空の下で ~秋~ 目次
・・・一体いつからだろう、こんなにこの部が好きになったのは。
「オレ達、こんなに陸上部が好きだったんだな」
様々な試練を乗り越え、英太たちが辿り着く場所とは・・・。第1シーズン完結編!
↓個別
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・・・一体いつからだろう、こんなにこの部が好きになったのは。
「オレ達、こんなに陸上部が好きだったんだな」
様々な試練を乗り越え、英太たちが辿り着く場所とは・・・。第1シーズン完結編!
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スタートから2時間近くが経ち、秋とはいえ気温が上がってきた。
少し暖かくて優しい風が、ぼくの走る道路を吹き抜ける。
この風に乗っていこう。きっとスピードに乗れる。
残り700メートル。
みんなで繋いで繋いで走ってきたこの駅伝もあと数分で終わる。
日比谷のトランペットを聴いて、ぼくは気合を入れなおした。
「ひ、久々にアレやるか・・・」
気合だー!気合だ!気合だ!気合だ!
アニマル浜口ばりの気合い連呼(心の中で)で気合を入れなおす。
一人前を行く黄色いユニフォームの選手に追いついた。
これで51位。あと一人だが、この前にいるのは30メートルほど前にいる内村一志だ。
残りは600メートルくらいだ。
ヤバイ!もっと気合を入れないと!!
元気があればなんでも出来る!!行くぞー!!
アントニオ猪木ばりの気合い論で黄色いユニフォームの選手のさらに前に出る。
「はあ!!はあ!!」
息が声になってぼくの口から出ていく。喉がいたい。
残りエネルギーが喉から出ていくかのような感覚。
アニマル浜口もアントニオ猪木も、入部したころに頭に思い描いて考えた、ぼくなりの気合いを入れる方法だった。
使うのは入部して最初の練習以来だ。すっかり忘れてた、こんなの。
少しずつ内村との差が縮まる。
残りは300メートルしかない。内村は勝利を確信してか、ぼくを振り返り笑った。
でも内村が息を切らす声が聞こえた。あいつも苦しいハズだ。
しかしぼくも限界だ。これ以上はスパートできない。
その時、ゴールが見えてきた。残りは200メートルくらい。
内村はゴールが見えたので最後のスパートをかけた。
まだ早くなれるの??
そんな中なのに、ぼくはゴールよりも違うものが気になった。
ゴールの脇で、もう走り終えた名高たちやサポートしてた未華たちが見えたんだ。
みんなが大声で応援している。いや、大声というよりも絶叫に近い。
名高、たくみ、穴川先輩、剛塚、大山、未華、くるみ、早川舞、そして雪沢先輩。
牧野はまだ来ていない。ぼくにタスキを渡して、そのままゴールに向かってる途中のハズだ。
みんなの声を聴きながらも、別の何かが頭に響いた。
「楽しんで走ってる最中に違うこと考えたらそれは相当好きな事柄だもんな」
スタート前、五月先生が言っていた言葉だ。
一瞬。
本当に一瞬だけど、応援してるくるみとの事を考えた。
何を考えたかって言うと、牧野とかには絶対に言えないんだけど・・・。
くるみにカッコいいとこ見せたいって事だ。
ああ、バカらしい。
でもぼくにとってそれはスゴク大事な事で・・・って、あれ?
そう・・・、そうだよね・・・。そうなんだよ。
そうだよ!悪いか!!認めるよ!こんな時だけど。
しょうがないでしょ!かわいいんだから!!好きなんだよ!!
好きな人の前で・・・あきらめるなんてカッコ悪い。
まだ、あきらめる訳にはいかない!
活動停止でみんなと走れなくなるのも嫌だ。
ぼくは、目を閉じる。
目を閉じた時間は1秒くらいだったはず。
それなのに、いろんな事を思い出した。
仮入部、デビュー戦、富士山登り、新人戦、ケンカ騒ぎ・・・。
そして目を開き、腕を思いきり振った。
五月先生は常に「腕ふり」を重要視する練習方法だったけど、今初めて腕ふりの大事さがわかった。
腕をふると足も出る、足が出れば早く進める。
「なんだ、まだ早く走れるじゃんか」
そう思って、スパートした。
内村の背中がぐんぐん近づく。
そして内村の真横に並んだ時・・・・・
ぼくは駅伝のゴールラインをまたいだ。
抜いたか?抜けなかったか?
気がつくと、ぼくと内村は芝生の生えた場所に並んで倒れていた。
二人とも息を切らしたまま仰向けになっている。
「はあ・・・はあ・・・」
スタート前、八王子と違ってると思っていた板橋区の空はすごい澄んでいた。
「はあ・・はあ・・・なんだ・・・八王子と同じなんだな・・・・」
今、ぼくが見ている空は都会とは思えないほど、高くてきれいな青だ。
透き通る様な空を見上げていると、風を感じた。
完走者をねぎらっているかのような、そよそよとした暖かい風だ。
完走者・・・?
