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2009年12月28日 (月)

サンタが高校へやってきた 最終話

最終話「歓声」

 

 

 12月25日。クリスマスだ。この日を待ちに待っていた人もいれば、別になんてこともない人もいるだろうけど、そんな事など関係なく街はクリスマス商戦の最大の山場を迎えている。

 そんな中、私たちの通う多摩境高校は今日が二学期の終業式となる。今年最後の登校をするためにそれぞれが学校へと向かう。

 今日という日が終業式というのは誰かに告白しようとしている生徒にとっては最大のチャンスでもあるだろうな、と思う。けれど私には好きな人はいない。好きな人は欲しいんだけれど、まだ見つからない。それって女子高生としてはちょっと切ない。

 そんな私が登校して教室に入ると、私の机の上に水色の封筒が置かれていた。封筒には、いかにも女子という丸文字で「優衣ちゃんへ」とオレンジ色の色鉛筆で書かれていた。

「なにこれ・・・」

 辺りを見回す。教室にはすでに十人以上のクラスメイトが来ているけれど、別に誰かが私の事を見ている様子もない。なんだろう。封筒の中からは一枚のルーズリーフが入っていた。

 ルーズリーフには鮮やかな色んな色を使ってこう書かれていた。

 『今日の二時に視聴覚室に来てね』

 思わず鳥肌が立った。視聴覚室?もう一度辺りを見回す。そしてルーズリーフに目を戻す。この文字も女子という感じだ。

 何で私が視聴覚室に呼び出されるんだ?そう考えて怖くなってきた。心臓がバクバクとする。私が色々調べている事が、誰かの機嫌を損ねてしまったんだろうか・・・。

 私は封筒を握りしめて隣の教室へ向かった。そう、平井川くんに会うために。

 

 

 平井川くんはすでに登校してきていて、友達と何かを楽しそうに話していた。相変わらず声が大きい。

「平井川くん」

「ん、おう。優衣か。どうした」

 私は平井川くんに例の封筒を見せる。

「これ、私の机に置いてあった」

「なにこれ?ラブレター?」

「知らないの?この封筒」

「はあ?知るかよ」

 そう言うけど平井川くんは私から目を逸らした。それを見て私は確信した。やっぱり平井川くんは何かを知っているんだと。もしかしたら、茶色の獣もドレスの女も雪だるまもサンタも全て平井川くんのイタズラなのかもしれない。

 いや、それは無いか。少なくとも、雪だるまは平井川くんが追いかけて行ったんだし。

「今日の二時に視聴覚室に来てって書いてあったんだ」

「そうかよ。じゃあ行ってみればいいんじゃない?」

「なにそれ!冷たくない?」

 思わず私は声を荒げていた。誰が呼び出したのかもわからない視聴覚室に、私一人で行けというのか。

「言っただろ。オレはこの件から手を引くって」

「だって・・・マキちゃんとの、ゴハンに行けなくなるよ?」

 そう言うと平井川くんは「あ」と言って固まった。しばらく動かないと思ったら「わかったよ」と言って封筒を見た。

「一緒に視聴覚室に行けばいいんだろ。そのかわり、マキちゃんとのゴハンは絶対だぞ」

 

 

 終業式が全て終わると午後一時だった。私は図書室で時間を潰していた。指定された時間まで一時間、ものすごく長い一時間だった。面白いテレビとか見てる時は一時間なんてあっという間なのに、この時間はつまらない授業よりもさらに長く感じた。

 やっと午後一時五十分になると、図書室に平井川くんがやってきた。いよいよだ。いよいよ視聴覚室の謎が解ける。あのクリスマスパーティーの準備みたいな物や、サンタが女子バスケ部に目撃された事も、パーティーの準備品が突然消えた事も、全て誰の仕業で、何の目的なのかがわかりそうな気がする。

 そして、茶色の獣と雪だるまとドレスの女性が何なのか、関係あるのか、平井川くんは何を知っているのか。ああ、何だかややこしい。

 

 

 二人で視聴覚室の前までやってきた。

「開けるぞ」

 平井川くんがやや大きい声でそう言い、扉を開けると、中は真っ暗だった。視聴覚室の遮光カーテンが降りているらしく、窓から光が入ってこない様になっている。

「入るぞ」

 平井川くんに背中を押されて私は部屋へと入る。私はうろたえた。もしかして・・・私、この真っ暗な部屋で平井川くんに・・・

 バタンという音とともに入口の扉が閉められた。思わず「ひ」と声をあげた。振り返ると、暗い中でも平井川くんがニヤけているのがわかった。そんな・・・まさか。

 突然、部屋がパッと明るくなる。すると周りには何人もの生徒が立っているのがわかった。そこ中にはサンタや雪だるま、それに全身が茶色で角の生えた獣みたいのまでいた。

「な・・・?え・・・?」

 パンパンパンという乾いた炸裂音とともに紙テープが部屋に飛び散った。クラッカーだ!一体何なのかと私がおろおろしていると、全員が声をそろえて言った。私すらも忘れていた事を。

