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2010年11月11日 (木)

空の下で-虹(7) 最終選考(その5)

立川の競技場から、志田先生の車で一色は近くの病院へと運ばれて行った。

他のメンバーは五月先生の車にぎゅうぎゅうで乗り込み、多摩境高校へと戻った。

車内は行きとは違う静寂さだった。

高校に戻って制服に着替え、部室に集まると、五月先生が「すまん」と頭を下げた。

「な、なんで先生が謝るんですか」

牧野が明らかに動揺してる声でそう言った。

「一色が捻挫したのは俺の・・・、先生のミスだ。一色はウォーミングアップが甘かったと本人が言っているらしい。それに気付かなかった先生のミスだ」

五月先生は立ったまま俯いてそう言う。

こんな先生を見るのは初めてだった。思わず僕らも俯いてしまう。

「一色はまだ一年生だ。いくら早いとはいえキチンと面倒を見てやらなくてはいけなかった。最終選考だなんて言葉で煽ってしまった先生のミスとしか思えない」

部室内が静まり返る。

その静寂を破ったのは、場違いな明るい声を出す未華だった。

「一色くんの怪我はひどいんですか!?」

わざと元気そうにふるまっているのがわかった。こんな時だって未華はそうする。ちょっと見習いたいって思う。

「一週間くらいは安静だ」

駅伝までは三週間だ。一週間安静だとすると、残り二週間でジョックから始めて元の実力にってのは少し無理な日程だ。

「一色が無理だとすると・・・、さっきのトライアルの順位でいくと、メンバーは・・・」

さっきの順位は、一位から名高、牧野、染井、僕、一色、剛塚、大山、そして・・・

「ヒロか」

みんなの視線が一斉にヒロに集まる。

ヒロはビクリと体を動かし、その振動でメガネが揺れた。

「ぼ、ボクですか!」

ヒロは嬉しそうな嫌そうな微妙な表情をした。

ここで染井が冷たい声を出した。

「ヒロでいいんスか?一色が治るのを期待した方がいいんじゃないスか?」

冷淡な言葉だとも思うけど、この場にいる誰もが考えた事だとも思う。

視線は再び五月先生に集中した。

難しい表情をしている。さすがの五月先生も即断出来ないでいる様だ。

「ふー。やっと着いた」

志田先生がマヌケな声を出しながら、一色を連れて来た。

一色は松葉杖をついている。

志田先生が一色の足を指差して「足ですからね。大げさに見えますけど松葉杖を借りてきました」と言った。

そして部室内のボロい椅子に腰を降ろして呟いた。

「まったく・・・、毎年毎年、駅伝大会の前って怪我人が出ますな。これだから長距離チームは・・・」

確かに。僕が一年生の時は雪沢先輩が、二年生の時には名高が怪我をしていた。

五月先生は一色に座る様に促し、問いかけた。

「一色、どうだ。駅伝は」

一色は涙声で「ちょっと、厳しいです」と消え入りそうな声で答えた。

それを聞き、五月先生は目を瞑った。

「オレは普段よー」

五月先生は目を閉じたまま低い声を出した。

「オレは普段、迷ったりはしねー」

久しぶりに聞く五月先生の不良っぽい言葉使いだ。志田先生が目を丸くしている。

「だけど今回は迷うなー。一色の気持ちもわかるし、ヒロの気持ちもまあわかる」

「まあ・・・ね」

染井が苦笑いをしてる。

ここで五月先生はカッと目を見開いてヒロを睨んだ。

「ヒロ、頼めるか?」

ヒロはまたもビクリと体を動かしメガネが揺れた。

「ボク、ですか」

「そうだ。正直な話、メンバーは一色で考えていたんだが、この足で無茶するとこの先の陸上選手としての活動に支障をきたすかもしれない。先生は一色にそんな無茶はさせられない」

一色が「すいません・・・」と言ってさらに俯いた。

「だからヒロ、お前に頼みたい。覚悟は出来るか」

ヒロは先生を見つめた。そして次に一色を見る。

「一色・・・」

「はい」

ヒロは普段見せない様な落ち着いた声を出した。

「ボクは一色より遅い。格段に遅い。そんなボクが走ってもいいかな」

一色はすぐに頷いた。

「お願いします」

ここでヒロは僕の方を見た。

「相原先輩」

「ん?」

「いつか相原先輩が言ってましたよね。ヒロにもやる事があるんだって」

そ、そんな事いつ言ったっけ。言った様な、言ってない様な・・・

「ボク、今回、一色のために、いや、チームのために、必死になります」

「ヒロ・・・」

どこからか拍手が沸いた。

ヒロがこんな熱意ある言葉を言うなんてのは初めてだったから。

何故か大山は号泣してたけど。

「よし、じゃあメンバーを伝える」

五月先生は元の言葉使いと声に戻り、僕らを見まわした。

「まずは女子だ。

一区、6000m、大塚未華!

二区、4000m、早川舞!

三区、3000m、草野涼子!

四区、3000m、二ノ宮花!

五区、5000m、若井くるみ!!」

草野涼子と二ノ宮花ってのは一年生だ。女子の次世代はきっとあのコ達が中心となるんだろう。

「そして男子だ!一色は補欠メンバーに入ってもらう。

一区、10000m、名高涼!!

二区、3000m、染井翔!!

三区、8000m、大山陸!!

四区、8000m、剛塚剛!!

五区、3000m、好野博一!!

六区、5000m、牧野清一!!

七区、5000m、相原英太!!

以上だ!それぞれが得意な距離で登録にした。みんな頼むぞ!!」

うおーっという歓声が上がり、この場は解散となった。

 

 

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