ハッと我に帰る。
ぼくは・・・内村に勝ったのだろうか。50位になれたのだろうか。
横にいる内村を見る。
「内村・・・」
「はあ・・はあ・・。相原・・・おまえ、うざいぐらいすげえ根性だな」
内村は空を見たまま言った。
「長谷川さんにもその根性で早く告白すればよかったのに」
長谷川さんってのは中学の時に、ぼくが好きになった女子だ。
「か、関係ないだろ。しかもお前のせいで良くない展開になったんだし・・・。なんであんな事したんだよ」
あんな事ってのはもちろん「相原ってオマエの事好きらしいぜ」と言った事だ。
しばらく間があってから内村はぶっきらぼうに答えた。
「オレも長谷川が好きだったからだよ!ジャマしたかったからだよ!」
「へ?」
久々に裏声が出てしまった。今日は久々だらけだ。
「そうだったんだ・・・」
「そうだよ」
「大変だね・・・人を好きになるっていうのは」
「は?なんだそれ。他人事かよ。うぜえ」
内村はフラフラと立ち上がり、チームのところへ歩いて行った。
ぼくはそれを見送る。嫌なヤツだけど、まだ付き合いは長くなりそうだ。
多摩境高校長距離メンバーがみんなで大騒ぎしながらやってきた。
みんな笑顔だ。・・・・・・と、いうことは。
未華が大声で叫ぶ。
「多摩境高校、ピッタリ50位!おめでとうーーー!!」
いつ合流したのか五月先生と牧野もいる。
牧野は未華とハイタッチなんかしてる。
五月先生が寝転がってるぼくに言った。
「相原、よくやったな。50位だ。活動停止はない」
「ほ、ホントですか!!」
ぼくはピョンと飛び起きた。
でも、疲れからかフラフラとした。
バランスを崩したので、近くにいたくるみにぶつかってしまった。
ぼくの体がくるみの体にぶつかる。
「あ、ゴ、ゴメンくるみ」
「え?いいよいいよ謝らなくて。全力尽くした証だよ。カッコよかったよ」
「え?!そ、そそ、そうかな」
なんだか噛みまくってしまったぼくを見て牧野と未華がニヤニヤしている。
あー、感ずいてるのかな。あー、なんだか面倒そうだ。
「よーしみんなー!!」
わいわい盛り上がっていると突然、雪沢先輩が大声を出した。
「記念に全員でハイタッチするぞー!」
「記念?!なんでハイタッチ」
「いいからやるぞ!そんな気分なんだよ」
「お、おーー!!」
普段冷静な雪沢先輩がハイタッチなんて提案するなんて意外だったけど、この日、この場所、よく晴れた空の下で、ぼくらはまるで優勝したかのようにハイタッチしあって喜びを爆発させた。
ぼくらはまだまだこのチームのまま、活動停止になることもなく続けていけるんだ。
今日のこの喜びはきっとずっと忘れない気がする。
それくらい特別なんだ。ぼくらにとって、このチームは。
駅伝前に感じていた、周りからの冷たい風なんて一体どこに消えたのか。
ぼくらの周りには暖かくて優しい風が吹き始めていた。
その風を体で感じて、ぼくは思った。
この優しい風に乗っていこう。
冬になっても、年が変わっても。
空の下で 1st season ~END~
2nd seasonはひと月お休みを頂いて、2009年1月23日からの予定です。
(番外編「ブラスバンドライフ」を1月5日~20日頃まで連載予定です。)
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名高の一区のスタートを見送った後、ぼくは1時間30分以上は何も出番が無い。
その間、各中継ポイントにいるサポート係からメールでいろんな事が送られてきていた。
『名高くん、なんと23位で通過!50位なんて余裕かも?!』
というくるみのメールを見た時は思わずガッツポーズしてしまった。
『たくみ28位で通過』
これは早川舞からのメール、感情が伝わってこない。
『穴川先輩、珍しくラストスパートしてた。ちょービックリ』
という未華のメールや
『剛塚、大山に殴りかかりそうになりながらタスキリレー』
というゴールしてすぐサポート係もしてる名高からのメールをもらってから、やっとウォーミングアップを始める。
ややあって再びくるみから
『大山くん涙流しながら通過、牧野くんスタートしたよ。61位だよ。頑張って!』
というメールを受け取った時、初めて不安を感じた。
61位・・・・・。
あと11人を牧野とぼくで抜き返すことが出来るだろうか??
六区の牧野のスタートからはすでに15分が経過していた。
牧野の実力からすると、あと2、3分でここに来るはずだ。
ぼくのサポート係をしてくれるのは五月先生だ。
「ようやく出番だな相原。活躍してこいよ」
ぼくの背中をはたきながら笑顔でそう言う。
「が、頑張りましゅ」
うわー大事な日にかんじゃったよ。
すると五月先生はぼくの顔をひっぱたいた。
「いでーーー!な、な?」
思いきりってワケじゃなかったみたいなので、そんなに痛くはなかったけど大声出した。
「なにすんですかー!」
「いや、なんか緊張してるっぽかったからな。ちょっと叩いてみた」
「叩いてみた??なんなんですか全く・・・」
おかしな先生だ。今どき、こんなことしたらPTAになんか言われるよ。
ぼくはブツクサ言いながらジャージを脱いで、ユニフォーム姿になる。
もう1分くらいで牧野が来る時間だ。
中継ポイントで体をジャンプさせたり腕ふりしたりして体を冷まさないように待ってると
『葉桜高校、多摩境高校、来ます』
とメガホンでスタッフが叫んだ。
葉桜高校?こんなに順位落ちてたのか。やっぱりいい目安だ。
ぼくと葉桜高校のアンカーが中継ポイントに並んで立つ。
その葉桜高校の選手を見てギョッとした。
そいつは中学の時にぼくの片思いをジャマした、内村一志だったからだ。
内村もぼくに気づいた。
「お、相原じゃん。偶然だな。また負かしてやるよ」
ぼくは内村一志には新人戦の5000メートルで15秒くらい負けた。
それに片思いだった長谷川さんって女子に「相原ってオマエの事好きらしいぜ」とか言いやがった最悪なヤツだ。内村だけは許せない。
こいつと駅伝のアンカーで一緒になるなんて・・・なんかの因縁か。
「今度はぼくが勝つよ。悪いけど」
ぼくは精一杯イヤミったらしく言ってみた。
牧野と葉桜高校の選手がデットヒートを繰り広げながら走ってきた。
「牧野ー!ファイトー!!」
ぼくが叫ぶと牧野はぼくと内村を見てからこう叫んだ。
「決着つけてこいー!!」
そうしてほぼ同時に内村一志とスタートを切った。
54位でのタスキリレーだった。
ぼくの走る最終の七区は5キロだ。
ぼくの得意とする距離。54位ということはあと4人抜けばいいんだけど、
目の前にいる葉桜高校の内村一志がなかなか抜けない。
「くっそ」
誰も抜けないまま2キロを通過した。
だんだん焦ってくる。
50位以内に入らないと活動停止・・・。しかもこの期限がよくわからない。
その上、目の前の内村一志に勝つ宣言したばかりだ。
やばい・・・まずい・・・。
ここは一度、ペースを上げるしかないか。
ぼくはちょっと無理をして内村の前に出た。
驚いた内村はぼくよりさらにペースを上げて前に出た。
「はあ・・はあ・・・こ、この・・・」
ぼくは内村の横に並んで同じスピードで走った。
仲良しかのごとく並んで走りまくる。
絶対に内村から遅れてなるものか。
3キロを通過した。
ずっと内村と並んで走った。内村が少しでも前に出ようとすれば、ぼくはすぐに追いつき、ぼくが前に出ようとすれば内村も「ぬーーー」とか言いながら追いついてきた。
その間に他の学校の選手を一人抜いた。ぼくと内村で52・53位を走る。
「あと二人・・・」
そう思った瞬間、また内村が前に出た。
すぐにぼくは内村の横に並ぶ。
ところが今度は並んだ瞬間に内村がさらに前に出た。
そしてそのままペースアップをして少しずつ差を広げていく。
「く、くっそ・・・」
慌てて追いかけようとするが、もうこれ以上ペースを上げられそうもない。
しかもまだ2キロくらいある。ペースアップしたらゴールまで持たない。
ぼくは歯を食いしばり、拳を力いっぱい握りしめた。
それは追いつけなくって悔しいからだ。
やっぱり内村の方が底力は上なのか・・・。
4キロを通過し、残すは1キロとなった。
この間に一人抜いて52位になった。
20メートルほど前には黄色いユニフォームの選手が一人と、その前に内村が見える。
でも、前との差が縮まる感じがしない。
ムリか・・・。
そう思った。
50位にも、内村にも、届かない。
活動停止・・・漢字四文字がぼくの頭に浮かんだ。
その時だ。
左前方から聴きなれた音がした。
トランペットの音だ。誰だ、こんな所でトランペット吹いてるのは。
高校野球じゃないんだぞ。
トランペットを吹いてたのは吹奏楽部の日比谷だった。
一人で思いっきり吹いていて、周りの観客や応援してる人から白い目で見られてる。
曲は「天国と地獄」だ。
「な、なんだあいつ・・・」
ぼくが日比谷の横を通過した時、日比谷は叫んだ。
「ここから逆転したらスッゲーぞー!!地獄じゃなくて天国見てこいー!」
アホかあいつ。意味わからん。
だいたい応援に来てくれてるなんて聞いてないぞ。ちゃんと来るって言えよ。
違う部なのに応援に来てくれるなんて・・・カッコ悪いところ見せれないじゃんか。
「はあ・・・はあ・・・よし」
残り800メートル。ぼくは最後の力を振り絞る事にした。
天国か、地獄か。結果はどちらでも、力は出し尽くすべきだ。
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殴られる!!
