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2010年11月22日 (月)

空の下で-虹(10) 夜明けの空

眠れない夜というのは誰にでもあるんじゃないかなと思う。

昼寝をしすぎて眠れない夜。 

考え事があって眠れない夜。

不安に押しつぶされそうで眠れない夜。

明日が楽しみで眠れない夜。

色々なパターンがあるんだと思うけど、今夜の僕は、今言った全部の要素を含んで眠れないでいた。

まず、練習が早めに終わったので早く帰って来てひと眠りしてしまったのがいけなかった。

そして、明日の事ばかりを考えて頭が冴えてしまっていた。

明日の事とは、東京高校駅伝の事だ。

僕が走る区間は最終の七区。わかりやすく表現するとアンカーだ。

六区までどんなにいい順位で繋いで来ようとも、最後の僕が調子悪ければ全ては台無しという責任から来る不安。

それでいて、多少悪い順位で来ても盛り返してやるという、ちょっとした野心から出てくる楽しさと高揚感。

そんな色んな要素が絡み合い、結局のところ、午前一時を過ぎても僕は寝れないでいた。

もちろん布団に入り、目は閉じている。

目を閉じているのだから、何も見えないはずなのに、明日の駅伝を走っている景色が見えるんだ。

その景色は物凄くリアルだ。

過ぎ去る左右の沿道。足の下を高速で後ろへ進んで行くアスファルト。何故だか声援まで聞こえてくる。

「まだ、今は試合じゃない」

思わず声に出し目を開ける。

そこには確実に、見慣れた僕の部屋の天井が見えていた。

「寝なくちゃ」

自分に言い聞かせる様に呟いて目を閉じる。

それの繰り返しだ。

今までも試合前に眠れないという事は何度かあった。

でも今夜は特別だ。ここまで眠れない事は無かった。

明日の体力に影響するのが怖いから早く寝てしまいたい。逸る気持ちがまた目を冴えさせる。

そういえば、どこかの本で読んだ事がある。

一流の選手でも眠れない夜があるのだという。

そういう時は、せめて体をリラックスさせれる状態で目を閉じて布団に入っている方がいいというのだ。

睡眠に入れなくても目を閉じて横たわっているだけでも体力も精神力も蓄えられるというのだ。

本当だろうか。それにそれは一流の選手だけの話ではないだろうか。

「そんな事はないよ」

そういう声が聞こえた気がした。

声はテレビでよく見る元オリンピック金メダリストの女子マラソンランナーのものだった。

とにかく長距離選手に元気を与える様な人だった。

明るくて元気で、マラソン選手という地味な上に苦しくて仕方の無い人達のイメージを一新させた人だ。

「そんな事、ないんですか?じゃあ目を閉じて寝転がっていた方がいいですかね。いっその事、起きてたらどうかなって思うんですけど」

いつの間にか、僕はどこかの部屋で椅子に座りマイクを持って、その選手にインタビューをしていた。

目の前でイスに座っている元オリンピック選手はスーツ姿で、現役の時とは少し違った印象だったけど、金メダルを獲った時と似たような笑顔を見せた。

「キミは不安なだけなんだよ」

「不安・・・ですか」

「駅伝はチームプレーだからね。自分だけの結果じゃあ済まないでしょ?学校の名前とかもあるけど、みんなに迷惑かけたくないとか、そういう事を考えて不安なんだよ」

「そう・・・かもしれないです」

「でもね、不安っていうのはパワーに変わるんだよ」

「パワーに?」

「そう。不安はその日の朝になるとパワーに変わるんだ。いや、変える事が出来るって言うのかな」

「ど、どうやったら変わるんですか?」

「やってやる!っていう気持ちになればいいんだよ。精神論なんて嫌いかもしれないけど、人の力っていうのは心で決まるんだよ」

「やってやる・・・」

「そう。どんな展開で来ようとも、キミが周りも驚く様な活躍をしちゃえばいいんだよ。やっちゃいなよ」

「やっちゃいますか?」

「やっちゃいなって」

「やっちゃいますか。こうなったら」

 

 

ピンコロピンコロピロリラリ。ピンコロピンコロピロリラリ。

いつもの目覚まし音が鳴り、僕は目を覚ました。

覚ました?

という事はちゃんと眠れていたらしい。変な夢を見ていた気がする。

時計は朝の五時を差していた。

シャワーを浴びて、台所へ行くとお母さんが朝食を作っていた。

「あれ?なんでこんな時間に起きてるの?」

お母さんは「当たり前じゃない」と冷めた口調で言う。

テーブルの上には消化されやすく、それでいてエネルギーになる様な食べ物が適量に置かれていた。

「今日は大事な大事な試合でしょ」

その朝食は明らかにスポーツの本を読んで知識を得たメニューだった。

一体いつの間にそんな事をしていたのか。

今まで僕の陸上部としての活動には、そんなに感心を持っていなかったのに・・・。

「な、なんで?」

「何がよ」

さも当たり前かの様に朝食をテーブルに置ききると、お母さんはテレビをつけてニュースを見だした。

そうか・・・。いつからなのかは知らないけど、ちゃんと僕の部活の事を考えていてくれたんだ。

一番最初、陸上部に入ると言いだした時、お母さんは反対気味だった。

中学では吹奏楽部に明け暮れていたし、元々お母さんも楽器をやっていた人だったから、きっと残念だったんだろうと思う。

でも、僕がちゃんと陸上部に打ち込んでいるのを見て、理解してくれていたんだ。

「ありがとう」

恥ずかしいから聞こえない様に言っておいた。

 

 

玄関に準備しておいたリュックを背負い、靴を履く。

「よっと」

立ちあがると体は軽かった。

昨日の夜、眠るのが遅くなったというのに、調子は悪くなさそうだ。

「あーそうそう」

お母さんが玄関にやってきて僕を呼びとめる。

「昨日、お父さんから電話があってね。英太に伝言」

「なんて?」

「やってやるって気持ちで行って来いって」

「やってやる?」

なんかつい数時間前、そんな言葉をどこかで聞いた様な気がした。

どこでだろう?思い出せない。

でもその「やってやるって気持ちで試合にのぞもう」というのは、先月買った、元オリンピック金メダリスト選手の手記に書いてあった言葉だ。もしかしたらお父さんも同じ本を読んだのかもしれない。

「うん、やってくる!」

「そう。頑張ってきなさい」

玄関を開けると、まだひんやりとした空気が流れ込んできた。

気持ちが負けない様に外へと歩き出す。

まだ夜明けの空は薄暗かったけど、徐々に明るくなる雰囲気が漂っていた。

僕の気持ちも夜明けの空と一緒で、少しずつ気持ちが盛り上がっていった。

駅前まで行くと、牧野が手を振って待っていた。

「おはよう」

僕が声をかけると牧野は一言だけ言って改札へと歩き出した。

「行くか」

僕も一言で答える。

「行こう」

 

 

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