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2009年7月23日 (木)

空の下で-向日葵(8) 夏の行方(その7)

突然、心臓が跳ね上がる様なけたたましい金属音が鳴り響き、ぼくは布団から飛び起きた。

「うっわ!ビックリした!!」

大部屋にはすでに朝日が差し込んでいて明るくなっている。

さっき寝たばかりだと思ってたのに、もう起床時間の六時になったらしく、たくみの用意していた目覚まし時計が鳴り響いていた。

「うるせー!その時計!!音、デカ過ぎだ!!」

穴川先輩が耳を塞ぎながらそう言うとおり、やたらと音の大きな時計だ。

たくみは音を止めてから、一言呟いた。

「これなら一気に目が覚めますよ」

たくみは小学校と中学校を皆勤したらしい。こういう目覚まし時計を使っているからかもしれない。

 

 

二階の大部屋からホテル前の駐車場へ移動する。

他の高校のメンバーも同じように部屋から出てくるが、みんな眠そうだ。

すでに真木先生が屈伸しながら待っていて「おはよー!」と元気に声をかけてきた。

「おはようございます。真木先生、早いですね。他の先生は?」

眠そうな顔の町田さんがそう聞くと真木先生は苦笑いで「飲み過ぎたそうだ」と答えた。

五月先生と志田先生と淵野辺先生は夜中2時までお酒を飲んでいたそうで、特に淵野辺先生は酔っ払って詩吟を吟じまくったそうだ。詩吟かい・・・。

それを聞いて染井が「何しに伊香保まで来てるんだ」と呟くと、内村一志が「宴会じゃね?」とため息混じりに答えた。

 

 

駐車場に集まる理由は、短距離も長距離も一緒に、全員で朝の体操をするためだ。

真木先生いわく「朝、体を動かすと、一日いい感じになる」という曖昧な理由でだ。

その体操の後、伊香保の街を30分ほど散歩するのだという。

昨日も神社まで歩いて、往復40分ほどだったから、これは合宿の日課ってところだろう。

「お?ヒロがいねーぞ」

剛塚がそう言うとおり、駐車場にヒロが来ていなかった。

他にも百草高校と葉桜高校も、男女ともに何人かが来ていなかった。

「なんだなんだ、寝坊かよ」

内村一志がけなし口調でそう言うが、内村の顔も眠そうだ。

真木先生は「んー、そこの女子二人。それぞれの部屋に行って、寝てる連中を起こしてきてくれ」と言った。

そこの女子というのは未華とくるみだった。

そういや早川もこの場にいない。あいつ、低血圧らしいから熟睡かもな。

 

 

十分ほどかけて体操が終わった頃、未華とくるみが寝ていたメンバーを連れて帰ってきた。

ヒロや他の寝坊生徒は慌てた様子で走って来たので印象悪くは無かったけど、早川だけは歩いてやってきた。

「ノーメイクで人前に出たくないのに・・・」

戻ってきた未華とくるみにも笑顔が無かった。

未華はこの合宿中ずっとこうだ。

でも、くるみは昨日の夜、談笑してるのを見たので、どうしたのかと思って声をかけてみる。

「どうしたの?くるみも眠いの?」

「知らないよ。うるさいなあ」

ぼくの顔を見る事もなく、くるみは未華と一緒にぼくとは離れたところに歩いて行こうとするので、慌ててもう一度話しかける。

「な、なんかあった?」

するとくるみは怒った様な表情でぼくを睨んでから言った。

「うるさいってば。あっち行ってよ」

「え?え・・・?」

ぼくはどうしていいかわからず未華の方を見ると、未華はぼくの顔を見てため息をついて首を横に振った。

「ど、どういう事?」

そこで真木先生が叫んだ。

「よーし、じゃあ揃ったから散歩に出かけるぞー」

 

 

散歩中の記憶はほとんど無い。

なんでくるみの機嫌が悪くなったのか、そればかり考えていた。

早川とかヒロを起こしに行った時に何かあったのか・・・?

それとも昨日、最後にくるみを見かけた後、女子チームの間で何かモメ事でもあったんだろうか・・・?