大山は剛塚からタスキを受け取る時、そう思った。
なにしろ剛塚が鬼の形相で走り迫ってくるんだ。中学の時の不良行為を見ていた大山にしてみたら「殴られる」と思うのもムリはない。
突っ込んでくる姿は大型タンクローリーのような迫力だ。
そんな剛塚はタスキを渡す瞬間「頼んだぞ」と言った。
あの剛塚が、大山に?
タスキを受け取り、前を向いて走り出した時、すでに大山の目は潤んでいた。
大山が走るのは五区の3キロ。
別に大山が3キロが得意という事で選んだわけじゃない。
ただ単に「遅いから」短い距離に当てただけだ。
でも大山は悔しいとか思ってない。
みんなと同じ駅伝選手に選ばれただけで嬉しかった。
中学では剛塚や安西だけではなく、クラスのいろんな人からパシリにされたりシカトされたりして、学校に行くたくないって気持ちが強かったらしい。
「デブ!」「白デブ!」「ブタ!!」「白ブタ!!」「肉!!」「廃棄ミート!!!」
中学生は悪口言うのに何の躊躇もなくて、心が砕けそうな事も平気で言う。
でも剛塚は他の生徒と違い、口での攻撃は無かった。
なんとか卒業するころ、その剛塚は何故かイジメから手を引いた。
これは例の五月先生と陸上部がからむ事件の影響なのだけど、大山がそれを知ったのは、ぼくらと同じくこないだの乱闘事件の時だ。
「やっぱり剛塚くんは悪い人じゃなかったんだ・・・」
大山はそう確信した。
中学で三年間もイジメられておきながら大山にはそう思える。
大山が寛大すぎるのか、剛塚のイジメに加減があったのか・・・。
加減があったとしてもイジメはイジメだ。
高校ではイジメられないためにも運動部を選びたかったという。
大山の中には「文化部の大人しいヤツは攻撃の対象になる」という考えがあった。
とはいえ球技は得意ではないので、単純に走るという陸上部を選んだ。
ダイエットすれば「ブタ!!」みたいな事を言われることもないかと思って。
練習はキツかったようだ。走る時間より歩いてる時間の方が長かった気もする。
それでもぼくや牧野は大山をバカにしたりはしなかった。
だって、一番頑張ってる気がしたんだもん、大山が。
いろんな事を思い出しながら走る大山は涙が出まくってた。
絶対に50位内でゴールして、長距離を活動停止になんかさせない!!
涙でぐちゃぐちゃになった顔でそう思いながら走る。
抜かれても抜かれても最後まで全力で走った。
3キロを走りきり、牧野にタスキを渡すと、大山は「おおおおーーー」と空に叫んだ。
やりきった雄たけびだったんだと思う。
しかしこの時、順位は61位まで下がっていた。
「な、なんだぁ?!」
牧野はタスキを受け取って走りだして、すぐに後ろから大山の「おおおおーーー」という叫びが聞こえたのでビックリして振り返った。
「うわあ・・・すげえあいつ・・・全力出し切ったんだろうなあ・・・」
牧野は再び前を向く。
「オレも全て出しつくさないとな」
落ち着いてつぶやく牧野だったけど、本当は焦ってた。
すでに順位は61位まで下がっている。50位内に入るのが絶対条件なんだから
牧野とぼくとで11人は抜かないといけない計算だからだ。
「オレで5人。英太で6人・・・かな」
牧野はつぶやきながら走り続ける。
「でも待てよ?英太と同じ数くらいだとなんだか嫌だな。オレで8人、英太で3人にしよ」
変な理由だけど、気を入れなおした牧野はスピードを上げた。
それにしても・・・と牧野は思う。
「英太のヤツ・・・けっこう早くなったなあ・・・意外だったな・・・」
4キロを過ぎた時、前に見たことのあるユニフォームを見つけた。
黄緑色に白字でHAZAKURAと書いてあるユニフォーム。ゼッケンは50番。
「葉桜高校か・・・」
目安としていた葉桜高校がいた。
一区の秋津伸吾が5位で通過したのに、ここまで落ちてきてる。
「もしかして・・・・50位・・・・イケるんじゃなーか??」
牧野は葉桜高校を追った。
あと200メートルになっても葉桜高校には追いつけなかった。
遠くにぼくの姿を見つける牧野。
しかし、ぼくの横に立つ葉桜高校のアンカーの選手を見て、牧野は驚いた。
「内村・・・一志・・・・」
中学時代にぼくの恋愛をジャマしたヤツだ。
そして牧野は笑った。
「ここで内村一志が相手なんて・・・面白いじゃんかよ!」
心でそう叫び、次に牧野は実際に大声を出した。
「決着付けてきやがれ!!」
怒涛のラストスパートで葉桜高校の選手に追いついた。
そうしてタスキはぼくの手に渡った。
葉桜高校の内村一志とは、ほぼ同時スタートとなった。
走り出す!みんなの想いを乗せたこのタスキを持って。
多摩境高校 現在54位。
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多摩境高校は28位で三区の穴川先輩がスタートした。
50位の目安としていた葉桜高校は一区の秋津伸吾の好走があって11位で三区をスタートさせていた。もう目安にも何もならない。
「どっちにしろ、思いきり走ればいいんだろ」
穴川先輩はそうつぶやいて黙々と走っていた。
ぼくから見ても穴川先輩はパワーがあるわけでもスピードがあるわけでもない。
最初から最後までただ黙々と走る人だ。
夏の合宿までは、本当に淡々と走るだけでラストスパートも何もないからぼくや牧野でも勝てるようになっていた。
でも、穴川先輩は変わった。
合宿の何がそうさせたのか、穴川先輩に聞くわけにもいかないから理由はぼくにはわからないけど、確実に変わった。
淡々と走る・・・という表現には変わりはないけど、最後の最後までペースが落ちない。
早くなったり遅くなったりしがちなぼくと違って、常に安定したタイムが出せるんだ。
その安定さを買われて、8キロという長丁場の三区を任された。
三区も7キロが過ぎ、周りの選手がスパートをかけたり遅れていったりしだした。
しかもさすが28位で受け取っただけあり、周りの選手は早い早い。
