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2010年9月20日 (月)

空の下で-熱(12) 雷雨(その1)

『部活の帰りにイキナリ理由もなく殴りかかってきたんです』

東京に帰って来て最初の夜だ。

僕は羽田空港から牧野と一緒に堀之内の町まで帰って来て、そのまま牧野の家にお邪魔した。

本当はくるみと一緒に帰ってきたかったけど、五月先生が「陸上部が狙われた可能性もあるからうちの部の女子はオレが送って帰る」と言って三人を連れて帰った。

別れ際、振り返るくるみは固い表情をしていた。

「イキナリかよ」

牧野の部屋の中心に家の電話の子機を置き、それをスピーカーホンにして話す。

電話の向こうは一年生の一色だ。

「ケンカって巻き込まれたんじゃなかったのか」

『学校にはそう言ったんです。部に迷惑かけない方がいいと思って・・・』

一色は弱々しい声を出した。

「お前は怪我してないの?」

『後ろから羽交い締めにされて胸に蹴りを食らったんですけど・・・、別に打撲とかはしてないです』

生々しい話だ。

『こっちは短距離と長距離の一年生だけの五人で歩いてて、向こうは三人だったから人数はこっちの方が多かったんですけど・・・その、相手の迫力が凄くて』

一色は申し訳なさそうに語る。一色が何も悪い事なんてしてないのに。

「他の一年生はどうなったの?」

僕が出来るだけ優しい声で聞くと一色は泣きべそみたいな声を出した。

『う・・・うう・・・』

「泣いてる場合か」

牧野はイラついた声を出した。三者三様、全く違う声色だ。

『他のみんなは足とか腕とか打撲したり顔を切ったりして・・・一方的にやられまくりです』

「一方的に・・・」

ゴクリと唾を呑んだ。反抗しない一年生に好きなだけ暴行を加えたという事実が怒りと恐怖を僕の中に生んだ。

しかし牧野は意外な事を言うのだった。

「よくやった一色」

『は、はい?』

「こっちは手を出さなかったんだな?」

『え、あ、はい。出さなかったというか、出せなかったというか・・・。手を出したら部活がヤバイって言ってるヤツもいましたし・・・』

「わかった。一色、お前も一応医者に胸を見てもらえよ」

そう言って牧野は電話を切ろうとした時、一色が呼びとめた。

『あ、先輩』

「ん?」

『相手の三人、落川学園だって言ってました』

「聞いたよ。またかって感じだな」

『でも・・・気になる事があるんです』

「何?知ってるヤツでもいたか?例えば落川学園の陸上部のヤツとか」

『いえ・・・その・・・、落川学園の制服を着てなかったんです』

「一度家に帰ったんだろ」

『はい、多分。それで・・・ウチの監督に迷惑かけんじゃねーよって言ってました』

落川学園の監督?どんな人だっけ。いや、会った事ってあるっけ・・・。

何かしらの嫌な感覚が体に付きまとったまま、この日はこれで解散となった。

 

 

修学旅行からわずか一週間で一学期も終わりだ。

その間、僕ら陸上部は再び練習が開始されたのだけど、学校から出る時は全員集団で帰る様になった。

落川学園から襲撃を受けるのは過去に一度前例があるので、今回は部員達にも警戒心が強かった。

前回の襲撃は二年前。秋の記録会の頃だ。練習後、バラバラに駅に向かっていたら、くるみと未華が掴まり、そこから騒動の末に雪沢先輩が足を捻挫するという事態になった。

その時と同じ事態にしてはならない。幸いな事に今回の襲撃で怪我した一年生達はもう練習に参加するくらい軽い怪我で済んでいた。多少休んだけど、夏の記録会やら秋の新人戦やらにはそれほど影響なさそうだ。

そんな僕らの不安をよそに、五月先生は落川学園に抗議の電話をかけたりしていた。

落川学園の先生達は、こういう事態に慣れている様子で、犯人探しをしてくれたみたいだけど、生徒を特定する事は出来ない様だった。

そうして何事も起きないまま一学期は終了した。

 

 

夏休み最初の練習日。僕は五月先生と一緒に学校のマイクロバスの掃除をしていた。

他のメンバーは練習後に集団で帰ったのだけど、じゃんけんに負けた僕だけが掃除で居残りだ。

「なんで一人だけ居残りなんですかー。みんなでやれば早いのに」

僕が愚痴ると五月先生は「うるさい」と言って作業を促した。

「たくさん残ったら車で送るのが大変になるだろ」

「え、今日、車で送ってくれるんですか!」

「ああ、一人で帰すのは危ないからな」

ちょっと上がりかけたテンションもこの言葉で下がった。

 

 

マウクロバスの車内掃除を終えて、五月先生の車の助手席に乗り込んで学校を出る。

もう薄暗くなった八王子市の緑に囲まれた道を、ロック音楽全開で車は駆け抜けた。

「いい曲だろ」

「激しいですね。教師っぽくないです」

「オレは・・・先生はこういうハードなのが好きなんだ。教師イコール大人しい音楽って思うなよ」

静かな山道を場違いな音楽で走り、やがて堀之内が見えてきた。

「なあ相原」

「はい?」

五月先生は音楽のボリュームを少し下げて話す。

「落川学園に聞いても犯人わかんなかった。それで一つ、気になる事が出て来たんだ」

「はあ・・・」

「落川学園って、どの部にも顧問の先生がいるらしいんだけどな。まあ当たり前だけど」

「そうですね」

「監督って呼んでる部は無いっていうんだ」

「そうなんですか?」

五月先生はかかっていたCDを止めた。

そのまま「悪い、今の聞かなかった事にしてくれ」と呟いた。

 

 

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