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2009年10月 1日 (木)

空の下で-金木犀(1) 上京少年

 

「君、足速そうだよね。ちょっとウチの部、見学してみない?」

 

雪沢先輩に初めて声をかけられたのは、一年生の春、校門での事だった。

一体、何を見てそう思ったのかわからないが、僕の陸上部員としての始まりは間違いなくその言葉だった。

そうして僕は牧野と一緒に陸上部の見学に行ったのだった。

あの時は緊張したもんだ。

高校生活が始まり、右も左もわからない中で、全く知識の無い陸上部へと見学しに行ったのだから。

くるみとの事を除けば、これまでの高校生活で一番緊張したのはその時だったような気がする。

そして今、約半月に及んだ逃亡を終え、久しぶりに部活へ顔を出すところだ。

ただの練習に出るだけなのに、初めての見学の時と同じくらい緊張していた。

足が震え、呼吸も乱れているのが自分でもわかる。

それでも、制服を着て、校門をくぐり、部室の前まで辿り着いた。

8月31日、夏休み最後の日、まるで新入部員のごとく緊張した僕は意を決して部室の扉を開けた。

 

 

空の下で 2nd season - final

金木犀の部

 

「おはようございます!」

部室の中には長距離メンバーが揃っていて雑談していた様だったけど、みんな一斉にこっちを見た。

僕は間髪入れずに頭を下げて言葉を続ける。

「勝手に半月も部活休んでしまってすいませんでした!!」

こちらを向いて無言になるメンバー達。それでも僕は構わずに頭を下げたまま続ける。

「いきなり休んでみんなに迷惑かけたのはわかってます!でも、やっぱり戻らせてください!僕はこの部で・・・この多摩境高校陸上部で走りたいんです!!」

言葉を言い終わると部室に静寂が流れた。

数秒して「それでさー」という牧野の声が聞こえた。

何かと思って顔を上げると、牧野が染井に「やっぱ腕ふりがなってないんだよお前」と言い、何やら指導を始めた。

それをキッカケにみんなそれぞれが雑談の続きに戻った。

ヒロが剛塚に漫画の話題を振り、早川が未華にメイクの話題を振り、穴川先輩と名高は陸上に雑誌に目を落とした。

ゾクリとした。

無視されている・・・?

呆然と立つぼくをくるみと大山だけが心配そうに眺めていた。

雪沢先輩が僕の前に立つ。

「相原」

爽やかな顔立ちの雪沢先輩が鋭い視線を送ってくる。

「は、はい」

何を言われるのかと心配になり、呼吸がさらに乱れる。

「反省するとこは反省しろ。でも引きずるな。今日からはまたキチンと練習すればそれでいい。もちろん、次に勝手に逃げたらもう知らないけどな」

冷たくでも優しくでもない声で雪沢先輩はそう言う。

「どうせ、みんな大して気にしてない。ホラ、もうみんな普段通り雑談してんだろ」

それってシカトしてるんじゃ・・・。と内心ドキドキする。

その時、牧野が大声を出した。

「よーし!行くかー!今日の練習へ!!」

ヒロが「おー!」と拳を振り上げて立ち上がる。

「お前が仕切るな」と穴川先輩が牧野の頭を叩く。

みんなが立ち上がり、こちらを向いた。

「何ボーっとしてんだ相原。早く着替えろよ。もう時間だぞ」

穴川先輩が白けた様な口調でそう言い、染井が「はやく行きましょうよ、相原先輩」と続いた。

「ほら見ろ」

雪沢先輩が僕を見て笑った。

「みんな気にしてないだろ?」

そう言って部室から出て練習へ向かっていく。

部室の入口に立ち尽くす僕の肩を穴川先輩がポンと叩いて部室を出て行った。

続いてみんなが順番に僕の肩を叩いて部室を出て行く。

早川、剛塚、大山、未華、名高。染井とヒロは会釈をして出て行く。

くるみは「行こう」と言って行った。

最後に部室には牧野が残っていて、僕の方を見ていた。

「よう、上京少年」

「はあ?じょ、上京??」

「だってそうだろ?山梨県からやって来たらしいじゃねえか。山梨から東京へやって来たんだから上京少年だろ。あ、もう青年か?」

牧野は実に楽しそうに話している。

「まあ、しばらく休めば?なーんて言ったのはオレだからさ。何だか責任感じちゃうところだけどよ。こんなに長く休むとは思わなかったぞ。引責辞任しようかと思ったぜ」

「い、隕石?」

牧野は「はあ・・・」とため息をしてから言葉を続ける。

「天然ボケ相手は疲れるな」

「誰がだよ」

「英太」

「まさか」

何だかこうして下らない会話をするのは久し振りだ。思わず苦笑してしまった。

「お?認めたのか?天然ボケを」

「認めないって。それよりもごめん。何だか色々迷惑かけたみたいで」

「ん?まあさっき言ったけど、休めばって言ったのはオレだからな。それにオレは何も心配してなかったしな。名高もそうだったらしいけど」

「え・・・、何で」

牧野は笑顔でこう言った。

「どうせ戻ってくるって思ってたから。お前は走るのをやめたりしないってね」

だから山梨に迎えに行く話が出た時も、牧野は「オレはいいや」と断ったそうだ。

そんな暇があったら未華より早くなるために練習したいと言ったらしい。

そして山梨には同じクラスという事で未華と剛塚が向かい、何故かくるみが「私もついてく」と粘って同行したという事らしい。

「そうだったのか・・・」

「そういう事。あとねー、英太」

牧野は含み笑いっぽく言った。何だか嫌な感じだ。牧野のこういう笑みは嫌だ。

「オレね。謎が解けちゃったよ」

「な、謎?」

「そう!謎は全て解けた!真実はいつも一つ!」

牧野は高らかに宣言した。こいつこそ天然ボケなんじゃないか??

「何の謎だよー・・・」

「くるみの謎」

「はあ?」

「いや、表現違うかな。くるみの行動の謎、柏木の行動の謎、早川、未華、英太、全ての行動は一つの事件に繋がっていた!!」

興奮口調の牧野は早口でそう言って僕を指差した。

「自分で解いてみろ!そうすりゃハッピーエンドだ!!」

そして急に真顔に戻ったかと思うと「行くぞ英太。練習」と言い部室を出て行った。

「なんなんだよ一体・・・」

そう思いつつも、僕は部室に入った。もう足は震えてはいなかった。

 

 

僕は久し振りに練習用のジャージに着替え、校庭へ向かった。

校庭では長距離メンバーが「遅いぞー!」とか「早くしろー」とか言って手を振っている。

ここが、と思った。

ここが僕のいるべき場所だったんだ。

大切な仲間と、大切な場所。

もう、逃げない。

例え辛い事があろうとも、ここが僕の頑張って行く場所なんだ。

僕は全力でみんなの所へと走りだした。

 

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