それでも穴川先輩はペースを崩さずに走っていた。
「ペース変えて乱れてどうすんだ」
心の中でそう思ったという。
でも、最後の直線で次の剛塚の姿が遠くに見えた時、頭の中に怒りが沸いた。
「あいつ・・・!!」
剛塚さえ現れなければ、安西が陸上部にからんでくることもなかった。
剛塚さえ現れなければ、雪沢がケガすることもなかった。
剛塚さえ現れなければ、50位内でなければ活動停止なんて条件つかなかった。
剛塚さえ現れなければ、今、こんなスパートかける気にもならなかったのに!
「くそおおおお!!」
穴川先輩はラストスパートをかけていた。
「そんなにオレらと走りてーなら順位上げてきやがれ!!」
そう叫んで剛塚にタスキを渡した。
どこにも向けようがない怒りを走りに現したのかもしれない。
この時点で多摩境高校は37位。
剛塚は穴川先輩からタスキを無言で受けた。
順位上げるなんてムリだ。と思った。
このチームの中で大山の次に遅いのはオレだ、と自分でわかっていたからだ。
それなのに五月先生は剛塚に四区、8キロを任せた。
後半の六区、七区は初めから牧野とぼくに決めていたらしい。
六区、七区は5キロ。牧野もぼくも一番得意とする距離だ。
ならば8キロは誰にするか。
たくみ・大山はそんな長い距離はムリだ。となると・・・という消去法だったらしい。
でもぼくはこれで正解だったと思う。
剛塚は燃えると爆発するヤツだ。
まるで爆弾だ。危険という意味も含めて。
爆弾・剛塚は穴川先輩に「順位上げてきやがれ」と言われたことを考えながら走ってた。
「そんなんで許してもらえるのか??」
そう思わずにはいられない。
中学では陸上部にからんだくせに、五月先生に「そのエネルギー違うことに使えよ」と
言われたからというだけで、五月先生のいる陸上部に入り、合宿では牧野と殴り合い、秋には安西にからまれる原因となり、終いには雪沢先輩のケガの原因にまでなった。
「この部のヤツらはおかしい!」
剛塚はずっとそう思ってた。
次々と問題を起こしてきたのに、みんな剛塚に「おまえ、迷惑だから辞めろよ」的な事は言わなかった。
むしろ、一緒に続けていきたいという反応ばかりだ。
「この部のヤツらはおかしい!」
今、どんどんと他校の選手に抜かれて行っている。
順位は下がる一方だ。迷惑なだけだ。
なのに時折、路肩でもう出番の終わった名高やサポートの女子陣たちが叫ぶ。
「ファイトー!!剛塚くん!!」
「あと少しだ!頑張れー!!」
おまけに雪沢先輩までもが応援していた。
「剛塚ーー!!頼むぞー!!」
剛塚は不覚なことに走りながら泣きそうになった。
「男が泣いてどうすんだ・・・」
そう思い、歯を食いしばって走り続けた。
途中、路肩に赤い髪の男子学生が見えた。
そいつは腕を組んだまま眉間にしわを寄せて、複雑な表情で剛塚を見ていた。
「安西・・・?」
そんなバカな。あいつが駅伝なんか観に来るわけがない。
そう思ってから前を見ると、中継ポイントが見えた。
大山が大きく手を振って待っている。
それを見て、剛塚は思った。
大山には悪いことをした・・・・と。
中学から今年の夏までずっとパシリとして使ってた。
すげえ長い間辛かったハズなのに、今、なんだか手を振って応援してる。
「あいつが一番おかしいよ」
剛塚はスパートかけながらそう思った。
そしてタスキを取って右腕に持ち叫んだ。
「大山ー!!頼むぞーー!!」
言われた大山は一瞬ポカンとしたが、すぐにニコッと笑った。
「頑張るよ!!」
そして剛塚は大山にタスキを渡した。
もう、パシリで何かを頼むのではなかった。
大山を信頼し、四区までの意思を渡したんだ。
多摩境高校、現在47位。
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東京高校駅伝大会のスタートを知らせる号砲が鳴り響き、空へと消えていった。
参加校は118校。
エース区間と言われる一区を任された118人の選手が一斉に走りだす。
ぼくはそのスタートを選手たちの右後ろから五月先生と見ていた。
118人もの選手が同時にスタートする絵はすごい迫力だった。
選手たちはあっという間に小さくなり、見えなくなっていった。
ぼくらは50位を目指さなければならない。
東京都大会といっても7人という人数さえ集まればどの高校でも出れる。
実力で参加制限などは無いので各校の実力差はすぐに現れた。
5、6人の先頭集団が一気に前に踊り出る。
ここはもう東京では有名な選手たちばかりのグループ。
多分、この5、6人のどこかの高校が優勝するのだろう。
その次に60人くらいの超大集団。ここに名高はいた。
大集団は一定のペースを保ったまま進んでいた。
しかしこれがまた早い。実力が無い選手たちは次々と後ろへと落ちていく。
この一区は全区間の中でも一番距離が長い10キロのコースを走る。
ゆえに各校のエースが集う区間なのだ。
おかげでエースというプライドからか、意地でも遅れまいとする選手が多い。
その意地で、毎年ここで10キロの自己ベストを出す選手も多い。
・・・と、これは牧野に聞いた話だけど。
5キロを過ぎると、大集団も40人にまで減っていた。
名高も疲れては来ていたけど、ここで落ちる気はさらさら無い。
辺りを見回しゼッケンを確認する。
ゼッケンの番号は去年の順位。いい目安になる。
38番、63番、29番、77番・・・お、ラッキー7じゃん、などと考えながら走る。
ひと桁の番号も見えるが、77番より遅い番号は見えなかった。
ぼくらのような115番みたいな3桁なんて全くいない。
そこで名高はふと気付いた。
「50番が・・・いねえ・・・」
思わずつぶやいていた。
目安としていた50番、葉桜高校の秋津伸吾が見当たらなかった。
振り返っても秋津の姿は見えない。
変な顔したヤツと目が合ってしまい気まずい思いをしただけだ。
