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2009年10月19日 (月)

空の下で-金木犀(6) つながり(その5)

「おはようございます」

新人戦から一夜明け、朝、授業の前に部室に長距離メンバーが集まっていると、名高が姿を現した。

その姿を見てギョッとしたのは僕だけじゃないだろう。

なにしろ、名高は制服姿ではあるものの、右足首に包帯を巻き、松葉杖をついていたのだ。

「名高、それは・・・」

ガタンと音を立てて雪沢先輩が立ち上がった。

「お前、その足・・・大丈夫か」

「あ、大丈夫っすよ。治りが早くなるように松葉杖を借りてきただけです。単なる捻挫です」

「捻挫?本当か」

雪沢先輩は右足を気にしながら問いかける。

「本当です。オレ、怪我を隠して無理をするとか、そういうキャラじゃないですから。そういう根性論は好きじゃないんで」

そう言って名高は部室に置いてあるパイプ椅子に、ぎこちなく腰掛けた。

「うーん、片足使えないと動きにくいっすね」

他の部員も心配そうに名高を見つめたが、当の本人は淡々としたもんだ。

「雪沢先輩。オレはまあ、こんな感じで2週間くらい走れなさそうなんで、練習は上半身の筋トレでもいいですか。マシンとか使って」

こんな状態でも名高は鍛えるつもりらしい。さすがといった感じだ。

「わかった。だが無理はするなよ」

「わかってますって」

名高は、それが当たり前かの様に言った。

 

 

「おい、英太。昨日の接触、ちゃんと見てたか」

昼休み、教室でお弁当を食べていると、剛塚がにぎり飯を片手に僕の机の前に立っていた。

「ふぇっひょく?」

僕はウインナーを口に入れたまま返事をしたので発音悪いし、おまけに机に口から物がこぼれた。

「汚ねえな。そんなんじゃモテねーぞ」

僕はウインナーを飲み込んで答える。

「モテるのとか関係ないでしょ」

「いや、食べこぼし野郎はモテないって週刊誌に書いてあったぜ」

「週刊誌なんて読むのかよー」

「悪いかよ」

剛塚はそう言ってにぎり飯を食べる。「やっぱにぎり飯は塩だな」

「で、接触って、昨日の名高の?」

「そうだ。お前、あれが何だったのかわかるか?」

質問の意味がよくわからない。

「何だったかって・・・。名高と秋津と、それと周回遅れの選手の接触コケでしょ?」

「接触コケ?接触転倒な」

剛塚に突っ込まれるとなんか腹立つ。

「それが・・・なんなの?」

「誰と接触したのか、わかってるか?」

「はあ?だから名高と秋津と・・・」

僕の言葉の途中で剛塚は「周回遅れがどこの選手かわかってないだろ」と聞いてきた。

「まあ・・・確かに」

「あれは落川学園の選手だ」

「おち・・・」

瞬間的に色んな人の色んな言葉が脳裏によぎった。

 

「レース中、反則行為をする。妨害行為とかな」

「殴られたんだよ。落川学園の選手に。脇腹を」

 

「まさか・・・」

驚く僕に剛塚は昨日の記録表を見せた。

一冊のノートに、僕が書いた各選手の記録が書かれている。

「お前、自分でこれを書いてて、気がつかなかったのかよ」

「え?」

剛塚はノートのある部分を指差した。

そこには確かに僕の筆跡で、昨日の新人戦の男子5000mの順位と記録が書かれていた。

一位は松梨大付属高校の赤沢という選手。

二位は・・・。

「剛塚、これって・・・まさか」

「そうだと思うぜ」

二位で白髪の選手がゴールしたのを覚えている。

その二位の選手の名前は八重嶋翔平と書かれていて、学校名は落川学園となっていた。

「落川学園だったのか・・・あの白髪の選手は・・・」

白髪の選手、八重嶋翔平。

彼と名高と秋津が三人で走っていて、その三人が周遅れの落川学園の選手を抜くときに、八重嶋翔平以外の二人が転倒した・・・。

そして名高はリタイヤ。秋津は転倒後、猛追したものの三位。

「八重嶋が上位になるように・・・妨害した??」

「だと思うぜ。大体、この周回遅れの選手。向井っていうらしいんだけど、前の大会はもっと早かったんだよ。今回、わざと遅れて妨害したんじゃねーかな」

そう言い、剛塚はいぎり飯を口に放り込んだ。

「ま、全部、たくみが調べたんだけどな。あいつ、きっと三流芸能記者になるぜ」

 

 

今日は練習が休みなので、僕は授業後に職員室を訪れた。

職員室ってのは、小学校の時からそうだけど、入る時、いっつも少し緊張する。

「失礼します」

ガラガラと音を立てて廊下から職員室に入ると、すぐに五月先生の机がある。

五月先生は何か資料をボヤっと見ていた。

僕に気づくと、資料をササッと隠して言った。

「相原、お前・・・、今、先生のクラスの出席簿を盗み見たろ!」

「そんなの見ないですよ・・・」

「そうか・・・。ギクリとしたよ」

そう言って両手を上に伸ばしてアクビをする。

職員室に入るのに緊張したのがバカバカしくなってきた。

「で、何か用か」

少し離れた場所で志田先生が「九日、十日」と言ってププッと笑った。

よくわからないので五月先生に話をする。

「先生。名高の接触コケって、落川学園の妨害じゃないでしょうか」

「接触コケ?ああ、接触転倒か」

「先生は昨日、許さんって言ってたじゃないですか。それって先生も妨害って気付いたからじゃないですか?」

そう言うと五月先生の顔から笑顔が消えた。

「相原。推測で物を言うな」

「でも・・・」

「お前の言いたい事はわかる。先生だって昨日は抗議しようとした。だがな、証拠は無いんだ。それに、名高に聞いたら、妨害なんて知らないと言うんだ」

「名高が??」

「そうだ。名高が知らないと言うんじゃ、どうしようもない。葉桜高校の秋津にしても何も言っていないらしい。だから今回の件はここまでだ」

「だからって・・・」

五月先生は机を叩いた。

バシンと音が部屋に響き、何人かの先生がこちらを向く。

「相原、今回の件はここまでだがな。先生は昨日言ったはずだ。名高の転倒を決して忘れるなと。ああいう事は誰にでも起こりうると。ああいう事は許さないと」

そうか。先生も悔しいのだ。

証拠も無い上に、名高も何も言っていないんじゃ、動きようが無い。

「それなら・・・一つ、出来る事があります」

僕は先生を見ながら言った。

「二度と、落川学園に負けないって事です」

それを聞き、五月先生は一瞬ポカンとしたが、すぐに笑った。

「そうだな。再来月の駅伝で落川学園に目にもの見せてやるか」

 

 

そうして僕は密かに打倒・落川学園を誓った。

その決戦の場は、名高も僕も復帰出来てるであろう、東京高校駅伝大会だ。

去年、部の活動停止をかけて戦った、あの大会だ。

 

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