お知らせ
こんにちは、cafetimeです。
現在、夏の仕事に追われていて、連載がストップしてしまっています。
すでに半月もストップしていますが、連載再開まではもう少し時間がかかりそうです。
読んでくれている方には申し訳ありませんが、いましばらくお待ちください。
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こんにちは、cafetimeです。
7月19日以降、一ヶ月間止まっていた「空の下で」の連載をやっと再開します!!
この間、自分の力量以上の仕事を任せられていて、逃げ出したくなる様な精神状態で働いておしました。
バレエ作品の照明チーフを任せられ、深夜まで照明プランを考えたり資料を作ったりなどして大変な思いをしていました。
それでも何とか逃げずに公演を終えました。
必死に駆け抜けた夏でしたが、その間は連載は駆け抜けられませんでした。
しばらくぶりの連載となりますが、どうぞよろしくお願い致します。
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ぽやーっとしたまま初日が過ぎ去ってしまった。理由はただ一つ、昼間に函館山でくるみとのやりとりだ。
「札幌って自由行動あるよね」
そう言われ、なりゆきとはいえこう返してしまった。
「一緒に行動する?」
我ながらよく言ったもんだと思う。普段だったらこんな事は絶対に言えない。修学旅行っていう独特の雰囲気が僕にちょっとした度胸と勢いをくれたのかもしれない。
「え?あ、うん、いいよ」
ちょっと目を泳がせながら答えたくるみを見て僕が飛びあがりたい程テンションが上がった。
出来る事なら「よっしゃー!」とか「好きだー!」とか函館山から叫んでみたいが、そんなの単なるアホだ。気持ち悪い。
函館山ではそこへ田中ちゃんなるぽっちゃり系の女子が来て、くるみは田中ちゃんと一緒に歩いて行ってしまった。
くるみはよく田中ちゃんという吹奏楽部の女子と一緒に行動しているのを見る。きっとあの田中ちゃんという女子は、くるみが誰の事を好きだとかいうのを知っているに違いない。
その田中ちゃんが去り際にほんの少しだけ僕の方を見たのに気付いた。
でも、その視線の意味するところは僕にはわからなかった。
函館山の観光の後は、市内のホテルにバスで移動だ。
バスに乗り込むと担任の栃木先生がバスガイドの宮咲サンにデレデレしながら会話しているのが見えた。
「エロオヤジ」
僕の一つ前の列に座っているサトルがそう呟いたのが聞こえた。
「ほっとけよサトル。それよりゲームやろうぜ。ボンテンドーDS」
サトルの隣にいる時任がポータブルゲーム機を二台取り出し、二人はゲームをやりだした。バス移動中ってゲーム禁止じゃなかったか?
バスは函館山を出て市街をゆっくりと走ってゆく。
同じ日本だというのにコンビニエンスストアやガソリンスタンドには見慣れないマークが付いていたりする。地域が変わるとチェーン店も変わるんだと妙に感心しながら景色を眺める。
くるみと自由行動をする札幌ってどんな街なんだろ・・・。
「オイ英太」
隣に座る剛塚が低くて太い声を出した。なんとなく機嫌が悪そうな声だ。
「な、なに剛塚」
「栃木の野郎、あのバスガイドになれなれし過ぎないか?」
言われて少し立ちあがってバスの前方を見ると、栃木先生が宮咲サンの肩をたたいて笑っているところだった。
四十過ぎのオジサンが若い美人ガイドさんの隣に座ってテンションが上がっちゃってる感じだ。
「まあ、確かに」
「ウゼエよな」
「まあ、確かに」
「これ以上エロオヤジ化する様だったら、俺、栃木の野郎を止めてくるや。宮咲さんも嫌そうだしよ」
「まあ、確かに」
「英太、お前もっと真剣に考えろよ」
「まあ、確かに」
剛塚はやたらと憤慨している。
「もしかして剛塚、あのガイドさんお気に入り?」
余計なひと言だったか。剛塚は鋭い目つきのまま視線を栃木先生から僕の方に向けた。
「だったら何だ」
「い、いや・・・。何でもない」
剛塚ってば年上が好みだったんだ。
ホテルは函館市の歓楽街からは少し外れたところにあるわりと立派な建物だった。
正面玄関前にバスが止められて、僕らはバスを降りた。