「・・・まさか・・・」
名高の予想は当たっていた。
秋津伸吾はこの時点で、先頭集団6人の中にいたのだ。
目安も何もない。
「くっそ」
名高は腹が立った。
同じ一年のクセにこれほど実力差がある事を。
そして楽しくなってきた。
いつかその秋津を追い詰める自分の姿を想像して。
その想像をした瞬間の名高を、路肩で応援していた未華と大山が見ていた。
「あ、あいつ・・・今、走りながら笑ってたよね、大山!」
「う、うん・・・なんだろね大塚さん・・・」
「頭おかしくなっちゃんたんじゃないの?! きゅ、救急車・・・」
「違うと思うけど・・・」
ニヤけた名高はペースを上げて、集団のトップで走ったものの、実力のある選手が
さらにペースを上げて、集団はバラバラになった。
9キロ通過地点で、数人で走っていた名高は路肩にいる雪沢先輩を見つけた。
雪沢先輩は叫ぶ。
「名高ー!!全力出し切れー!」
出し切ってるよ!と叫びたい気持ちを抑え、名高は心で雪沢先輩に叫んだ。
「雪沢先輩の分も走ってます」と。
一区から二区への中継地点では、天野たくみが待っていた。
そのたくみからラストスパートする名高が遠くに見えた。
「たくみくん、名高くん来たよ。上着ちょうだい」
サポート係をしてるくるみが、たくみのジャージを受け取る。
「頑張ってね!たくみくん!」
「おう!見てて!」
名高がはずしたタスキをたくみが受け取り、次の瞬間、名高が叫んだ。
「頼んだぞ助っ人!!」
そして路肩に倒れこんだ。
名高が叫ぶなんて今まであまり無かった。
横で聞いてたくるみはその叫びを聞いて涙ぐんだ。
名高は23位という、とんでもなく上位でたくみにタスキを渡した。
二区は3キロという短い区間でのスピード勝負だ。
だから中距離で1500メートルを走っているたくみが助っ人として呼ばれた。
いや、それだけじゃない。
一緒に半年間戦った仲間だから呼んだんだ。
二区の1キロ地点で応援していた牧野はたくみを見てつぶやいた。
「あのバカ・・・」
そうつぶやくのもムリはない。
たくみは相変わらず、前半で全力を使い果たす「先行逃げ切り」の走り方で
信じられないスピードで走っていた。
「あのバカ!3キロあるってわかってんのか?!あれじゃまるで短距離走だ!」
それは大げさだとしても早すぎるペースでたくみは走っていた。
途中で中距離に転向したたくみ。
持久力つけたいから始めた長距離だったけど、1500メートルとかの中距離に楽しさを感じて、長距離を脱退したたくみ。
中距離は本当に楽しいし記録も上がっていって「中距離向いてる」と確信してた。
でも、心のどこかに長距離チームに対する後ろめたさがあった。
途中で辞めた後ろめたさ。
いつか何かで長距離チームをサポートしたいと思っていたたくみにとって駅伝助っ人の話は願ってもない話だった。
必ず力になってみせる。
力になれるだろ?そう自分自身に質問して「なれる」という答えを自分で出して走る。
まるで暴走気味のたくみは後半ペースがガクンと落ちたものの28位で三区の穴川先輩にタスキを渡した。
渡す時、たくみはこう叫んだ。
「助太刀参上ー!!」
穴川先輩は苦笑いしながらタスキを受け取り、走りだした。
他校の関係者たちはみな「?」というテロップをつけたくなるような顔をしてた。
たくみはここのサポート係をしている早川舞にこう言った。
「なかなか・・・いい恩返し出来ただろ?」
「・・・かもね」
多摩境高校 現在28位
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第一区のスタート時間まで残り15分を切った。
一区を走る選手たちはすでにウォーミングアップのためにスタート地点付近の道路でジョックしたりちょっとダッシュしたり体操したりしている。
名高もアップしてるけど、あいつは試合前は必ずウォークマンをして音楽を聴きながら走っているので、ちょっと話しかける雰囲気ではない。
ぼくはといえば、その名高を見ながら五月先生と会話をしていた。
なにしろぼくはアンカーなので、出番が回ってくるのはずっと先だ。
ウォーミングアップすらしてない。これが駅伝の妙なトコだ。
「名高のヤツ、集中してますね」
アップしてる名高を見ながらぼくは五月先生にそう話しかけた。
「そうだな。まあ音楽聴いて集中するってのは一つの手ではあるからな。でも名高は何の曲を聞いてるんだろな」
「なんですかね・・・?あいつ、かなり激しいロックが好きみたいだからテンション上がる激しい曲でも聴いてるんじゃないかなあ」
「相原は音楽聴かないのか?」
「ぼくですか?」
「そうだよ。中学ん時は吹奏楽部だったんだろ?音楽が好きなんじゃないのか?」
「好きですよ。でも吹奏楽部に入ったのは音楽がやりたいからって言うより楽器やってる人ってカッコいいかもなあっていう理由で・・・まあ、なんとなくでした」
正直にそう言うと五月先生は爆笑した。
「な、なんで笑うんですか!」
「い、いやワルイ相原。それってアレだろ。楽器出来たらモテるかもとか考えたろ」
ぼくは顔が赤くなるのを感じた。
「ま、まあ、そういう理由もちょっとありましたけど・・・」
そんな会話してるとも知らず、名高は黙々とジョックしてる。
「今はどうだ?陸上やってて」
「え?走ってモテるかってことですか?」
「違うよ。走るの好きかってことだよ」
「好きですよ」
迷わず答えた。即答だ。
「そうか。走るの好きか。よかったよ、そう言い切れるヤツが入部してくれて。オレは最近思うんだ。相原が楽しそうに走ってるのを見て、他のみんなにも走る楽しみが伝わってきているんじゃないかってな」
ぼくは五月先生が何を言ってるのかよくわからなかった。なので黙って聞いていた。
「雪沢から聞いてたんだけど、入部した頃はみんな様々な理由があって走っていただけだったんだ。
