするんだよね。今日しか見てないけどさ。だからもったいないなあ」

「あ・・・そうでしょうか・・・」

そこへ雪沢先輩がやってきて町田さんに言った。

「ごめん町田くん。うちのヤツにアドバイスなんかしてもらっちゃって」

「いいよいいよ雪沢くん」

細い目をさらに細くして笑う町田さん。

「でも雪沢くん。後輩の指導はちゃんと厳しくやらないとダメだよ。伸びなくなっちゃうよ」

「・・・そうだね。・・・ホントそうだよ。ありがとう町田くん。相原はもっともっと伸ばして行くよ」

妙にプレッシャーをかけられる言葉だ。

雪沢先輩は最後にぼくを向いてこう付け加えた。

「相原、お前は・・・いずれ名高クラスになってもらうからな」

それは急に上を見過ぎなんじゃ??

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