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2009年12月23日 (水)

サンタが高校へやってきた 第6話

第6話「視線」

 

「くっそ!ハメられた!!」

 家に帰って、自分の部屋に戻ってからそう言い、木製のタンスを蹴飛ばす。何をそんなに怒ってるのかと言えば自分のバカさ加減にだ。

 さっき、益子優衣に「茶色の獣」をもう一度調べようと持ちかけられて、断ろうとしたのに、マキちゃんと遊びに行くという企画を持ちかけられて、ついオッケーしてしまったのだ。なんという不覚。この件からを手を引くって決めていたのに・・・。まさか優衣のヤツ、マキちゃんを交渉のダシに使うとは・・・。

 まあいいだろう。マキちゃんと優衣とオレの三人で遊びに行けるのなら、ちょっと調べ物に付き合うのも悪い条件じゃあない。なにしろマキちゃんだ。マキちゃんと一緒にいれる時間が出来るんであれば何だっていい。だってすげえかわいいんだもん。何がって?例えば・・・

 床に置いた携帯のランプが青く光る。着信の色だ。ディスプレイに表示されたのは益子優衣の文字。ちょっとげんなりしたが、ちゃんと電話には出た。

「もしもし」

『あ、平井川くん?こんばんは』

 優衣が改まって挨拶する時は、何か無謀な事を言い出す時だ。少し嫌な予感がしつつも聞いてみる。

「どうした?」

『あのさ、えっとさ、そのさ』

 やっぱり何か無謀な計画がある様だ。優衣はあんな童顔でかわいい顔をしておきながら、突拍子もない計画を言い出す事がしばしばある。きっとこの電話もそういう話だ。

『平井川くん、ビデオって持ってる?』

「ビデオ?DVDと一体化したデッキなら持ってるけど?何か観たい映画でもあるのか」

『違うよ。ビデオカメラ』

「カメラ?ああ、あるよ。親父が持ってる。なんか使うのか・・・」

言ってから「まさか」と思った。

「お前、もしかしてさ」

『うん、体育館裏にこっそりカメラを仕掛けるのはどうかなって思って』

 フザけた計画だ!そんな事をしてどうしようって言うんだ。大体、ビデオカメラを仕掛けたというのが誰かにバレたらどんなに大騒ぎになるか。最近じゃ、男子生徒やバカな先生が女子更衣室にカメラを仕掛けたとか、そういうニュースを聞く事もある時代だ。オレにそういう疑いが向けられたら、間違いなく退学だ。

 そういう事を長々と優衣に説明したのだけど、優衣は『じゃあカメラは私一人でやるよ』と言うのだった。

「ダメだよ。どうせお前、機械とかわかんねーだろ。貸せないよ」

『だったら・・・マキちゃんとのお出かけもナシでいい?』

「・・・・・・、カメラ、明日、持ってく」

 

 

 12月23日の夕方。オレは人生で初めて、隠し撮りというものをする事になった。別に女子更衣室とかトイレとかを撮るのではないので犯罪じゃあないんだけれど、とにかく後ろめたさが強かった。それなのに、マキちゃんとのおでかけをエサにされて、食いついてしまったオレは、せっせと体育館裏近くにある雑草の中にビデオカメラを設置した。

 さすがに一人だと心細いので優衣にも来てもらい、二人でセッティングだ。体育館から少し離れた場所に花壇があり、現在あまり手入れがされていないのか雑草が生えていたので、その中に隠すようにカメラを設置した。

 カメラは体育館裏の方に向けて固定し、録画ボタンを押した。これで約三時間は定点カメラとして録画が出来る。今は午後四時過ぎなので、七時くらいまでは移せるはずだ。

「じゃあ私はハンドベル部の練習があるから」

 そう言って優衣は音楽室のある校舎の方へ歩いて行った。

 その校舎の違う部屋をオレは見る。視聴覚室だ。そこは今日も灯りが点いていた。優衣がその事に気づかない事を願う。もし、気付いてしまったら、優衣はきっと気になる事だろう。もしそうなったらヒジョーに面倒臭い。いや、ビデオを設置してる時点で相当面倒な事になってはいるのだけど。まあいい、ビデオは視聴覚室からはちょうど180度逆を向いているから、優衣が気付く事は無いだろう。