でも、いつしかその理由にプラスされた感情が生まれた。走るのが楽しい、走るのが好きっていう感情がな。長距離なんて走ってても辛い時間ばっかりなハズなのにだ。
そういう感情が生まれたキッカケの一つが、相原の楽しそうに走る姿なんじゃないかとちょっと思ったんだよ」
「そんな・・・」
「なーーんてな。ちょっと大げさかもな。気にすんな」
さっきと違う静かな笑みを五月先生は浮かべた。
ぼくは黙ったまま、先生の言葉だけを体に吸収した。
「変な話してスマンな。相原が走るの好きだっていう気持ちが伝わってくるんでな。でも相原、走ってる時に他に音楽とか好きな事考えたりしないのか?」
「走ってる時は・・・あんまり無いですね。景色とか見たりしてキレイだなとかそういう事は考えますけど」
「そうか。まあ楽しんで走ってる最中に違うこと考えたらそれは相当好きな事柄だもんな。オレなんか走りながら晩ゴハンの事考える時あるぞ。オレ、晩メシって好きなんだよ」
今度はしょうもない話題と笑顔になった。
スタート5分前になり名高がジャージからユニフォームに着替える。
ぼくらのユニフォームは今大会からライトブルーになった。
背中の上部にはちょっと筆記体っぽい英字で「TAMASAKAI」と白字で書いてある。
「お、いいねえ。似合ってるぞ名高」
先生は満足げにうなづく。
「青空の色をイメージしたライトブルーだ。白字なのは雲のイメージだぞ」
解説を聞いてぼくは空を見上げた。
綺麗な秋晴れの空だ。こんな空の下で駅伝を走れるなんて気持ちいいな。
「先生、このゼッケンの115ってどういう意味ですかね」
名高が自分のユニフォームの腹に貼ってあるゼッケンを見ながら言った。
「ああそれか。本来なら去年の順位がゼッケン番号になるんだよ。だから優勝校はゼッケン1番。50位ならゼッケン50番。去年の参加校は全部で113校だったらしい。オレたちは初参加だから114番以降の番号になったんだ。114以降は初参加の証だ」
「ふうん。去年の順位か」
思わずぼくは50番の選手を捜した。
50位を目指すぼくらにとって、いい目安になるからだ。
「あ、50番いた」
ぼくが指さした、そのユニフォームは黄緑色で、HAZAKURAと書いてあった。
「葉桜高校? ってまさか・・・」
50番のゼッケンをつけたその選手は・・・秋津伸吾だ。
9月の新人戦で一年生ながら5000メートルで優勝した男だ。
ぼくは周回遅れにされた苦い思い出でもある。
「秋津伸吾が50位?!」
「いや、葉桜高校はもともと強くもなんともない。そこに何故か秋津伸吾が入学しただけだ。変なヤツだよな。スカウトあくさんあるのに」
先生がしかめっつらでそう言う。
その時、放送が流れた。
『まもなく東京高校駅伝、スタートの時間です。選手はスタート地点に集合してください』
全118校のエース達がスタート地点に集まる。
名高は首の骨をコキコキと鳴らしながら歩いて行った。
余裕がある。なんだか頼りがいがある。
それがエースってものか。
『位置について・・・』
名高は肩からタスキをかけて握りしめた。
『よーい・・・』
頼むぞ名高!ぼくは心でそう叫んだ。
パン!!という号砲と共に118校がスタートを切った。
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11月3日。
東京都高校駅伝大会は今年は板橋区にある荒川戸田競技場付近で行われる。
東京中の高校から駅伝チームが集まるこの大会は、今までぼくらが出た大会のどれよりも多くの学校が参加しているし、地区予選と違って東京の強豪高校もたくさん来ているので、ピリピリした雰囲気が漂っていた。
いつもと違うのはそれだけではない。
別にレースとは全く関係ないんだけれど、空の色が違っていた。
いや、乾燥した秋晴れってのはいつもと変わらない。
でもぼくらがいつもいる八王子や多摩境の空とは何か色が違っていた。
東京以外に住んでる人にはピンと来ないかもしれないけど、いわゆる東京23区という都心エリアと、ぼくらの住む多摩地区とは全く別世界だ。
八王子市など、東京都のクセにほとんどが緑につつまれている。
タヌキは出るしキノコは採れるしUFOまで出る(という話だ。)
そんな所で生活してるぼくには、この板橋という場所の空がいつもと違う色に感じた。
ぼくら長距離メンバーは、五月先生の元、2週間思いっきり走りこんできた。
「50位に入らなければ活動停止」の話を聞いてからは尚更だ。
がむしゃらに走る続ける練習中、牧野がこう言ったのをよく覚えている。
「オレ達、こんなに陸上部好きだったんだな」
一体いつからだろう、こんなにこの部が好きになったのは。
最初はなんとなくだった。
校門のところで雪沢先輩に勧誘されて、牧野と一緒になんとなく仮入部をしに行って、
名高と出会い、たくみと出会い、剛塚と出会い、大山と出会った。
気がついたら必死こいて走りまくってて、気になる女の子まで出来て・・・
まあそれはいいんだけど、合宿でみんなでケンカしたり富士山登ったりバーベQしたり、たくみが中距離に転向しちゃったり、そんなことを経験してるうちになんだか居心地のいい場所になっちゃってた。
中学の時、吹奏楽部を3年間やってた時は、最後まで「なんとなく」で終わってしまった。
でも、今は違う。
いつだったか母親に言われた。
「陸上部、楽しい?」
あの時はなんて答えたか・・・。よく覚えてないけど、「なんとなく」楽しいと答えた。
でも今なら言える。何も恥かしがらずに堂々と言える。
陸上部、楽しいよって。
そんな陸上部に突然訪れた嵐。
乱闘騒ぎを経て出された駅伝大会での50位以内に入らなければ活動停止という条件。
この、楽しくて居心地がいい陸上部を守るためにも、
そして、怪我して出れなかった雪沢先輩のためにも、
何より、試合を楽しむため、自分自身のためにも、
全身全霊で走る!それだけは絶対だ!