「今日一日お疲れ様でしたっ!」
調子のいいサトルが運転手さんと宮咲さんにそう言って降りて行き、剛塚は「ども」とか宮咲さんに一声かけて降りた。
何が「ども」だ。話したいならもっと話せばいいのに。・・・と他人の事言えないか。
僕らは15階建ホテルの7階と8階の部屋に散らばった。
僕は剛塚とサトルと時任の四人部屋だ。707号室という部屋番号を見てサトルが騒ぎ出す。
「なんとなく!なんとなくラッキナンバー!!」
「静かにしろ」
剛塚に言われしょぼんとするサトルをほったらかして僕らは部屋に入った。
「せま」
入室最初に時任が言った言葉が今の一言だ。四人で泊まるにしちゃやたらと狭い。
最初、修学旅行で四人部屋だなんて贅沢かと思っていたけど、なるほどこういう事だったか。
「まあいいや。ボンテンドーDSやるくらいは出来るし」
「ボンテンドーDSのDSって何の略だっけ」
「どっちもスクリーン」
「へえ」
思わずくだらない会話をしてしまう程、部屋の狭さにテンションが下がった。
夕食は2階にある宴会場みたいな大部屋で学年全員が一緒にバイキングを漁った。
ここにこんなスペースがあるなら一部屋の広さをもっと作ってほしいところだ。
きょろきょろとくるみの姿を探してみたけど、生徒が多すぎてわからなかった。
どこかのクラスの生徒が悪ノリで騒ぎ出したが、五月先生に睨まれると静かになった。
あの先生の異様な迫力はどこから来るものなんだろうか。僕の個人的な予想だと、五月先生はかなりの修羅場をくぐってきた人なんじゃないかと思う。例えば高校時代は相当な暴れん坊で、高校と高校の抗争に関わっていたとか・・・。考えすぎかな?
夕食を終え、大浴場でお風呂に入り、ちょっと眠くなりつつ部屋に戻る。
消灯時間は午後十時となっているけど、誰もそんな時間に寝るヤツなんていやしない。
一応、部屋の電気は消して布団に入ってみたものの、やはりサトルあたりからしゃべりだした。
それもと唐突に、変な話題を振ってきた。
「英太ってさ」
「ん?」
「若井くるみってコが好きなんだろ?陸上部の」
「え?あ、うん。よく知ってるね」
「サッカー部の友達が言ってた」
柏木直人か。あいつ、余計な事を。
「それでさ・・・。オレ、多分、おせっかいな事を言うのかもしんないけどさ」
ドキリとした。サトルのやつ、一体何を言い出す気なんだ?
「その、くるみさん?多分、好きな人いると思うよ」
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「え・・・え・・・?」
マヌケな裏声が電灯の消えた狭い部屋に妙にコダマした。
サトルが急に核心に迫る様な事を言い出すからだ。
「聞こえなかった?くるみさん、多分ね、好きな人がいるね」
何故だか得意げにそう言いきるサトル。電灯が消えているからよく見えないけど、多分布団にくるまりながらニヤケてそう言っているに違いない。
ガバッと上半身だけ起き上がり、僕は「どういう事?」と半ばパニック状態で聞いた。
僕ら四人は並んで四つの布団をひいていて、僕は一番廊下側だ。時任を挟んで向こう側にサトルは寝ている。その向こうの一番窓側が剛塚だ。
「どういう事って言ってもな。そう感じただけだよ。男の直感ってやつ?」
「お、女の直感ならわかるけど・・・」
くだらないツッコミを入れている場合じゃあない。さらにサトルを問いただそうとすると、間に寝ていた時任がムクリと上半身を起こした。
「サトル、英太をからかい過ぎ」
「からかってる訳じゃねえって」
「じゃあ何を根拠にそんな事言うんだよ。英太がかわいそうだろ」
かわいそうという単語が出て涙が出そうになった。なんかいじめられっ子になったみたいな気分だ。
部屋が静かになる。剛塚は黙ったまま寝転がっているが起きている気配はある。
時任が再び布団に寝転がったので僕も続いた。
枕に頭を乗せて天井を見る。暗闇だけれど、窓から入ってくる街の明かりでぼんやりと天井が見えた。
ややあってサトルがいつもとは違うテンションの無い声で話し出した。
「オレさ」
「ん?」
「自分の恋愛がうまく行ってないからさ。ちょっと英太をからかいたくなっちったんだ。ごめん」
すぐさま時任が「やっぱからかったんじゃねーか」と言う。