 

 

 優衣がハンドベル部の練習を終えるまで、オレは近くのコンビニで漫画の立ち読みをしたり、煎餅を買って教室で食べたりしていた。

 教室の窓から校庭を見降ろすと、サッカー部が白い息を吐きながら試合形式の練習をしているのが見えた。一人のイケメン部員が色々と指示を出しながらディフェンダーをかいくぐり、絶妙なアシストパスを繰り出してゴールを演出した。

「すげえな・・・」

 オレも彼の様にスポーツが出来て、カッコいいという男になりたかった。でも現実はこんなもんだ。部活にも入らずに週3日でレンタルCD屋でバイトをする日々。だから優衣の面倒なお願いも、完全に嫌だとは言えなかった。日々の生活に少しでいいから刺激が欲しいんだ。

 サッカー部の横を陸上部が駆け抜けて行く。そこにはヒロの姿も見えた。ヒロは部の中では相当遅いらしく、いっつも他の部員から遅れているのだけど、最近はわりと粘っている様に見える。あんなアホな男でも頑張れば身に付くという事だろうか。

「お待たせ」

 ハンドベル部の練習を終えた優衣が教室にやってきた。夜の教室で二人という事で、ちょっとドキドキしたけど、とにかくビデオカメラの所へと向かった。

 

 

 花壇からカメラを取り出し、二人で駅前のハンバーガー屋へと移動した。

 録画時間は二時間四十八分となっている。一番前まで巻き戻して再生してみる。

 まだ夕日に染まっている体育館裏の画像が映し出され、隠し撮りが成功している事に妙な高揚感を覚えた。

 普通に再生していたら時間がかかるので、人が通る時意外は数倍のスピードで再生する。とはいえ、ほとんど人が映る事もないので、ずーっとスピード再生だ。夕日の色が消え、暗い時間の映像になると、電灯の下意外はほとんど黒という感じの映像が続く。

 午後六時半のところで、女子バスケ部の練習が終わったらしく、カメラの前をバスケ部員が次々と通過していく。

「バスケ部って体育館を出て、ここを通って部室に戻るんだね」

 優衣が頷きながらそう呟く。オレはというと一瞬映ったマキちゃんにドギマギしてる始末だ。ああ、隠し撮りは犯罪だよ。

 女子バスケ部が通貨した後は何も変化する事なく映像は終わった。

「何も映らなかったな。まあ、こんなもんだよ。もうやめようぜ優衣」

 オレがそう言って優衣を見ると、優衣は巻き戻しボタンを押した。さっきの、バスケ部員がたくさん通過するところで再生をする。

「何してんだよ」

「ねえ、平井川くん。これ、何か変だと思わない?」

「はあ?」

 カメラの前を次々と通過するバスケ部員たち。マキちゃんもいるけど、バスケ部員ってけっこうな数がいるんだなと感心する。

「優衣、どこがおかしいんだ?」

「よく見てよ。みんなの視線を」

「視線?」

 もう一度巻き戻して、バスケ部員たちの視線を追う。

 するとどうだろうか。彼女達のほとんどが、一度はカメラの方を見ているではないか。

「ば、バレてる・・・?」

「違うよ。カメラを見てるんじゃない」

「え?」

 彼女たちの視線は確かにこちらを向いている。しかし、カメラ直視ではなく、もう少し上の方を向いている様に見えた。花壇のカメラに気付いているのではない。それより上にある何かに一度は目を向けているのだ。

「これ、何を見ているのかなあ」

 優衣がそう言った時、オレは気づいた。彼女たちは、あの部屋を見ているのだ。

 視聴覚室を・・・。

 

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