「みんなー!一回全員集合だってー!」
みんな各々ストレッチだのして体をほぐしていると、未華が大声で集合をかけた。
大きなブルーシートを広げた多摩境高校の場所にメンバーが全員集まる。
全員の前に五月先生と雪沢先輩が立った。
「それじゃ、駅伝スタートまであと1時間を切ったので先生から一言お願いします」
雪沢先輩は今日も爽やかにそう言った。
「みんな、今日まで練習ご苦労さん。すごいきつかったと思うけど、よくここまで生き残ってくれた。まずはよくやったと言いたい」
ぼくは話を聞きながらも、みんなの顔を見回した。
みんなこれまでになく真剣な表情をしている。
それは走らない雪沢先輩や未華・くるみも同じだ。珍しく早川舞まで真剣な顔してる。
「話のこじれから50位内でゴールなんて条件も出ているが、本当に目指すのは50位ではなく、それぞれの全力での順位だ。これまでの成果をここで出し切れるよう全力をつくしてくれ」
「はい!」
気合の返事が飛ぶ。
「最後にメンバーの確認だ。みんな間違えて変な時間に準備すんなよ。
1区、10キロ、名高! エース区間だ!思い切って走って来い!
2区、3キロ、天野たくみ! 中距離の練習の成果を生かしてくれ!
3区、8キロ、穴川! 唯一の二年生だ!意地を見せてこい!
4区、8キロ、剛塚! 長い距離になると出る終盤の粘りを見せてくれ!
5区、3キロ、大山! あきらめないで前を見て走ってくれ!
6区、5キロ、牧野! 得意の5キロで順位を上げてくれ!
7区 5キロ、相原! 後半の追い上げを期待してるぞ!」
「みんな、頑張ってね!私たちも全力でサポートするからね」
くるみが珍しく大きめの声でそう言うと、未華は
「変な走りしたらタダじゃおかないよ!穴川先輩だろうとね!」
と嫌な応援の仕方をした。穴川先輩は苦笑いだ。
そして雪沢先輩が力強く言った。
「お前らなら出来る。任せたぞ」
さあ、始まる。ぼくらの駅伝大会が。
あの騒ぎで起きた、世間からの冷たい風なんて吹き飛ばせ!
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ぼくらにとって、嵐のような二日間が過ぎ去った。
上柚木陸上競技場でエース区間の走者を決めるタイムトライアルをしたのは、つい二日前の事だ。
雪沢先輩と名高の勝負は雪沢先輩に軍配が上がり、その帰りに安西たちにからまれ雪沢先輩が捻挫をした。
そして昨日、かわりに名高が一区を走ることになり、助っ人としてたくみが登場した。
全てたったの二日間の出来事だ。
台風は過ぎ去り、あの嵐がまるで違う世界の出来事だったかのような秋晴れがやってきた。
空は澄み渡り、いつもなら見えないくらい遠くの景色までがクッキリと見えていた。
学校の教室から見える南の山々を見ては「世界って広いなあ」なんて思ってみたりする。
逆に、近くを見れば緑一色だったはずの校庭や近くの森の木々が一部だけれど黄色やオレンジ色にかわって来ている。
「秋だなあ・・・」
授業中にもかかわらず、ふとつぶやく。
すると周りの女子がプっと吹き出す声が聞こえた。あー、いけない。独り言言ってた。
今日は部活は休みだ。
授業が全部終わって、カバンを持って教室を出た。
せっかくの秋晴れだし、外に出て思いきり走りたいところだけれど仕方ない。
それにしても、ぼくっていつの間にこんなに走るのが好きになったんだっけ。
なんとなく入部して、なんとなく長距離に所属しただけだったのに。
「お、相原。どうした、早く帰らないのか」
廊下をのんびり歩いてると五月先生に声をかけられた。
「あ、もう帰ります」
「そうだよ。たまには休んでおけ。駅伝まで2週間、ミッチリ練習があるんだからな」
「ミッチリですかぁ・・」
キツそうな言い方だけど、ぼくはワクワクしていた。
雪沢先輩があんな事になったのは悔しい出来事だけれど、駅伝のアンカーを走るという大役を任されたのはテンションアップだ。
「ミッチリでも頑張りますよ」
ぼくはガッツポーズをとって見せた。
「ほおー、たくましいことだ」
五月先生は感心する言葉を言いつつも笑ってた。
「五月先生。ここにいましたか」
誰かが先生を呼んだ。呼んだのは歳をとった先生・・・校長先生だ。
「あ、夢山校長。お疲れ様です」
五月先生は校長先生に頭を下げた。校長はぼくの顔を見た。
「えーと、彼は?陸上部の生徒かね?」
先生のかわりにぼくはハキハキと答えた。
「あ、はい。陸上部一年の相原英太です」
「ああ、君が相原くんか」
ん?なんで校長がぼくの名前を知ってるんだ?
