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2010年10月11日 (月)

空の下で-熱(17) 雷雨(その6)

南大沢駅の改札を牧野と二人で出ると、凄まじい雷光が夜の街を一瞬染めた。

すぐ後に地面が揺れるかの様な響きを持った爆音が鳴り、思わず身をかがめた。

「うおっ!す、すげえ音!」

牧野も引きつった顔で空を見上げていた。

次々と不気味な光が空中で発せられ、ゴロゴロという音やドカンといった衝撃音がしょっちゅう鳴る。

風は収まってきたものの、雨は強さを増していて、地面に落ちて跳ねかえった雨水が膝くらいまで届きそうな感じだ。

「牧野、くるみいそう?」

僕は改札の前でキョロキョロしながら牧野にそう言うが、牧野は「いない!」と叫んだ。

もう一度、携帯電話にかけてみるが、電波は届くが電話には出ない。

しかたなく『雨、大丈夫?さっき電話もらったみたいだけど、何かあった?』と、メールを打った。

そのまま五分ほど待ったけど返信は無い。凄まじい雷が鳴り響くのを僕らは黙って聞いているだけだ。

「やっぱさ、お母さんが車かなんかで迎えに来て、帰ったんじゃない?」

牧野がそう言ったが、僕は何か嫌な予感が拭えないでいた。

そこへ「おー、相原、牧野!」と叫びながら、びしょ濡れで走ってくる学生が二人いた。

雨で髪の毛が濡れていてよくわからなかったが、どうやら葉桜高校の秋津伸吾と内村一志だった。

「何してんの?」

僕が内村に聞くと「試合終わってファミレスでメシ食ってたら、いつの間にかこの大雨だよ」と叫んだ。

何故みんな叫ぶのかと言えば雨音が凄過ぎて、普通の会話の音量じゃあよく聞こえないからだ。

普段は大声など出さない秋津伸吾も、キーを上げてしゃべる。

「相原くんと牧野くんは、こんなトコで何してる訳?!」

「んー。いや、まあちょっとね」

僕は何となくごまかした。内村一志に「彼女が心配で」なんて言ったら、どう嫌味を言われるかわからない。

「そうか、じゃあこんな雨だし、気をつけてな。行こう、内村」

「おう」

秋津と内村は改札を抜けようとしたが、内村は振り返ってこう言った。

「そういや、相原たちの高校の女子が、傘もささずに他の高校の男子とかと歩いてたぞ。いい御身分な女だな!」

「え、ど、どこで?」

「あっちの広場だよ。こんな暗い時間に何するんだか」

そう言って内村はいやらしい笑いを浮かべて秋津の後を追って行った。

「牧野」

「わかってる」

僕と牧野は一応傘をさして、内村が指差した広場の方へと走った。

牧野は傘を持っているのとは逆の手で誰かに電話しだしたが、僕はそんなのどうでも良かった。

気が気じゃない。

くるみは一体、何しているんだ。それだけが気がかりなんだ。

駅から少しだけ走り、大通りを横断歩道で渡ると、あまり街灯の無い殺風景な広場へと出た。

真ん中には池があるので、晴れた昼間は公園としてのんびり過ごせる場所なんだろう。

でも今は雷が鳴り響く夜だ。池は溢れかえりそうなくらい水がいっぱいになっているし、広場の地面は土なため、雨でぐしゃぐしゃになっていた。

その広場には人なんていなかった。ただ雨が打ちつけるだけだ。

広場の周りは、家でいうと二階建ての高さほどの木々で囲まれていて、そこにいくつか街灯が灯っていた。

「誰か・・・いるぞ」

牧野が目で方向を指示する。

街灯の下を数人の男子高校生が右から左へと移動するのがチラリと見えた。

地元の高校生だろうか。しかし、いくら木が生えているとはいえ、こんな豪雨の中、暗い広場をうろつくだろうか。

僕がそっちへ歩きだそうとすると牧野が僕の肩を掴んだ。

「なんだよ牧野」

「行くのか?もし、くるみが今のヤツらにナンパでもされて掴まってるんなら、相手は何人かいたぞ」

「行くしかないだろ。くるみと関係ないんなら無視して通過すりゃいいんだし。もし、くるみがいるなら・・・」

「いるなら?」

「死んでも助ける」

なんかドラマだか映画みたいな事を言ってしまったが、恥ずかしくも何とも無かった。

そんな事よりも焦りが強かった。

牧野は腕時計に目を落とした。部活で使っている精巧なタイムを計れるやつだ。

「五分か・・・」

「何が」

「いや、五分前にさ」

その時、木々の方から誰かが左方向へ走りだした気配がした。

早い。こんな雨の中、この早さは素人じゃあない。走りなれた人間だ。

「待てよ!!」

男の声が聞こえた。そして、僕は見た。

走りだしたのは、女子高生だった。カバンを持って走るその姿は、まぎれもなく、くるみだった。

「くるみだ!!」

僕は傘を投げ捨ててくるみの方に走りだした。土がぬかるむけれど、必死で走った。

「英太!!くっそ!」

後ろから牧野もついてくる気配がした。

くるみは木々の方から池の方へと走って来ていた。僕は横からくるみに追いつき声をかけた。

「くるみ!!」

ビクッとしたくるみは強張った表情で僕を見た。

「あ・・・!え、英太くん!!」

くるみはガシッと僕の腕を掴んだ。

「変な人達に、掴まっちゃって」

くるみの声は泣き声だった。僕の腕を掴んだ手をかすかに震えているのがわかった。

「大丈夫。もう大丈夫だって」

僕がアタフタと言っていると、牧野がやってきて「駅に戻るぞ英太!」と叫んだ。

僕は頷き、その場から去ろうとすると「ダメだよーん」というふざけた声が聞こえた。

気がつくとすぐ近くに四人の男子高校生が立っていた。

どいつもこいつも人相が悪い。一目で「マズイ」と思った。

「せっかく捕まえたんだから逃げちゃダメ。多摩境高校のヤツはみーんな逃げちゃダメ」

こいつら・・・。

「こないだ一色達を襲ったのと同じヤツらか」

牧野が僕の考えと同じ事を言った。

そして制服からして落川学園ではない事がわかる。こいつらは・・・

「稲城林業高校・・・」

怪物・五島林をエースとして活動していた、稲城林業の生徒だったのだ。

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