「ハッピーバースデーイ!!!」

「・・・え?」

 よく周りを見ると、制服姿の人は全て私の友達だった。

「ミクちゃん!凛ちゃん!!」

 サンタだってよく見れば友達の女子がつけひげをしているだけだ。茶色の獣は・・・トナカイのキグルミだ。雪だるまだってそうだ。

「こ、この人たちは・・・?」

 驚く私に凛ちゃんは言った。

「演劇部の仲間に協力してもらったんだ」

「え、演劇部??」

 そういえば凛ちゃんは演劇部だ。ついこないだ会った時も「はっはー!今日は特別練習なのだ!」とか言っていた。

「もしかして・・・特別練習って」

 聞くと凛ちゃんはかわいげに笑った。

「うん、コレの練習」

「コレって・・・」

「優衣の誕生日会。ついでにクリスマスパーティー。驚かしたかったから秘密で進めてたんだ」

 するとみんなが頷いた。

「みんな・・・」

 一人、平井川くんだけは、つまんなそうに眺めていた。

「平井川くん・・・、平井川くんは一体・・・?」

「ああ、それだけどな・・・」

 平井川くんは視聴覚室の面々を見まわしてから言った。

「オレも最初は優衣と一緒に茶色の獣とかを調べてるだけだったんだよなー。でもさ、一度この視聴覚室に来た時、状況は変わったんだよな」

「ど、どういう事?」

「ここから出た時に、廊下で雪だるまに遭遇しただろ?」

「うん、それで平井川くんが追いかけたけど、まかれちゃったっていう・・・」

「あれ本当は、雪だるまに追いついたんだ」

 平井川くんは雪だるまのキグルミを見た人を見た。雪だるまは頷く。多分、演劇部の人だ。

「それで何をしてるのか問い詰めたらさ。優衣の誕生日パーティーの準備だっていうじゃねーか。それでサンタも茶色の獣も全部、謎が解けちゃったもんだからさ。それでこの件から手を引こうって言ったわけ。優衣の誕生日会なんて、オレは興味ねーし」

 なんだか腹の立つ言い方だけど、話は見えてきた。

「じゃあ、もう一度ここに来た時にパーティーの準備品が消えてたのは・・・」

 平井川くんはニヤリとして言う。嫌な笑い方だ。「今頃気づいたの?」的な。

「そう。ビデオに映ってた女子バスケ部の視線から、視聴覚室に優衣がまた来る気がしたから、そこのミクちゃんと凛ちゃんに言ったんだ。優衣に感づかれるから準備品は隠した方がいいよって」

「そ・・・そういう事か」

 という事は途中からは平井川くんは全てを知っていて私と行動を共にしてたって訳か。なんだか腹が立つ。これだから男子って、平井川くんって嫌なんだ。

「さて、謎ときはここまでとして」

 凛ちゃんがパンと手をたたいて言った。

「乾杯のためのシュースを配るよー!!」

 みんなに次々とオレンジジュースや紅茶が紙コップで配られていく。私のところにも紅茶が回ってきた。

「じゃじゃーん」

 ミクちゃんが何か箱を手に持ってきた。それはホールケーキの箱だった。箱からケーキを取り出して、ロウソクを立てる。立てた本数は16本。私の年だ。

「優衣ってば、しょっちゅう言ってたからね。クリスマスに誕生日だと損だって。だから損なんて感じないようにクリスマスと誕生日のダブルパーティーを企画したんだ」

 ミクちゃんが笑ってそう言うので私は恥ずかしくなった。わがまま娘じゃんか・・・私。

「それでは!」

 部屋がふっと暗くなった。暗い中、ロウソクの炎が揺らめく。そこへ廊下から薄いブルーのドレスを着た女の人が入ってきた。

 その人はオペラ歌手の様な綺麗な声で歌いだした。サイレントナイトを。歌声は部屋に響き渡り、みんなは静かにそれを聞いている。

 この人も演劇部の人なのだろうか。それともどこかの部で声楽でもやっている人なんだろうか。でも間違いなく、屋上で笑っていた人だ。この日のために練習してきてくれたんだろう。よく見れば完全にティーンズの顔だ。きっと凛ちゃんの友達に違いない。

 歌はそのままハッピーバースデイの曲へと変わった。みんなでその歌を合唱し、私はろうそくの火を一気に消した。歓声が部屋を包む。

 ありがとう、みんな。ありがとう、本当に。

 もうクリスマスが誕生日って事を損だなんて言わないよ。こんなに盛大に祝ってもらえちゃったんだもん。

  

 

 

「あーあ、つまんねーの」

 オレは誕生日会を抜け出し、廊下を歩いていた。

 優衣の誕生日なんか祝ってどうすんだってんだ。そんな事よりも、この平井川将生にマキちゃんを紹介しろってんだよ、全く。

「おーい、将生ー」

 声に振りかえるとクラスメイトのヒロが手を振っていた。

「おう、どうしたヒロ」

「いや、一緒に帰ろうぜって思って」

「部活は?」

「今日はもう終わり」

「ヒロ、お前今日クリスマスだぞ。デートの予定とか無いのかよ」

 オレがそう聞くとヒロは堂々と答えた。

「無い。将生こそ無いのかよ。マキちゃんは?」

 痛いところを聞いてくる。ヤなヤツだなー。

「絶対、優衣にマキちゃんとのゴハンをセッティングしてもらう。そのために頑張ったんだからな。オレの努力はすげえよ?」

「なんだか遠回りな作戦だなー」

 ほんと、遠回りだ。今回だって単に優衣の誕生日会を調べただけでこんなに疲れた。もうコリゴリだな。優衣に関わるのは。マキちゃんへの想いは自分一人で何とかしよう。

 校庭に出て見上げると、視聴覚室からは賑やかで幸せそうな声が響いていた。

 クリスマスにぴったりなハッピーな歓声だ。

 

 

 

「サンタが高校にやってきた」  END

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