「いや、いいよ別に。ちょっとムカついたけど・・・」
「悪い」
また沈黙だ。どこか近くの部屋で「革命!!」と叫ぶのが聞こえた。トランプでもしているんだろう。あんな大声出したら先生に見つかるっての。
「サトルって彼女とうまく行ってないの?」
時任が聞くとサトルは「うまくは行ってるんだけど・・・」と言いゴソゴソと寝返りを打った。
「オレの事は好きみたいなんだけどさ。もっと好きなヤツがいるっぽい。オレ、第二位」
「ひゃー」
時任がマヌケな相槌を打った。
「だ、誰が好きなのかわかるの?」
何だかガールズトークみたいな事を聞いてしまった。しかもその答えを聞いてブッと吹き出してしまう。
「柏木直人」
「ぶ!!」
あいつ・・・相変わらずの人気だな・・・。嫌な奴だよホント。
「時任は彼女とか出来ないのかよ」
サトルは急に話題を時任に変えた。あまり柏木の事は考えたくないらしい。
「オレはゲームがあればいいや」
「二次元なヤツ」
「二次元にも恋愛ゲームってのがあるんだぜ。しかも立体感はある」
「はいはい」
そんな事を言いながらも時任は多分、あの田中ちゃんという女子が好きな気がする。普段の行動を見ているとそう思える。だってよく目でチラリと追っているもの。
でも田中ちゃんという女子は吹奏楽部のOBと付き合っているという噂だから、みんな恋愛では苦労する事になる。
「で、英太はさ」
サトルが話を僕に戻した。
「くるみさんとは上手くいきそうなの?」
「んー。上手く・・・いきそうな気はほんのちょっぴりはする」
とんでもない勢いでサトルが飛び起きた。
「それは何パーセントの確率でだ?!!」
「5パーセントくらい」
「・・・んだよ」
サトルは一気にトーンダウンしてあぐらをかいた。
「でもさ。ゼロパーセントじゃあ無いんだね」
時任が羨ましそうな声を出した。ちょっと気持ち悪い。
「可能性がさ、ゼロじゃあ無いんなら、希望はあるんだよね。だから英太は、ほんのちょっぴり上手くいけそうな気がするんでしょ?」
「う、うん」
「じゃあさ、もう決めちゃいなよ」
「な、何を?」
「勝ちか、負けか。この修学旅行中に」
ドキリとした。ゲームばっかの時任がこんな積極的な事を言い出すとは思わなかった。時任の言葉で心臓の鼓動が激しくなるなんて・・・不覚だ。
「ゲームにだって最後は勝敗が着くんだよ。しかもそれは自分で勝敗を着けなくちゃいけないんだ。恋愛だって一緒だよ英太」
「そ、そうかな」
何かいい事を言われる様な、そうでもない様な、時任って何なんだ。
「そうだよ。決着つける時だよ。もう長いんでしょ?片思い」
「両想いかもしれないでしょ」
言って自分で恥ずかしくなった。何が両想いだ。
「・・・決着・・・か」
そう言ったのはサトルだ。サトルはそのまま寝転がった。
「決着ね」
僕もそう言い目を閉じた。
「決着・・・」
最後にそう言ったのは時任・・・か?剛塚だった様な気もする。
ここで会話はなくなり、ボーイズトークは終演した。
僕の頭の中には札幌の自由行動の時どうするか、という事が一晩中繰り広げられていた。
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バスは五台の列をなして山道の中を進んで行く。
北海道修学旅行の二日目だ。今日は初日と違ってえらく涼しい風が吹いている。おまけに湿度というのがあまりない。カラッと晴れていて、とても七月下旬とは思えなかった。
バスガイドの宮咲さんがマイク片手に今日も観光案内を入れて行く。
途中サトルがまたも「彼氏いないんですかー」と聞いたら、逆に「キミは彼女いるのー?」と返されてサトルは真っ赤になっていた。
「あ、いるんだ」
宮咲さんがニコッと笑うと女子からは「かわいいー!」の声が上がった。
確かにかわいい。宮咲さんは多分、二十五歳くらいだと思うけど、僕らから見ても童顔でかわいらしい。それでいて大人の雰囲気もあるからそりゃ人気も出る。
「宮咲さんてかわいいよね」
隣に座る剛塚に言うと「くるみに怒られるぞ」と返された。そんな言い方無いでしょ。
バスは昼食休憩を挟んで旭川市に到着した。
旭川は当初は修学旅行のコースに含まれてはいなかったのだけど、生徒会が頑張って旭山動物園をコースに入れてくれた。
