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2010年7月 8日 (木)

空の下で-風(27) 東京都大会(その8)決着

おおおっという大歓声がホームストレート側から聞こえた。

僕が五島に追いついた歓声じゃあない。

優勝候補である相良を抑えて、秋津伸吾が第一位でゴールしたのだ。

僕の視線の端には秋津が両手を思い切り挙げてゴールラインをまたぐ瞬間が見えた。

続いてすぐに相良が第二着。そしてそして!!

名高が第三着でゴールするのを見た。

す、すごい。

カラカラの喉なのに、僕はゴクリと唾を飲んだ。

名高が東京で三番目に早い男となったんだ。なんてヤツだ。

残り200mになり、僕はコーナーを走りながら前を行く選手達を数えた。

今、四人目の選手がゴールするところだ。

その後ろには松梨付属の赤沢智が見える。その次に八重嶋翔平。

そこから離れて香澄圭。そして次が、目の前にいる五島林だった。

「え??」

五島が八位なのだ。つまり、すぐ後ろを走る僕は九位という事になる。

あと一人、五島林を抜けば関東大会へ行けるのだ。

ババッと後ろを確認すると、ほんの少し後ろに牧野と誰か選手が追って来ているのが見えた。

再び前を向くと五島林の背中はもう目の前だ。

追え!!

僕は僕の体に命令した。

追うんだ!!追い越すんだ!!

息を吸い、腕を振り、足を出せ!!

ただし、無駄な力は使うな。

全ての力は前に進むためだけに使うんだ。

歯を食いしばる事になんて力を使うな!

顔を歪める事になんて筋肉の力を使うな!

ふっと体が軽くなる。

伸びやかに、そして軽やかに腕と足が前に出た。

五島の姿が近くなり、やがてその姿は前ではなく横になった。

前を見るとコーナーが終わり、最後の直線になっていた。

これだけ?

後、これだけしかないの?

持つ。僕の体力は持つ。あとこれだけなら僕の体力は持つ!

五島の一歩前へ出ると、五島は「ぐおお!!」と叫んだ。

僕に抜かされれば関東行きは無くなる。足の怪我を無視してまでやってきたここまでの苦労が水の泡となる五島にとって、最後の気合いは凄まじいものだった。

吹き出す汗と歪む顔は、疲れからではなく怪我の痛みからのものに違いなかった。

しかしそれでも五島はペースを上げ僕に並んだ。

こうまでしなければ五島は目的を達成出来ないのだ。

そんな事を強制させる柿沼監督は酷いヤツだ。

でも、それでも僕は負ける訳にはいかない。

怪我までして何の楽しさも感じない状態で走る五島には、ここで消えてもらわないといけない。

それが五島のためでもあるし、僕は純粋にこのラストスパートの戦いを楽しみ、勝ちたいと思ってるからだ。

ゴールを待たずして、残り50mで五島は足を引きずり失速した。

あっという間に僕が前へ出る。

勝った。

そしてこれで八位入賞。関東進出だ。

ほんの少しの油断がスポーツの世界では全てを狂わせる。

五島だってあんな圧倒的な実力を持っていながら試合後のクールダウンを怠っただけで目的を達成出来ない結果となった。

それを見た瞬間だったのに僕に一瞬のスキが生まれた。

五島の失速を見て勝利を確信してスピードを緩めてしまったんだ。

そこへスッと一人の選手が追いついたのだ。

ギョッとしてそちらを見ると、とっくに抜かしたハズの西隆登が僕を抜き去るところだった。

「あ・・・」

一歩前に出た西を僕は追った。

しかし追うだけだった。

西を追ったまま、僕は第九位でゴールラインを走りぬけたのだった。

 

 

 

その後の事はあまり思い出したくない。

ゴールしてフィールドに倒れこみ、サポート係の大山に肩を貸してもらってトラック脇へと移動した。

僕が「西、いつから?」という文法のテストで0点を取りそうな質問を大山にすると、「西くんは英太くんが抜いてからずっと、少し後ろを追ってきてた。最後まで鬼の形相だったよ。童顔なのに」と答えた。

最後まで・・・か。

最後の最後で僕は油断をしてしまった。

「惜しかったね」

大山に言われて涙がこぼれた。

カッコ悪いと思い手で目を拭ったけど、涙はとめどなく溢れて来た。

仕方なく僕は体育座りをして膝に顔を着けて顔を見えない様にした。

「あと、あとほんとチョットだったのに・・・」

まるで小学生がイジメに遭ったかの様な声を出してしまった。

黙ってしまった大山の横に誰かが来た様だ。どうやら牧野らしく、僕に声をかける。

「なんだ英太。お前、やっぱなかなかやるなあ」

「はあ?」

顔を上げると牧野はニヤニヤと笑っていた。

「お前には負けたよ。クソッタレが。お前が九位で五島が十位だろ?オレは十一位だった」

「でも・・・最後に・・・」

「オレもお前も自己ベストを信じられないくらい更新してたぜ?」

牧野は腕時計を見ながら言った。

そこへ五島がやってきた。足を引きずってはいるが表情を晴れやかだ。

「キミの言う通りだったな」

五島はそう呟き、ため息をついた。「就職優遇だなんて変な目的じゃなくて、楽しんでやってれば自分のケアとかもちゃんとやって、今日も負けずに済んだかもしれなかったな」

そして言う。

「相原くんだっけ?キミのおかげでオレも何が大切なのか少しだけわかった気がするよ」

そうして久しぶりに五島が笑顔を見せた。

「最後、競り合った時、面白かった。負けたけど面白かった。ありがとう」

そう言って五島は僕に会釈みたいな動きをして去って行った。

「ありがとう?」

不思議な感覚がした。

優勝候補だった五島林に勝ち、その五島にありがとうと言われる事が。

「おい、立ち上がれよ英太」

牧野が僕の腕をぐいと引っ張り、ムリヤリ立たされた。

「名高が関東進出を決めたんだ。祝いに行こうぜ」

「あ・・・そうか!そうだね!!」

牧野と大山が名高の方に行こうとしたのを見て、僕は牧野に声をかけた。

「牧野」

「あ?」

「サンキュ」

「はあ?」

牧野には伝わらなかったかもしれないけど、それでいい。

今、僕は挫けていた。でもそれを牧野の一言が助けてくれたからだ。

立ち上がれよ英太。

その言葉で僕は本当に立ち上がれた。だから五島みたく素直に牧野にお礼が言えた。

「ありがとう」ってのは照れ臭いから「サンキュ」ってゴマかしたけど。

そうだよ。これで全てが終わった訳じゃあ無い。立ち上がらなくちゃ。

僕らの戦いはまだ続くんだから。

 

 

男子5000m 試合結果

第一位 秋津伸吾(葉桜高校)

第二位 相良勇(葛西臨海高校)

第三位 名高涼(多摩境高校)

第四位 伊坂広太郎(平和島第二高校)

第五位 赤沢智(松梨大学付属高校)

第六位 八重嶋翔平(落川学園高校)

第七位 香澄圭(松梨大学付属高校)

第八位 西隆登(松梨大学付属高校)

第九位 相原英太  第十位 五島林  第十一位 牧野清一  第二十三位 向井

 

 

空の下で 風の部 END

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