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2010年9月 6日 (月)

空の下で-熱(9) 北の大地・旧本庁舎

自由行動の後に集合するのは午後六時に北海道庁・旧本庁舎だ。

なので午後三時過ぎにここに行ってもうちの高校の人間は誰一人としていなかった。

予想していた通りだ。だから僕とくるみはここを待ち合わせ場所に選んだんだ。

この旧本庁舎という場所は明治政府が当時使っていた赤れんがで出来た建物を中心とした公園で、今は赤れんがの建物も建て替えられているのだけど、札幌中心部の観光スポットとして有名らしい。

赤れんがの建物は夏の日差しを受けて堂々と立っていて、その前にある庭の様な場所には池があり、その池にかかる木製の小さな橋の上で、池をのぞいているくるみを見つけた。

「お待たせ」

ちょっと駆け寄ってくるみに声をかけると、くるみはビクッとしてこちらを向いた。

「わ、びっくりした。思ったより早かったね」

「そう?」

待ち合わせは午後三時だ。直前に見た携帯電話の待ち受けには二時五十分という時間が出ていたからそんなに早い訳でもない。

「ここ、すごい建物だねえ」

くるみは少し伸びて肩までかかっている髪を手で耳に乗せながら言った。

二人で赤れんがの建物を見上げると、太陽が眩しかった。

見上げているくるみを少しチラ見する。

いつもと何も違うところは無い。見慣れた制服のスカートと白いブラウス。今日もノーメイクだけれど、それがまた純粋そうに見えて好きだ。

好きだ?

告白する前から何を考えているんだか・・・。暴走しない様に気をつけなくちゃ。

「ここさ、夜はライトアップするんだって」

僕がガイドブックに載っていた事を言うと、「らしいね」と返された。知ってたか・・・。

「見てみたかったけど、修学旅行中じゃあ無理だよね。夜も自由行動にしてくれたらいいのにね」

くるみは相変わらず赤れんがの建物を見上げたまま言う。

かと思ったらカバンからガイドマップを取り出した。書店にズラッと並んでいるよく見る観光ガイドだ。

「それでね英太くん。今日さ、ここに行きたいんだ」

一歩近づいてガイドブックを二人で覗き込むと、そこには羊ヶ丘展望台という文字が大きく書かれていて、札幌を見降ろす角度の草原の写真が載せられていた。

「ベタって思った?」

「え?」

「こいつ、いっつも丘だなあって思ったでしょ」

言われて僕は吹き出してしまった。

「ちょっと思った」

「あー。嫌な感じー」

ふてくされた声と表情でこっちを見てきたけど、近すぎて目を逸らした。

昨日もそうだったけど、くるみとこんなに近くで目を合わせる事が出来ない。

「それでね、英太くん。自由行動は札幌市街って言われてるんだよ。でも羊ヶ丘展望台は地下鉄に乗ってちょっと行った駅にあるんだ。ルール違反になるんだけど・・・平気?」

「平気平気」

「先生に見つかったら凄い怒られると思うよ?」

「全然平気だって」

「ホント?もしバレて怒られたら、私にムリヤリ連れてこられたって言っていいからね」

「それはちょっと無理ある・・・」

 

 

僕らは旧本庁舎のある公園を出て地下鉄の駅へと歩いた。

何人か多摩境高校のヤツらとスレ違ったけど、幸いな事に特に誰かに声をかけられる事は無かった。

さすがに地下鉄の駅に入る時は二人して周りをうかがったけど、誰も知り合いは見当たらなかった。

知らない地下鉄に乗り込むと空いていたので、二人で並んでイスに座った。

ガタゴトと大きな音の鳴る車内では会話はよく聞こえないので、座ったまま黙っていた。

隣に座るのは緊張した。電車の揺れで僕の腕とくるみの腕がたまに触れた。

半袖なので直接触れてしまうくるみの肌は柔らかかった。

福住という駅で地下鉄を降りて、地上に出ると「このバスに乗るんだよ」とくるみが言い、路線バスに乗り込んだ。

ここでは観光客が大勢いたので自動ドア沿いで吊皮に掴まって立つ事となった。

くるみは吊皮が高いらしく何にも掴まっていなかったけど、バスが角を曲がる時に大きく揺れ、僕が肩からかけているカバンに掴まったりしていた。

ただ単にそれだけの事なのに、頼られている様な気持ちになって嬉しくなる。

バカらしいけど、そんなもんだ。男なんて。いや、相原英太なんて。と考える。

そうして羊ヶ丘展望台に到着するとすでに四時を少し回っていた。

「着いたね」

のどかだった。

大きな大きな草原の一角にちょっとした丘があり、そこにオシャレなレストハウスや資料館などが数軒あるだけの場所だった。

この展望台を作ったというクラーク博士の銅像の周りに数人の観光客がいたけど、それ以外の人達はレストハウスや資料館に入って行った様子で、人もまばらに感じられて、静かだった。

はるか遠くには札幌の街並みが小さく見えていて、その手前には札幌ドームがあった。

「ひろーい」

くるみは思い切り伸びをした。伸ばし過ぎて制服のブラウスの下からちょっとお腹が見えたのでまたも目を逸らす。

ドキドキしっぱなしだった。

バスでカバンを掴まれた時から。

いや、地下鉄で腕が触れた時から?

旧本庁舎でくるみの姿を見た時から?

自由行動で二人でいる事になった時から?

ううん、そうじゃない。もっとずっとずっと前から、くるみの事を考えるだけでドキドキする日々だった気がする。

インターハイ予選を一緒に頑張ってる時だって、去年嫌われたと思ってた時だって、好きだって認めた時だって、一緒にお茶した時だって、盗み見をした時だって、いや、きっと初めて会った時からずっと、くるみの事を考えてる時は他の何かをしている時とは違うドキドキ感があったんだ。

そして今、その気持ちは今までで最高潮を迎えている。

言おう。

そう思った。

「くるみ」

何故かかすれた声が出たけど、くるみをこっちを向いてくれた。

「ん?」

呼吸がままならない気がした。おかげで少し間が空いてしまい、くるみの方から言葉が出てきた。

「ねえ英太くん」

「え?」

「ちょっと、座って話したいな」

そう言ってくるみを展望台のベンチを指差した。

これが、いい思い出のベンチになるのか、悪い思い出のベンチになるのか。そんな事を考えながら僕らは腰を降ろした。

 

 

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