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2009年9月 3日 (木)

空の下で-向日葵(18) 英太のいない陸上部

炎天下の校庭で、五月先生が「話がある」と切り出し、「相原英太がしばらく休部する」とみんなに伝えられてからすでに五日が過ぎていた。

最初、休部と言われて部員たちは「体調悪いのかな」と思ったらしい。

でも合宿以降のぼくの調子を考えると「ただの体調不良じゃないんじゃないかな」と考えるメンバーがほとんどだったという。

そうして休部から五日も経ってみると、メンバーの中には「何かあったのかな」的な雰囲気が漂い出していた。

おかげで、ぼくと一番仲のいい牧野は練習のたびにみんなに質問されたという。

 

 

「相原ってなんで休んでるんだ?」

一番最初に牧野に聞いてきたのは、やはり中距離のたくみだ。

「あいつがイキナリ休部ってのは何だか腑に落ちないんだよね。牧野、何か知ってんじゃね?」

何故かペンとノートを片手に聞くたくみに牧野は「わかんねえや」とシラッと答えた。

「でもよ。休部はいいけど、あと3日で二学期だぜ?英太のヤツ、ちゃんと学校には来るのかよ?」

「うーん。確かに・・・それはわかんねえな」

 

 

その日、牧野が練習を終えて部室を出たところで早川とくるみが待っていた。

「ちょっといいかな、牧野」

早川が少し声をひそめて話しかけてきたので、牧野は「ああ、英太の事?」と聞き返した。

早川とくるみが頷いたので、牧野は二人を連れて校内の人があんまり通らない廊下へ移動した。

「あいつ、何で休部してる訳?あんなに一生懸命だったのにさ」

早川はイライラしてる感じで早口でそう聞く。

「何でだか・・・わかんねえってオレも」

牧野はぼくが休んでる理由を全部知っている。全部、電話で話した。だからこの時期の牧野はウソばかりついている事になる。

「もしかしてさ・・・」

くるみは消え入りそうな声で口にする。

「何か・・・あったのかな。その・・・この陸上部の中で・・・」

「くるみに失恋したからじゃない?」と、言いたいのを牧野は堪えた。

言ってもいいけど・・・と思い、牧野は考えたという。

・・・英太のヤツ、失恋くらいで休部かよ、くっだらね・・・と。

「英太くんから連絡あったら教えてね。 わたし・・・英太くんと話したい事があるんだ」

くるみは俯いたままそう言う。

「話したいなら電話してみれば?」

「ううん・・・直接言いたい事があるから・・・いい」

もしかして・・・と牧野は思う。もしかして、くるみは・・・。

この時、牧野が何を思ったのかは、後になってもぼくには教えてはくれなかったけど・・・。

 

 

「相原先輩がいないと、なんかやる気が起きないっすね」

休部七日目、タイムトライアルで久し振りにリタイアした後、全員でストレッチ中にヒロが穴川先輩にそう言った。

穴川先輩はガリガリと坊主頭を掻きながら「お前、人のせいにすんなよ」と言うとヒロは反論した。

「いや、ボクだけじゃないっすって!なんとなく、みんな活気が無いっすよ。雪沢先輩も穴川先輩もみんな!」

「そうかあ?」

そのやりとりを見て雪沢先輩もストレッチをやめて呟く様に言った。

「確かに・・・相原のひたむきさって、みんなにも影響する雰囲気あったからな・・・」

その言葉で名高と染井以外のメンバーがストレッチを止めてしまった。

剛塚が牧野に問いかける。

「牧野、英太って部活辞めたいのかよ」

剛塚の声はイラついているのが見え見えだ。

「知らないって毎日言ってるでしょうが」

「・・・ち」

ストレッチを再開した剛塚の横から大山が雪沢先輩に質問した。

「五月先生は何て言ってるんですか、雪沢先輩」

「うん?そのうち復帰するか退部するかのどっちかだろって。本人の意思次第だってさ」

「うわ、つめた・・・」

ヒロはそう反応するが雪沢先輩は「五月先生はムリヤリ練習に出させるタイプじゃないから」と諭す。

 

 

休部八日目、8月30日だ。

あと二日で二学期が始まってしまう。

牧野にも「英太のヤツ、何してんだ」という考えが出てきていた。

それでも牧野は練習に集中した。

九月には秋の新人戦があり、牧野はどうしてもそこでの公式記録で未華を追い抜きたかった。

「英太は戻ってくる」

そう信じて牧野は練習に集中する。

しかし部内全員がそういう訳にはいかなかった。

みんな少なからず気にしていた。

その証拠についに染井までが牧野に「相原先輩、二学期は来ますよね。相原先輩いると・・・なんつーか、その・・・元気がもらえるんで・・・」とか言いだした。

部内が揺れている・・・。

牧野がそう思っている通りの事が起きた。

30日の練習はきついインターバル走だったのだけど、みんなが軒並みペースが良くなかったのだ。

そんな雰囲気の中でも名高と牧野と未華だけは必死に走り、満足できるタイムで走っていたのだけど、ゴール後に五月先生が怒鳴った。

「なんだこの結果は!! ちゃんと集中してやらないと記録どころか怪我するぞ!!」

そしてスーッと息を吸い込み、今度は穏やかな声で五月先生は言うのだ。

「自分に集中しろ。大丈夫だ。仲間を信じろ。ずっと一緒に走ってきた仲間を」

 

 

その日の練習後、部室で男子陣が着替えていると、剛塚が携帯を見て「お、安西からだ」と呟いたので室内が一瞬静かになった。

なんと言っても安西は陸上部を二回も襲撃した男だ。

この名前を聞いて嫌な空気にならない訳はない。

「誰ッスか安西って?」

何も知らない後輩であるヒロが空気も読まずに質問する。

「ヤベエ男だよ」

剛塚はニヤリと笑った後、安西からのメールを読んで顔色を変えた。

「どうした?」

牧野が聞くと、剛塚は「ちょっと牧野、こっち来てくれ」と言って部室から出て廊下に出た。

廊下にはくるみと未華がいたのだけど剛塚は「お、丁度いいところに」とか言って、牧野とくるみと未華に、安西からのメールを見せた。

「これ、どういう事なんだ?」

 

 

そんな事が起きていたなんてのは、もちろんぼくは知らなかった。

全部、後から聞いた話だ。

だってこの時のぼくはお父さんに同行して山梨県にいたからだ。

みんながいる多摩境高校からは100キロも離れた田舎町、山梨県勝沼町に。

 

 

空の下で 向日葵の部「英太のいない陸上部」END

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