「すると、キミが最後の運命を握ってるということだね」
「最後の運命?」
ぼくがそう言うと五月先生が少し冷たい声で校長につぶやいた。
「校長。そういう言い方はよしてください。50位の話はまだしてないんですから」
「え、先生。50位ってなんですか」
ぼくが聞くと五月先生は「あ」とつぶやいた。
おまけに「やべ」とか「あちゃー」とか言う始末だ。
「五月先生、相原くんにはプレッシャーになるかもしれんが、いずれわかる事だ。早く部員たちに言ってあげた方がいいよ」
校長は優しい声でそう言ったが、ぼくには何の話だか全くわからない。
「う、うーむ」
五月先生は廊下の天井を見上げてうなった。
うなった末にぼくの方を見て言った。
「よく聞け相原。みんなにも話すが、せっかくここにいたんだから今教えてやる」
「は、はい」
なんだかまた嫌な感じがしてきた。
「二日前の騒ぎ・・・。あの場所の近くの住民から学校に通報があったんだ」
秋晴れの空気に変化が起きる。やはり晴れは長く続かないのか。
「多摩境高校の陸上部が『また』騒ぎを起こしているってな」
騒ぎは起こしたのではなく、起こされたのだけれど。
「騒ぎばかり起こす部なんて無い方がいいんじゃないのか、とまで言われた。オレと校長先生は頭を下げ、謝ったんだがどうにも引き下がってくれなくてな。どうしたら引き下がってくれるのかと聞いたところ・・・。ちゃんと部活動で精進してるところを見せろというんだ」
「え、もしかして、その・・・」
「そう、ならば証拠として駅伝大会で50位内に入るって話になったんだ」
ここで校長先生がぼくに話しだした。
「すまん相原くん。クレームをつけてきた人は役所の方でね・・・。キチンと部活動として取り組んでる証拠を見せないのなら教育委員会に騒ぎの事を報告させてもらうと言って来たんだよ。しばらく陸上部を活動停止にして様子を見てほしい、とね」
「活動停止?」
「そう。しかし駅伝大会前にそれはあんまりだ。ということで苦渋の判断で駅伝で50位内に入るという条件を出して、飲んでもらったんだよ」
ぼくは五月先生を見て聞いた。
「せ、先生。駅伝大会には何校が出るんですか」
「都内全域から118校が出る」
「ひゃ・・・118校も!?」
ぼくら多摩境高校は発足して2年半、一度も駅伝大会には出ていない。
初出場でイキナリ半分以上の順位を求められてるのだ。
「だ、大丈夫だ相原。そんな気にすんな。なんとかなる順位だ」
でも、なんとかならないと陸上部は活動停止になってしまうわけで・・・。
あの騒ぎで起きた風は、冷たい試練の風となってぼくらの前に立ちふさがった。
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翌日は暴風だった。
台風は静岡県の南の海上を東北東へ進んでいて、午後には多摩境高校のあるエリアも強風域に入るということだった。
おかげで今日の授業は午前で打ち切りになった。
教室からは昼ごはんを食べずにみんなが帰っていく。
「おーい、英太ー。帰らないのかー?」
吹奏楽部の日比谷がハイテンションな声を上げていた。
「英太、雨スゲエよ。マジで。スッゲスッゲ!はよ帰ろうぜ」
「ごめん日比谷。ちょっと部室でミーティングがあるんだ」
「こんな日にか?!スッゲーな。帰り気をつけろよ」
そう言って日比谷は教室から傘をさして歩いていった。
どっかの先生の怒鳴り声が聞こえる。
「コラー!屋内で傘さすなー!」
そりゃそうだ。
部室に行くと、もう長距離メンバーは全員集合していた。
みんなで円を描くように座っている。
一様に黙っているので輪に入りにくかったけど、ぼくも円に混じった。
そこへ五月先生がやってきた。
先生も円に混じって座る。
「待たせたな、みんな」
五月先生は座るなりイキナリ本題に入りだした。
余計な話題をしている時ではない。
「朝、みんなにも電話で話したが、昨日、乱闘騒ぎがあった」
大山と早川舞以外のメンバーは全員が騒ぎに関わっている。
「いざこざの末、相手の生徒は手を引いて帰っていったんだが、また何かしてくる可能性もある。これからしばらくは練習後はみんなで帰るように」
「いや、多分もう何もしてこないっすよ」
剛塚は下を向いて言った。
「安西は一度イチャモンつけたら途中でやめるようなヤツじゃなかった。なのに昨日は途中であきらめて帰っただろ。五月先生がまだ陸上部の顧問やってるのがわかって手を引いたんだよ。あいつ・・・相手の強さは見極められるヤツだから・・・」
「そうか」
ぼくらは少しホッとした。
またあんな不良漫画みたいな目にあうのはコリゴリだからだ。
「スマネエな、みんな」
剛塚はそうつぶやいた。
「オレがいるからあんな事になったんだ。ほんとスマネエ・・・」
「お、おまえが謝るなよ」
牧野がそう言って続けた。
「おまえが陸上部つぶそうとしたのは中学んときだろ。もう昔の話じゃんかよ。悪いのは安西だよ。今だに根に持ってるなんてよ」
「いや、謝るよ。原因はオレだ。オレもこの陸上部から手を・・・」
「手なんか引かなくていいよ」
剛塚が言い終わる前に大山が割り込んだ。
「剛塚くんはもう悪くないよ。確かに中学の時はぼくも嫌だったけど・・・。今はもうそんなの関係ないよ。ね、英太くん」
なんでぼくに振るのかわからいけど、ぼくは言った。
「そうだよ。スゴクなりつつあるって言ったじゃん。それに人数がこれ以上減るのはマズイでしょ。ねえ先生」
ぼくは五月先生に話題を戻した。
「そうだぞ剛塚。お前が何か罪悪感みたいなの感じてるのなら走ってそれを吹き飛ばせ。駅伝大会は近いんだからな。それに・・・」
五月先生は雪沢を見た。
「雪沢が昨日の騒ぎで捻挫した。走れるようになるまでは2週間かかるということだ。しかし駅伝大会までは2週間と4日。事実上、雪沢は出場できないだろう」
雪沢先輩は拳を握りしめていた。
しかし、少しすると力を緩めて名高を見た。
「名高、悪いけど・・・一区は頼むぞ」
ドキッした。
何故なら雪沢先輩の声が震えていたからだ。
ぼくはなんとなく雪沢先輩から目をそむけてしまった。
思わぬ形で名高がエース区間を走ることになった。
でも名高は意欲全開って感じだ。
「でも先生。オレが一区だとしても、あと穴川先輩・英太・牧野・剛塚・大山だけじゃメンバーが一人足りないッスよ。どうすんですか」
そう、六人しかいない。駅伝は七人で走る。どうしてもムリだ。
「アタシが走ろうか!男のカッコして!」
未華の無茶な提案にみんなが失笑した。
「な、なによ。アンタたちより早いっての」
「そういう問題じゃなくって・・・まあ確かに男に見えなくもないけど・・髪短いし気強いし」
そう言ったのは牧野だ。
未華に思いっきりひっぱたかれた。音がすごかった。
「い、いでえーー!やっぱ男かも・・・あ、いや、うそうそ!」
騒ぐ牧野と未華をほったらかして雪沢先輩は五月先生に言った。
「でもどうすんですか先生。足りないならオレが短い区間をゆっくり走ってもいいですよ」
「いや、お前は治療に専念しろ。助っ人は呼んだ。あいつしかいないだろ」
「あいつ・・・?」
そこへ「失礼しまーす」と言って、そいつは部室に入ってきた。
そいつを見て、「ああ、そうか」とみんなが思った。
確かに短い区間ならこれ以上の助っ人は考えられない。
「おお来たか、天野たくみ」
そこには照れ笑いするたくみが立っていた。
嵐編 END → NEXT 駅伝編
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