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2009年8月27日 (木)

空の下で-向日葵(16) 迷走(その2)

八月六日。

今日から陸上部の練習が再開される。

実は昨日は眠れなかった。

八月五日は、くるみと柏木直人が調布駅で落ち合っているハズの日だったからだ。

何度も何度も調布駅に行きたくなったけど、そんな事をしたって何の意味も無いので家で弟とテレビゲームなんかしてた。

テレビゲームをしていてもくるみと柏木がどんなデートをしているのかが気になって落ち着いていられなかった。

夜なんかドラマ見ていたら、主人公に彼女が出来て、腕を組んで歩いてる場面があって、それをくるみと柏木に重ね合わせてしまって叫びたくなった。

 

・・・そばにいてほしい。

 

こんなに強く思った事は無い。

今までももちろん好きだったけど、ついにくるみが他の男の人とくっつくかもしれない状態になり、焦りと共に想いはますます強くなった。

こんな気持ちになるのには他にも理由があって、長谷川さんと出かけた事も影響しているんだと思う。

長谷川さんと一緒に半日を過ごして、やっぱり長谷川さんはかわいくて良い人だったんだけれど、ぼくはくるみが好きなんだと再認識する事になったんだ。

長谷川さんには物凄く悪い表現になるんだけど・・・、ぼくは長谷川さんではなく、くるみと映画に行きたかったんだとよくわかった。

でも、それはもう叶う事の無い出来事へとなっていっているのもわかっていた。

そうして再開された練習初日。

九月にある新人戦へと向けてそれぞれが気合いを入れなおして練習に臨む。

 

 

学校に行き部室に入ると、間の悪いことにくるみしかいなかった。

「あ、おはようくるみ」

くるみはぼくを見るなり、無言で部室から出て行こうとした。

「ちょ・・・!ちょっと待ってよ!な、何で逃げるの?」

「う、うん。おはよう」

ぼくの顔を見る事もなく、くるみは小さくそう言って部室から出て行く。

「くるみってば!」

追いかけようとしたら、早川舞がやってきた。

「おはよ。英太、くるみ」

するとくるみは早川に変な事を言い出した。

「あ、マイちゃん。ちょっと話いいかなあ?マイちゃんに言いたい事があるんだ・・・」

「話?いいよ。あっちで話す?」

「うん。二人きりで話したいんだ」

そう言ってくるみと早川は部室から離れた所に歩いていった。

 

 

練習中、ぼくの頭の中はパニックだった。

どう考えてもくるみはぼくを避けてる。

何故なのかサッパリわからない。

やっぱり長谷川さんへのメールを見られたのが原因なのか?

でも、長谷川麻友という人物と会うってわかっただけで避けられてしまう事ってあるのか?

それとも柏木直人が絡んでいるのか?

そういえば、昨日くるみと柏木直人と調布駅で会って、どうなったんだ。

・・・ぼくは走っている途中だというのに冷や汗が出てきた。

まさか・・・、付き合ったとか・・・?

もしかして、だから柏木の前の彼女である早川舞に改まって話をしに行った・・・とか?

 

 

毎日毎日、くるみの事に気を取られ、集中力に欠いた練習を続けていた。

八月の中旬には多摩地区の記録会に出たのだけど、結果は散々なものだった。

この記録会では、ぼくは久し振りに穴川先輩に敗れた。

勝った穴川先輩は嬉しそうにする事もなくこう言った。

「フヌケた状態の相原に勝ってもつまんねーな」

逆に牧野は記録を大きく伸ばしていた。

未華よりも早い選手になるべく、今月に入ってからの牧野の集中力はハンパじゃなかった。

通常の練習の後、五月先生に頼んで個人メニューを追加していた。

それを見た未華も「簡単に負ける訳にはいかない」とか宣言し、打倒古淵さんとも相まって自己新記録を乱発していた。

この二人に触発されたのか、それとも秋津伸吾に勝ちたい一心からなのか名高も必死に練習していた。

そういう相乗効果が続いていき、剛塚、大山、染井、ヒロ、くるみ、そして雪沢先輩も集中力を増して練習をしていった。

変わらないのはぼくと早川だけだった。

 

 

多摩の記録会の翌週の練習帰り、たまたま早川と帰りが一緒になった。

「お、相原じゃん。駅まで一緒に帰ろうよ」

珍しく早川と二人で駅までの道を歩く。

今日も晴れていてアスファルトの照り返しが強い。

「相原ってさ、今やってる世界陸上とかって見てるの?」

先週から、ベルリンでやっているという世界陸上はテレビで連日報道されている。

「うーん、あんまり見てないや。深夜に放送でしょ?眠くてさ」

そう言うと早川は長い髪をかきあげながら言った。

「じゃあちゃんと寝てるんだ。それじゃ、何で最近疲れた様な顔してんの?それに走りもダサイでしょ、最近」

ダサイ・・・か。早川らしい表現だ。

「もしかしてさ、くるみとうまくいってないとか?」

嫌な事を聞いてくる。全くもってその通りだ。ぼくは思わず顔をしかめた。

「図星かよ・・・。じゃあいっその事、諦めればいいのに」

「あ、諦める?くるみを・・・?」

「そうだよ。違うコ探せば?」

頭には長谷川さんが思いつくがすぐに消し飛ばした。

「よ、余計なお世話だよ」

「そう。じゃあ余計ついでに一つ情報をあげるよ。こないだ、アタシさ、くるみに呼び出されたじゃない」

こないだの部室での話だ。それの内容は聞きたかった。

「なんかね。くるみ、柏木と出かけたりしてるらしいよ。それで、アタシが元彼女だから気を使ってくれたみたいなんだけど・・・」

「柏木と・・・ね」

「くるみと柏木って付き合ってるのかな?」

「・・・かもしれない」

そうとしか言いようが無かった。

いや、もうその確率は高い。でも本人に聞く勇気は無い。本人の口から「付き合ってる」とか言われた時のショックに耐えられないし・・・。

それにしても、柏木の元彼女である早川に「かもしれない」なんて答えるのは良くない事なのかもしれないけれど、今のぼくには余裕は無い。

 

 

それから何日たってもくるみと会話する事は出来なかった。

初めのうちはくるみに話しかけたりしてたんだけど、無視とかはされなくても会話は二言三言で終わり、気マズイ空気が流れるだけになってしまった。

それでも同じ部活なのでぼくらは毎日顔を合わせる。

好きな人と毎日、顔を合わせるのに会話が出来ないという苦しい日々が続いて行き、そのうちぼくは部室に入るのが億劫になってきてしまっていた。

くるみと顔を合わせて胸が苦しくなる部活自体が面倒になってきていたからだ。

そんな気持ちで練習に取り組むもんだから、練習では遅れるし、五月先生には怒られるしで、ついにある日、ぼくは牧野に相談した。

「なんか最近やる気出ないんだよね・・・」

すると牧野は驚いた顔をしつつも、大胆な事を言ったのだった。

「だったら、ちょっと休めば?リフレッシュってヤツだよ」

「や、休む?」

「ああ、英太、どうせくるみと会話出来なくなってツライんだろ?何日か休めば気も休まったりすんじゃね?」

「そうかなあ・・・」

そんな時だった。お父さんが単身赴任先の山梨県から、夏休みという理由で帰ってきたのは。

 

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