« 空の下で-熱(15) 雷雨(その4) | トップページ | 空の下で-熱(17) 雷雨(その6) »

2010年10月 7日 (木)

空の下で-熱(16) 雷雨(その5)

多摩地区の記録会はお盆休みのすぐ後に二日間に渡り行われた。

ここで僕ら長距離チームはみんなで1500mと5000mに出場した。女子は3000mだ。

結果的に言うと、僕ら多摩境高校のメンバーは順当な記録と順位だったと言える。

名高が5000mで秋津伸吾と張り合って二位となったり、未華が3000mで優勝したり、牧野と僕は5000mで自己新を出して五位・六位となったり、染井が1500mで五位になったりと、多摩境高校陸上部という名前は確実に地域で有名になってきていた。

1500mと5000mのダブル優勝をした秋津伸吾でさえ、「名高くんが凄いのはわかってるけど、多摩境高校はみんな強いから油断できません」と顧問の真木先生に言っていたという話だ。

しかしそれでも松梨大学付属高等学校のレベルの高さには息を呑んだ。

リーダーの赤沢智は5000mで三位。香澄圭は続く四位。そして圧巻は六位以降だ。

六位から十位までが全員松梨なのだ。

つまりまとめると、こうだ。

男子5000m結果

一位、秋津伸吾(葉桜高校)

二位、名高(多摩境高校)

三位、赤沢(松梨付属)

四位、香澄(松梨付属)

五位、牧野(多摩境高校)

六位、僕(多摩境高校)

七位、西隆登(松梨付属)

八位、駿河一海(松梨付属)

九位、駿河二海(松梨付属)

十位、弓平祐樹(松梨付属)

十一位、勅使河原大輔(松梨付属)

そして十二位に染井、十七位に一色、十八位に剛塚、二十位が大山だ。ヒロは三十位だった。

「これは凄いな」

大会後、夕方のベンチ席で五月先生は結果表を見て唸った。

誰が見ても松梨の強さはわかった。

どう考えても多摩地区で駅伝をやったら松梨の優勝だ。

なのに五月先生はおかしな事を言うのだ。いや、いつもおかしな事ばかり言ってるけど。

「うちのガッコ、かなり凄いよな」

名高が大きく頷くのが印象的だった。

「こりゃあ、うちがダークホースになるって予想する人も出てくるかもしれないぞ」

五月先生は楽しそうに笑みをもらした。

その時だ。

辺り一面がふわりと暗くなったのだ。

何かと思えば傾いていた夕日が分厚い雲に隠れて光が遮られたのだ。

思わず見えなくなった夕日の方を見ると、ドス黒い雲が凄い勢いで広がりつつある気配を感じ取れた。

暗さを感知したのか、辺りの電灯が一斉に点灯した。

「夕立でも降るのかな」

未華がポツリと言い、冷たい風が吹き出した。

にわかに嫌な予感が漂う。

「よし、降る前に解散しよう。早く家に帰る様に」

五月先生の号令で、僕らは競技場を出て駅へと向かった。

 

 

長距離チームは全員一緒に競技場の最寄りである南大沢駅へと歩いて到着した。

それぞれ改札に入るが、くるみが「あたし、今日はお母さんが迎えに来るから」と言って駅前に残った。

「じゃあ、気をつけてね」

僕はそう言い牧野と一緒に改札を通る。

駅のホームへと降りると、雨が降り出してホームの屋根にパラパラという音が鳴りだした。

「降ってきたな。英太、くるみを送って行った方がよかったんじゃね?」

牧野はそう言うけれど、お母さんが来るんじゃ役不足だよ・・・。

京王線の各駅停車の電車がホームにやってきて、僕と牧野はそれに乗った。

わずか一駅で二人の住む堀之内駅だ。

堀之内に着くと雨はどしゃ降りへと変わっていた。

「うわー、こんなに降ってたら傘さしても意味ないんじゃね?」

「た、確かに・・・」

牧野の言う通り、雨は勢いが凄まじい上、風が出てきたので横殴りだ。

おまけに遠くでは低いゴロゴロ音が聞こえてきていた。

「雷雨・・・か」

嫌な感じだ。

辺りはすでに夜の暗さになりつつあり、その暗さに時折光る稲妻と轟音が不気味さを演出しだしていた。

「どうする英太、走って家まで行く?」

なんとも陸上部らしい提案が牧野から出された。

どしゃ降りの中を家まで走るという訳だ。確かに走れば五分くらいで二人とも家まで着くだろう。傘をさしてもダメなくらいな雨なら仕方ないかもしれない。

「うーん、行くか」

「よし」

雨の中を走るために一応アキレス腱を伸ばす。

その時、携帯電話がバイブレーターで振動した。

画面には『くるみ』の文字が表示されたけど、わずか二秒ほどで着信は途切れた。

「どした?くるみ?」

「うん、すぐ切れちゃった。ちょっと電話するから待っててもらっていい?」

「どうぞどうぞー」

牧野のニヤニヤ笑いが気に食わなかったけど、僕はくるみに折り返した。

しかし電話は鳴るものの、くるみは電話に出なかった。

「出ないや」

「へえ、なんだろね。間違いじゃないの?」

「うん・・・」

僕はさっきくるみと別れた南大沢駅の方角を見た。

そんな事をしたってくるみの様子がわかる訳ないんだけど、何となく見たんだ。

豪雨で近くの建物させも霞んでいる。いつもとは違うその景色が、なんとも言えない不安感を漂わせている。

そうして僕が黙っていると、牧野は「戻るか?」と言いだした。

「え?」

「南大沢に。何か心配なんだろ?」

珍しく真顔な牧野を見て、牧野も何か嫌な予感がしているんじゃないかと思った。

「うん、何かさ。気のせいかもしんないけど・・・、胸騒ぎっていうか・・・がして。ちょっと戻るや」

「わかった。オレも行く」

そうして僕と牧野は南大沢駅まで電車で戻った。

 

 

忘れてた・・・

こないだの襲撃の犯人まで予想しておきながら・・・

あいつが犯人だとしたなら、この日に何か起きるかもなんて簡単に見当がついていたはずだったのに・・・

 

|

« 空の下で-熱(15) 雷雨(その4) | トップページ | 空の下で-熱(17) 雷雨(その6) »

コメント

この記事へのコメントは終了しました。

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 空の下で-熱(16) 雷雨(その5):

« 空の下で-熱(15) 雷雨(その4) | トップページ | 空の下で-熱(17) 雷雨(その6) »