ここは画期的なアイデアを次から次へと導入して大成功した動物園だ。その成功のプロセスをレポートしろという課題が付いたけど、それ以上にホントに楽しめた。
僕は今日も剛塚とサトルと時任の四人で歩く。
園内はすごい数の観光客でごったがえしてはいるけれど、超人気の動物のコーナーに行かなければそれなりに見て回れた。
てっきり白クマとかペンギンとか、白い生き物ばかりかと思っていたんだけど意外にもライオンとかもいて、小学生みたいに「うお!ライオンだ!」とか叫んでしまった。
「ホントだ、すげー!!」
サトルも大きな歓声を上げていた。
今日は半日かけて旭山動物園を回っていていいので、一通り見て回ったところで四人で休憩スペースのベンチに腰を降ろした。
小さな丸いテーブルを四人で囲む形になり、それぞれ買ってきたジュースを飲む。
「やっぱ夏は炭酸だな」
剛塚が500ミリリットルのサイダーを一気にグビグビっと飲む。
「くはあ!サイダーもいいけどビール飲みてえな!!」
「それは問題発言」
テンション上がり気味の剛塚に時任がツッコム。
「細かい男だ」
グシャリと音をたててサイダーの缶を握りつぶし、「そういや英太、聞いたか」と視線を向けて来た。
「何を」
「名高のヤツ、今日の朝、ホテルの周りを走ってたらしいぜ。朝練だ」
「あ、朝練?修学旅行に来てまで?」
僕が大声を出し、サトルは「いかれてんぞソイツ」と呟いた。
「あいつ、関東大会で敗退しただろ。きっと全国に進んだ秋津伸吾に追いつきたくて練習してんだよ」
剛塚の分析は正しいと思えた。名高は秋津伸吾に強いライバル心を抱いている。きっと秋の駅伝大会で勝つために修学旅行中にまで特訓しているんだ。
名高と秋津が対決する事が確実視できるのは、残すところ東京高校駅伝大会しかない。今までずっと負けて来た名高にとって、これが最後の挑戦という事になるんだ。
「でもその名高って人、高校で陸上辞める訳?」
時任が素朴な疑問をぶつけてきた。それには僕が答える。
「ううん。大学に進んで、そこで陸上続けたいって言ってたよ。関東大会にまで進んだ実力だから、いくつかの大学から誘われてるみたいだし」
「だったら大学生になってからまた秋津って人に挑戦するって事も出来るじゃん」
「うーん、多分、高校時代に全敗のままじゃいられないんだと思う。そういうヤツなんだ、名高は」
「すごいね。ストイックだ」
時任はやたらと頷きながら感心している。
「英太とか剛塚はどうすんの?陸上」
サトルに言われて僕と剛塚を互いを見合った。
「オレは陸上は高校までだ。卒業したら建築とかやりてえし」
剛塚はためらいもなく言い切る。
「僕も高校までかな。大学で通用するレベルじゃないし」
「そっかあ」
サトルは少し寂しそうに空を見上げた。
「あと半年で卒業だな」
つられて僕らも視線を上に移した。青い空に小さな雲が浮かんでいた。
卒業・・・か。
いいかげんにその先の事を決めなくてはいけない時が迫っていた。
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旭山動物園で午後二時まで過ごし、僕らは再び北海道アンダースカイ観光のバスに乗り込んだ。
今日のバス移動はめちゃくちゃハードだ。信じられないレベルだと言っていい。
早朝に函館を出発し、午前十時過ぎに旭山動物園に到着。そこで数時間を過ごし、またも異動で次に向かうのは富良野だ。
途中、札幌を通過している事になる。
何故にこんな計画で動いているかというと、僕らの学校が旅行計画の依頼をしていた会社が今年の春に倒産したからだ。
長引く不況の影響だという事で、誰も文句は言えなかった。
そこで引き継ぎで北海道アンダースカイ観光が僕らの修学旅行を計画し直してくれたのだけど、何せ時期が迫っていてホテルが手配出来なかったため、函館・旭川・富良野・札幌・小樽の順で回るという何とも不効率な旅行となった。
「バス移動ばっか」
旭川でバスに乗り込む時、未華はため息をつきながらこぼした。
しかし僕らのバスの担当は、かわいい宮咲さんなので男子はご満悦そうだ。
バスは午後四時過ぎに富良野の町に到着した。
