« 空の下で-熱(17) 雷雨(その6) | トップページ | 空の下で-熱(19) 雷雨(その8) »

2010年10月14日 (木)

空の下で-熱(18) 雷雨(その7)

雨は収まる気配が全く無い。すぐ目の前にまで迫って来ている男子学生四人の姿でさえなんとなく霞んで見えるかの様だ。

その男子学生達はそれぞれが傘をさしているが、僕と牧野とくるみは何も差さずにズブ濡れのまま立ちつくしていた。

僕と牧野が前に立って、くるみと男子学生達の間に割って入る。

暗い公園内に稲光の閃光が走り、相手の制服がどこのものか正確にわかった。

制服は、稲城林業高校のものだ。あの怪物、五島林が所属していた高校だ。

「逃げんなよなー。せっかく雨の中で捕まえたんだからぁー」

四人のうちのリーダー風な男子生徒がフザケた口調で笑う。この声、この表情、嫌な気配が全身にバリバリと伝わってくる。

いつか落川学園の安西に感じたのと同じ様な気配だ。

「まあとにかく、二人はジャマだからさ、とりあえずそのコ置いてけよ」

そいつは後ろにいるくるみを首の動きで示した。

言われてくるみは僕の背中に隠れる。

ここでリーダー風の男は僕のカバンに目をやって「へえ」と呟いた。

「お前ら、多摩境高校の陸上部か」

どうやら僕のカバンに書かれている『都立多摩境高校 陸上競技部』という文字を読んだ様だ。

「だったら何だよ」

牧野が強い口調で問うと、そいつは「全員覚悟してもらいてーな」と言った。

やっぱりな・・・と思う。

やっぱりこいつらは前に一色達を襲ったのと同じヤツらだ。

つまり、多摩境高校の陸上部を標的にしているヤツらだという事になる。

一色は言っていた。襲いかかってきたヤツらは「うちのカントクに迷惑をかけるな」と言い残したんだと。

「あんた達」

僕は思ったままの事を言ってみた。

「あんた達、何で落川学園だなんて嘘ついてうちの一年生を襲ったんだ」

するとリーダー風の男は声を低くした。

「なんだよお前、別にオレ達が誰に何しようと勝手だろうが。いちいち理由なんて聞くなよ」

さっきまでよりも圧力がある声だ。足が震えそうになる。でもくるみが背中に隠れている今、怖がっている場合なんかじゃない。

「理由、あるでしょ?」

「はあ?」

「カントクに言われたんじゃないの?あんた達、カントクに言われて僕ら陸上部を標的にしたんじゃないの?」

僕がそい言うとそいつは顔色を変えた。

「お前、なんでそれを?」

そう言ってそいつは傘を横に投げ捨てた。

「それに気付いたんなら、ただじゃ帰さねえな」

ゴウゴウと降る雨の中、そいつは鋭い目で睨みつけてくる。

やる気だ。

こいつはここで襲いかかってくるつもりだ。

「牧野」

僕が牧野に呼び掛けると、牧野はニヤリと笑った。

「使うか?武器を」

牧野は僕とくるみを交互に見た。

「武器?」

僕が不思議そうな声を出すと、くるみが「使おう」と言った。

「じゃあ使おう。それしかない」

牧野が指をボキボキと鳴らした。

「これって武器だったんだね。違う気もするけど・・・、まあ仕方ないよね」

僕はそう言ってくるみの手を握った。

くるみが頷く。

「何、ごちゃごちゃ話して・・・」

リーダー風の男がそう言いかけた瞬間、僕らはその場で逆方向に体をターンさせた。

そして走りだす。

「あ!待てよ!!」

男子生徒達はすぐに追ってきた。

僕は焦りながらもいつもの練習を思い出していた。

インターバル走のイメージだ。

1000mを80%の力で走り、400mをジョックする。そのメニューを五回繰り返すイメージ。

そんな事を街中でやりきって、僕らに追いつける人間なんて、陸上部以外ではそうはいない。

ダダダーっと公園の入口まで走り切る。振り返ると男子学生はかなり遅れて走って来ていたので、一度少し速度を落として息を整える。

「大丈夫か!!」

牧野が僕とくるみを見るが二人で「もちろん」と言った。

やや追いつかれたところで再びスピードを出して駅へと走る。

人通りのいない大通りに出たところでギクリとした。

目の前に大きな黒い傘を差した白いジャーシ姿の大人が立っていたからだ。

見覚えのある、ゴツイ輪郭と薄い眉毛の強面な三十代前半と思われる男。

「なに逃げ出してんだよ」

牧野がその男の横を駆け抜けようという気配を見せた。

それを見てその白ジャーシの男が拳を握る仕草をしたのが見えた。

「ま、牧野!!ストップだ!!」

僕が慌てて声を出すと牧野は急ブレーキをかけた。

「な、何だよ英太、止まったら追いつかれるって」

振りかえる牧野に僕は「この人は、ヤバイ。絶対ヤバイ」と声を荒げた。

焦っていた。ここにこの人がいるなんて。今までの僕の推理からすると、この人だけは関わっちゃいけないからだ。この白いジャージの男だけは・・・。

「だ、誰なんだよ、こいつは!!」

