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2009年7月27日 (月)

空の下で-向日葵(9) 夏の行方(その8)

「妨害行為?」

大部屋にみんなの声が響いた。

町田さんはため息を吐き、一度間を空けてから、ぼくらの問いに答えてくれた。

「そう。落川学園のヤツに脇腹を殴られてさ・・・。多分、ヒジだったんだと思うんだけど。それで足が地面に接地するたびにズキズキと脇腹に痛みが走ってさ・・・結果、自分でも驚くほどの低成績だったよ」

話している間に町田さんの顔が歪んでいった。きっと悔しさが蘇ってきたんだ。

ヒロが大声で町田さんに問いかける。

「それ、審判とかに言わなかったんですか!!」

雪沢先輩も頷いてから続いた。

「そうだよ。そんなの反則行為だ。失格にしてもらうべきだと思うよ」

すると町田さんは首を横に振って言った。

「それがさ・・・誰がやったのかよくわからないんだよ。まさか試合中にそんな事されると思ってなかったしね。それに、やられた瞬間、周りには三人も落川学園の選手がいて、誰の仕業か断定できなかった」

「それって・・・」

ぼくは呟く。

「チームが協力して妨害をしたって事なんじゃ・・・」

それを聞いて牧野は興奮した表情でぼくを見た。

「組織的な犯行ってヤツか」

だいぶ大げさな表現だけど、まあそういう事だと思う。

町田さんは三年生だ。春の高校総体は、個人としては最後の大会だったはず。

その最後の試合を台無しにされた訳だから、本当は怒りと悔しさでいっぱいなはずだ。

なのに町田さんはこう言ったんだ。

「多摩境高校のみんなも落川学園には気をつけてな。オレの二の舞は見たくないからさ」

「町田さん・・・」

「でもオレはまだ戦いは挑むよ。秋の駅伝で、オレたち百草高校は、落川学園に勝つ!」

力強い町田さんの言葉に、ぼくは拍手したくなった。

 

 

町田さんの話題が終わり、微妙な空気感を漂わせたまま、ぼくらは大部屋のそれぞれの位置に戻った。

自分の布団を畳んでカバンから持参した小説を出す。

パラパラとめくって栞を探すが、栞が見当たらない。

どこへやったっけ、と辺りを探すと、横の台の上に置いてある携帯が開きっぱなしなのに気がついた。

「あれ?なんで開いてるんだ?」

そういえば昨日、寝る直前に誰かからメールが来て、何か返信をした様な気がする。

携帯を見ると、画面が写ったままになっていた。

どうやらぼくは寝ぼけたまま返信を書いている途中で寝てしまったらしい。

何か作成中のメールが画面に写っている。

それを見てぼくはザワザワと鳥肌が立った。

なんとなく覚えているからだ。メールの内容を。すぐに作成中のメール画面を見る。

『いいよ!じゃあ映画だから八月三日に南大沢の駅前だね。たまには会って話したいし』

送信ボタンは押されていない。が、送信先は画面に写っている。

『長谷川麻友』

思わず辺りを見回した。

こ、こんなメールの画面を開きっぱなしにして寝ちゃったのか・・・!

確かに何かボタン操作している記憶はおぼろげながら有る。

でもこんなメールを打つという事は長谷川さんから何かメールを受けたという事だ。

慌てて着信メールを見ると、長谷川さんからのメールが二件あった。

 

『久し振り。もう夏休みだね。夏休みも陸上部の練習は大変なのかな。あの、たまには練習休みの日もあるよね。一緒に映画とかどうかな・・・と思って。だめですか』

 

『合宿?じゃあ今大変なんだね!頑張ってね! 三日の日なんてどうかな。一人で映画行くのもなんか微妙なので・・・』

 

な・・・なんだこれ!!?

今度は自分の送信メールを確認すると、一件だけ長谷川さんに送信していた。

 

『今、合宿で群馬にいるんだ。映画?合宿の後、八月一日から三日は休みだから平気だよ』

 

真夏なのに冷や汗が出た。

ぼくは、寝ぼけながらこんなメールを打っていたらしい。

八月三日に長谷川麻友さんと南大沢で映画に行く事にしたらしい。

いや、らしい・・・という表現は違う。なんとなく覚えてる、このメールを。

「英太くん!!ちょっと来て!!」

いきなり部屋の外から未華の大声が聞こえて「ひっ!」と小声を漏らしてしまった。

 

 

未華はぼくを連れてホテルのロビーにあるソファへと移動した。

向き合って置いてある一人がけのソファに座る。

未華は怒ったような表情でイキナリ確信をついてきた。

「長谷川麻友って誰だよ」

ぼくはツバを飲み込んで答える。

「な、なんでその名前を・・・?」

「アンタ、携帯開けっ放しだったでしょ。メール画面が表示されっ放しだったんだよね」

そうか・・・。今日の朝、未華とくるみは寝坊した人を起こすために各部屋を周ったんだった。

「ま・・・さか?」

ぼくが言うと未華は頷いた。

「見ちゃったよ。ていうか見えちゃったよ、メール。私も、くるみも」

全身の血が頭に登って行くのを感じた。カーッと頭が熱くなる。

「く、くるみも・・・?」

「そう」

今度は一気に顔が青ざめていくのを感じた。もうパニックだ。

そんなぼくを見て未華は言う。

「長谷川麻友が誰だか知らないけどさ。くるみも、英太くんが誰か女子と映画行くって知っちゃったんだからね。くるみの事が好きなんじゃ無かったの?なんで他の女子と映画なんて行くんだよ。見損なったよ」

「本当・・・だね。そりゃ見損なうよ・・・」

「そんなコとデートしてんじゃなくってさ。くるみと遊びに行きなよ。ちゃんとさあ。今、くるみは完全に勘違いしてるよ、英太くんの事。ちゃんと自分で弁解しなよ」

「べ、弁解?」

「そうだよ。キチンとデートに誘いなよ。もう、そうでもしないとヤバイよ」

ぼくはもう一度、唾を飲みこんだ。

「そうだね・・・誤解されてるよね・・・。もう、覚悟を決めるしかないよね」

ぼくはソファから立ち上がった。

すると未華は「おお・・・」とか驚いた。

「マジで?覚悟を決めたの? きょ、今日の夜、デートに誘ってみれば?そういう事を話すチャンスはある夜だし」

「チャンスのある夜?? あ、そうか・・・今日は」

「そう、合宿恒例、バーベキュー大会」

それは、牧野が未華に告白しようとしてる時でもある。

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