そのまま広大なラベンダー畑のあるファームに止まり、僕らをそこで久しぶりに自分の足で移動だ。
「くおー、疲れてしまったー!」
サトルが伸びをし、時任が「もう少しゲームしてても良かったけど」などと言い、剛塚は指の骨をバキボキゴキと鳴らした。
「ラベンダーの見ごろは毎年七月。つまり今です。ゆっくりじっくりと北海道を代表する景色を眺めてきてくださいね」
宮咲さんがバスの出口でそう言うのを聞きながら僕ら四人はファームを歩きだした。
駐車場から出てお土産物屋さんのある道を抜けると、広大なラベンダー畑が姿を現した。
広大な、という表現はこういう時に使うものだって確信できるくらい、広大だ。
綺麗な紫のラベンダーが辺り一面を覆い尽くしている。
それだけではない。ラベンダー以外にも様々な花がライン状に植えられていて、まるで虹色の畑になっているのだ。
「こういうの、牧野とか好きそうだよな」
剛塚が僕にそう言い、僕は頷いて答える。
「あいつ、ロマンチックなの好きだからね」
「未華ってそういうの好きなのか?」
「どうかなあ・・・」
牧野と未華は順調に交際を続けているらしい。部活が休みの日に横浜まで出かけて観覧車に乗ったと言っていた。
「あいつらさ・・・」
剛塚が腕を組んで難しい顔をして言う。
「したのかな」
「何を?」
「・・・」
ラベンダー畑の向こうからゴトンゴトンという音が聞こえてくる。
何かと思えば、畑の向こうに線路があり、そこを何やらレトロな茶色い電車が走って行くのが見えた。
機関車両が、四両だけの車両をゴトゴトと引っ張って行く。
「あれはノロッコ号だな」
時任が視線をノロッコ号なるものに向けながら話す。
「富良野と美瑛を繋ぐ列車だ。電車じゃあない、列車だ。トロッコを意識して作ってるらしくてさ、景色のいい場所まで進むとスピードを落としてくれるらしい」
「ゲームだけじゃなく電車まで詳しいのか」
「いや、ゲームほど詳しくない。ただ、乗り鉄には興味がある」
乗り鉄ってのは鉄道ファンのジャンル分けで電車に乗るのが好きな人達の事だ。他に撮り鉄とかがあるってテレビでやってた。
「なんで乗り鉄に興味あんの?」
「鉄子と知り合えるかもしれんだろ」
「鉄子?」
鉄子というのは・・・。まあ何でもいい。時任は鉄道の旅で女子と知り合いになりたいだけだ。
「おい、あっち行ってみようぜ」
サトルが叫び、僕らは少し登り坂になっている道を進んだ。
ほんのちょっとした丘になっていたので、くるみがいるかなって思ってたら、いた。
少し傾いた太陽に照らされたラベンダー畑をバックに、くるみは田中ちゃんと二人でぽけーっと立っていた。
少し吹いている風でくるみの肩まである髪の毛が揺れる。
よく見るとほんの少しだけ茶色に染めたらしい。明るい太陽の下でしかわからないくらい少しだけ。
くるみは僕に気付き、話しかけてきてくれた。
「ここ、いい景色だね」
「丘好きのくるみとしては何点くらいな丘?」
「うーん、100点・・・かな」
「満点じゃん!」
「だってさ、時間の流れも忘れるくらい綺麗な景色なんだもん」
言われて二人で景色を眺める。
いやに僕とくるみの距離が近くて僕の腕とくるみの肩がぶつかってしまった。
「あ、ごめん」
「う、ううん、いいよ」
互いに目を逸らして言い合う。ちょっと目は見れなかった。近すぎて照れ臭い。
「英太ー。行くぞー」
サトルに言われ僕がその場を去ろうとすると、くるみが「後でメールするね」と後ろから声をかけた。
「おまえさ」
富良野の宿泊先であるホテルに到着し、またも四人で部屋に入るとすぐにサトルが言いだした。
「なに?」
「英太、おまえさ、そろそろ告白しろよ!」
「こ、告白?」
サトルは僕に掴みかかりそうな勢いだ。
「くるみちゃん、絶対うまくいくって!さっき見ててオレ様は確信した!」
「そ、そうかなあ・・・」
「そうだよ!絶対そう!両想いだって!男からちゃんと言えよ。好きだって」
サトルの眼差しはいつになく真剣だった。
だからかもしれない。
明日の札幌の自由行動で、東京に帰ってからのデートに誘えたらいいなって考えていたのが、告白しようかなっていう考えに変わったのは。
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