そんな心配をしているとあっという間に散歩の時間は終わってしまった。

 

 

三泊四日の合同合宿は三日目だ。午前中は練習が休みだ。

朝食を摂り、トイレに寄ってから大部屋に戻ると、牧野は「どういう事ですかコレ!」と叫んでいた。

牧野は大部屋の畳に座り、何かの本を読んでいる。

どうやら高校陸上の記録帳の様だ。

公式大会でのタイムは、こういう記録帳に乗っている。

後ろから覗いてみると、牧野が見ているのは、春に行われた総体地区予選会の記録一覧のページらしい。

牧野の声で気になったのか大山や雪沢先輩、穴川先輩も集まってきた。

「どうしたんだよ牧野」

穴川先輩が問いかけると、牧野はあるレースの記録を指差した。

『総体 地区予選会  男子5000m決勝』と書かれたレースの記録一覧だ。

このレースにはぼくも出ている。上位には秋津伸吾や名高や雪沢先輩の名前と記録も記されていて、ぼくの名前も少し下の方に乗っていた。

「相原がけっこう頑張ってた試合だな。これがどうかしたのか」

雪沢先輩が牧野を促すと、牧野はある選手のタイムを指差して口にした。

「百草高校、町田康一。タイム19分37秒。予選落ち」

「町田康一って・・・町田さん?」

大山が聞くと牧野はうなづいた。

「19分37秒というと・・・完全に予選落ちだな。相原よりもはるか後ろ・・・というか相原にさえ周回遅れって感じのタイムだな」

穴川先輩が不思議そうな顔をして言うと牧野が続いた。

「町田さんって雪沢先輩と同等のレベルっすよね。この合宿でも一緒に走ってるし」

「かなあ、多分」

雪沢先輩も不思議そうに言った。

「なんで総体地区予選、こんなに遅いんですかね。言い方は悪いけど・・・これだと大山よりも遅いし、いや、ヘタしたらヒロとそんなに変わらないんじゃあ・・・」

「風邪じゃねーの?」

穴川先輩がそう言った時、大部屋の入口の方から町田さんの声がした。

「違うよ」

みんな一斉に町田さんの方を見た。町田さんは少し間を開けてから言葉を続ける。

まるで、言わなくちゃダメかな?と自問自答する間をとったみたいだ。

「腹を痛めたんだ。試合中に」

水分でも摂りすぎたのか?みんながそう頭に思い描いたに違いない。

百草高校の部長ともあろう町田さんが、そんな初歩的ミスをするなんて・・・そう思った時だ。

「殴られたんだよ。落川学園の選手に。脇腹を」

町田さんの口からは信じられない言葉が飛び出していた。

その言葉で、寝ころんでいた剛塚が置きあがり、呟いた。

「落川学園・・・」

去年の秋、陸上部襲撃を計った男、安西がいた高校だ。

そして以前、安西はこう言っていたのを思い出す。

・・・妨害行為をするらしい・・・

 

 

その頃、他の部屋では未華がくるみに「落ちついて」と話しかけていた。

「落ちついてるって!」

いつもは出さない様な大きめな声を出すくるみに未華は優しく言う。

「何かの誤解だよ。絶対そうだって!アタシが保証するから」

するとくるみはこう言った。

「じゃあ・・・今日の夜のバーベキューの時に聞いてみる」

それを聞き未華は呟いた。古淵さんに見下されてタダでさえイラついているのに、さらにイライラする。

「なにしてんだよ、英太は・・・」

 

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コメント

はじめまして!読ませていただきました。
主人公やその周りの人たちが少しずつ成長していく姿がなんだか微笑ましいです。

少し気になったのが、早く走るではなくて速く走るではないのでしょうか??

投稿: なな | 2009年7月24日 (金) 03時21分

こんにちは!はじめまして!ななさん!
こんなお話を読んで頂けてありがたいです!
 
早く、速く・・・ですね。
実は最初から自分でも気になっていたのですが、長距離走は速度という意味で「速い」という感じがしなかったので「早い」と表記しています。
これが短距離のお話だったら「速い」と書いていたんですが、実際にマラソンしている人を見てると「速度」では無いなあ・・と勝手に自分で解釈してる感じです。
(一流の選手は「速い!」と感じましたが)
 
日本語としては間違ってる気もしますが勝手に自分の感性を加えてしまってる次第です・・・
鋭いご指摘ホントにありがとうございます!!

投稿: cafe time | 2009年7月25日 (土) 23時28分

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