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2010年9月30日 (木)

空の下で-熱(14) 雷雨(その3)

山中湖合宿の最大の山場は、月日が経っていてもやはり富士山登りだ。

これは須走という登山口からスタートして富士五合目まで走るというコースで、全長は10キロ程度ながら全編通して登りしかないというまるで修行の様な練習だ。

合宿最終日、僕ら長距離チームは須走登山口で各自ウォーミングアップをしていた。

ふと見上げると、信じられないくらい大きな富士山がドーンとそびえていて、こんなの半分も登れるのかよってつぶやきたくなる。

「相変わらず厳しそうだな」

牧野が楽しそうにケラケラ笑う。

「よし、行くぞー」

五月先生の号令で僕らは富士山を登りだした。

 

 

最初にやってくるのは長い三キロもの直線だ。そしてこの登り傾斜角度がきつい。

ひと固まりになって走りだしたのに、一キロも進まないうちに一年生達が遅れだす。

もうかよ!って叫びたくなるけど、二年前の僕もそうだった様な記憶があるので、まあ仕方ないと思いながら腕を振る。

僕はアップダウンのあるコースが苦手だ。でも秋の駅伝では少しとはいえアップダウンが存在する。

だから春のインターハイ終了後、僕は登り坂や下り坂にも柔軟に対応出来る様に腕や足の筋トレにも励んできた。

そのせいかちょっとだけ腕も足も太くなった。

「英太くん、ちょっとたくましくなったよね」なんてくるみに言われて嬉しかった。

しかし少しくらい鍛えたからってこの富士山は通用するものではなかった。

三キロの直線は何とか耐えきったものの、その後に続く強烈な坂道で心が折れた。

「こ、こんな凄かったっけ・・・」

思い切り腕を振り、足を前へと進めたが、名高と牧野の二人だけが前へと進み、僕は剛塚と染井と一色の四人の集団を形成した。

牧野は凄い。名高に食らいついて行っている。

「く、くっそ」

焦っても登り坂がゆるくなる事は無い。次第に足も腕も、そして体も重くなっていく。

腕にはジリジリと燃え盛る太陽の光が突き刺さり体力を奪って行く。

修行・・・か。

これは本当に修行だ。早いとか遅いとかの問題じゃなくて、精神的にどこまで持つかという授業なんだと思った。

一度折れた心を何とか持ち直し、坂道をゆっくりと走って行く。

気がつけば一色が遅れだし、染井も遅れて行った。

僕は剛塚と並び、上を目指す。

剛塚は本来なら染井よりも実力は下なのだけど、こういう荒いコースにはやたらと強い。

そう、強い。早いのではなく強い。

僕は剛塚を見ていていつも思う。強くなりたいって。

自分の意志を曲げずに淡々と走り続ける剛塚を見ていると、僕にもそんな力が欲しくなるんだ。

 

 

ふわっと体が宙に浮いた。

この難コースの中で唯一の下り坂になったのだ。

その距離わずかに80mといったところだ。僕は勢いをつけるためにびゅーんと飛ばした。

すぐに厳しい登りになったのだけど、心に勢いをつける事が出来たのか、ほんの少しだけペースを上げる事が出来た。

そのまま剛塚をちょっぴり離して、僕は三位でゴールした。

 

 

「え?もう来たの?!」

ゴール地点ではまだ息を切らしながら倒れている名高と牧野がいた。

牧野は「へえ」って顔していたけど名高がずいぶんと驚いていた。

「すげえな英太。オレとあんまりタイムに差が無いぜ?いつの間にそんなに早くなったんだよ」

名高は何だかテンション高めな声だ。

「すげえよ。牧野もオレとほぼ同着だし・・・。剛塚ももうゴールでしょ?こりゃあ・・・今年はスゲエ事になるんじゃねえ?」

名高は嬉しそうに五月先生の方を見た。

五月先生はマイクロバスで登って来たらしく、それに寄りかかりながらこちらを見ていたのだけど、「うむ」と言って寄って来た。

「関東、狙えるかもな」

「それって・・・松梨付属と互角にやりあえるって事?」

「松梨・・・か」

五月先生は腕組みをして唸った。

「うん、関東狙うってのもいいけど、松梨に勝つってのも面白いな。打倒松梨ってのもな。ヤツらは多摩地区では最強と言われているからな。多摩地区最強の名前をうちにしちゃうってのもいいな」

「多摩地区最強・・・」

「松梨以上?」

「松梨に勝って関東に行く。これが今年の目標だな」

五月先生は満足げに頷いた。

ホントにいいのか、そんな大それた目標で。

 

 

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コメント

剛塚くんのように強くなりたい!

淡々と自分の目標に向かって己を鍛える…

速くなってほしいけど、心、強くなるって素敵ですね!


関東 狙ってほしいです


今日、11時に中体連1500m中2また試合です


仕事から帰宅し夜中ですが、弁当を願掛けで仕込みます

投稿: kenchan-kouchan | 2010年10月 1日 (金) 00時26分

困った書き込みをする人がいますね


陸上小説で学生の方も楽しみに更新を待ち望んでいるのに小説を読んでいるとは思われない、いかがわしい宣伝の書き込みは削除できないのでしょうか?

試合ですが31℃の暑さの中4'30で優勝2週間後の石垣島大会に出場が決定しました


英太くんのお母さんの立場の視線からの章なども期待します


栄養面も勉強して、グリコーゲンローディングなどを実践したり、玄米を洗い4時間毎に水を換えて半日以上かけて発芽玄米を作ったり…

仕事がマッサージ師なので、筋肉疲労を取り去ったり…


子どもと共に走っている気持ちです。

高校生にもなると親は子どもの部活の試合を観に行かないものなのでしょうか?

英太くんのお母さんの気持ちも関心あります


投稿: kenchan-kouchan | 2010年10月 3日 (日) 01時21分

こんにちは、Kenchan-kouchanさん!

すいません、おかしな書き込みは削除しました。
なるべくこまめに削除しているのですが知らないうちに書きこまれてしまいました。
気分を害する事になり申し訳ありません。


4分30秒ですか!早いですね!
そして石垣島の大会出場おめでとうございます!!
31度の中、走るなんて厳しい状況なのにくじけず走るのは気持ちが強いんだと思います!

あ、英太のお母さんですか。それほど部活に関心が深いわけじゃない様に見えるんですが・・、実は・・、まあ秘密です(笑)

マッサージやってらっしゃるんですね。グリコーゲンですか、かなり栄養を勉強してらっしゃるんですね。一緒に色々取り組んでいて、気持ちいい家族関係ですね!!

投稿: CAFE TIME | 2010年10月 3日 (日) 14時58分

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