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2010年8月19日 (木)

空の下で-熱(5) 北の大地・函館の夜

「え・・・え・・・?」

マヌケな裏声が電灯の消えた狭い部屋に妙にコダマした。

サトルが急に核心に迫る様な事を言い出すからだ。

「聞こえなかった?くるみさん、多分ね、好きな人がいるね」

何故だか得意げにそう言いきるサトル。電灯が消えているからよく見えないけど、多分布団にくるまりながらニヤケてそう言っているに違いない。

ガバッと上半身だけ起き上がり、僕は「どういう事?」と半ばパニック状態で聞いた。

僕ら四人は並んで四つの布団をひいていて、僕は一番廊下側だ。時任を挟んで向こう側にサトルは寝ている。その向こうの一番窓側が剛塚だ。

「どういう事って言ってもな。そう感じただけだよ。男の直感ってやつ?」

「お、女の直感ならわかるけど・・・」

くだらないツッコミを入れている場合じゃあない。さらにサトルを問いただそうとすると、間に寝ていた時任がムクリと上半身を起こした。

「サトル、英太をからかい過ぎ」

「からかってる訳じゃねえって」

「じゃあ何を根拠にそんな事言うんだよ。英太がかわいそうだろ」

かわいそうという単語が出て涙が出そうになった。なんかいじめられっ子になったみたいな気分だ。

部屋が静かになる。剛塚は黙ったまま寝転がっているが起きている気配はある。

時任が再び布団に寝転がったので僕も続いた。

枕に頭を乗せて天井を見る。暗闇だけれど、窓から入ってくる街の明かりでぼんやりと天井が見えた。

ややあってサトルがいつもとは違うテンションの無い声で話し出した。

「オレさ」

「ん?」

「自分の恋愛がうまく行ってないからさ。ちょっと英太をからかいたくなっちったんだ。ごめん」

すぐさま時任が「やっぱからかったんじゃねーか」と言う。

「いや、いいよ別に。ちょっとムカついたけど・・・」

「悪い」

また沈黙だ。どこか近くの部屋で「革命!!」と叫ぶのが聞こえた。トランプでもしているんだろう。あんな大声出したら先生に見つかるっての。

「サトルって彼女とうまく行ってないの?」

時任が聞くとサトルは「うまくは行ってるんだけど・・・」と言いゴソゴソと寝返りを打った。

「オレの事は好きみたいなんだけどさ。もっと好きなヤツがいるっぽい。オレ、第二位」

「ひゃー」

時任がマヌケな相槌を打った。

「だ、誰が好きなのかわかるの?」

何だかガールズトークみたいな事を聞いてしまった。しかもその答えを聞いてブッと吹き出してしまう。

「柏木直人」

「ぶ!!」

あいつ・・・相変わらずの人気だな・・・。嫌な奴だよホント。

「時任は彼女とか出来ないのかよ」

サトルは急に話題を時任に変えた。あまり柏木の事は考えたくないらしい。

「オレはゲームがあればいいや」

「二次元なヤツ」

「二次元にも恋愛ゲームってのがあるんだぜ。しかも立体感はある」

「はいはい」

そんな事を言いながらも時任は多分、あの田中ちゃんという女子が好きな気がする。普段の行動を見ているとそう思える。だってよく目でチラリと追っているもの。

でも田中ちゃんという女子は吹奏楽部のOBと付き合っているという噂だから、みんな恋愛では苦労する事になる。

「で、英太はさ」

サトルが話を僕に戻した。

「くるみさんとは上手くいきそうなの?」

「んー。上手く・・・いきそうな気はほんのちょっぴりはする」

とんでもない勢いでサトルが飛び起きた。

「それは何パーセントの確率でだ?!!」

「5パーセントくらい」

「・・・んだよ」

サトルは一気にトーンダウンしてあぐらをかいた。

「でもさ。ゼロパーセントじゃあ無いんだね」

時任が羨ましそうな声を出した。ちょっと気持ち悪い。

「可能性がさ、ゼロじゃあ無いんなら、希望はあるんだよね。だから英太は、ほんのちょっぴり上手くいけそうな気がするんでしょ?」

「う、うん」

「じゃあさ、もう決めちゃいなよ」

「な、何を?」

「勝ちか、負けか。この修学旅行中に」

ドキリとした。ゲームばっかの時任がこんな積極的な事を言い出すとは思わなかった。時任の言葉で心臓の鼓動が激しくなるなんて・・・不覚だ。

「ゲームにだって最後は勝敗が着くんだよ。しかもそれは自分で勝敗を着けなくちゃいけないんだ。恋愛だって一緒だよ英太」

「そ、そうかな」

何かいい事を言われる様な、そうでもない様な、時任って何なんだ。

「そうだよ。決着つける時だよ。もう長いんでしょ?片思い」

「両想いかもしれないでしょ」

言って自分で恥ずかしくなった。何が両想いだ。

「・・・決着・・・か」

そう言ったのはサトルだ。サトルはそのまま寝転がった。

「決着ね」

僕もそう言い目を閉じた。

「決着・・・」

最後にそう言ったのは時任・・・か?剛塚だった様な気もする。

ここで会話はなくなり、ボーイズトークは終演した。

 

 

僕の頭の中には札幌の自由行動の時どうするか、という事が一晩中繰り広げられていた。

 

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