牧野の問いかけに僕は答えた。

「稲城林業の陸上部のカントク、柿沼監督だよ」

「柿沼監督?」

僕らは柿沼監督を見た。薄い眉毛が非常に怖い。

「公園、戻ろうか」

柿沼監督は無表情でそう言った。

後ろからはさっきの男子生徒が走って来ていた。それを見て柿沼監督はため息を漏らした。

「簡単に逃げられやがって。使えない四人だな」

四人は僕らのところまで走って来たが、息が切れまくっていた。

「はあ・・・はあ・・・か、カントク」

「バカかお前らは、簡単に逃げられて。走りこみが足りねーんだ。そんなんで陸上部所属なんて言えるのか」

こいつらが陸上部?こんな体力の無い連中が?

「就職対策したいって言うから、プラスポイントになる陸上部に入れてやったのに、使えない連中だ」

「ス、スイマセン。こいつらはすぐに何とかするんで」

そう言ってリーダー風の男が僕の胸元を掴んだ。

「く、いって・・・」

「テメエらは絶対逃がさねえ!」

凄い大声で僕に迫る。でもそいつは後ろから誰かに腕を捻られて僕から手を話した。

「ぐえええ、だ、誰だ、何すんだ」

「ハイハイ、高校生はもう家に帰る時間だよ」

この声は・・・、ああそうか、さっき牧野が電話してたっけ。

リーダー風の男の腕を捻ったその人は・・・

「五月先生!!」

僕と牧野とくるみは同時に叫んだ。

五月先生も傘をささずにやってきていた。

「五月・・・」

柿沼監督は五月先生を睨みつける。

「やっぱりお前だったか、柿沼」

こうして、五島林を理由とした騒動は最後の局面を迎えようとしていた。

それは、僕ら多摩境高校陸上部にとって、そして五月隆平先生にとって、逃げられない運命の局面だったのだ。

|

« 空の下で-熱(17) 雷雨(その6) | トップページ | 空の下で-熱(19) 雷雨(その8) »

コメント

柿沼監督って一体?仮にも先生と呼ばれる職にいるのだったら、昔はやんちゃしていても自分の生徒を使って襲撃させるなんて卑怯極まりない!

しかし、五月先生が登場してきてくれたので

でも、まだまだホットできない展開ですネ


1500mで石垣大会に行ったkenchanから留守電があり、運転中だった私に代わり弟のkouchanが留守電を聞き、

ポケーットしてたから2位になっちゃったってさ!と言うので、よくよく留守電の内容を聞くとスタート直後先頭集団の中にポケットされてしまい、1週目はいつも65秒くらいで行くのに、71秒もかかってしまい自分のレースが組み立てられず、抜け出したけど、最後にスパートをかけられて結果は4'29で4秒差で2位だったという訳でした


ポケーットしていた訳ではないよ


早く続きが読みたいです


投稿: kenchan-kouchan | 2010年10月18日 (月) 10時06分

こんにちは、kenthan-kouchanさん。
 
実はこの柿沼監督のエピソード・・・
おおげさな脚色はしていますが、15年ほど前の実体験に基づくお話なんです。
全ては校内での出来事でしたが、多摩境高校はそんな学校にはしたくなかったので苦肉の策でこんなお話になりました。
実際の教師は数ヶ月の謹慎処分が下されましたが。
嘘みたいな話ですがホントにあったのでエピソードに加えてみました。脚色はしてますけどね。
 
 
ポケーっとしてたら・・・(笑)
一瞬何だかわからないですよね。
そうですか、集団に取り込まれてペースを作れなかったんですね。
一度入ってしまうと、出るのって本当に難しいんですよね。
無理に横から出ようとしても他選手スパイクが足に当たって怪我する事もありますし、大人数が転倒する事にも繋がりますし。
 
kenchanは慌ててそういう事しないで走り切ったんですね。後半に伸ばして2位とはさすがですね!4'29!!
うわぁ、cafetimeのベストタイムまで後9秒しかない・・・(苦笑)
この後は気温が下がる時期ですから、足の怪我には気をつけてくださいね!!

 

投稿: cafetime | 2010年10月18日 (月) 19時16分

五月先生一番気になっていた人物でしたモデルがいたなんて


「ヤンキー先生」みたいな方が実在していたんですね


少し回り道をした人のほうが色々な生徒の気持ちがわかり深い人間力を育成できるんだと思います


cafetimeさんの学校生活も、かなり反映したお話なんですね


ますます楽しみです次が待ち遠しいです


投稿: kenchan-kouchan | 2010年10月19日 (火) 00時14分

この記事へのコメントは終了しました。

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 空の下で-熱(18) 雷雨(その7):

« 空の下で-熱(17) 雷雨(その6) | トップページ | 空の下で-熱(19) 雷雨(その8) »